表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/464

後先分からぬ奇襲作戦

 再び外壁を乗り越えると町に侵入し、待ち合わせ場所の駐車場に向かった。

 到着するとすでに反乱軍の援護に出てたオフィリアとリリアーヌは戻ってお休み中だ。余裕ね。


 ジープのシートを倒してゆったりと寝ころんでた二人はこっちに気付くと起き上がって外に出る。

「そっちはどうったよ? こっちは拍子抜けだったぜ。なあ?」

「まったく、手ごたえがなくて面白くもなんともなかったですよ。初撃で総崩れになって、あとは反乱軍に呑まれてましたねー」

 それは二人の攻撃が強力過ぎたからだろう。しかも奇襲だ。きっと効果覿面だったんだろうね。

 チャンスを逃さずものにした反乱軍も、思ったよりはやるのかもしれない。

「こっちも意外性は特になかったと思うわ。それと領主に尋問した結果は、あとでアルベルトが戻った時に一緒に聞くつもりだけど、それでいい?」

 ヴェローネとグレイリースに目を向けるけど、それで問題ないらしい。急ぎの報告はないみたいね。


 伝令の阻止を目的としたアルベルトだけど、町は門を閉め切ってるらしいから、脱出者は少数かほぼいない状態だろう。私たちのようにこっそりと出入りするような輩が大量にいるはずもないからね。普通なら外に出るよりも町にとどまった方が安全と考えるだろうし。



 日がかなり傾く時間帯になって、アルベルトが戻ってくるのが見えた。

 始めてから三時間は経つかな。ずっと動向を見守ってくれてたんだろうけど、ここまで時間を掛けるようなら応援に行ったほうが良かったかもしれない。

「アルベルト!」

「そろそろ門が破られそうだぜ。急いだほうがいいかもな」

 戻るなり警告を飛ばす。

 反乱軍は領主軍の撃破を上手いこと成し遂げ、城にまで押し寄せたはずだ。ぶつかってから結構な時間が経ってるし、今度は町に対しても攻めるってことか。調子に乗ってるわね。


 具体的には知らないけど、そこそこの規模はある町だ。警備兵の数も少なくはないだろう。門を破ったからといって、それで終わりにはならないと思う。

 それに町の住人だって、黙ってやられるばかりじゃないはずだ。もし略奪が始まるようなら、住人のほうが圧倒的に多いんだし必死に抵抗するだろうしね。

 とにかく、このままだと町の中はすぐに荒れる。どうでもいい内乱にこれ以上巻き込まれたくはない。

「予定よりも早いけど、仕方ないわね。行くわよ」

 帝国軍への奇襲は深夜の予定だ。暗くなってから移動しても十分に間に合うはずだったけど、もう出ないといけないわね。

「よっしゃ、強行突破だな!」

 なんで嬉しそうなのやら。



 東西南北にある町門は全てが閉じられた状態だ。

 反乱軍は南門を突破しようとしてるらしい。つまり、南以外の門であれば、人手は少ないことになる。

「北から行きましょう」

「西のほうが近くなかったか?」

「そっちは城があるんで、反乱軍もいると思います。東門は距離がありますし、消去法で北がいいと思いますよ」

 なるほどね。グレイリースの助言に従って決めると、車両を発進させた。


 のんきに出歩くような住民がいない快適な道をしばらく移動。北門が見えるところまでくると、守備兵は少ししかいないのが見て取れる。

 真逆の南に反乱軍がいるんだから、こんなもんだろう。


 小さな町でも外敵を阻む門や壁は極めて強固だ。

 時には魔獣の大群からだって町を守らなければならないこともあって、車両を突撃させた程度じゃ破ることは不可能な強度がある。

 物理的な防御性能に加えて魔法的な防御まで張られてるのが普通だから、結界魔法のような規格外の性能じゃなくても頑丈極まりない。

 さすがに結界魔法の魔道具自体は超高級品だから、こんな田舎町には存在しないと決めつけてしまう。常識的な範囲での頑丈さを想定すればいい。


 門を破るために必要な手順は、まず魔法的な防御力を奪うことから始まる。

 町を守護する門や壁はそれ自体が魔道具と同じだ。魔石によって魔力供給がなされ、魔導鉱物による防御性能が発揮される。

 すなわち魔力切れを起こさせれば、魔法的な防御は消えてなくなる。

 なんでもいいから強力な攻撃を加えて負荷をかければ、それはいずれ達成されることになる。


 次に通常の金属と木材からなる物理装甲を突破しなきゃならない。

 異なる材料を用いた構造は魔法的な防御がなくても強力だ。破ることは簡単にはできっこないし、これを破壊するとなれば労力も相応にかかる。


 ようは門を突破するってのは、簡単にはできないってことだけど、もちろん私たちには可能だ。

 ここに居るメンバーなら問題なく実行できる。


 先頭車両に乗るメンバーは、私を含めた門を突破するために手っ取り早い人員で固めてる。

 そろそろね。



 運転手役のオフィリアがアクセルを踏み込んで、大型ジープを加速させる。

 積荷を含めておよそ三トンは下らない大型ジープが門を目指して突っ走る。


 続けてリリアーヌが車内を魔力の風で満たす。これはエアクッションの役を果たすために展開されてる。空気圧を弄るのを得意とする彼女ならではだろう。これから起こることへの準備だ。

 さらにヴァレリアが風で前方の空気抵抗を和らげ、ジープの加速を助ける。


 急速に門が迫りつつある。

 ここで私が盾を展開。紡錘形にした超硬合金の盾は、まるで巨人の槍のように前方に牙をむく。

 ジープの速さと重量、これに加えて槍の一点突破の圧力が門に叩きつけられることになる。


 通常の攻城兵器を遥かに凌ぐ破壊力を生み出すことが可能になった。

 小さな町の門程度の魔力なら、一気に奪い去ることができるだろう。

「いっけーーーーーー!」

 オフィリアの雄叫びの直後に衝突。


 数瞬の抵抗の後、門は吹っ飛んだ。

 衝突の反動はリリアーヌの風が綺麗に受け止めてくれて、わずかにつんのめるだけだ。どうということもない。作戦通り!


 門を通過して外に出ると、少ししてから後続車も出てきた。このまま奇襲ポイントの待機場所に向かう。

 ふぅ、上手くいった。もし突進の一撃でダメだったら、車両から降りて殴り壊すつもりだったけど、余計な手間をかけずに済んで良かった。



 奇襲の成功率を上げるためにも、道中で誰かに見られるわけにはいかない。

 街道は通らず道なき道を進む。ただこれも、南部の森を突破してきた私たちにとっては造作もない。

 時間にも余裕があって急ぐ必要はないし、目的地の方角と位置関係はミーアがいれば迷うこともない。

 トラブルはなく順調に移動し、日が暮れた頃合いには到着できた。


「深夜までにはまだ時間があるわ。食事しながら、話をしとこうか」

「そうですね。準備しちゃいましょう」

「メシだ、メシ。腹減ったぜ」


 煙が立つのを見られると不味いから、火は使えない。あらかじめ買っておいた冷や飯を暗がりで食べる寂しい夕食だ。

 冥界の森で闇には慣れてるから、星明りのある普通の夜ならまったく支障はない。

 クリムゾン騎士団はこの奇襲ポイントも見張ってるだろうから、私たちが到着して待機中なのは知れるはずだ。こっちから準備よしと伝えてやる必要もない。私たちとしては状況が動くのを待つだけね。


「むぐ、んんっ。それで、さっきの町の領主はなんて言ってたわけ?」

 ハムとチーズのサンドイッチを一口齧って飲み込んでから、ヴェローネとグレイリースに振る。

 辺境の村で人をさらって金を稼ぐなんて、まともな領主のやることじゃない。


 男は麻薬カルテルの兵隊にするって話は豪族に聞いてたけど、女子供がどうなるのかはまだ不明だった。

 色々な買い手がいるにしろ、田舎領主がやる犯罪にしては規模が大きすぎた気がする。

 城の地下だけで数十人から百人はいただろう、あれだけの人数を捌くには、それなりに大規模な販売ルートが確立されてないと不可能だ。

 しかも大口顧客となりうる麻薬カルテルじゃなさそうとするなら、一体どこにって話になる。


「女子供の使い道ですよね。それが売り渡した後のことも、移動先についても領主は知らないようでした」

「末端には知らせない方式だと思う。人攫いも自発的にやっていたのではなく、中央から指示されてやっていたということらしいわ」

「ですね。捕まえた女と子供は定期的に中央、つまり帝国の首都に向けて送っていたようですから、帝国の大物が絡んでいるんだと思います。ただ、なぜ攫うのかは分かりました」


 一度、言葉を切る二人。私たちは疑問を挟まず、食事を続けながら続きを待つ。

 水を飲んでからヴェローネがまた口を開く。


「ええ、鑑定の魔道具がその答えでした」

「鑑定の主対象は子供、才能の発掘ですよ。優れた魔法適性を持つ子供を探し集めていたってことになりますね」

「適正によって売り先が別になるようでもあったわ。ランク付けされてね」

「首謀者は大物貴族とか軍閥、もしくは帝国そのものなんてことも……」

 ほう、確定したわけじゃないけど、可能性は大いにありそうだ。帝国の帝国たるゆえん、強さの秘密はそこにあるのかもね。

 大陸西部で覇を唱えた軍事力は、そうして集めた人材の力によるところが大きいと考えれば筋は通る。


 人権などという概念が存在しない世界においても、当たり前に悪事は悪事として認識される。だからこそ国家が税金を取り立てる代わりに守護者となるというのに。まったく酷い話だ。

 ま、今のところはただの想像でしかないんだけど。


「そういや、ずっと前にサラの学校が襲われた事件があったよな?」

「子供を攫おうとしたやつか! その時の実行犯は不良冒険者だったか?」

「たしかバックに居たのは……」

「ガンドラフト組だったはずです。つまり、レギサーモ・カルテル。帝国に繋がりますね」


 自国領土のみならず、他国からも才能を集めてる?

 もしそれが本当なら、えらいことだ。世界中に警告が必要なレベルね。

 帝国はバレたところで、もちろん白を切るだろうし、逃れ得ないとしても木っ端貴族のせいにして尻尾を切るだけだろう。

 それにしても侮れない組織力だ。


 ふーむ、レギサーモ・カルテルの兵隊は薬によって身体強化魔法に似た怪力と痛みを感じない恐れ知らずの連中だった。

 これから奇襲をかける帝国の正規軍は、果たしてどれほどの戦闘力を持った集団なのか。

 考えてみれば個人としての強さ、集団としての強さ、練度、すべてが不明だ。必要以上に警戒することはないけど、最悪はクリムゾン騎士団レベルの精鋭を相手にすることも想定しないといけないのかもしれない。


「人攫いの目的と最終的にたどり着く場所は置いておこう。そこまでの規模だと、私たちが出る幕でもないし、どうにもできないわ」

 ついでに、どうにかするつもりだってない。身内が攫われたなら全力で奪い返しに行くけど、今のところは無関係なんだ。

「まあな。少なくとも今は関係ねえか」

「そういうことですね。じゃあ、始まるまでは休んでいましょうか」

 言いながらリリアーヌはごろんと横になった。


「あたしは見張りに行きますよ。なにが起こるか分からないですし」

「わたしも一緒にいきます。本番はみなさんにお任せですから」

 グレイリースとミーアは奇襲そのものには参加しない。退路の確保に専念してもらう予定だ。

 車両には若衆の二人も残すけど、例えば逃げた敵兵がそっちに大勢押し寄せると二人だけじゃ対処しきれなくなるかもしれない。あとはクリムゾン騎士団だけじゃなく全体の様子を見極めてもらうのと、不測の事態が起きた時の連絡も頼むことになる。

 四人が守り、残りの六人で攻める布陣ね。


 深夜になったら適当なタイミングを見計らってクリムゾン騎士団が攻め込む。

 私たちはそれをおとりにして、物資を破壊する。戦闘は極力避け、物資破壊を優先する。上手くいけばそれだけでも敵軍の遠征を阻止できるかもしれないんだ。物資がなければ戦争はできないし、ましてや遠征なんて不可能だ。地味だけど重要な役どころよね。


 しかも私たちの奇襲とは別にして、帝国北部からはアナスタシア・ユニオンが攻め込んでる。この動きの連動を偶然と考えるほど帝国首脳部もバカじゃないだろう。

 状況にプラスして、ここで大きな戦果を挙げることが出来れば、大陸東部への野望は簡単にはできないぞと知らしめることができる。諦めさせることすらできるかもしれない。それこそが私たちの目的なんだ。


 ただ、一応のプランはあるけど、流動的なのが実際の戦場だ。想定外があって当然と覚悟だけは決めておく。

 さてと、決行までたぶん四、五時間はあるだろう。ひと眠りしておこうかな。


 リリアーヌと同じように横になった時だ。

「帝国軍に動きがあります!」

 私たちがいるのは低い丘のふもとだ。上からミーアが呼び掛けるのに応じて全員で様子を見に登る。


 最初にグレイリースが様子を見てきた時には、帝国軍はすでに軍装を解いて休む感じになってたらしい。

 ところが今の奴らは慌ただしい。

「まさか、奇襲がバレた?」

「あたしらのほうはバレた感じじゃないな。クリムゾン騎士団がヘマやりやがったか?」

「どうだろうね。場合によっては、こっちも援護に動く必要があるけど」

「もう少し様子を見ましょうか」


 うーむ、もしクリムゾン騎士団の奇襲がバレたとするなら、即行動しないといけない。騎士団をおとりに使って物資を破壊する役割としては、時間が早まるだけでやることは変わりないんだ。

 もし奇襲失敗なら、フランネルたちは相当な苦戦を強いられるはずだ。実際のところはどうなんだろうね。


 帝国軍の駐屯地はきちんとした基地じゃなく、ただの野営地だ。臨時の場所なんだろうけど、ただの平原に壁や堀もなく一見すると無防備に兵舎や倉庫群などが置かれてる。

 おそらく魔物除けの魔道具程度しか警備のシステムはないと考えていい。奴らは攻め込まれるなんて一顧だにしない、地域における覇者なんだから。その油断が私たちにとって有利に働くはずなんだけど、今の状況はどうなってるのか。


 しばらく様子を見てると、どうにもおかしい。

 準備を整えた帝国軍は、全体の約半数と思われる人数の二千程度を車両に乗せて、南東に向かって順次走り出した。

 南東といえば、私たちが滞在し反乱軍が攻め込んだ町の方角だ。


 普通に考えて、反乱の知らせがどこからか入り、鎮圧のために軍を差し向けたってところか。そうだとすればこれはチャンスだ。私たちにとって反乱軍はいいおとりになってくれてる。

 クリムゾン騎士団も当然、同じように考えるだろう。



 列をなした敵軍が出発してから、かなりの時間が経過。

 いよいよ私たちも焦れてきた頃、先制の魔法攻撃が撃ち込まれた。クリムゾン騎士団が動いたようね。


覚えていらっしゃる方は少ないかもしれませんが、第123話「学校×テロリスト?」からのエピソードにあった、子供を誘拐しようとする事件がここで繋がっています。(ストーリー上、重要な点ではないですが補足です。)


本編は構成上、話が途切れてしまいましたが、次回より本格的に作戦開始となります。

少し長めでお送りします次話「物資破壊工作」はテンション上げて参ります。よろしくです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第123話「学校×テロリスト?」が伏線になっているとは! 読んだ当時は「幼稚園バスをジャックするショッ〇ーかい!」と 思いましたが、まさか(もしや)狙いが拉致した子供を 洗脳して少年兵に仕…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ