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カチコミ

 チンピラどもを引きずって歩く私たちは、当然のことながら凄く人目を引く。引きまくる。

 ブルーノ組までは歩いてすぐの距離だけど、出歩くご近所さんや窓から顔を出した近隣住民に思いっきり見られてる。普通なら目を背けそうなもんだけど、好奇心が強いのか結構な注目だ。


 ある意味ご近所への自己紹介が省略できたと言えなくもない、のかな?

 やばい奴らだと思われそうで不安よね。やっぱり最初は菓子折りでも持参して、挨拶回りくらいはやるべきか。

 いや、まだあそこに住むと決めたわけじゃない。むぅ……。


 微妙に悩みつつ悶々と考えてたら、いつの間にか目的地が見えてきた。

 入り口には門番なのか、二人の強面こわもてが立ってる。

 チンピラを引きずって歩く私たちを見て驚いたようだけど、青龍刀っぽい大袈裟な武器を肩に担いだ。


「おいおい、止まれ。一体なんなんだ? ここをどこだと思ってやがる」


 門番の質問を無視して、私たちはペースを乱さずにどんどん接近する。


「聞こえてんだろうが、いい加減にしやがれ!」


 いらだった門番が動き出そうとした直後、私は嫌がるチンピラ無視して掴み上げた。


「や、やめっ」

「せいよっと!」


 入り口の大きなガラス扉に向かって、勢いよく放り投げてやった。

 強面たちの頭上を通り過ぎ、けたたましい音を立てて割れるガラス窓。


「なあっ!?」


 呆気に取られる門番の隙をついて、残りのチンピラもまだ割れてないガラスにぶち当てるように放り込んでしまう。

 もう開き直って、どうせやるならド派手に行こうと道中決めた。

 物事は始めが肝心。やるならトコトンやんなきゃね。

 これは最初の打ち上げ花火みたいなもんだ。盛大に打ち上げてやろうじゃない。


 ショック状態の門番には立ち直る時間を与えず、アンジェリーナとジークルーネがダッシュで接近。手早くどついて倒してしまい、端っこに転がしておく。


「なんだ、なにがあった」

「おいおい、どうしたってんだ」

「どこぞの鉄砲玉か!?」

「カチコミじゃー!」


 おお、出てくる出てくる。十数人のこれまたご大層な得物を持ったいかつい男たちだ。これで全部なのか、まだどこかにいるのか知らないけど、わざわざ表に出てくれた。

 せっかくの殴り込みだ。こうじゃないとね。ここまで派手にやって、誰も出てこなかったら返って不気味か。


「こいつら……お、女だと!?」

「女、マジでこいつらが?」

「チッ、クソアマが。やってくれるじゃねえか」


 こっちの陣容を見て、やっぱり驚いたみたいだ。でもチンピラとは違って舐めた油断はせず、怒りを露にしつつも警戒してるようだ。

 そりゃ普通じゃないヤバい奴らだと思うのが当然ね。真昼間から平気で喧嘩売りにきた私たちなんだから。

 前に立ってるのは喧嘩上等を態度で表す私やアンジェリーナだし、さっきまでの事を見てなくたって雰囲気で攻め込んできた理解するはずだ。


「おいこら、誰に頼まれやがった? アバズレがっ、タダで帰れると思うなよ!」

「……おい、ちょっと待て。何だあの代紋?」

「ありゃ花か? あんなの見た事ねえぞ」

「どっか余所の街の組でも出張ってきたのか? にしても女かよ。捨て駒にゃちょうどいいかもしれねえが、女を鉄砲玉にするかあ? 普通よお」


 鉄砲玉って……。

 それより、代紋てなんのこと? 花? あ、もしかして、キキョウのアクセサリーのこと!?

 あちゃー、お揃いで付けてるしね。変な勘違いされてるらしい。


「おい、どこの組のモンだ! それくらい答えらんねえのか、クソ女ども!」


 なんか妙な流れに。どうしたもんかな。無視してもいいんだけど、空気がね。空気って意外と大事だからね。

 正面から喧嘩売るなら、たしかに名乗りくらいは上げるべきかと思わなくもない。でもどこの何者って言われてもね。

 どうしたもんかと答えあぐねる私を、敵も味方も見守る感じになってる。

 うーむ、ホント妙なことになったわね。


「ユカリ殿、皆が付けているその花の名前は?」

「え? キキョウだけど」


 ささやくような問いかけに答えた。こんな時に花の名前なんて気にする?

 不思議に思ってると、答えを聞いたジークルーネが一歩前に出た。


「我々はキキョウ会ユカリ組だ! この街ではまだ新参だが、そこのチンピラに喧嘩を売られてな。聞けばお前たちの子分という話ではないか。こうして親切に送り届けてやったのだ、感謝するがいい」


 ジークルーネ、あんた何を言い出すのよ!?


「なんだと!?」

「キキョウ会ユカリ組?」

「新参だってよ! ははは、女のクセに上等じゃねえか! だがよ、ちと悪戯が過ぎるぜ。お仕置きしてやんなきゃな」

「おう、お前ら。気に入った女がいれば早い者勝ちだ」

「兄貴、話が分かるぜ! ちょうど新しいのが欲しかったんだよ。へへっ」


 まったく、どいつもこいつも勝手なことを。ムカつくけど、いまはジークルーネのほうが気になる。

 そのジークルーネは戯言を無視して話を進める。


「送り届けてやった礼は金でしろ。お前たちのような貧乏臭い組でも、晩飯代程度は出せるだろう? チンピラどもを運んで腹が減ってな」


 あおってるわね。なんかジークルーネのノリが完全に悪役のそれになってる。凄く楽しそうだし。

 うーむ。それにしてもユカリ組はちょっと……。

 見事に煽られた下品な男連中からは、よく理解できないレベルの罵詈雑言が飛び交った。なに言ってんのか分かんないけど、もう言葉の応酬はいいだろう。


「ユカリ、ここはあたしらに任せとけ」

「お姉さまは守りをお願いします」


 ほかの武闘派連中もジークルーネに追随して前に出た。

 正面からの侮辱にみんな気が立ってる。私もストレス発散したいけど、まあここは任せるか。


 ブルーノ組の連中はさすがにチンピラとは格が違うようだけど、一見して身体強化魔法のレベルはこっちのほうが断然上だ。

 街の中でどの程度まで魔法を使ってくるのか想像できないにしろ、ジークルーネたちなら任せておいて大丈夫だろう。

 相手の人数は多いし、私は流れ弾を警戒して非戦闘員の守りと非常時に備えておこう。


「なら、ここは任せたわ。さっさと終わらせなさいよ」

「おう!」


 勇ましい声をあげて突撃する姿は清々しいくらいだ。



 やっぱり今度は一瞬じゃ終わらなかった。さすがに相手も喧嘩慣れしてる。

 ジークルーネや一部の手練れは、今度は得意武器を使った戦闘だからか、手加減しながら簡単に相手を片付けてしまう。でもそこまで戦闘能力が高い奴ばかりじゃないから、全体としてはいい戦いって感じだ。


 だけど身体強化魔法で上回ってることや、至近距離での足技を使う相手はブルーノ組の連中にとっては慣れない手合いだったらしい。総合的な地力だと完全にこっちが勝ってる。


 人数で劣ってる分、何度か危ない場面はあったけど、そこは私が小さな鉄球を投げてフォローする。

 そうして徐々に相手を減らしていくにしたがって、みんなにも余裕が出てきた。


 特にヴァレリアは武器を使ってると手加減が上手くできないせいか、投げ技主体で戦いながらも結構余裕を持ってるのが分かった。

 ふと隣を見ると、最近熱心に体を鍛えてるメアリーさんが真剣な眼差しで戦いを見つめてる。


「どうかした?」

「いえ、ゆくゆくはあのように戦いたいと思っていますので、参考にしているんです。やっぱり投げ技というのは美しいですね」

「お姉ちゃん、あたしもやるよー!」


 サラちゃんまでやる気満々だ。母親のソフィさんは微笑まし気に娘を見守ってるけど、それでいいんだろうか。

 そういや、いまも普通に鉄火場を間近で見せちゃってるけど、教育にはなり悪いわよね。私が言えたことじゃないけど、この子の将来が心配だ。


 そんな呑気な話をしてると、アンジェリーナが角刈り男のボディに回し蹴りを叩き込んだ。どうやら、あいつを吹っ飛ばしたところで決着がついたらしい。


「……やっと片付いたな。思ったよりも骨がある」

「そう言えばさ、身体強化以外の魔法攻撃は誰も使ってなかったわね。街中じゃ御法度ごはっとってわけ?」

「ユカリ殿、それはそうだ。魔法を使えば流れ弾でも大きな被害が出る。そんな事をすれば、街の連中が黙ってはいまい」

「まあ、そんな事を気にもしない悪党もいるからな。油断しないほうがいいぜ」


 ブルーノ組の連中は一応、その辺については常識的だったってわけか。

 幸い敵味方に人死には出てないし、ここまでは順調ね。


 みんなの細かい負傷には、下級の傷回復薬を配ってさっさと治療してしまう。

 ついでにブルーノ組の傷の深そうな奴にも、サービスで傷口だけは塞いでやった。別にそこまで恨みがあって攻め込んでるわけじゃないからね。揉め事を引きずる気だってないんだ。


「さてと、まだ終わりじゃないわよね。ボスっぽい奴はいなかったし」

「ユカリ殿、上から強い魔力を感じる。そこにボスと護衛がいるのではないか?」

「ここからはフレデリカたちが行くのは危険じゃねえか?」


 たしかに魔力を練り上げる気配がどこからかする。この魔力の練り方だと、大きな魔法を使ってくるかもしれない。こういうもの結構分かるようになってきた気がする。


 街中での魔法攻撃は御法度のはずでも、本部を襲撃されたらそりゃ本気にもなる。範囲を狭い領域に絞った強力な魔法だってあるだろう。

 よし、ここからは私もそろそろ働こうかな。


「みんなはそこらで伸びてるのを建物の中に入れてやって。道に転がしてたんじゃ迷惑だしね。それから組に戻ってくる連中がいるかもしれないから、そっちを警戒してて。もし誰かきたら、それは任せるわ」

「お姉さま、一人で行くつもりですか?」

「私は盾の魔法があるから、誰かのフォローを考えるより、単独行動のほうが動きやすいわ。みんなにはここでサラちゃんやフレデリカたちを守ってて欲しいわね」


 まさかとは思うけど、魔法で範囲攻撃でも使われたら全員は守り切れないかもしれない。

 この期に及んで手加減してくれるはずはないし、万が一はあり得る。それなら最初からリスクは取らない。

 守りの堅い私が単独で行くのがベスト。それにね、周りに遠慮なくやれる機会は逃せない。


「ユカリなら心配ないでしょうけれど、気を付けてくださいね」

「承知した。ユカリ殿、こちらは心配ない。ご存分に」


 一緒に行きたそうなヴァレリアをポンと撫でて、いくつか予備の回復薬をみんなに渡しておく。

 そうして階段に向かって意気揚々と歩き出した。ここからは私の戦いだ。


「じゃあ、後は任せとなさい!」



 階段を昇りながら、ボスはどこにいるんだろうかとふと思う。二階か三階か。最上階ってのがやっぱりセオリーかな。

 まあそこまで広い建屋じゃなし、虱潰しに探せばいいか。

 そんなことを考えつつ、二階に到着。その瞬間、予想通りに先制攻撃が仕掛けられた。


 真上から振り下ろされた大剣から、身体を少しずらして剣筋を外した。

 直後に床に叩きつけられる音を聞きながら、剣を振り下ろしたままの態勢でいる男に肉薄する。一撃必殺を目論んでたんだろうけど、隙が大きすぎる。


 体勢に乱れのない私は攻撃直後の男に迫った。

 伸びきったままの肘に手を押し当て、そのまま体当たり気味に一気に押し込む。すると逆関節に折れ曲がり、声にならない悲鳴を上げて倒れ込んだ。さらに脇腹に強烈なトゥキックを叩き込んで戦意を奪う。


 しばらくはまともに声も出せまい。

 もう戦闘の意思はないだろう男を見下ろし、二階の部屋を順に探す。



 手前のいくつかの小部屋には人影なし。残るは奥の部屋だ。人の気配はすれども、大きな魔力の気配とは違うような? ここは本命とは違うっぽい。

 まあどっちにしろボスを見つけるまでは、全部調べないといけないんだ。突撃一択。


「どっせい!」


 豪快にドアを蹴破って侵入してやると、三人の男女が槍を構えて待ち構える大部屋だった。

 私が入ってくるのは分かってたみたいで、特に驚いた様子もなく、紅一点の美女が無言のまま槍を突き込んできた。

 なんか悔しい。せっかく豪快な登場を決めてやったんだから、なにぃ!? みたいなリアクションが欲しかったのに。


 美女の鋭い突きを半身になってかわすと、間髪入れずにノッポの男が私の頭部を打つように槍で払った。

 強烈な払いを今度は屈んでかわすと、タイミング良く小太りのおっさんが渾身の突きを放つ。

 一息での見事な連携。さらに美女の構える槍が次の攻撃を確信させる。


 小太りの突きは避けられても、その次の攻撃はどうやっても避けられそうにない。

 だったら盾でガードする?

 守りを固めれば勝つのは容易い。しかし、それじゃあつまらない。

 なにより、痛みを恐れていては強くはなれない。成長できない。

 私は自分自身にもっともっと大きな可能性があると信じてる。そのためには普通でないことをやらなければならない。


 だったらどうする?

 真正面から、ぶち破るんだ。小細工なんかない。受けて立って、叩き潰す。

 それしか、ない!


 腰の捻りから繰り出される小太りの鋭い突きを首を傾けるだけでかわした直後、美女とノッポの槍が唸り、頭上からの叩きつけが襲ってきた。


「このくらいでっ!」


 幸い頭上から襲ってくるのは槍の穂じゃなく、刃のない太刀打ちの部分だ。

 身体強化魔法を全力で拳と腕に集中する。


 金剛力のようなイメージで力を込め、まずは美女の叩きつけを左腕で受けると、右の拳でノッポの槍を全力で打ち上げるように殴りつけた。


「なっ!?」


 左腕が痛い。右の拳も燃えるように熱くて痛い。だけど、痛いだけだ!

 瞬間、攻撃の止まった隙を逃すはずもなく、痛みを無視して美女にローキックを叩き込みながら槍を力づくで奪い取り、素早く小太りに向かって投擲する。

 腕の痛みで強くは投げらなかったけど、槍投げでも投擲術の技能は発揮される。近距離だったこともあって、小太りは避けられず脇腹に命中した。


若頭カシラ!」


 たぶん死んじゃいない。それより次だ。

 瞬間的に動揺するノッポの懐に潜り込むと担ぎ上げ、私の肩の上を転がすようにして床に思い切り叩きつけた。


 ノッポは背中と腰を強打、小太りは槍が腹に刺さって、美女は足を押さえて痛そうにしてる。それでも、まだ戦意を失ってないらしい。むしろ私を射殺さんばかりの視線を向けてくるじゃないか。

 上等だ。負けん気の強い姿勢は嫌いじゃない。でもね、もう勝負はついたはずだ。


 全員を一息に叩きのめした私がコートのポケットから回復薬のビンを取り出したのを見て、美女も近くにあった棚からビンを取り出した。そうして小太りの前にしゃがみ込んで飲ませる。あれは回復薬なんだろうね。

 特に構わず、自分特製の回復薬をぐいっと飲み干す。痛みに感覚が無くなりつつあった腕と拳がすぐにいつもの調子を取り戻した。うん、我ながら凄い魔法だ。


「あのさ、この中にブルーノ組のボスはいる?」


 いないだろうなと思いつつ、一応確認する。


「若頭、しっかりしてください! 傷は塞がりましたから大丈夫です!」

「……あ、ああ。大丈夫だ、すまんな。それより、あの女は」


 質問に答える気はなさそうね。それどころか小太りと美女は、また武器を手に取って再戦する気満々みたいだ。

 だけど、こいつらの相手はもう十分だ。ノッポが脱落してる時点で、やる前から結果は見えてる。こんなところで意地の張り合いに付き合うつもりはない。まだボス戦が残ってるんだし。


 こういう時には決定的な差を見せつけるしかない。容赦なく、戦意を挫く。

 すっかり治った右手に鉄球を生成すると、離れたところにいる二人の周りに次々と投げつけてやる。

 直接当てはしないものの、破壊の後をまざまざと見せつけてやる。これが当たればどうなるか、分からないほどアホじゃないと期待しよう。


 目論見通り、硬い床材を抉る音が響くたびに、二人の戦意が萎んでいくのが分かった。それでいいんだ。


「あのさ、この中にブルーノ組のボスはいる?」


 さっきとまったく同じ質問だ。ここで答えなければ今度は身体にぶち込むぞと、睨みを利かせながら。


「あっ、お、おやっさんは、ここにはいないわ」

「……オヤジは上にいる。だがお前は何者だ、用はなんなんだ?」


 はて。当初の目的を忘れそうだったわね。

 喧嘩を売ってきたチンピラどもの落とし前と、裏のビルは諦めろってこと。後は私たちには手を出すなって、そのくらいだったかな。


「あんたたちに逐一説明するのも面倒だわ。あとでボスから聞いておくのね」


 こいつらにもう用はない。悠然と背中を向けて部屋を出る。

 さてと、ボスはどんな奴かな。面白い奴だといいんだけどね。

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