通りすがりの警告
人の歩く姿もない高級店が軒を連ねる一角。
闇夜に光る街灯が照らすのは、墨色と月白の外套を羽織った集団だ。思い思いに違った形状の外套は、統一性が無いように見えて妙に一体感がある。背中に浮かぶ大きなキキョウ紋、胸に付けた紫水晶のキキョウ紋、その紋章と外套の二色だけが共通点のはず。だけど、お仕着せの共通点なんて、これで十分なんだ。
私たちの醸し出す雰囲気には様々なものが含まれてる。戦意、欲望、余裕、享楽、衝動とか、まぁとにかく色々とそういったポジティブな感情がありありと見て取れるだろう。これらがない交ぜになった存在が、キキョウ会メンバーってものなんだと思う。こうでなくちゃ務まらないのかもしれない。たぶん、世界を見渡しても独特の存在感があると思う。特に戦闘に際してはね。
離れた場所にいたとしても、誰もが同じ集団だと理解する。集まればより顕著に表れる。きっとそういう風になってる。意気揚々と未来へと突き進む、極めて珍しい女たちの集団だ。
目的地に到着すると、即座に行動に移る。突入組の先陣を切った若衆が警備員を問答無用で殴り倒し、大きな扉を強引に蹴り破った。
中に侵入すると、とりあえずは用件を伝える。物事には段取りが必要だ。
「当主を出しなさい! 伝言よ!」
こっちの言い分が聞き入れられるはずもなく、騒がしく警備の人員が集まる。当然だけど、どいつもこいつも話を聞く気もなく排除しようと攻撃してくる。
だけど姿を見せた端からメアリーたちが殴り倒し蹴倒して、次々と無力化してしまう。通常の一般人向けの警備員なんて、ウチ相手には意味を成さない。護衛として腕の立つ奴は、闇オークション会場の方に詰めてるだろうしね。
あらかた片付けたところで、ちょっと偉そうな雰囲気の奴のご登場だ。こういう奴らはいつも遅い。
「な、なんだ貴様らは!?」
「伝言だって、さっき言ったはずよ」
「まさか、オーヴェルスタか!」
察しがよくて助かるわね。さすがに敵対してるだけあって、自覚くらいはしてるか。
「そう。くだらないことを考えてる暇があったら、少しは王国の役に立てってさ」
なにやら口汚い言葉を吐き捨ててから、ちょっと偉そうな奴は奥に向かって走って行った。きっと伝言を伝えてくれるためだろう。
準備は整った。
「ここからは手筈通りにやれ! 手短に済ませろ、遅れた者は置いて行くことになるぞ!」
心得たジークルーネがすかさずハッパをかけて、みんなを仕事にかからせる。
「いよっしゃー!」
「ぶっ壊せ! ぶっ壊せ!」
早速、壁をぶち破っては手当たり次第に略奪を始めた。うーん、頼もしいやらなにやら。
「会長、副長、こっちです!」
家捜しに長けた情報局の若衆が、内部構造も即座に見破って道案内をしてくれる。楽なもんね。
私は本命に乗り込む。キキョウ紋を敵に回すことの意味をここの奴らにも知らしめてやるつもりだ。
建物奥の大扉の向こうには幅の広い階段があって、これの下が秘密のオークション会場だ。例によって地下にあるってわけね。
行ってみれば、かなりの大空間でちょっとしたホール並みの大きさがある。無駄に金かかってるわね。
ちなみに出入り口はここ以外に一つだけ細い通路があるらしい。だけど秘密の脱出口はグレイリースたちが外から潰してしまったらしいから、残ったここに私たちが立ちはだかって、完全に逃げ道を塞いだ格好だ。
あれ、そういやこっちに逃げてくるのがいないわね。襲撃はもう知られてるはずなのに。そう思ったけど、会場の様子はと言えば。
「おーおー、お出迎えって感じね」
「なるほど。歓迎してくれるとは予想外だったな、ユカリ殿」
「お姉さま、これは罠ではないですか?」
まさしく、分かりやすいほどに罠だった。
オークションに参加するような客の姿はどこにもない。
広いホールには椅子もなく、あるのは敵の戦力だけだ。それも完全武装で迎え撃つべく用意された敵戦力だ。建物の入り口を守ってたような、素人に毛が生えたような連中とは違う。荒廃した王都の修羅場を潜り抜けてきた、そういう連中だろう。
「貴様らか、オーヴェルスタの魔女めに取り入った女どもというのは。くくっ、伝言とやらを持ってきたらしいではないか」
ふむ、こいつが伝言相手か。絵に描いた様な典型的な悪徳貴族って印象ね。まぁいい、こいつが伝言相手なら用は果たせる。
「……取り入った覚えはないけどね。それにね、罠か。一体どっちが、罠にはまったんだろうね」
この襲撃が決まったのは昨晩の事だ。たぶん、知ってる人はほとんどいない。
ロスメルタの陣営から意図せずに漏れたとは考えにくいし、こいつらがそれほど優れた諜報能力を持ってるとまで考えるのは飛躍のしすぎだろう。
だとすれば、これは意図的にロスメルタから漏らされたと考えるべきだ。
状況として、おそらく敵は持てる最高戦力をここに集めた。下剋上を挑む相手の戦力を削ぐ、千載一遇の機会だと思って集めてしまった。魔女の思惑通りに。
さて、ここに誰かさんの望む状況が生み出されたわけだ。これを私たちが叩き潰すとなれば、これ以上のメッセージもない。警告としては最上級だ。家屋の破壊や金品の強奪どころじゃない、もう心が折れてしまうくらいに抵抗心を削ぐだろう。
うーん、私もここまで聞いてなかったけど、あの女が一から十まで説明することもないんだ。これこそが合理的となれば、こっちとしても納得するしかないわね。まぁロスメルタからの報酬は別として、こいつらから巻き上げる報酬だってあるんだ。損どころか、この程度の仕事はやらないと釣り合わないか。
「どっちが罠だと? くだらぬ強がりを。貴様らを血祭りにあげて、オーヴェルスタの魔女への伝言としてくれるわ! 行けい、我がアルティメイテッド・ゴールデンフレイム騎士団よ!」
長ったらしい名前の騎士団ね。ともかく、威勢のいい言葉を合図に敵が一斉に武器を構えた。
敵戦力はパッと見て百人前後かな。こっちはジークルーネとヴァレリア、それと少数の若衆のみ。ウチのメンバーの大部分は上で略奪と破壊をやってる最中だからね。
でもこれでいい。絶望的な戦力差を、逆に絶望的な結果で思い知らせてやる。いつものことだ。
「上等よ! 蹴散らしてやりなさい!」
「おう!」
細かく説明する必要はない。もう済ませてあるからね。敵戦力は半殺しにするってのは、あらかじめ決めてあったはずだ。この程度の戦力差で、それを覆す気はない。いちいち言わなくも、みんなだって承知の上だ。
真っ先に敵に向かって突っ込むのは、月白のダッフルコートに身を包んだ美少女だ。
キキョウ会随一の超速で驚く暇も与えず敵の隊長っぽい奴に肉薄すると、身を屈めて回転しながらの裏拳で、あっさりと相手の武器を弾き飛ばした。あまりの早業に、敵軍は対応も何もできない。
ヴァレリアの動きは流麗だ。邪魔な武器を弾くと同時に足払いでこかしてしまう。無様に転んだ敵の顔面には赤いブーツが襲いかかり、嫌に響く音と共に鼻骨を踏み潰した。
手加減が上手くできてるわね。本気なら眼窩を踏み砕いて脳まで破壊してるところだ。
今の奴はたぶん、敵の中で一番強かった。ヴァレリアの超速と見慣れない戦法によって完全に意表を突いたからこそ簡単に倒したけど、実力としてはウチの若衆よりも上だったんじゃないかと思う。先手必勝、ここに極まるといったところね。
狼獣人の美少女に遅れること幾ばくか、副長と若衆もそれぞれの持ち場と定めた所に突貫する。
ジークルーネの剣が手首を切り飛ばすと、若衆のハンマーが膝を折り砕き、槍が鎧を物ともせずに肩を貫通する。長柄の武器がまとめて薙ぎ倒せば、今度は火の魔法が吹き荒れて火傷を負わせる。
敵の抵抗も激しい。
最初の攻防こそ虚を衝かれてたけど、そこは相手も修羅場をくぐってきた戦士たちだ。動揺を押し殺し、訓練通りに身体を動かす。
数の差を活かした戦法で、ジークルーネが四方八方から斬撃を受ける。避けようがない攻撃だ。
普通なら倒れるところだけど、キキョウ会の副長たる戦士にとっては、なんの問題にもならない。ピンチとさえ思ってもいないだろう。
頭部に迫る攻撃のみを意識的に防ぎ、あとは自らの魔力を込めて硬化した外套に任せる。鋭角的なシルエットをした墨色のロングコートは、斬撃刺突の全てをあっさりと弾き返した。
これも本来なら簡単な芸当じゃない。複数の攻撃の軌道を見切って、外套に任せる攻撃とそうでない攻撃は見極めなければならないんだから。決して闇雲に受けてるわけじゃないんだ。
戦闘時において、無類の冷静さを誇る彼女ならではの戦い方と言ってもいい。むしろ周囲から一斉攻撃を受けることすら、最初から狙ってた節もある。あえて敵の中心に飛び込み、なるべく多くを引き受け、さらに強烈なインパクトまで与えて敵の気勢を削ぐ。副長らしいわね。
さすがに敵の真ん中に飛び込んで、そこに陣取るような戦い方をするのはジークルーネだけだ。
速度を活かして暴れるヴァレリアは別として、若衆は囲まれないように立ち位置を考え常に動きながら、丁寧に敵を一人また一人と戦闘不能に追い込む。一対一なら勝って当然、多対一でも慣れたもの。相手が少々強かろうとも、そのさらに上をゆく。これが我がキキョウ会自慢の戦士たちだ。
しかもその前衛を支えるサポートがまた素晴らしい。
我がキキョウ会じゃ少数派だけど、後衛を務める人員もここにはいる。
彼女は全体を見渡して、前衛にとって不利な位置取りをしようとする敵に、牽制の魔法攻撃を的確に加える。威力よりも手数重視でトコトン邪魔をする。牽制とはいえ決して無視ができないほどの威力をもって。余裕さえあれば、決定的な痛打さえ放つはずだ。
もちろん後衛を狙う敵だっているけど、そこはその後衛を守る人員もまた素晴らしいんだ。
後衛の守備に付いた娘は前衛と後衛の中間に陣取って、割と広い範囲に及ぶ風の防御膜を敷いてるんだ。
殺傷能力こそないものの、超高密度の空気の膜を作って単純に接近を阻む。
単純なればこそ極めて強固な魔法だ。突破しようとすれば動きが止まる。動きが止まれば後衛からの攻撃が直撃して脱落する。回り込もうとすれば、その挙動やコースは丸分かりだ。移動中に楽々と狙撃される。防御膜にはこういう時のための適度な穴が開けられてて、魔力感知が使える私たちは攻撃用の突破口として活用してる。色々と考えられてるんだ。
たった二人の鉄壁の布陣の前に、敵は打つ手がない。
これほどの中衛と後衛がキキョウ会には出現してる。こういう娘たちは他の戦闘団にもまだ少ないけど確かにいるんだ。初期の頃からは考えられない幅の広さよね。
会長の私が手を出すまでもない。まぁ、私は私で状況が動くのを待ってるんだけど。
正直なところ皆殺しでいいならもっと簡単だ。でもオーダーは殺さずに警告を与えることだからね。一気に殲滅するような戦法や死者を出しかねないダーティーな戦法はとれない。本来ならそっちを得意とした能力を持ってるメンバーも多くいるんだけどね。その分だけ苦労することになる。
敵側も多くの味方が邪魔をして、範囲攻撃や流れ弾になるような戦法がとれないから、こっちとしては手加減した状態でも与しやすくなってる。多数対少数が、こっちにとってある意味じゃ有利になってしまってる。
客観的に評価するなら、奴らの能力も低くはない。飛び抜けた実力者はいないけど、団長を除いたクリムゾン騎士団くらいの実力はあると見た。まぁ、相手が悪かったわね。
奴らにとっては想定外の実力者を揃えるキキョウ会、そして最初の当たりで完全に気勢を削がれた敵騎士団は、完全にウチのペースに呑まれた格好になってる。隊長っぽい奴も最初に潰したし、こうなっちゃ実力の半分も出すのがせいぜいだろう。
敵が徐々に数を減らし、その分だけ楽になったキキョウ会メンバーはさらに躍動する。こうなると相手側はたまったものじゃない。勝ち目が見えなくなるのも、それは自然な成り行きだ。
「バカな、バカなバカなバカな!? あの魔女めがっ! ええい、こうなれば!」
自棄になったのか、なにか隠し玉を使う気配だ。うん、これを待ってた。
握りしめた鉄球を放る。軽いスナップを利かせただけの投擲だ。偉そうな奴が取り出した魔道具らしき装置。こいつを操作される前に狙撃した。
追い詰められた敵が余計なことを仕出かすなんて、よくあることだ。どんな効果があったのか知らないけど、きっとろくな魔道具じゃないだろう。そんなものを易々と使わせるほどマヌケじゃないんだ。
呆然とする貴族の男を置き去りにして、ホールの戦いは一方的な様相を呈していった。
「まぁこんなもんね」
「悪くはなかったが、我々と立ち会えるほどの実力者がいない時点でな」
見せつけるかの如く、少数で敵を叩きのめした。なんとかっていう騎士団とやらも、これで思い知るはずだ。一人の死者も出さずに、圧倒した実力差。そんな手加減を加えながら戦う圧倒的な実力差だ。それを理解できないほど無能な騎士団でもないだろう。
オーヴェルスタ公爵家、そして王都の英雄たるクリムゾン騎士団とある程度は張り合えたとしても、その後ろにはキキョウ会がいる。
キキョウ会はオーヴェルスタ家やロスメルタの私兵のつもりはまったくないけど、仕事なら引き受けることだってある。王都の安寧は王国の安寧であり、それはエクセンブラにも関わってくることなんだ。もちろん協力するのは利害の一致がある限りだけど。
「死者はいません。重症者もすぐに命を落とすような状態ではないと思います」
「うん、よくやったわ」
もうメッセージとしては十分な気はするけど、どうせならもうちょい追い込んで行くか。
「上の略奪を急がせなさい。それから建物の中から全員を外に叩き出すように」
「どうするのだ、ユカリ殿」
「メッセージとしてこれ以上ない形を残すことにしたわ」
粉砕するんだ。文字通り、粉みじんにね。
呆然とした貴族のおっさんも退避させないと。このままボーっとされてるのは邪魔でしかない。
「ちょっとあんた、こいつらと一緒に外に出なさい! 死ぬわよ!」
「……貴様、これで終わりと思うなよ」
現実が見えてないのか、ただの強がりか。
「どうでもいいわ。そんなことより今すぐに出て行かないと、あんたも含めて全員ここで終わるわよ?」
「ぐっ、このままでは済ませんからな。オーヴェルスタの魔女めの思いどおりにはさせん。おいっ! その程度の怪我でいつまでも寝ているんじゃない!」
さすがにここで駄々を捏ねて死ぬ気はないらしい。騎士団の尻を叩いて逃げ出してくれるみたいだ。
こいつらだって王都の貴重な戦力であることには違いない。ただでさえ建て直してる最中の王都なんだ。今は敵でも、外国勢力に与する程の愚か者じゃないはずだ。そうでなけりゃ、ロスメルタが殺すななんて甘いことを言うはずがない。
今後は不満があったとしても、もっと時勢を読むとか、地に足の着いた堅実なことを考えるべきね。
うん、不満があるから変える。
確かにそいつは見上げた根性だ。ただし、見合った実力がなければ望んだ形には変えられない。
こいつらには単純に実力が足りなかった。実力がない奴らが革命染みたことをやっても、ただの迷惑行為でしかない。だから負けた。それだけのことだ。
重傷を負った騎士団連中が傷口を塞ぐ程度の回復をしていくのを見守る。
さすがにもう一戦やらかそうとする気はないらしい。貴族のおっさんが指揮を執って、最低限の回復と退避を優先させてる。ここで無駄に足掻くよりも、戦略的撤退をして起死回生を図る。この先どんな選択をするにせよ、現時点では賢明よね。
ただね。いずれにせよ、こいつらじゃロスメルタには勝てない。騎士団だって悪くない実力はあったにせよ、クリムゾン騎士団のフランネル団長を倒すような策でもないと、この時点で敗北が決まってる。あれは特別な実力者だ。
そしてなにより、オーヴェルスタの魔女と懇意にしてる私たちがいる。
絶望的な力を持った、悪鬼羅刹が如き女たちが。無駄な足掻きをしたところで、何の意味もないことを思い知るだろう。その一端は、もう見せつけたはずだ。貴族のおっさんはともかく、騎士団はきっと理解してる。そしてさらに仕上げもある。
全員が地下のホールから出たのを見届けると、私たちも上に行く。
立派な建物はどこもかしこもボロボロだ。そこらにあった金目の物は持ち去られ、解体途中の工事現場みたいになってる。
外に出ると、略奪後の積み込みも終わったのか突入組が勢揃い。ちょっと離れた通りには、退避した騎士団や商会の関係者の姿があった。無残な建物や暴虐を成した私たちを見つめる目もある。
戦いを挑むなら、負ける覚悟だってあったはずだ。私はなんら後ろめたい気持ちなんか持たない。
「会長、副長、もう撤退の準備はできています」
「分かった。ユカリ殿?」
「うん、最後の仕上げよ。ヴァレリア、やってくれる?」
「はい、お姉さま!」
家屋の破壊はもう十分なほどだ。リフォームどころか更地にして建て直す必要があるくらいにはね。
メッセージとしてはもう十分に果たしたとは思う。だけど、中途半端な気もしてる。だから最後の仕上げだ。
可愛い妹分がボロ屋に手を触れると、嘘のように建物が崩壊する。
遠くから聞こえてくる嘆きの声をよそに、崩壊は恐るべき速度で進む。
そして、跡形も残さずに塵の山ができあがった。
ただの破壊よりも、意味不明な恐怖を伴ったメッセージとして伝わったんじゃないかと思う。
キキョウ会メンバーの歓声が深夜の街に響く。
「こうして見ると凄まじい魔法だな。ヴァレリア、さすがだ」
「お姉さまに比べれば大したことではないです」
「ふふっ、ご苦労様。これで仕事は終わったわ。長居は無用、行くわよ!」
ロスメルタからのオーダーは完璧に果たした。いいように使われてるし、面倒に思う気持ちはある。
でも相手は一国の重鎮なんだ。それも超の付く重鎮だ。恩の一つも売っておけば、ウチの利益に必ず繋がる。
それにブレナーク王国の統治が地方にまで行き渡るようになれば、あくどい組織が好き勝手に振舞うことは、どんどん難しくなっていくだろう。そうなるとしてもかなり未来の話だとは思うけどね。それでも早いうちから、大公爵家と仲良くしておくに越したことはない。
去る間際。絶望的な光景を前にして怒りの声、嘆きの声、泣き声までが、背中を向けたこっちにまで聞こえてくる。
ふむ、私たちは確かに悪だ。間違いないし、反論する気だって全然ない。そうする資格だってない。完全に自覚してる。
でもね、この平和になった街。あの荒廃から立ち直って、やっとここまでこれた街。これを権力闘争で脅かそうとする連中なんて、それこそ、これ以上ないほどの悪だろう。
つまりは悪と悪との争い合いだ。世の中にとって、これほど愉快なことはない。
ちょっとだけ皮肉っぽいことを考えながら、愛車の振動に身を任せる。
こうして私たちは深夜の王都を後にした。
これにて二度目の王都遠征は終わりです。
次回からはいよいよ本格抗争に突入していく予定です。
それでは次話「動き始めるファミリー」に続きます。