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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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小国家群の取引先

 白髪のダンディ村長に事情を聴くと、色々と詳しいところが見えてきた。

 以前からこの近辺の村々は、マクダリアン一家との付き合いがあったらしい。

 やってる内容は秘密鉱山での採掘と麻薬栽培、そして密輸といった、決して表には出せない取引だ。規模は小さいながらも細く長くやってきたってことらしい。


 だけど、つい数日前のことだ。今までにないほどの人数で押しかけたマクダリアン一家の連中は、約束の取引量だけじゃなく村で蓄えてる在庫の全てを要求をしたらしい。それも金を払わずに脅し取るといった、これまでの関係を完全に壊してしまう方法でだ。

 タイミングからして、キキョウ会がマクダリアン一家を滅ぼした後で、残党が金目の物を回収しようとしてやってきたと思われる。たぶんね。


 とにかく、金も払わずになんてことになれば、トラブルが発生するのは当然だ。

 村人のささやかな抵抗に殺気だったマクダリアン一家の残党は、武力に物を言わせて物資を奪い、それだけじゃ飽き足らずに村から根こそぎ金目の物を奪い、さらには人質を取った上での強制労働を課して、短期間で無茶な採掘を強要したというわけだ。

 盗賊に成り果てるとは、落ちるところまで落ちたもんだと思う。


 凶悪な盗賊が相手ならば、逆らえば殺され人質も危うくなる。助けが入る見込みもなく、まさしく絶望的な状況に陥ってしまった。そこまでさせるほど奴らを追い込んだのがキキョウ会という事実はあるけど、私は自分たちにも悪いところがあっただなんて寝ぼけたことは一切思わない。もしそんなことを言いだす奴がいるなら、容赦なくぶちのめす。

 誰にだって事情はあるし、世界は繋がってるんだ。一事が万事、そういうことだって時にはある。仮に私たちが被害を受ける立場にあったとしても、恨むべき相手はきちんと見極める。今回の場合、村人が恨むべき相手は疑う余地もなくマクダリアン一家の残党どもだ。決してキキョウ会じゃあない。


 それにしても気がかりなのは人質の存在。そんなのがいるってことは、まだ終わってないことになる。

「あんた、人質が気にはならないの?」

 肝が据わってるのか、落ち着いた態度を崩さない村長に理由を尋ねてみる。大きな懸念事項だと思うけどね。

「ずっと気になっている。だがこちらが頼むべき交渉材料がない。善意に縋るほど、そちらを甘く見ていると思われたくもない」


 よく分かってる奴だ。例えば掘り出した鉱石をやるから人質を助けろと言われたとしても、その気になれば鉱石なんて奪えばいいだけだ。この場にいたマクダリアン一家を皆殺しにした私たちなら、村人を虐殺することなんてわけもない。実際にそんなことをする気はないし、村長だってこの期に及んで私たちが暴挙に及ぶ可能性が低いってことくらいは分かってるだろう。だけど交渉できるような立場にないことを認識し、それをこっちに表明する賢明さは評価できる。


「……なるほど。現状認識をきちんとできる奴は好感が持てるわね。いい話し合いができると期待するわ」

「俺からも聞かせてくれ。なぜ、助けた? 何の目的があって、あれほどの戦力を敵に回した? マクダリアン一家はエクセンブラでも有数の大組織だ。甘い相手ではない。必ず報復があるぞ」

 うーん、面倒だけどエクセンブラの状況説明をしとかないと話が進みそうにないわね。時間もかかりそうだし、その間に余計な懸念は取り払っておくか。


「アルベルト、ヴェローネ! こっちきて!」

 村人の様子を見てた二人を呼び寄せる。

「地上までの帰り道は覚えてる?」

「通ってきたルートだけなら問題ないな。そろそろ戻るのか?」

 さすがは元冒険者だ。二人とも帰り道は問題ないらしい。私はかなり記憶が怪しいんだけど。

「いや、二人には別の仕事ができたわ。村長、この二人に人質の居所を教えてやって。どこにいるのか、心当たりくらいはあるわよね?」

「……心配するだけ無駄か。こちらに打てる手がない以上、任せるしかない」

 返り討ちにあって人質を危険に晒す可能性を指摘しようとしたみたいだけど、五十人以上の敵を僅かな時間で一方的に殲滅した戦力を疑う意味はない。さらに彼らにとって、私たちの好きやらせる以外に選択肢はない。こういう理解の速さは、村長の立場を務めるような男ならではなんだろう。こいつは特に優秀そうだけどね。


 話を聞くと、人質は隣の村の村長宅に監禁されてて、そっちにもマクダリアン一家の残党はいるらしい。ただし、人数は多くはない。捕まってる人質は子供がほとんどで、幼子の世話役として女たちもそこそこの人数が人質になってる。ということは、結構な人数がいそうね。

「地上に戻ったらリリアーヌかグレイリースのどっちかは一緒に連れて行くといいわ。移動には車両を使ったほうがいいかな。回復薬の使用は必要に応じて任せる」

「人質はそれなりに多いみたいだし、連れて帰るのは無理かもね。待機すればいい?」

 各村の子供と世話役の女たちってことだから、それなりの人数にはなるだろう。村長も逃げた村人や死亡者までは把握できてないから、実際に行ってみないと具体的な人数までは分からない。ひょっとしたら先日の奴隷狩りのような拠点と化してる可能性もあるし、想定以上に多いなんてこともあるかもしれない。なんとも言えない状況だ。


「そうね、あとで村人を帰らせるから、それと入れ替わりに戻って」

「分かった。アルベルト、行こう」

「幼子と女の人質かよ。嫌な予感しかしないな」

 それはたしかに。ここだけで決着がつくと思ってたけど、人質とか余計な要素が増えるのは困ったもんだ。ほかにも何かあると嫌だから、この際はっきりさせておきたい。

「ほかにも関連する拠点がないかだけ、吐かせといて。さすがにもうこれ以上はないと思うけど」

「あとからあとから出てくるのはもう嫌よね。尋問はしておくから」

 ヴェローネも分かってたみたいね。



 アルベルトとヴェローネが人質を解放しに行き、ミーアとオフィリアは別の通路を調査中。外ではリリアーヌとグレイリースが出入り口を確保し、若衆の二人が車両と荷物の番をしてくれてる。ここには私とヴァレリアを残すのみだ。

 洞窟の中で警戒を続ける必要がなさそうなことからヴァレリアを呼び寄せると、こっちの様子が気になってたのか、元気の残ってる村人もこっちに近寄ってきた。私たちのことが気になるのはもちろん、白髪のダンディ長老がここらで一番の有力者だからだろう。


 なんとなくボロい格好で近寄ってくる村人たちを眺めてると、威圧感でも出てたのか距離を置いて彼らは立ち止まった。そこから二人だけ前に出ると、緊張感に満ちた態度で迫ってくる。

 ダンディ村長にあれは? と聞くと、二人とも村長らしい。これで三つの村の村長が勢揃いか。彼らは勢い込んでやってくると、血走った目で唾を飛ばす。

「どうして殺した! ほかにもまだいるんだぞ!?」

「人質はどうなっている!?」

 村長という立場から、家族が人質に取られてるんだろうね。気持ちは理解しよう。ただ、目の前に座るダンディ村長の態度とは雲泥の差だ。


 自分の子供や孫が人質に取られてるなら焦燥はそりゃあるだろう。だけどダンディ村長は個人的な心配事を前面に押し出しはしなかった。状況の確認を優先し、その上で順序立って人質の事を明かした。さらに個人の事情は一切、私たちには話さなかった。


 死を待つだけのような過酷な状況に割って入った助け。なんの目的があって助けたのか。どこの誰なのか。要求はなにか。立場ある者として気にすべきことはいくらでもある。

 そして武力を持った集団を排除できる、より強力な武力集団が悪意を持ってないとは限らない。ふざけた態度でこっちに接するリスクをこいつらは理解できてない。私たちを怒らせることは、完全に愚かな行為だ。


 会話が成り立ちそうにない奴らを無視してダンディ村長に向き直ると、無言で訴える。こいつらをなんとかしろってね。

「二人とも、落ち着いてくれ。人質はこの方たちに任せておけばいい。それよりまずは助けてくださった礼を言うのが筋ではないか?」

「なにを悠長なことを! どんな手を使ったの知らんが、こいつらだけでなにができる!? どう責任を取るつもりだ!」

「マクダリアンの奴らを殺したのも不味い。こんなことが知られれば、エクセンブラから報復の部隊が押し寄せるぞ! どうしてくれるんだ!?」


 うるさい奴らだ。もし最初に接したのがこっちの阿呆な村長だったとしたら、きっと私はこれからの交渉において厳しい要求を突き付けただろう。ダンディ村長に感謝することね。

「お姉さま」

 無礼な態度に殺気立つヴァレリアを制して、最後の会話を試みる。

「こっちが勝手にやったことだから、礼を言えとは言わない。これから互いの状況を話し合うつもりだから、その気があるなら座りなさい。その気がないなら、せめて黙ることね」

「そっちの事情など知ったことか!」


 ……ふぅ。危機感ゆえの暴言と悪態とは思う。だけど、今はまさに「下手に出てれば付け上がりやがって」という気持ちだ。苛立ち紛れにテーブルの上に乗った鉱石を掴むと握り潰してしまった。

 そんな私の怒りを察知したのか、ダンディ村長が立ち上がる。背が高くガタイの良い彼は立ち上がると、それだけでも迫力がある。続けて一言だけ告げた。

「邪魔をするな」

 怒鳴るようなことはせずに、淡々とだ。

 興奮して詰め寄る村長は、たった一言で勢いを失い黙り込む。突っ立ってられても邪魔だなと思ってると、ダンディ村長が座るように促し、ようやく話をする環境に持ち込めた。


 三つの村の村長が揃い、相手方の意思決定には問題なくなった。ダンディ村長と続きを話そう。

「この辺りの村が秘密裏にマクダリアン一家と繋がりを持ってたことと、それが急に敵対行動をとられてピンチに陥ったことは理解したわ。そこで私から質問よ」

 私が聞いたのはダンディ村長に対してだ。ほかの二人には聞いてない。それはテーブルにつく全員が理解してる。この場に居ながら蚊帳の外に置かれた村長の二人だけど、ダンディ村長の無言の圧力に逆らえないのか黙ってる。


「可能な限り答えよう」

「この採掘場で採れる物は?」

「ミスリルが主だ。ほかにも魔導鉱物は出るが量は少ない」

 魔導鉱物ならいい稼ぎになる。ミスリル鉱床なら結構な価値があるわね。

「冶金はどこで?」

 掘り出した鉱石はそのままじゃ使えない。鉱石から金属を取り出し、純度を高める過程が必要になる。

「俺の村に設備がある。石をここから運び出し、一定量が溜まればそこで精練までやっていた」

 なるほど。インゴットまで作れるならより価値は高まる。


「表にあった畑は? かなり広かったけど、どうせあそこだけじゃないわよね?」

「……興奮剤の一種と聞いている。その畑は森の中にいくつか点在する」

 後ろめたさがあるのか、歯切れが悪い。まあ、それなりの作付面積があることが分かればそれでいい。


「ほかに何か取引してた物はある?」

「ない。これだけで十分な見返りがあった」

「そう。じゃあ、私からの要求を伝えるわ」

 要求という言葉に色をなす村長二人だったけど、ダンディ村長が無言で続きを促すと、結局は何も言わなかった。


「要求は二つ。一つはインゴットの提供先をこれからはウチ、キキョウ会にすること。もう一つは、麻薬栽培を止めて、代わりの作物を育てること。なにを育てるかは後々こっちから指定するわ」

 マクダリアン一家のことだから、どうせ破格で仕入れてたに違いない。こんな僻地とエクセンブラとじゃ物価も違うし、彼らにとっては十分な報酬でも、こっちにとっては激安というのは普通にあり得る。しかも闇取引なんだから、その辺もより顕著だろう。

「マクダリアン一家と袂を分かつのはやむを得ないが、現実として奴らの脅威は無視できない。そこはどうするつもりだ? 今の状況では村の放棄さえ考えなければならない」

 かつてはビジネス上の取引相手だったとしても、今では裏切りと暴力支配を平然とやった相手だ。もう義理はないにしろ、村にとっての脅威が去ったと考えないのは当然だ。ただ、現状認識ができれば、その意識も変えられる。


 ここでエクセンブラの状況を語ってやろう。どうせ信じないだろうけど。

「問題ないわ。あんたたちの懸念は無用よ。詳しいことは省くけど、マクダリアン一家はもう消滅した。この村にいたのはその残党ね。そいつらも殲滅した以上、報復にやってくる奴らもいないことになるわ」

 今後、別口の残党が現れる可能性はゼロじゃない。命あっての物種だから、もしもの時のことを注意しつつ、あとでキキョウ会との取引は秘密にすることを推奨しとかないと。

「消滅だと?」

「バカな、でたらめだ!」

 雑音は無視だ。

「エクセンブラに行って直接確かめなさい。なにが起こり、そうなったのか。ゴシップ誌の一冊も買えば、ずらずらと無駄なことまで教えてくれるわよ」

 信じない奴や半信半疑の奴を説得する気はない。自分で知るのが一番だ。事件の直後から広報局には動いてもらってて、クラッド一家やアナスタシア・ユニオンともマスコミ対策は連携済みだ。すべてのネガティブな要素は滅んだ組織に被せる形で、関連組織の全てと話がついてる。勝てば官軍負ければ賊軍、世の中はそうやって都合よく回ってる。


 実際に行って自分で確認しろと言われてしまえば、信じられんの一点張りは通用しない。どうするにせよ、村の連中に取れる選択肢は少ない。新たな取引相手を探そうにも、非合法の密輸となれば相手は裏社会が相場だ。足元を見られてしまえば、ろくなことにはならない。

 まあ、ウチも足元は見るつもりだけど、余所よりは多少はマシな契約にはしてやるつもりだ。少なくとも以前のマクダリアン一家よりもね。その条件はこいつらにとって、この上ない好条件になるはずだ。


「もっともな話だ。各村から代表者と、そして俺もエクセンブラまで行こう」

「うん、それがいいわ。エクセンブラに着いたら、東部地区のキキョウ会を訪ねなさい。紹介状を書くから。あとこれまでの取引内容もここで明らかにすれば、私で好条件になるよう口を利いてやれるわよ?」

「頼むしかないのだろう?」

「どっちでもいいけど、少しはマシにできるから損にはならないわ」

 口添えなしなら、ウチの事務局はとことん足元を見るだろう。最低でも以前と同水準、きっと相手が受け入れられるギリギリの厳しい条件を突きつけるだろうからね。それは頼もしいことだけど、ダンディ村長との友好関係はがっちり結んでおいたほうがいいような気がするし、畑の有効利用の件もある。


 管理用の書類棚から適当に紙を頂戴すると、以前までの一通りの取引内容を聴取しながら手紙をしたためる。必要事項と私の所感を端的にできるだけ短くまとめた。

「紫乃上から預かったと言えば通じるわ。経緯も大体書いといたから、読ませれば手間も省ける」

 これで後のことはエクセンブラに残ったメンバーが進めてくれるだろう。細かいことも色々と出てくるだろうけど、担当者同士で詰めてくれればいい。

「村の状況が落ち着き次第になるが、なるべく早く向かうつもりだ。恩を忘れるつもりはないが、村としてそちらのことは見極めさせてもらう」

「それでいいわ。じゃあ、そろそろ地上に出るわ。人質の救出も終わってる頃合いだろうからね」

 通ってきた通路とは別に見つけたルートを探索してくれたミーアとオフィリアが戻ったのを見ながら、そろそろお開きだと告げた


 ミーアの先導で地上に戻ると、暇そうにしてるリリアーヌとグレイリースの姿があった。

 アルベルトとヴェローネに付き合って人質救出に行ったのはグレイリースらしかったけど、さくっと終わるとここに戻ってきてたらしい。


 朝になった森の中の村の光景はそれなりに美しい。差し込む明るい光と青々とした緑。

 私たちに遅れて幾人かの村人も地下から出てくる。ずっと地下に押し込められてた村人たちは、この段になってようやく実感が湧いたのか、嬉しそうな声や感極まって泣く奴まで表れる。

 久しぶりの我が家へと戻っていく人々を見送って、人質の護衛についてる二人が戻るのを待つ。


 さて、ここにはもう用はない。メシの種をひとつ手に入れたことによって、満足感はそこそこある。

 次の麻薬プラント探しの候補地は遠回りになるし、もうスルーでいいかな。どうせ道中じゃ、なにかと時間を食う出来事が起こるはずだ。早めに本来の目的地に向かって進むのがいいだろう。


なんやかんやと、ややこしい内容になってしまいました。

簡単にまとめると、助けた村にキキョウ会と手を結ばせるお話となっております。

キキョウ会としては新たな魔導鉱物の入手先を確保し、ついでにリリィ特製の作物栽培を行わせる伝手を手に入れたことになります。


さて、次回「苦手からの逃走劇!」に続きます。

珍しく逃げて逃げて、逃げまくります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の一連のイベントでのベストキャラクター賞は 隣村の熊猫獣人な無精髭ダンディ村長でしたwww いやぁ、人間って極限状態だと本性が隠せなくなるんで 他の村長みたいな態度の方が普通なのかも…
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