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第二次遭遇は一方的に

 ロスメルタの部下はそのまま見届け役に残して、敵のアジトに対する攻撃は私たちだけでやる。

 すでにメンバーは配置済みだ。

 見張りや索敵のほか、密かにアジトの周囲を包囲させて、メアリーたちには突入まで息を潜めさせる。キキョウ会は目立つ存在だけど、視認されていなければ、魔力や気配を絶つことにかけては高い実力を誇る。実力部隊のメンバーなら、そのくらいはできて当然だ。あとは私が最初のアクションを起こすだけ。

 さて、せいぜい敵をビビらせてやるか。


 敵のアジトからはかなり距離置いた路上。

 ブルームスターギャラクシー号に跨ってリミッターを解除する。

 魔力を注いでアイドリング状態にし、エンジン音をグオンッと轟かせる。

 色々な意味で周囲の視線を集めるけど、不穏な空気を感じてるのか、こっちに近寄ろうとする迂闊な奴は誰もいない。うん、いい感じだ。

 大きな音を立ててるから敵にも聞こえてるかもね。でも、それでいいんだ。むしろ聞かせてやる。何の音だろうかと注意を引くくらいでちょうどいい。


 そしてアクセルをじわりと開けてゆっくりと動き出す。

 魔道具としてのバイクはエンストなんか起こさないから、いきなり全力発進でも問題ないけど、こういうのは雰囲気が重要だ。

 少しずつスピードが上がって、エンジンを回す回す回す。私のテンションも同期したかのように上がりまくる!


 風を切り、紫紺の髪をなびかせ、タイヤの跡を刻み付ける。

 速く、もっと速く!


 莫大な魔力を推進力に変え、ひとけの少ないスラムをかっ飛ばす。

 ライダースジャケットにサングラス、メカメカしいバイクで街中を疾走。気分が高まる!

 速度を上げて上げて、限界まで振り絞る。

 爆音を上げて、スペックの許す限りの疾走を。


 グングン迫る、敵のアジト。

「ぶちかませっ! ひゃっほーーーっ」

 前面に対物理装甲を展開したブルームスターギャラクシー号は、猛スピードで入り口を突き破った。


 一瞬で流れ去る景色。

 僅かな時間でも私の動体視力はバッチリと捉えてる。奴らの驚愕に満ちた表情と挙動を。

 そして特徴的な目玉のタトゥーも。見間違えようがない。

 進路上の邪魔な奴をはね飛ばしながら、反対側の壁を粉砕して外に脱出した。


「見たかっ! ブルームスターギャラクシー号のきらめきを!」

 ちょっとだけ進んで、急ブレーキをかけると勝ち誇ってやる。


 振り返って笑う私を見るのは、呆然とした間抜け面。

 ふっ、どうやら完全に不意を突けたようね。


 直後、我を忘れたように怒り狂うレギサーモ・カルテル。

 一斉に壊れた壁からこっちに殺到しようとして――。

 私の目に映ったのは、その背後から笑顔を浮かべて襲いかかるメアリーたちだった。



 壊れた壁をさらに突き崩すようにして、目玉のタトゥーを持った男たちが次々と外に叩き出される。

 その数は僅かに三人。バイクではね飛ばした一人は脳震盪でも起こしたのか倒れたままだけど、そいつを合わせても四人しかいない。


 背後からの不意打ち。先制してからの畳みかけ。

 メアリーたちの強襲に続いて、外で待機してたジークルーネたちも加わった攻撃は、まさにタコ殴りだ。

 こうなると、敵が少々の実力者であったとしても関係なくなる。おそらくはタイマンでも勝つだろうウチのメンバーが、容赦なく複数人で襲いかかるんだ。


 敵の抵抗も激しいけど意味を成さない。意味を成してはいないけど、それにしては根性がありすぎる。なんか変ね。

 生け捕りが目的だから刃物は使ってないんだけど、どれだけ激しく殴りつけようが蹴りつけようが、まったく意に介さず暴れてるんだ。さすがにおかしい。


 痛めつけるウチのメンバーも不気味に感じてきたのか、慎重に観察する様子を見せ始めた。バイクに乗ったまま近づく私にも目を向けず、油断することもない。

「……メアリー、やっぱりこいつらは痛みを感じていないようです」

「そういうことですか。だったらっ」

 ああ、そういや前にヴァレリアが戦った時にも妙な薬でも使ってるのか、敵は痛みを感じないっぽいって言ってたわね。それでか。

 痛めつけても効果がないなら、強制的に動けなくしてやればいい。単純なことだ。


 ヴァレリアのアドバイスを切っ掛けに、獰猛な笑顔を浮かべたメアリーたちが人体を破壊する。

 打撃から極技へ。メアリーは体術のエキスパートだ。得意の投げ技だけじゃなく、サブミッションもお手の物。第二戦闘団は団長の影響もあってか、その手の技を訓練でもよく鍛えてる。


 人数差に物を言わせて、次々と肩や肘や手首を極めては圧し折り、蹴倒しては膝や足首まで極めて折り砕く。手当たり次第に関節を砕いて無力化していくんだ。

 それでも、もがくように暴れる敵に、メアリーは出力を絞ったウォータージェットの水魔法で腱まで切って対処する。彼女にかかればナイフを使うよりも手っ取り早く確実だ。こうなってしまえば、痛みを感じようが感じまいが、動きようがない。凄惨な行いだけど、必要とあらばやるだけだ。


 別の敵もすぐに同じような末路をたどる。

 結果、目玉のタトゥーを持つ男たちは、芋虫のように這いずるだけとなった。


 実力差に加えて人数差まであるんだ。当然の結果よね。

 ただし、気になったこともある。痛みを感じないっぽいのは確認した。それとは別にして、身体強化魔法のレベルに釣り合わない力強さも感じたんだ。ウチのメンバーにボコボコにされてたから分かり難かったけど、ひょっとしたら私が作る身体強化の魔法薬、あれの類似品みたいなのが使われてる可能性もある。

 まぁ細かいことは今はいい。みんなが奴らを縛り上げてる間に、私は家捜しでもしておこう。



 バイオレンスな現場に背を向けてアジトに入ると、パッと見で目に付いたのは大きな袋の山だ。穀物の倉庫のように見えなくもない。

 まさか奴らが米や小麦粉を大量に集めてるなんてことはないだろう。ちょっと破ってみれば、出てきたのは意外性もなにもない麻薬そのものだ。それも粉末状とは異なる固形物だった。たぶん、クラックって呼ばれるものだろう。


 クラックってのは、ある種の麻薬を精製した固形物だ。これをパイプの中に入れて火をつけると、破裂するような音がすることからクラックと呼ばれる。主な使い方とはしては、火をつけてタバコのように煙を吸引するんだ。こうすると肺を通してすぐに脳に作用し、強烈な快感を得られる。よくある静脈注射よりも、もっと即効性があるらしい。


 効果としては強烈な高揚感を伴ってまさしくハイになれる。継続して使う限り何日も寝なくても大丈夫になるし、身体の痛みも不安も何もかもが吹き飛ぶ。そしてレギサーモ・カルテルが扱うブツは驚くべきことに、身体の傷を癒す効果まであるらしい。副作用のことまでは知らないけど、必ずなにかヤバい症状が出るに決まってる。

 そもそもクラックで得られる高揚感は短時間だ。一度の吸引だと、ほんの二十分もない程度の時間しかない。効果が切れると鬱のような状態に陥り、猛烈にまた煙を吸いたくなる。そして吸引を繰り返すんだ。キリがない。こうなってしまえば完全に中毒だ。それでも常用者は世界中にたくさんいる。だからこそ商売になるわけだけど、麻薬に支配された惨めな生活になってしまう。


 レギサーモ・カルテルが扱う商品はクラックだけに限らない。別の袋を破ってみれば案の定、色々と出てきた。カプセル、粉末、錠剤、液体、形状も種類も色々な物があった。まるで見本市ね。

 一口に麻薬といっても種類はたくさんある。例えば覚醒剤やヘロイン、コカイン、マリファナなんかは代表的なドラッグだろう。効能は物によって違うけど、高揚感や多幸感、疲労が取れたり快感が増したり、興奮状態になったりね。常用すれば幻覚や幻聴、精神異常まで引き起こすし、身体的には臓器不全や呼吸困難、脳障害で死に至ることだってある。一時的な快楽との引き換えにしてはデカい代償だ。この世界においても、これらと酷似したドラッグは普通に存在してる。それどころか、もっと種類は豊富だ。なんせ、魔法薬まである世界なんだ。ブレンドすれば無限にロクでもない物を生み出せる。


 治癒魔法があったところで、なにもかも全てを治癒できるわけじゃない。それに金だってかかるんだ。そもそもジャンキーが金を持ってたら何に使う? 

 当然、治癒になんて金を使わず、追加のドラッグを買うために使う。だからこそのジャンキーだ。そうなってしまうんだ。


 小さな倉庫の中に山と積まれた様々なドラッグ。異常な種類、そして量だ。

「……偵察段階でこんなに?」

 そんなわけはない。侵略はすでに始まってたと考えるべきだ。


 ここで外で大きな音がした。金管楽器を思い切り吹いたような特徴的な音は魔法によるものだろう。そんなことをウチのメンバーがやったとは思えない。

 外に出ると、何か敵の最後の抵抗でもあったのか、慌ただしい様子。

「ジークルーネ、なにがあったの?」

「すまないユカリ殿、やられた。急に大きな音を鳴らす魔法を使われてしまった。おそらく、仲間に知らせる合図だろう」

 やっぱり、ここにいるだけが敵の全てじゃなかったか。人数があまりにも少なかったしね。それに魔法を封じるのは意識でも奪わない限り簡単にはできない。痛みを感じない相手なら尚更だ。

「グレイリースたちが敵を補足できればいいんだけどね」

「難しいだろうな。奴らもバカじゃあるまい」

 いつから王都に潜伏してたのか分からないけど、この拠点が潰されたと敵が知れば、より慎重になって今後は尻尾を掴むのも難しくなるだろう。

 ……まぁいい。王都で苦労するのは私たちじゃないからね。

「探りに行ったグレイリースたちの帰りを待ってから引き上げるわよ。家捜しはロスメルタの配下に任せておけばいいわ」

「ああ、後始末も彼らにやってもらうのが適任だろう」


 音が鳴らされると同時に周辺に散ったグレイリースたちも、具体的な敵の位置を掴んだわけじゃないみたいだ。

 合図が出されたからって、目立つような動きをするほど敵もバカじゃないってことだろう。ほとぼりが冷めた頃に動き始めるはずだ。そうなると、この辺の見張りに付くだろうロスメルタの配下だって、敵を見極めるのは難しいはずだ。まさか潜伏してた奴らが急に目立つような真似はしないだろう。それにわざわざ目玉のタトゥーを晒して行動するとは思えない。


 どうせ動かないなら、もっとに慎重にさせてやれ。グレイリースたちが見えない敵を威嚇や警戒して見せることで、敵の行動を封じる、時間をもっと遅らせるってくらいの意味はあるはずだ。

 難しいだろうけど、できればエクセンブラにいるはずの連中の仲間までは伝えさせたくない。王都で封じ込めができればいいんだけど、そこはロスメルタたちになんとか頑張ってもらおう。


 音を鳴らされて敵に合図を送られはしたけど、元々敵の全容を掴まない段階から仕掛けたアバウトな作戦だ。残りがいるなんてのは想定済み。それにアジトを潰せば、いずれはどこかにいる連中の仲間にだって知られる。早いか遅いかの違いでしかない。


 戦果なしで逃がすより、居所を掴んですぐそれを悟られる前に潰せた方が結果として遥かにいい。

 情報源だって手に入れた。奴らが扱うブツも手に入った。もしすでに麻薬が出回ってるとして、ここで押収したブツがそれと同じものなら、その出処を追えばまた別の敵にたどり着けるかもしれない。


 今日のところの戦果は上々と考えていいはずだ。この戦果は贈り物として丁重に進呈してやろう。

 アジトにあったブツの押収とさらなるガサ入れ、拘束した敵の処遇、まだいるはずの敵の捜索、諸々の後処理は地元の連中に任せて引き上げた。

 なにか新しい情報が分かるといいんだけどね。


ドラッグについては闇が深いので、作中でも深入りしすぎると話が暗くなってしまう懸念があります。

どうするべかなーと思いつつも、明るく楽しい感じで行きたいですね!

無論の事ですが、違法薬物は本当にヤバいので無謀を自認する若者であっても手出しは止めておきましょう。言うまでもないですが。


次話「頼まれごと」に続きます。

もうちょっとだけ王都で暴れてから帰ります。

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