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内部抗争の末路

 本部に向かって移動しながら、滅びゆくマクダリアン一家を少し思う。

 今夜、とんでもない人数がエクセンブラから命を散らした。今もまさに散らしつつある。そのことについては今更なんとも思わない。私たちは私たちの成すべことを成しただけ。誰にも文句は言わせない。


 別の場所で戦ってるメンバーも含めて、報復は完全に果たすことになるだろう。でも報復には新たな報復が付き物だ。いわゆる報復の連鎖。いつまで続くともしれないそれは、きっと常識的には最悪の出来事だ。無関係な奴らはしたり顔で非難するかもしれない。だけど、そんな心配はまったくもって無用だ。


 報復の報復だって?

 上等だ。そんな元気があるなら、とことんやってやる。それこそ最後の一人をぶち殺すまでだって付き合ってやる。こっちだって考えなしにやってるわけじゃない。『覚悟』を決めてやってるんだ。どっちの覚悟が上か存分に試してやる。やれるもんならやってみろ!

 ただし、一をやったら千で返す。何かが起こる度に見せつけてやる。思い知らせてやる。そういうことだ。いつでも誰でも、かかってくればいい。私たちにはそれを実行できる力がある。

 そんなことよりも、後々のことがやっぱり気になってしまう。


 殺すだけなら簡単だ。さっきやったようにね。でも、やった後のこと。今後がどうしたって大変になるのは目に見えてる。

 まだ他の戦闘団の戦果を聞いたわけじゃないけど、確実にマクダリアン一家は消滅する。中核となる派閥本体を全滅に追いやることになるから、それは間違いない。現状のマクダリアン一家たらしめる中心人物は全て排除するんだから。

 それでも下っ端まで含めた構成員の全てを倒すわけじゃないんだ。その残った奴らがこれから真っ当に就職するなんてことはありえないし、キキョウ会に恭順の意を示す可能性だって低いだろう。だとすれば、残った奴らは分散し、小勢力が乱立する状況になる。


 合流して新たなマクダリアン一家の類似品を作ろうとするならば、報復の件は別にしても今度こそ全滅させる。だけど、その可能性は低いと思う。滅んだとはいえ派閥間で争った感情が消えるわけでもなし、求心力のある存在がこぞっていなくなったんだから、その芽はないだろう。となると、小勢力同士が主の不在となったシマを巡って争いを起こすことは容易に想像できる。

 いわゆる空白地域だ。マクダリアン一家が消滅した影響は大きい。その広い支配地域の中でも主要なところはキキョウ会が押さえるつもりだけど、全部とはいかない。むしろ大部分が手つかずになるだろう。


 広大な空白地域は残った旧マクダリアン一家の小勢力群に加えて、新参者の組織によるシマ争いで、大きく揉めることになるだろうね。

 当然、キキョウ会にとっても他人事とはならないわけで、面倒事が山のように押し寄せることになる。まあ忙しいのはいいことだと割り切るしかない。これも因果応報ね。

 色々とあるけど、今は状況の認識さえできてればいい。後のことはまた後で考えよう。



 なるべく急いで戻ると、道中にはちらほらとウチのメンバーの姿が。警戒中のメンバーにはフレデリカやエイプリルまでいて、まさに総動員だ。通り過ぎるときにそれぞれと目だけ合わせておいた。アイコンタクトだけでも伝わるものはある。


 本部に到着すると、中で待ち構えてたのはジョセフィンだった。

「おふたりとも早かったですね」

「ヴェローネたちにあとを任せて先に戻ってきたわ。それで?」

 信号弾の訳を聞くと、ジョセフィンは面白そうに話してくれた。

「ウチがマクダリアン一家を襲撃することはクラッド一家にも伝えてましたが、予想外の反応がありましたよ」

「予想外?」

 思わずヴァレリアとハモってしまい、顔を見合わせた。

「ドン・クラッドからの伝言ですが、なんと、アナスタシア・ユニオンと手を組むらしいです。ウチにはそのままマクダリアン一家と決着をつけろとのことでした」

 ついに動いたか。まさか窮地にいるアナスタシア・ユニオンに味方するとは思わなかったけど、共闘してガンドラフト組とやり合うつもりか。

 エクセンブラの勢力図が大幅に書き換わろうとする今夜、蚊帳の外にいたままのはずはなかったからね。とにかく私たちにとっても良い方向に動いてくれたみたいで助かる。どういう経緯でそうなったのかは分からないけど、妹ちゃんも不利な状況から強力な援軍を得られて一安心といったところね。


 なるほど、役者が揃いつつあるか。

「それで、まさかそれを伝えるためだけに呼び戻したわけじゃないわよね?」

 クラッド一家とアナスタシア・ユニオンが手を組んだって情報だけなら、急がせる必要はないはずだ。本当なら私とヴァレリアはまだ現場にいた。

「まさか。ドン・クラッドからの伝言を受け取って間もなく、状況は動いてます。行方をくらませていたアナスタシア・ユニオンですが、つい先ほどクラッド一家の本家に合流しました。さらに、それを追うようにしてガンドラフト組がクラッド一家に攻め入ったとの情報も入ってます」

「攻め込んだ!?」

 展開が早い。アナスタシア・ユニオンがクラッド一家に合流するのはいい。でもそこに躊躇なくガンドラフト組が襲い掛かるとは予想外にもほどがある。


 ガンドラフト組はこうなる展開を予想してたか、最初からクラッド一家とも対決するつもりだったとしか思えない。それも自分から積極的に仕掛けるってことは、勝算があるってことになる。

 単純な保有戦力だと五大ファミリーのなかでも、クラッド一家は頭一つ抜ける組織だったはず。しかもそこにアナスタシア・ユニオンが加わって、より戦力は厚くなってる。

 まともに戦えば敗北は必至。悪辣なガンドラフト組が、ただ単に勢い任せに戦うとは考えられない。なにかある。


 はぁ、足りない頭を無理に働かせると、激しく疲れるわね。

「うーん、ちょっといない間にそんなことになってるとは……」

「そこでユカリさんに判断してもらおうと思ってですね。どうします?」

 動くべきか様子見か。なにもなければ勇んで加勢に行くところだ。クラッド一家はともかく、妹ちゃんには味方してやりたいし、ガンドラフト組とはもう敵対してる間柄なんだ。味方が多い場面でやれるならやっておきたい。

 でも今はマクダリアン一家との抗争中だ。攻めに行ったみんなが戻るにはまだ時間もかかるだろうし、こればかりは絶対に放り出すわけにはいかない。


 となれば、残った戦力を動かす?

 予備戦力としてはまだ第九戦闘団がいるし、私とヴァレリアもいる。

 うーむ……いや、拙速に動くのはやめよう。ガンドラフト組がなにか企んでるとしても、クラッド一家が簡単にやられることはない。時間があると考えるべきだ。

 残した予備戦力は、あくまでもマクダリアン一家に対する予備戦力とするべき。たとえ出番がなかったとしても。これも決意の一つの表れだ。

 普通に考えればこれでいいはずだ。普通なら。


 ……ああ、なるほど。普通か。酷い違和感を覚えるわね。今はまさに尋常ならざる状況。ここに至って、ジョセフィンはどうするかを私に聞いてるんだ。会長たる私に。


 もう一度考える。普通とは異なる状況で、普通のことをやってどうする。予備なら私とヴァレリアでなんとかなるし、ヴェローネはそれほど時間もかからず戻るだろう。そもそも本当に予備が必要か?

 最初の考えを翻した結論を口に出す。

「…………予備戦力を動かすわ。リリアーヌに伝えなさい。クラッド一家本家の近くで待機。様子を見つつなるべく待機を継続、必要に応じて判断は任せるってね」

 とりあえず場所だけは動かす。万が一の事態にいつでも対処できるように。もし、その万が一が起こってクラッド一家が倒れるような事態になってしまうと、エクセンブラの街の支配体制が根本から覆る。五大ファミリーが全てなくなってしまえば、この街の戦力がほぼいなくなってしまう。それはあってはならない損失だ。

 私はキキョウ会のみんなを信じはするけど、他の組織を信じたりはしない。ましてや都合のいいように期待するなんてのは確実に間違ってる。だから、信じられる戦力を動かす。もしもの場合には、手を貸す必要がある。


「分かりました。伝令はすぐに手配します。ユカリさんとヴァレリアはどうします?」

 いつもの調子で軽く応えつつ、ジョセフィンは伝令に持たせる手紙を書いてるらしい。

「戦闘団やシマの状況が知りたいわ。どこかで苦戦してるなら私が応援に出るつもりよ。クラッド一家とガンドラフト組も気になるし、マクダリアン一家とはできるだけ早く決着をつけたいところね」

 自分で動くよりも状況の把握を優先したい。まだまだ感傷に浸る暇はないみたいね。それをするのは一通りの状況が落ち着いてからでいいけどね。



 ウチの状況については逐次入ってくる報告まで含めてジョセフィンが簡単に説明してくれる。これで大体は理解できた。

 現状だとまだ守備についたところへの攻撃はない。これはウチが一斉にマクダリアン一家を攻撃してるせいだろう。守りに手いっぱいで、余計なことができる余地がないからだ。ガンドラフト組もクラッド一家に攻め入ろうって時に、戦力を分散させることはしないだろうからね。第三者の余計な介入も今のところは予兆もないみたいだし、守備への心配はほぼなくなったと思える。


 攻撃もおおむね順調に推移してるらしい。大人数と設置型魔道具で対応されて楽にとはいかないようだけど、それでもウチの戦闘団の火力は凄まじい。大詰めを迎えてる戦闘団もあるようね。このまま逆転は許さず、最後の抵抗も食い破って目的を遂げるだろう。私がでしゃばる必要はないみたいね。

 特にヴェローネのところはもう掃討戦に入ってるらしい。目についた雑魚を狩りつくせば、じきに戻るだろう。



 ジリジリとした時間を過ごしてると、ようやくヴェローネが戻った。思ったよりも、だいぶ遅い。

「派閥の首魁は地獄に送り届けてやったわ」

 開口一番、待ってた言葉だ。これであの世に行った仲間たちの留飲も少しは下がるだろう。

「ずいぶんと時間がかかったけど、なんか想定外でもあった?」

 なんとなく気になって聞いてみる。ヴェローネもそうだけど、ウチのメンバーは余計な事に時間を掛けない。

「ええ。その想定外のために時間がとられたわ。なんとか片づけたけど、驚く手合いだったわよ? あとは残務処理をやらせるメンバーだけ残して帰ってきたところ」

 やけに疲れた様子ね。それにしてもまた予想外、想定外か。なにがあったのかと思ってると、続けてヴェローネから聞かされた話は、まさしく青天の霹靂だった。

「例の奴らよ。目玉のタトゥー」

 さすがに驚く。


「……レギサーモ・カルテルがいたって、どういうことよ?」

「別口でマクダリアン一家に攻めてきたような雰囲気ではなかったわね。わたしには仲間だったように見えたけど」

 ここにきて姿を現したのはいいとして、なにがどうなってるのやら。とりあえずは状況を一番把握できてるだろうジョセフィンに水を向けた。

「マクダリアン一家とレギサーモ・カルテルですか。貴重な情報ですね。意外でしたが、理解できない話ではないです。経緯は不明ですが、外部組織を引き入れ利用した下剋上ってところでしょうか。現段階ではまだ推測ですが、よくある話といえばよくある話ですね。とはいえ、果たしてどちらが利用されたのやら、とも思いますがね」

 言われてみれば、よくある話だとも思える。総会での襲撃だってマクダリアン一家の内部からの手引があれば、より容易く実行可能になっただろう。決め付けるのは早計だけど、ヴェローネが見た状況からして可能性は高い。


 ジョセフィンの辛辣な評価にも同感だ。いいように利用されたとしか思えない。五大ファミリーといえど、一派閥程度がレギサーモ・カルテルと同等に渡り合うのは無理だ。組織の力と規模に差がありすぎる。利用するなんて無謀な話だ。


 のし上がるためなら、上に居座る親でも殺す。それも外部の力を利用して。

 ドン・マクダリアンがいる時分は安定した組織だった。キキョウ会が絡んだ問題は続発しただろうけど、それを除けば特には問題のない組織だったはずだ。少なくとも表向きにはね。街の状況も相互不可侵協定によって手柄を上げる機会が失われてたってのもある。

 停滞する状況。組織の中でのし上がるには、動乱の時代を待つしかない。あるいは、自らそれを招き寄せるか。


 この世界の一年は長い。相互不可侵協定が結ばれてから、どれくらい経ったか。血気盛んな勢力にとって、しびれを切らし暴挙に出るには十分な期間があったかもしれない。

 特に五大ファミリーは成熟しきった組織だ。キキョウ会のように自分のところの成長に夢中になれる余地もなかったと思うしね。やりたいことがあっても上から押さえつけられてたとするなら、鬱憤は溜まる一方だ。そう考えると、ぶっ壊してやれって気持ちは理解できてしまう。ただ、どんな事情があったとしても、ウチに手を出したことは断じて許さない。断じてね。


「結局、マクダリアン一家が黒幕だったということですか?」

 ヴァレリアが首をかしげる。

「どうでしょう? 黒幕なのは間違いないと思いますが、それが全てとも思えないですね。そういえばヴェローネさん、レギサーモ・カルテルの戦力はいかほどでした?」

「連絡要員だったのか、人数は二人だけ。最初はレギサーモ・カルテルだって気づかなかったんだけど、痛みを無視した異常な闘い方から途中で、もしかしてとは思ったの。かなりの強者だったから、結局は生け捕りにする余裕がなくて、死体を検めたら例のタトゥーがあったという感じね」

 それはしょうがない。ヴェローネが余裕がないというくらいなら、よっぽどの相手だ。


 これでレギサーモ・カルテルに繋がった奴らが明らかになった。そして同時に滅ぼした。繋がってたのはさすがにヴェローネたちと倒した派閥だけだろうし、他の派閥を攻めてるみんなが目玉のタトゥーに遭遇する可能性は低いと思う。それでもヴェローネが遭遇したのは、たった二人だけだ。残りはどこにいる?

 いばらの魔法でまとめて倒した中にいた? そんな都合のいい話はあるか? あったかもしれないし、なかったかもしれない。分からないわね。あの死体の山の中から探すのも厳しい。原形を留めてるとは思えないし。


「ところでレギサーモ・カルテル以外の奴らはどうだった? それとメンバーにさせてる残務処理って?」

「派閥の連中は幹部も含めて大したことなかったわ。ただ、最後の最後に派閥の幹部たちが妻や子供がどうのって騒がれたのは辟易したわね」

 面倒な場面を思い出したらしく、ヴェローネも苦り切った顔をする。敵の妻子ってのは、生かしておけば厄介の種だ。まさに報復がどうのって考えるだろうし。だけど、私たちがそいつらの命を奪うことは基本的にはない。そいつら自身が武器を手に取るなら話は別だけど、そうじゃなければ普通に見逃す。未来の敵になる可能性はあっても、現時点で敵じゃなければ捨て置くのがウチの流儀だ。メンバーへの精神衛生上、そうした方がいいのは間違いないし。


 妻子まで殺すつもりなんてないのに、敵の最後の懇願にいちいち耳を傾けてやるヴェローネは優しい。

「戦闘自体は特に問題なかったけど、それより後処理がね。まだ終わってないけど招集がかかってたし、半分だけ人員を残してきたところ。死体処理よ」

 処理か。後でいいと思ってたけど、早くやるに越したことはない。いずれにせよ大量のそれを放置はできないんだ。ヴェローネたちは戦闘よりもむしろ、そっちに忙殺されたに違いない。一応は後処理に都合のいい魔法が使えるメンバーもいるはずだけど、なんせ数が数だ。それなりの時間はかかる。

 恨みがましそうなヴェローネだけど、大量に生み出した張本人がさっさといなくなったんじゃ、そりゃ一言物申したくもなるだろう。まあ、そこはそれだ。恨み言をスルーしてポンと肩を叩いてやる。今度、一杯奢ってやろう。

 しかしなるほどな話だ。各戦闘団もそういった意味で多くの時間がとられるだろうね。


 なにはともあれヴェローネが戻った。だったら、待機メンバーはヴェローネと第六戦闘団に任せられる。現状の把握もある程度はできてる。

「悪い、ヴェローネ。私たちはリリアーヌに合流するわ。あんたは今の状況をジョセフィンから詳しく聞いておいて」

 ヴァレリアと私はずっと臨戦態勢だから、特に準備もない。消耗した魔力もかなり回復してる。

「え、ちょっと」

「ジョセフィン、引き続き状況の取りまとめと、他に戻ったメンバーにも説明頼むわよ」

「なにかあれば動く前に教えて欲しいんですけど、そうもいってられないでしょうね」

「うん、たぶん。臨機応変にやるしかないわね。じゃあヴァレリア、行こう」

「はい、お姉さま」

 すでに移動させてる第九戦闘団に合流を急ぐ。

 クラッド一家とガンドラフト組か。どうなってることやら。


ひと山超えましたので、あとがき復活します。

マクダリアン一家との抗争は、これにてほぼ決着となりました。

そしてクラッド一家へと場面は移ります。


ここで初期メンバーでありながら出番のなかった登場人物が、やっとまともに登場する予定です。彼女の活躍を、ぜひご覧になってくださいね。

次話「おっとり系の真実」に続きます!

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