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中折れ帽の襲撃方法

 超特急で編成を決めると即座に出撃だ。やると決めたからには、妹ちゃんは必ず助ける。

 結局、私と一緒に行くことになったのは、いつもの護衛のヴァレリア、それと第四、第五戦闘団に戦闘支援団のメンバーを加えた形となった。大型ジープに分乗しての急行だ。アナスタシア・ユニオンの本拠地まで結構な距離がある。急がないと。焦ってもしょうがないけど、手遅れでしたじゃ話にならない。


 中央通りを横切り、アナスタシア・ユニオンのシマに入ってからずっと奥に向かって進む。

 しばらく経って目的地が近づいてくると、あからさまな異変の兆候が表れた。

「おい! ありゃあ、火事か!?」

 激しく立ち上る煙の出方は火事のそれだ。間違いないだろう。ガンドラフト組の奴らめ。

「ボニー、第四戦闘団は周辺の敵の排除と警戒を。マクダリアン一家の連中がくる前には引き上げるつもりだけど、もしきたら足止め頼むわ」

「おう、任せとけ。バカ共に思い知らせてやるぜ」

 獰猛な笑顔で指をバキバキと鳴らす姿が勇ましい。

「ポーラ、第五戦闘団は私と一緒に中に突入。内部の敵の排除と鎮火、それと負傷者の救助も」

「回復薬はどっさりあるからな。アナスタシア・ユニオンの連中なら、回復して叩き起こせばあとは勝手にやるだろうよ」

 こっちはこっちで輝かんばかりの笑顔だ。どいつもこいつも戦いが待ち遠しくて仕方ないらしい。

 まったく、友達のピンチだってのにね。こいつらと一緒にいると、私まで当てられて笑みがこぼれてしまう。

「ふふっ、それでいいわ。そろそろ着くわよ。突撃!」


 通りの突き当りにある門の前に陣取るのは間違いない、ガンドラフト組だ。

 裏社会の連中ってのは、一見してなんとなくそれっぽい雰囲気があるもんだ。だけど、一目でどこの組織の人間かまでは余程の特徴がない限りは分からないだろう。


 分かりやすい特徴として人種が挙げられるアナスタシア・ユニオンはほぼ獣人で構成される組織だけど、全てが獣人ってわけじゃない。逆に裏社会の全ての獣人がアナスタシア・ユニオンってわけでもない。ブレナーク王国は人種差別が少ないから、人種で纏まる必要がないんだ。普通にウチにだっているしね。ようは獣人だからってどこに所属してるかは分からないってことだけど、獣人の集団ならアナスタシア・ユニオンで間違いないと考えていい。


 マクダリアン一家やクラッド一家に人種的な特徴はないし、他にもこれといった色を出すことは一切してない。多くの組織もほどんどが同じ。どこの組織か見分けるには代紋で判別するしかないんだ。それにだいたいの人間にとって代紋は誇りでもある。その所属であることを示し、まさしく看板背負って歩いてるに等しいことだ。だから奴らはその代紋に泥を塗るようなことはできないし、あえてそれを外すようなこともしない。身分詐称には死が待ってるだけだ。

 つまりは近くに寄って代紋を見なければ、どこの組織の人間かってのは普通は分からない。目立つキキョウ会はいくつかある例外的な組織なんだ。


 同じく例外的に特徴を出してる組織として、代表的な存在なのはガンドラフト組だ。奴らは恐怖支配をやるにあたって、わざわざ目立つようにしてるらしいんだけど、代紋以外にある特徴がある。それは帽子。ガンドラフト組の構成員は例外なく中折れ帽を被ってる。ずいぶんとカッコつけた趣味だなって思うけど、雰囲気はそれなりに出るもんだ。ガンドラフト組のシマで中折れ帽を見たら、逃げるか隠れるのが常道。粋がってるやんちゃな若者だって、中折れ帽を見たなら途端に大人しくなるって噂だ。


 中折れ帽自体は別に奴らの専売特許じゃないし、他の組織で被ってる人もいるけどね。もちろん一般の住人にだって趣味で被る人はいる。ただ、ガンドラフト組のシマにおいては、組の関係者以外であえて中折れ帽を被る奴はいないだろう。そして奴ら以外で、中折れ帽を被った集団なんてのはまずいない。特に流行してるわけでもないし、そんな集団がいたならば、自動的にガンドラフト組の連中ってことになる。


 そして私たちの行く先、アナスタシア・ユニオンの屋敷の門の前には、中折れ帽の集団がいる。ガンドラフト組で間違いない。

 先頭車両の私たちが乗るジープは、前面に盾を展開して突貫。敷地の正面に陣取る奴らを弾き飛ばして前庭に侵入を果たした。



 そこで思わず絶句する。火の勢いが強い。建物は入り口付近から右側全体にかけて火に巻かれ、庭にまで広がってる。それに焦げた見た目と臭いで良くわからないけど、なにか妙な感じもする。いや、とにかく今は急ごう。


 当然、敷地の中にいたガンドラフト組だって、乱入したこっちには気づいてる。

 車両を停めて素早く降りると、即座に仕掛ける。

「第四は周囲の敵をぶっ殺せ! 新手に備えて見張りも立てろ、抜かるなよ!」

 命令を下しながらボニーは近寄ってきた敵を叩っ斬る。戦闘団の若衆もそれに続いて、前庭の制圧に乗り出した。ただ、敵も少なくない。そう簡単にはいかないだろう。

「戦闘支援団は車両の守備を徹底! 第四と会長たちの突入も支援して!」

「残りは鎮火と中に突撃だ! あたしとユカリに続け!」

 突撃しながら屋敷を観察すると、絵に描いたような富豪の家っぽいのがアナスタシア・ユニオンの本拠地だ。

 広々とした庭は一面の短い芝に覆われて、大きな池まである。建物は白の石材を使った洋風建築に、巨大な窓ガラス。きっとどこかにはプールだってありそうな、そんな金持ちの別荘を思わせる造りの屋敷だったはずだ。たぶん、少し前までは。


 今はといえば、庭は踏み荒らされて土がむき出しになってる部分が目立つし、それ以上に大半は黒く焼け焦げてる。白の外壁には火がまとわりついて黒く変色し、窓ガラスは全部割れ落ちて煙が噴き出し、以前の様子は見るべくもない。

 ただ単に火をつけたというよりは、油とか着火剤を使ってると思わしき炎だ。こうでもしないと、石材が燃えたりなんかしない。

 それに、とにかく火が強い。このままじゃ、外套があっても中に入るのは辛いわね。


 入る前に建物内の様子をざっと探る。魔力感知によれば、火があるところにもまだ人がいる。全体的にアナスタシア・ユニオンとガンドラフト組が、あの火の中でもやりあってるらしい。状況を見れば間違いなくアナスタシア・ユニオンが劣勢だけどね。


 周辺の敵のほとんどは第四戦闘団が引き受けてくれてるし、こっちに近づこうとする奴は戦闘支援団が邪魔してくれてる。これなら問題なく鎮火に集中できる。

「先に火を消すわ! 水魔法用意!」

「お姉さま、行きます!」

 水魔法は適性が無くても、汎用的な効果の魔法なら誰でも使える。そんでもって、出力だけならアホみたいに高く出せるのが我がキキョウ会メンバーだ。

 適正が無ければ難しい魔法は使えないからね。ただ水を出す。簡単な魔法を使うだけだ。


 イメージは大量の水。ただそれだけ。

 最初にヴァレリアと私が怒涛の水流を生み出す。建物の入り口を覆い尽くすような大波だ。

 続けてポーラと第五戦闘団も同じく水流を生み出す。大勢による一斉の魔法行使は、建物を全て覆い尽くすかの如き水量を現出させた。


 もちろん、ただ大量の水を出しただけじゃ全体の鎮火はできない。第五戦闘団の中には水魔法の適正持ちがちゃんといるからやってるんだ。それも上級魔法の使い手がね。

「やれっ、ローレンディーネ!」

 ポーラの合図に待ち構えてた若衆が力を振るう。出番がきたとばかりに、自身でも大量の水を生み出しながら、見事な水流操作で火元を洗い流すように消火してしまう。あれだけの水量を思うがままに操るとは大したもんだ。

 たぶん、中にいた人もちょっと溺れたようになったと思うけど、所詮は数十秒程度の事だ。溺れ死んだりはしないだろう。まぁ、水流によって別のダメージを被った奴はいると思うけど、火と煙に巻かれて死ぬよりはマシだ。


 よし、待ってろ、妹ちゃん!

「行くわよ、妹ちゃんを見つけたら知らせなさい!」

「おう! 第五は中に入って暴れるぞ、付いてこい!」

 若衆を率いたポーラが突撃して血路を開く。ヴァレリアがそこに乗じて侵入し捜索を開始する。私は魔力感知を頼りに、怪しい場所をつぶさに探す分担だ。全員が闇雲に探すよりは効率が良いだろう。


 魔力を視ると内部に人は多くいる。どっちの人員かは分からないけどね。

 周囲で起こる怒号と戦闘音に続いて、建物の内部でも激しく始まった。どんどん流れ込んでいく強力な魔力はウチのメンバーだ。分かりやすくいい。

 なるべく手間はかけたくない。魔力感知の範囲を広げて、少しでも可能性の高そうなポイントを絞っていく。


 索敵範囲を徐々に広げる。大きな建物の一階、二階、さらに上方、そして地下にも。

 どこにでも人はいるけど、どうにもしっくりこない。範囲をさらに広げる。

「……ん? この距離、裏庭?」

 現在地からの遠さからして建物の中じゃなさそう。たぶん敷地の裏手ね。そこに人が集まってる。尚且つ、強そうな奴まで揃ってるときた。ここが本命に違いない。カンも強くそう告げる。


 場所を定めると水に濡れた建物を突っ切る。焦げて変色した壁を破壊し、最短距離で目的地に進む。殴り壊し、蹴り壊し、ただ真っ直ぐに。回り道をしてる暇はない。

「ヴァレリア、裏庭よ!」

 突き進みながら妹分には声をかけておく。すると上の方から微かな返事が聞こえた。あの子ならすぐに追いつく。



 豪快に壁を破壊して建物の裏手に出ると、異変は即座に知れた。

「うっ、なにこれ」

 空気が赤い。視界一面を染める赤色だ。息を吸うのも躊躇するような、その赤の空間の先には妹ちゃんの姿が。

「いた!」

 獣人の集団、アナスタシア・ユニオンの連中が固まってるのは間違いない。非戦闘員らしき鍛えられてない連中が多く横たわってるけど、立ってる屈強な奴ら中には見覚えのある獣人が何人もいる。


 それにしても妹ちゃんの様子は明らかにおかしい。ふらふらとして、今にも倒れこみそうな感じになりながらも戦ってる。その根性は良いとしてだ。戦ってる相手がおかしい。ガンドラフト組らしき姿はそこにはない。つまりあれは、どう見ても同士討ちだ。屈強な獣人たちと妹ちゃんが、バトルロイヤルのように入り乱れて戦ってる。


 そんな状況でさらにどこからか襲いかかる魔法攻撃。アナスタシア・ユニオンの連中は本能でかそれを凌いではいるけど、同士討ちを止める気配はない。それに遠距離からくる魔法攻撃を完全に防ぎきれてるとはとても言えない状態だ。極めて頑丈な奴らだからこそ、まだ立ってられる。


 様子がおかしいところはいくつもある。同士討ちをしながら、敵からの攻撃も受けてるのはどういうことか。遠距離攻撃してるのは状況からしてガンドラフト組に違いない。同士討ちをやってる理由が内通者なら、まとめて攻撃を受けてるのも変だ。しかもふらつきながらも、そこで戦い続けてる。退却するような意志がまるで感じられない。

 赤い空気が充満する異常な状況で、さらなる異常事態が重なってる。


 どう考えても、ただの仲間割れって雰囲気じゃない。さらにはふらふらであることを考慮しても、武闘派で鳴らすアナスタシア・ユニオンとは思えない精彩を欠いた動き。まるで本能に従って暴れるだけみたいな、そんな印象を受ける。一言で言って、無様だ。普通ならあり得ない。


「……どういうこと?」

 私まで混乱しそうな状況の中、妹ちゃんだけが必死に仲間に呼びかけてるっぽい。

 ボケっとしてる場合じゃないわね。周囲の戦闘音を意識的に遮断して妹ちゃんの呼びかけと、その周囲だけに意識を向けた。

「うくっ、ギ、ギスケード、目を覚まして……アンナ、ブランドン、みんな……」

 足に怪我を負ってるらしい妹ちゃんは危うい立ち回りで動いてるけど、声や動きからして正気っぽい。それに比べて周囲の連中は、なんというか、うん、ヤバそうだ。

「うああああああ! くるな、くるなーーー!」

「や、やめて、やめて、やめて、やああめてええええええ!」

「ひひひ、ひひひひひひ、いーひひひひひひっ」

 とても正気とは思えない。いや、正気じゃないことは確定だ。錯乱して奇行に走る連中の他にも、よろよろと徘徊してるようなものいるし、盛大に嘔吐してる酔っぱらいのような奴もいる。黙々と誰かれ構わず殴りかかってるのもいるし、闇雲に魔法を連打してるのまでいる。特に攻撃的な奴らが厄介みたいね。カオスだ。


毎度なるべくキリの良いところで終わるようにしているのですが、今回は途中でぶった切ってすみません。

アップ直前に加筆修正していたら倍増してしまったので、分割とさらなる見直しが必要となってしまいました。

続きは修正中ですので、いつものように来週の更新になります。続きもよろしくお願いします。

ここで次話「〇〇」へ続きますと書きたいところですが、サブタイトル未定です。

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