表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/464

決意の夜

 絶対確実にマクダリアン一家を滅ぼす。そのためには確かな情報が必要だ。

 奴らは派閥ごとに別れて行動してる。そいつらは個別に叩かなくちゃならない。どこにいて、どう動いてるか。最低でもおおよその人数と潜伏先の情報は必須だ。


 私自身のターゲットは当然ながら、あの爆破物を使った奴らだ。あれに関わった奴らは漏れなく全員を血祭りにあげてやる。そのためにも、誰がやったのかが分からなくちゃ話にならない。確度の高い情報をまとめるため、ジョセフィンと情報局は動いてくれてる。

 その動きと同時に、別口からも集めさせてる。今は確度と同時に速度もいる。手っ取り早く進める上でも持てる力は遠慮なく使うことにした。


 抜け目のない仲間の報告を待ってると、深夜も近い時間になって、ようやく第一報が届いたらしい。

 焦れる気持ちを抑えて、即席で作った椅子に集まった幹部たちが座ってる。そこに近づくのはジョセフィンと元囚人の女だ。

「やあ、ユカリノーウェ会長、幹部の皆さん。終わったよ」

 なんてことのない調子で馴れ馴れしい口を利く奴だ。こいつは元囚人からスカウトした女。私たちにはない筋のツテを持ってるとかで、オルトリンデの希望があってウチに加えた経緯がある。普段は情報局で働いてるけど、ピンポイントで役に立つ特技を持ってる奴でもある。それはズバリ、拷問だ。


「それで?」

「いやー、実は結構な特ダネを掴んだんですよね。特別ボーナスを期待したいところだなーって」

 怒れる幹部に囲まれた状態で良く言うもんだ。この度胸はなかなかもんよね。

 元囚人組には借金を背負わせてる。釈放に掛かった金をそのまま借金にして、それを返したら自由にしていいって契約だ。優秀なこいつらには引き続きウチにいて欲しいと思ってるし、私はケチケチしない女だ。有用な情報を引き出せたんなら、もちろんそれに報いる用意はある。

「ケチな払いはしないわ。その代わり、ガセだったら承知しないわよ」

 こいつは私のような素人とは違って、その道のプロだ。沈黙を許さず、嘘を嘘と見抜き、多角的に真偽を判断できる奴とオルトリンデは評価してる。だったら、私もそれを信じるのみ。


 とりあえずは気前のいい返事に満足したらしい。これを受けて、一緒にいたジョセフィンが報告を始めてくれた。

「マクダリアン一家の派閥の詳細と居場所は大体分かりましたよ。それと、本部に仕掛けた連中も」

「ふん、それだけ分かれば十分ね。こっからは、私たちのターンよ」

 これで爆弾を仕掛けた連中が確定した。こんなところで予想外なんて要らないんだ、それでいい。それに情報局はさすがだ。拷問による情報の取得と元から探りを入れてた情報とを合わせて、より確度の高いものにしてくれてるらしい。知りたいことが分かれば、あとは実行あるのみ。

 全員で報告を聞くと、これからの具体的な行動を決めていった。



 大体の方針を話し合ったところで、情報監察局の若衆が報告を持ってきてくれた。

「……こちらです」

 ジョセフィンたちの情報を待ってる間、そして私たちが話し合ってる間に犠牲者が明らかになったらしい。

 簡潔に名前と所属だけが書かれた報告書だった。


 事務局の若衆から九名。

 情報監察局の若衆から一名。

 伝令として居合わせた戦闘団と警備局の若衆から各一名。

 幹部クラスの犠牲者として、本部長秘書官のクラリス。


 これがキキョウ会が出した犠牲者だった。

 全部で十三人。たかが十三人、されど十三人。誰が何と言おうと、私たちにとっては大事な十三人だ。

 人の命は平等じゃない。この十三人の命は、そこいらの奴らの百倍は価値のある命だったと私は言ってやる。

 ましてやマクダリアン一家の連中なんかとは比べるべくもない。千倍にも万倍にもして返してやる。当然の権利と言って憚るものか。


 さらに犠牲者はキキョウ会メンバーに限らなかった。たまたま陳情にきてたカタギの二人の死亡も確認されたんだ。

 カタギに死者を出したことも痛い。これはウチの評判に直結することだし、まだ分からないけどもし有力者が含まれてるとなれば、事態はかなり厄介になる可能性もある。いずれにせよ知らん顔はできないから、こっちに対してもケジメを付ける必要はある。


 ただ、忙しかった影響で事務局以外のセクションのメンバーがほぼ不在だったのは助かった。普段の状況だったら、犠牲者はもっと多くいたはずだ。顧問や広報局のメンバー、それと事務局に用事があるメンバーは、通常時にはなにかと事務スペースにいることが多い。

 想定し得る最悪の事態は避けられたかもしれない。だけど、それで良かったなんてことは絶対にない。十分に悪い結果が起こってしまってるんだから。

 だから、私たちは敵に最悪を押し付けに行く。死ぬほど後悔するどころか、地獄の底で後悔させてやる。



 私たちはこれから戦いに赴く。

 ターゲットは各派閥のトップおよび幹部の全員だ。こいつらは全員、殺す。皆殺しだ。これを譲らない一線として、それ以外の奴らの全滅までは現実的に考えて無理だ。優秀極まる情報局といえど、さすがに末端までは把握しきれてないし、そこまで虱潰しに殺して回るのも無意味だろう。責任は意思決定に関わった奴らにある。ただし、目の前に立ちはだかる奴らは漏れなく殺す。見逃してやれるほど、今の私たちは優しくなれない。


 はっきり言って、キキョウ会メンバーの一人の死は、奴らの千人の命でもまだ足りないとすら思う。どの命だって等しく価値があるなんて寝言をほざく奴がいるなら、そんな奴は私が縊り殺してやる。贖わせてやる。釣り合いが取れないなんて言わせない。私たちは本気だ。

 マクダリアン一家は今日、消滅させる。跡を継ごうなんて奴が現れないよう徹底的に叩き潰す。


 外に出ると深夜の澄んだ空気が少しだけ気落ちを和らげてくれる。もちろん、そんなことで闘志が衰えたりはしないけど。

 怒りの神の化身が如き闘気を纏うグラデーナたちを従え、決意を告げる。

「……今夜、マクダリアン一家を殺す」

 個人じゃなく、組織を殺すと言った。意味を理解できないアホはいないだろう。長いこと五大ファミリーに君臨した一家は、キキョウ会によって滅ぼされる。組織として死を迎える。決定事項だ。


 だけど客観的に考えた時、敵はそびえ立つ山のように大きな組織だ。怒りがあるとはいえ、漠然とした不安感を持つ若衆だっているかもしれない。古株や中堅はともかく、まだ新しいメンバーはね。

 なんせ相手は分裂状態にあるとはいえ、五大ファミリーの一角だ。組織の規模じゃウチとは比較にならない。普通ならまだ戦いを挑む状況には決してならない相手。そいつらをぶっ潰そうっていうんだ。みんなだって承知の上とはいえ、多少の不安はあるに違いない。だからこそ、簡単に考えさせてやろう。

「それぞれが三十人も殺せば、十分に釣りがくるわ。できるのかなんて、眠たいことをほざく奴はいないわね?」

 あまりにも単純な計算だ。たったそれだけの分担で釣りがくる。実際のところ戦力比がそれで正しいかは微妙だけど、この場では勢いの方が大事だ。


「うおおおおおおっ! 余裕っ!」

「それっぽっちじゃ足りねぇ! あたしはもっとヤるぜ!」

「たったそれだけ? 十倍でも持ってきてくださいよ!」

 気持ちのいいメンバーだ。三十人と聞いて怯むどころか、足りないとすらのたまってみせる。それも当然。キキョウ会の戦闘団は、この程度の人数差なんてものともしない。そういう存在だ。

「上等っ、私は一人で千人殺す! カタキは必ず取る! 始めるわよ!」

 特大の覇気を撒き散らしてハッパをかけると、若衆は移動の準備を始めた。


 喧嘩は数で決まらない。

 実力が大して変わらないなら、数が物を言うかもしれない。だけど、魔法が跋扈する世界じゃその限りじゃない。

 キキョウ会は数こそ少ないものの誰もが精強だ。一騎当千の力の持ち主だって少なくない。

 相手が五大ファミリーだろうが、負ける気がしない。


 最後に幹部だけには言っておく。

「これ以上の犠牲はいらないわ。分かってるわね?」

「当然です。一方的に潰してやります」

「ただの一人も犠牲なんか出すかよ。なあ?」

 威勢のいい返事や神妙な返事が続いた。勢いがあるのはいいけど、慎重さだって必要なんだ。幹部にはそれを求めてる。きっと大丈夫と思ってるけどね。

「言われるまでもねぇ。ユカリ、てめぇこそ、しくじるなよ?」

 それこそ言われるまでもない。言い放ったグラデーナやみんなと強く手を打ち合わせると、それぞれの戦場に向かって移動を始めた。


 世界は残酷だ。常識的に考えて、ここは悲惨な世界で間違いない。日常的に理不尽に死んでいく奴は、数え切れないくらいにいる。

 だけどキキョウ会は、その理不尽に抗う組織だ。悲惨な世界でも楽しく生きて行くためのね。特に単純な暴力には決して屈しないよう、今となってはバカげたほどの戦闘力を誇る集団でもある。

 あんな風に死んでいくのは、もう見なくていい。同じことは繰り返さない。ウチに悲壮な空気は似合わないんだ。これから楽しんで生きて行くためにも、ケリをつけてやる。



 マクダリアン一家は派閥ごとに分散してる。奴らは味方同士であっても、今は身内で覇権を争う仲でもある。だからそっちの連携を気にする必要はない。各個撃破が可能だ。ただし、順番に倒していくわけじゃない。キキョウ会の戦闘団はそれぞれにターゲットを定めて、敵を同時に倒す。この期に及んで派閥を越えた連携をされたり、逃亡を防ぐためにもね。一気に全部を叩き潰すんだ。


 当然だけど、マクダリアン一家のために戦力の全てを割くわけにはいかない。

 攻撃と防御はバランスよく。敵はマクダリアン一家だけじゃないんだ。あらゆる局面を想定した配置が必要不可欠となる。

 我がキキョウ会は事務局メンバーであっても一定以上の戦闘力を誇る集団だ。なればこそ、誰に守備を任せても何ら問題ないところは非常に大きな長所になる。足手まといがほとんどいないってことだからね。足手まといになるのは治癒局の子供たちと、見習いくらいなもんね。


 事務局、広報局、建設局、研究開発局のメンバーには、魔道具も使った守備態勢を敷いてもらう。非戦闘系セクションのメンバーは、本部と稲妻通りを守備し、総指揮官にはジークルーネを据えた。いざとなればシャーロットの補佐もあるし、ソフィやリリィのように特化した高い能力を持つメンバーだっている。頭数もいるから単に守るだけなら問題ないはずだ。特にジークルーネが采配を誤る可能性なんて考えるだけ無駄だ。


 警備局には変わらずエピック・ジューンベルを守ってもらうけど、あそこは重要な客が集まる施設でもある。追加の保険として顧問のローザベルさんとコレットさんにも行ってもらうことにした。あの二人はウチのジョーカーみたいなもんだからね。

 ローザベルさんは治癒魔法使いとして世界ナンバーワンの実力者だと太鼓判を押せるし、特に私が奇抜な入れ知恵をしてからは別次元に飛躍してる。こと治癒に関して、私はあの人には全然敵わないと思えるくらいにはね。そのバックアップはあまりにも心強い。

 コレットさんも治癒魔法使いとして世界で指折りの実力者だろう。だけどあの人はエルフとして別の魔法適正まで備えてる。普段のすっとぼけた態度とは裏腹に、底の知れない力を思わせる人だ。伊達に当代一の治癒魔法使いの相棒を務めてはいないってことだ。

 きっとなにがあっても守り切ってくれる。戦力外の子供たちも同じくホテルの一室に隠れさせれば、余計な事に気を回す必要も減る。ゼノビアと顧問の二人の布陣なら、破られる心配はなくなったも同然だ。


 問題なのは見習いたちだった。人数が多いから、もしここを叩かれるとマズい事態に陥りかねない。教導局のフウラヴェネタたちだけじゃ、どうしたって戦力が足りない。そこでここにはグラデーナと本部付直率若衆を投入することにした。攻める気満々の副長代行を説得するのは骨が折れるかと思いきや、状況をよく考えてるのか意外と素直に頷いてくれた。元より仲間思いの女だからね。攻めるよりも見習いを守ることに力を使うとなれば、納得することも難しくはなかったのかもしれない。守備についてはあくまでも最悪や想定外を考えてのものだから、実際には出番はないと思うけどね。それでも万全を期すために保険は掛けなくちゃならない。



 そしてここからは攻め手だ。情報局によって、敵の派閥の情報、特にボスのことは顔まで分かってる。

 マクダリアン一家の長男。次男。若頭。若頭補佐から一人。若衆から一人。こいつらが各派閥のボス。全部で五つの派閥がターゲットになってる。

 こいつらは各戦闘団と私が確実に討つ。


 アンジェリーナ率いる第一戦闘団とメアリー率いる第二戦闘団には、マクダリアン一家の長男一派を任せた。一応はターゲットの中でも最大派閥らしいけど、誤差の範囲だ。あの二人なら問題なくやってくれるだろう。


 ボニー率いる第四戦闘団とポーラ率いる第五戦闘団には、若頭一派を任せる。ここにはマクダリアン一家の最大戦力がいるとの噂だったけど、そんなものはどうでもいいことだ。キキョウ会にとって、脅威と評価されてる敵戦力は皆無だからね。ウチの武闘派にかかれば、どうということはない。


 ブリタニー率いる第七戦闘団とオフィリア率いる第十戦闘団には、若頭補佐の一派を任せる。こいつらは主に財力で勢力を伸ばす一派らしいから、戦力的にはそれほどでもないと思われる。その代わりに金にものを言わせた厄介な魔道具には気を付ける必要があるかもしれない。それも想定済みな以上、ウチの戦闘団なら全然問題ないはずだ。


 最後にマクダリアン一家の次男一派と、若手の中から成り上がろうって奴が率いる一派だ。こいつらは今現在、なにかの話し合い中で一緒にいるらしい。手を組んで一気に最大派閥にでも躍り出ようって魂胆なのかもしれない。それを証明するかのように、奴らが居るのはなんとマクダリアン一家の本家だ。だとしたら、是が非でも叩かねばならない本命ね。

 ここを叩くのは私とヴァレリアに加えてヴェローネ率いる第六戦闘団だ。敵の二派閥に対して戦力が少ないように思えるかもしれないけど、そうじゃない。これが妥当な配分だ。

 会長たる私の戦力は単独の戦闘団に大きく勝る。キキョウ会の幹部なら誰もが納得する客観的な評価だ。たった一人じゃできることも限られるけど、ヴァレリアとヴェローネたちのサポートが得られる状況なら、十全な力を発揮できる。だから、これが妥当な戦力配置となる。


 そんでもって、キキョウ会にとってのカタキが私たちのターゲットにいる。あの爆発をやりやがったのは、次男一派だって話だ。必ず息の根を止めてやる。


 攻め手や拠点防御とは別にして、戦闘団はシマの守備にもつく。六番通り全般の守備には、アルベルト率いる第三戦闘団が。それとミーア率いる第八戦闘団はより広域ついて目を光らせる。

 予備戦力としては、リリアーヌ率いる第九戦闘団を残した。これも何が起こるか分からない以上、置かなければならない重要な戦力だ。


 ジョセフィンとオルトリンデの情報部門は、全力で状況を注視してもらう。これも重要極まる。ガンドラフト組とアナスタシア・ユニオンの動向、クラッド一家の動き、そしてレギサーモ・カルテル。

 油断できる要素はどこにもない。マクダリアン一家とやり合ってるうちに状況に置いてけぼりを食わないよう、尽力してもらわねば。まったく、気を配る方向が多すぎて嫌になるわね。



 車両で敵の本部に向かいながら、別れたみんなの無事を祈る。問題ないとは思ってるけど、少しだけナーバスになってしまうのは避けられない。

 なんとなく妹分の髪に触れながら、声をかけた。

「ヴァレリア、背中は任せたわよ」

「お姉さまは絶対に傷つけさせません」

 そんな顔をさせるつもりじゃないんだけど、やけに真剣な様子だ。決意に満ちた表情で私を守ると誓ってくれる。頼もしいわね。寄り添う妹分の柔かな髪に触れながら、今度はヴェローネにも声をかける。

「あんたたちのサポートが勝利の速度を決めるわよ。敵の大部分は私が請け負う。だから他は全部任せた」

 これは勝つ戦いだ。敗北することなんて考えられない。勝敗じゃなく、ただ勝利の過程と速度だけが問題になる。

「全部ね。任せておいて、と言いたいところだけど、どんな作戦でいくつもり?」

 そりゃそうだ。いきなり言われたって、なんのことかってなるわよね。


 簡単に説明すると、少々青ざめた顔でヴェローネたちは納得してくれた。

 なに、敵は全滅させる。それだけのことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ