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予定外の強襲

 急ぎ足のロスメルタに先導されて、隣室に引っ込むと同時に一応の確認だけしておく。

「ところでさ、あいつ誰だったの?」

「あのボンクラはベルリーザの第三王子よ。そんなことより緊急よ」

 ベルリーザ! 大国の王子を捕まえてボンクラって。私より酷いわね。

 まぁ大国の王子、それも第三王子なんて、きっと我儘で好き放題やってる放蕩息子に違いないしね。うん、偏見だけど。

 でもベルリーザの王族なら、ちょっとだけ繋がりを持っておきたかった気もする。ちょっとだけね。ナンパ野郎に勘違いされるのは嫌だし、別にいいけど。

「緊急って、なにごと?」

 いつも余裕な態度のロスメルタの緊張を含んだような言葉に、一緒に付いてきたジークルーネたちと顔を見合わせた。


 なんだろうと暢気に構える私たちに対して、ロスメルタは殊更真面目な顔で告げる。

「目玉のタトゥーを確認したらしいの。こう言えば、分かってもらえる?」

 それって。

「まさか、レギサーモ・カルテル!?」


 予想外にもほどがある。この王都はオーヴェルスタ家が表も裏も仕切ってる状況にあるはずだ。今更、外国勢力が付け入る余地はないと思ってたから、キキョウ会としては完全にノーマークだった。

 うーん、王都はエクセンブラ同様に広いし色んな人が流入してきてもいる。どれだけの権力を持ってても、その状況下で全てを把握することには無理があったか。


 それにしても、まさかここで麻薬カルテルの情報が得られるとは思わなかった。でもブレナーク王国が復活したってことは、エクセンブラは元鞘でその支配下になるわけだし、ロスメルタたちが情報を知り、さらに集めるのは当然の成り行きか。そうする中で王都でも、その尻尾を捕まえたってところかな。しかしこのタイミングでか。まぁいいけどさ。


「遊んでる場合じゃなくなったみたいね。場所は?」

「王都西部の外縁部、スラムの一画よ。今ここの警備を割くわけにはいかないの。行ってくれるわね?」

 要人が集まるこの場所から、人を割くわけにはいかないだろう。他に今すぐ動かせる手駒がないからこそ、声をかけてきたに違いない。ここは私たちの出番ね。というかむしろ行きたい。奴らの情報はエクセンブラの住人としても是非欲しいからね。話に聞くだけじゃなく、この目で見て、さらに拳を交えれば分かることもきっと多いはずだ。

「すぐに着替える。案内役だけ付けて」

「ええ、状況の説明もさせるから、直接聞いておいて」

 ああそうだ、社交中の情報局副局長は連れて行こう。

「ウチのマーガレットは置いてくから、そっちの世話だけよろしく。グレイリースは呼んできて」

 急なことだけど、堅苦しいパーティー会場なんかにいるよりもよっぽどマシだ。むしろ楽しくなってきたわね。


 お淑やかさとは縁の薄い私たちは着替えも早い。

 脱ぎ捨てるようにしてドレスから元の格好や戦闘服に着替えて準備を整えると、駐車場で軽いミーティングだ。さっきまで女の魅力を放ちまくってた集団はもういない。ガラッと様相を変えた今、獰猛な戦士たちがいるだけだ。このギャップがまた魅力なのかもしれないけどね。


 案内役としてやってきたのは、敵を発見した当人でもあった。そいつから直接話が聞けるのは話が早いし、道に迷ったりもしないだろう。

「簡単に状況だけ知りたいわ。敵の人数は?」

「まだ確認中だが、小さな倉庫がアジトだから多くはないはずだ。数人程度が潜伏していると思われる。敵の本隊がまだないと仮定しても小規模だ。先遣隊か、その前段階の偵察隊ではないかと考えている」

 なるほど。これからブレナーク王国に根を張る魂胆があるとして、まだ様子見の部隊を送り込んでるって段階か。

「戦力評価は? 敵が少ないならそっちだけでもなんとかなったはずよ。少数でも手に負えないレベルってこと?」

「騎士団を出せばどうにかなるが、情報部員の我々では無理だ。敵は少ないが手強いぞ」

 そいつはむしろ歓迎だ。雑魚の相手なんかしたくないしね。

「聞いたわね? メアリー、良い獲物がいるらしいわよ」

「先陣はもらっても?」

 メアリーが笑う。凶悪だけど花が咲くようないい笑顔だ。やっぱり普段の方が私には魅力的に思える。

「任せる」

 第二戦闘団に襲撃は任せた。いくら強いと言ったって、メアリーに匹敵するのがいるとは思えない。敵が少数なら尚のこと任せて問題ない。まだアジトがそこだけと決まったわけじゃないから、索敵は密にやりたいし、そっちにも人数をかけたいからね。


 それにエクセンブラとも関わりがまったくないとは思えないし、できれば王都にいる敵はここで一網打尽にして連携を断ちたいところだ。

 あとはどれだけ情報が取れるか。

「前情報はこんなところか。急ぐわよ」

 急な敵との戦闘でも臆するような奴は誰もいない。緩い空気を吹き飛ばすと、それぞれの車両に乗り込んで夜の街を出発した。



 貴族区画から出て一般区画、そして王都の外れに進むと、少しずつ綺麗に整備された街並みがボロくなっていく。

 途中にあった内壁と検問を抜けて到着したスラムは、まさしくスラムとしか表現できない場所だった。ちょっと前までの王都の名残を色濃く残す瓦礫やあばら家、そこらに座り込んだり寝そべったりする貧民。シミだらけの石壁や道端の汚物も目に付く。路地裏に入ればどこに死体が転がっててもおかしくない場所ね。一応、街灯だけは直したのか、完全な暗がりじゃないのは助かる。


 ただ気になる連中がいる。探るような目を向けてくる多くの若者が街角に立ってるんだ。奴らは集団で移動する私たちを警戒するけど、それが女だと分かると獲物を狙うような視線に変化する。ギラついた視線を向けられるのは不快だけど、ハングリー精神旺盛なのは結構なことだ。

 それにしてもあいつらは街角に突っ立ってなにをやってるのか。まさか一日中、獲物になりそうな女探しでもしてるんだろうか。


 すると近くにいたおっさんが、私たちをただの通りすがりと見るや、街角の若者に接近して行った。

 なんとはなしに見てると、何かを渡したのが分かった。渡した直後、若者に路地の奥へ行くように促されてるのも分かった。どうなるのか気にはなったけど、バイクで移動してる最中だから、角度的に見えなくなってしまった。ふーむ、まぁいいか。


 短い滞在時間でも分かることといえば、ここにはピリピリとした空気がある。ある程度の距離を置いて立ってる若者グループ同士が、互いに牽制し合ってるかのような態度のせいだ。多分だけど、縄張り争いかなんかだろう。さっきまでの穏やかで明るい雰囲気の区画との落差が激しい。内壁ひとつ隔てると、まるで別世界ね。


「……スラムか。中心部とのギャップが酷いわね」

「どんなに発展した都市であっても、色々な面があるものさ。昔の王都にも似たような区画はあった」

 中にはこういうところでしか生きていけない奴もいるだろうしね。誰もがまともに生きて行けるわけじゃない。かくいう私たちだって、どっちかというとこっち側の人間だろうしね。


 間もなく案内役が車両を停止すると、見張り役と合流した。

「動きはないか?」

「あれから人の出入りは確認できていない」

「そうか。ではキキョウ会の方、我々はここから戦果の確認をさせてもらう」

 人任せとは楽なポジションだ。


 敵に動きがないなら焦って攻め込む必要はない。ちょっと考えさせるか。

 遠くに見える敵のアジトは通りに面した地味な建物だ。特に特徴らしきものはない小さな倉庫で、感知できる魔力の数も話のとおりに少ない。その周辺にも無関係っぽい人はいるけど、ドンパチ始めれば勝手に逃げるだろう。

「メアリー、どう攻める?」

「そうですね。小さなアジトですから、全員では攻め込めない。となると、誘き出して包囲殲滅でしょうか」

 ふーむ、誘き出すのは良い手に思える。アジトの中に情報が転がってるとしたら確保したいし、破壊などで消失してしまうのはもったいない。アジトごと吹っ飛ばすような攻撃は論外だ。

「どうやって誘い出す? 下手にやって警戒されると、重要な資料の破棄をされるかもしれないぞ?」

 なるほど。そこまで果断に行動できるとは思えないけど、相手が諜報のプロみたいな連中だとしたら可能性はある。せっかくのレギサーモ・カルテルの情報源だ。万全に行きたいわね。

 そうすると、警戒させずに外に誘き出す? なかなか難しい注文だ。


「……誘導が難しいなら突入しかありません。それでも意表は突きたいですが」

「そうだな。一瞬でも意表が突ければ、そこから一気に攻め込んで敵を外に叩き出すくらいは可能か」

 結局は力押しか。でも意表を突くってことなら、一つアイデアがある。それに、上手く行けば誘い出せるかもしれない。

「分かったわ。メアリー、敵の意表は私が突くから、その後は第二戦闘団で外に叩き出しなさい。ジークルーネとヴァレリア、それと残った戦力で外に出された敵をタコ殴りにするわよ」

「了解です」

 戦闘狂たちが強いとされる敵を前に戦意を漲らせる。

「ユカリさん、あたしらは周辺の見張りに専念しますよ」

 グレイリースとその配下の情報局員には周囲を警戒させた方がいいか。その場にいるのが敵の全てとは限らないからね。好奇心を刺激された余人に近寄られても邪魔になるし。

「うん、そっちも任せる。じゃあ始めるわよ」

「おうっ!」

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