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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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動き始めるファミリー

 深夜のドライブも悪くはない。むしろ奇妙なワクワク感すらある。

 ヘッドライトが照らす無人の街道を軽快に飛ばす。闇を切り裂く、一条の光が如く! なんてね。

 ほかに移動してる人が極端に少ないから、自然と速度は上がりがちになる。暗くても障害物はないし、走るにはかなり快適な環境だ。

 それにしても、あんまり人はいないもんなのね。いくら盗賊の脅威が少なくなった王都とエクセンブラを繋ぐ街道とはいえ、深夜に移動する物好きは少ないってことらしい。


 長時間を走って何事もなく中間の宿場町に到着すると、ここで宿をとる。深夜でも受け付けてくれるとは、なかなかに気の利いた宿だ。泊まれるなら普通に宿泊する。私たちは暇じゃないけど、焦って帰るほどじゃないからね。寝不足で運転を続けたくはない。

 明け方に着いて寝て、また夜に出発するのも嫌だったから、もう一泊してから出発の予定だ。

 移動の疲れもあったから、さっさと寝てしまう。お腹も空いたけど、それは起きてからでもいい。


 翌日。昼夜逆転が気になるけど、午後になってみんなで起き出すと食事がてら話す。

「そういや、戦利品はどうだったの?」

「高級店だけあって、上物がたくさんありましたよ。広い店だけに在庫も潤沢で、積み込むのがもう大変で」

「まぁそうなるか。やっぱり盾が多かった? 武器は?」

 盾がメインの店だったらしいからね。盾は奪ってもそのままじゃ使い道があんまりないから、どっかに払い下げるしかない。

 この辺を管理してくれてるマメな若衆がきちんと答えてくれる。

「武器は少ないですが上物もありましたから、欲しいメンバーには微調整して使ってもらってもいいかもしれません。盾は専門店だけあって上物ばかりが多くありましたが、これを使うメンバーは少ないですからね。事務局を通して戦闘支援団に処分してもらうことになると思います」

「大部分は処分になるか。それならそれで、利益はなるべく還元できるように話はつけておくわ」

「やった!」


 使わない武装は盗品の売買をやってる商人に流すか、鍛冶屋に払い下げて鋳つぶしてもらうって感じになるだろう。キキョウ会もそれなりに長くやってるからね、その辺の伝手はある。特に戦闘支援団のシェルビーが業務の都合上、色々と開拓してくれてる。

 武装の盗品売買はいいとして、高級品は素材そのものの価値が高い場合が多い。上等な魔導鉱物を使ってるし、装飾に宝石が使われてることも普通だからね。こいつはそれなりの利益をもたらしてくれるはずなんだ。フレデリカたち事務局も、頑張ったメンバーに多少のボーナスくらいは考慮してくれるはずだ。幹部はともかく若衆にはそういったご褒美がないとね。



 なんとなく気が抜けて、宿でのんびりとする私たち一行。出発する翌朝までは身体を休めるかと思ってると、血相を変えた女が宿に転がり込んできた。

 特徴的な墨色の外套はキキョウ会のメンバーであることを明示してる。あれ、でもこいつは王都遠征メンバーじゃなかったような。

「おいおい、どうしたんだ!? あ、お前は第一戦闘団の……」

「か、会長、戻ってきてる途中だったんですね! た、助かりました」

 どうやら休ませてはくれないらしい。

「まずはこれを飲みなさい。話はそれからよ」

 焦って気が急いてる状態じゃ正確な報告は望めない。自前のティーポットから特製のハーブティー風味の回復薬をカップに注いで飲ませてやる。

「ど、どうも」


 落ち着くのを待って話をさせる。良く心得たジークルーネがタイミングを見計らって切り出した。

「なにがあったか落ち着いて話せ」

「はい、副長。まずは用件から。至急、会長か副長を呼び戻してこいと言われてきました」

 緊急の呼び出しか。それなりの事態が起こったことになるわね。一瞬だけジークルーネと視線を交わした。

「どうしてだ?」

 いつでも冷静沈着な我が副長は落ち着いて続きを促す。そうすると相手も冷静になるらしく、報告を聞くときの効果は抜群だ。こういったところも、地味に優秀よね。

「実は昨晩からエクセンブラは大荒れです。痺れを切らしたマクダリアン一家が、レギサーモ・カルテルと結託している裏切者がいるとして、相互不可侵協定の離脱と全面抗争を宣言しました」

「なんだと!?」

 驚くメンバーたち。落ち着いた空気も一気に吹き飛んでしまう。


 それにしてもだ。マクダリアン一家め、ずいぶんと思い切ったことをする。

 確かに現状として、総会での事件からそれなりの時間が経っても、未だにレギサーモ・カルテルの拠点は掴めない。

 あの街は五大ファミリーの庭といってもいい。その五大ファミリーが総出で捜しても見つけられないとなれば、裏切者がいると考えるのは自然な流れだ。協力者がいなければ、これほど巧みに姿を隠す敵を説明できない。私たちもその可能性は、いよいよ現実味を持つと考えざるを得なかったところだ。


 でもその裏切者が確定しない限りは、相互不可侵協定を破れば報いを受けることになる。協定破りは全てを敵に回す約束なんだ。やつらの事情は理解するとしても、一方的な破棄は認められない。まして全面抗争を宣言なんて、尋常じゃない暴走だ。


「それで状況は? キキョウ会にも攻撃があった?」

「いえ、それはまだです。情報局の第一報があってから、即座にあたしが伝令に出されました。今も状況は動き続けているとして、ひょっとしたら……」

 まさに今、攻撃を受けてる可能性もあるってわけか。

「お姉さま!」

「ユカリ殿、ゆっくりと休んではいられないようだ」

「うん、全速力で戻るわよ! 準備が終わったのから移動開始。メアリーたち第二戦闘団は六番通りに向かって。本部だけじゃなく、そっちも心配だからね」

「はい、すぐに出ます!」

 もう一泊する予定だったけど、これで切り上げだ。

 宿の部屋に一旦戻ると、即座に準備を整えて出発した。



 リミッターを解除したウチの移動用魔道具は速い。とにかく速い。標準的な車両の速度に比べて、最低でも五倍は速度が出る。

 普通は魔石に蓄えた魔力で走るから、仮にそんな速度が出せたとしてもすぐにガス欠を起こすんだけど、特別仕様に改造してるウチの車両は自分の魔力を直接供給して走らせることができる。アホみたいな魔力量を誇るキキョウ会メンバーともなれば、王都とエクセンブラの距離なら余裕で走破できる。ましてや今はその半分程度の距離だ。なんの問題もない。違法な速度を見咎められようが文句を付けられようが、そんなものはねじ伏せるか白を切り通せばいい。緊急事態なんだ。


 国際規格で定められた速度を余裕綽々でぶっちぎってエクセンブラに帰還すると、私やジークルーネは本部まで急行した。

 本部に入る前に、稲妻通りに異変がないのは分かった。本部も攻撃を受けてる様子はない。

「戻ったわよ」

 言いつつ中に入ると、フレデリカたちが普通に揃ってる状況だ。これといった異変はなさそうだけど。

「お帰りなさい、ユカリ。思ったよりも早かったですね。集められる幹部はもう待機していますよ」

「おう、戻ったか。面白いことになってるぜ」

 今のところ、キキョウ会自身は切迫した状況じゃなさそうね。


 戻った全員で中に入ると、動かせる幹部はもう集まってるってことで、さっそく報告を始めてもらう。

「それで、状況は? マクダリアン一家が暴走したってことだけは聞いてるけど」

 目線を向けると、いつものようにジョセフィンが状況を整理して話してくれた。

「まさに暴走状態ですよ。昨晩のことですが、中央通りに一家総出で出張って、手当たり次第に余所の組員を襲い始めました」

「中央通りで、手当たり次第だと?」

 なるほど。それはもう暴走としか言いようがないわね。

「目に付いた端から締め上げて、手っ取り早く敵の居所を吐かせようとしてるみたいです」

「そんなことしてたらレギサーモ・カルテルを見つける前に、エクセンブラの裏社会に総出で潰されるわよ?」

 ふざけた行いが続くようなら行政区だって黙ってないだろう。そっちの戦力は大したことないけど、場合によっちゃ王都の介入だってあるかもしれない。それはエクセンブラを仕切る多くの組織にとって面白くない事態だろう。

「今のところクラッド一家は守りを固めるように動いています。アナスタシア・ユニオンとガンドラフト組も動くとは思いますが、まだ情報は入ってません」

 ボスが殺されてるんだ。五大ファミリーとしてのメンツだってあるだろうけど、こんなことをしても得をするのはレギサーモ・カルテルだってのにね。


 それに今はまだウチのシマに被害はないらしいけど、マクダリアン一家はずっと敵対してた間柄だ。このまま被害なしに終わるなんて考えられない。それにキキョウ会のシマはマクダリアン一家を食い破るように存在してる。当然、奴らの本拠地とも近い場所にあるんだ。協定破りの奴らを潰すとなれば、キキョウ会にだってお呼びはかかるはずだ。準備はしておいた方がいい。


 問題は本当に裏切者がいたとして、ここでどう動くか。当のレギサーモ・カルテルもね。ここに気を配らず、マクダリアン一家に集中するなんてのは愚かしい。

「それからマクダリアン一家だけではないです。あの時にトップを殺されてる組織は、マクダリアン一家にならうように暴走を始めています。もう昨晩は各地で大変な騒ぎになっていましたよ」

 まったく、内輪で揉めてどうするってのよ。

 面倒だしバカバカしいけど、そういうのは邪魔でしかないから排除するのが賢明だ。五大ファミリーの連中だって、上層部同士で話し合いくらいはしてただろう。それでも抑えが利かなくなった結果、こうなってしまったと思うしかないわね。

「ユカリ、どうするよ? マクダリアン一家に殴り込みでもかけるか?」

「ああ、協定破りの裏切者をぶちのめすって大義名分もあるしよ。やっちまおうぜ!」

 うーむ、速やかに事態を収拾するには、そうしてしまった方が話が早い気はする。でもクラッド一家や他の大きなファミリーの動向は知りたいし、できれば協力してやった方が今後のためにもいいはずだ。それにウチが被害を被ったわけでもないのに、勝手にやるのはね。


 ちょいと悩んでると、ここでまたメンバーが転がり込んできた。情報局のメンバーか。

「局長、急報です!」

「なにがあったの? ここで報告して」

「はい! ガ、ガンドラフト組が、アナスタシア・ユニオンに攻め込みました!」

 え、意味が分からない。予想外の急報に幹部の間にも驚きが満ちる。

「理由は分かる?」

「ガンドラフト組はアナスタシア・ユニオンこそが黒幕、裏切者だと断じているようです」

 まさか、アナスタシア・ユニオンがレギサーモ・カルテルの手引を?

「……そういうこと。続報が入ったらすぐに知らせて」

「はい、局長」

 ふーむ。これは困った。


「ジョセフィン、どう思う? ガンドラフト組の戯言かもしれないわよ?」

「難しいところですね。ガンドラフト組の言い分を鵜呑みにするわけにはいきませんが、アナスタシア・ユニオンを全面的に信用するのも違いますからね。現状ではどっちとも言えませんね」

 かなり混沌としてきた。マクダリアン一家らの暴走に始まり、今度はガンドラフト組とアナスタシア・ユニオンの抗争か。裏切者と断じるなら、犯人捜しに躍起になってるマクダリアン一家の連中も参戦してくるだろう。そうするとクラッド一家がどう出てくるか。


 たぶん、一番賢い選択は静観だろう。

 馬鹿どもが潰し合い、戦力を減らす。その過程で、レギサーモ・カルテルと通じる本当の裏切者だってきっと見えてくる。

 舞台が整ったところで参戦するのが、きっと一番正しく効率的な選択だ。今のキキョウ会の実力をもってすれば、これこそが一番だと思う。最後に出て行って、おいしいところだけかっさらう。まさに漁夫の利だ。

 でも、問題がある。


「あのよ、ガンドラフト組の戦力は良く知らねぇけど、今のアナスタシア・ユニオンで勝てると思うか?」

「厳しいでしょうね。総裁の不在に加えて、高級幹部まで揃っていませんからね。ガンドラフト組だけでも厳しいですが、ここにマクダリアン一家まで参戦すれば、おそらく敗北は必至かと」

 悪辣なガンドラフト組と怒りに我を忘れたマクダリアン一家が勝つとなれば、負けた方はただの敗北じゃ済まない。皆殺しだろう。

「あの、でしたら、総帥の妹さんは……」

 それだ。私はそれこそを気にしてる。


 超武闘派組織のアナスタシア・ユニオンが逃げ出すとは考えられない。例え不利な状況だろうと、アナスタシア・ユニオンの看板背負ってる限り、逃げるなんて手は取れないんだ。あの妹ちゃんの性格を考えても、兄さまから預かったシマと仲間は守り通す、なんて考えるだろうしね。つまりはピンチに際して、もう逃げたから安全になってる、なんて可能性はないと思っていい。


 裏社会の連中が殺し合うなんて、正直どうでもいい。ウチのシマにさえ迷惑をかけないならね。

 だけどあの妹ちゃんは片足突っ込んでるとはいえ、まだ完全に裏社会の住人ってわけじゃない。総帥の妹ってだけでね。なにより、あの子は私たちの友達だ。

 友達を見捨てるなんて、ありえない。


「会長、どうするんですの? 助けに行けば、ガンドラフト組とは完全に敵対することになりますわよ?」

 シャーロットは答えは分かってるとばかりの表情で聞いてくる。

 ふん、当然、答えは決まってる。

「行くわよ。妹ちゃんを助け出す。それにね、ガンドラフトの奴らは前から気に食わなかったのよ。あんな奴らの言い分を聞いて友達を見捨てるなんて、それこそありえないわね」

 私にとっての優先順位は、妹ちゃんよりもキキョウ会の方が当然上だ。キキョウ会よりも妹ちゃんを優先することはない。冷たくても何でも、これだけは絶対だ。

 それでも今回は助け出す。私はこの行動の末にキキョウ会がピンチに陥ったとしても、乗り越えられると思ってるし、そうする価値があると思うからやるんだ。


 もっと言えばあの妹ちゃんはキキョウ会メンバーの多くと、もう友達関係を築き上げてる。ここで私が見捨てる選択をしたら、きっと重大な禍根を残すことになる。それはやってはいけない選択だ。みんなだって、助ける以外の選択肢なんて考えてないだろう。

「おう! へへっ、そうでなくっちゃよ。楽しくなってきたぜ」

「よっしゃ、行こうぜ!」

「編成を決めるまで待て! やる気になるのは良いが、マクダリアン一家への備えもある。シェルビーは救援物資の準備だけ急がせてくれ」

 私は行くとして、あとのメンバーは副長たちに任せる。


 実際のところ、ガンドラフト組は怪しい組織の筆頭だ。だけど、アナスタシア・ユニオンは過去に末端の組織が外部勢力を引き入れてたなんて事件もある。記憶には薄くなってきたけど、商業ギルドのジャレンスが詐欺にあったなんていうショボい事件だったけどね。とにかく、上層部が関知しないで末端が勝手にやってる場合だってあるんだ。そういう意味じゃ、どこの組織だって怪しいし裏切者の可能性は孕んでる。

 だったらもう、好きにやるのが一番だ。どうせ分からないんだからね。

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