社交パーリー!
スタンバイしてた専門の女性スタッフによって私たちは次々とおめかしされていった。
旅のほこりで少々汚れた髪を丁寧に整えられることに始まり、ドレスの着用のサポート、繊細かつ巧みな化粧を施され、常には考えられない感じに化けていく。キキョウ会メンバーたるもの、普段から見た目にも気を配るよう私たちは努力してるけど、それでも有力貴族お抱えであるプロの技は一味違った。
自分のことは棚に上げるとして、普段からはかけ離れた姿になった仲間を見るのは非常に面白い。
悪いけど笑ってしまう。油断すると噴き出してしまいそうになるから、油断できないんだ。ふぅー、深呼吸、深呼吸っと。
例えば裏社会の一部じゃブラッディ・メアリーの二つ名で恐れられる女が、どこぞのお嬢様風の格好になってる時点で普段なら考えられない。その上、借りてきた猫のように自信なさげな雰囲気で縮こまってるのは、部下の若衆にとっては衝撃的な姿に映るだろう。
普段のメアリーはシンプルな格好を好むけど、隠しきれない強者特有の鋭い気配やストイックさが滲み出るような雰囲気なんだ。地味だけど、その地味さがカッコいいというかね。それにいつものナチュラルメイクとは違った華やかメイクで仕上がった顔つきは、どう見ても別人で若衆が驚くのも無理はない。
そんな若衆も互いの変貌した姿には、はしたなくも噴き出しそうになってる。こう言っちゃなんだけど、まるで仮装だ。これだけ集まるとあれだ、ここは仮装パーティーの会場ですかって、ついつい言いたくなる。私は言いたくなるだけで言わないけど、グラデーナやボニーたちならきっと普通に馬鹿笑いしながら突っ込んでるだろうね。
元少女愚連隊のリーダーにして、現情報局副局長のグレイリースはもっとあれだ。うん、端的に言って、酷い。
謎の強引さで有無を言わさず着替えさせられた、フリフリピンクのドレス姿には目も当てられない。清純風に整えられた髪型といい、口紅まで差した化粧といい、普段のヤンキー的な印象とのギャップが酷くてどうしても笑ってしまう。絶対にピンクの服とか選ばない奴だしね。
本人の死んだような目がまた笑いを誘って、視界に入れることが難しいほどだ。
「……ぶふっ」
うん、笑っちゃうからね。
徹底的に可愛い格好にされたグレイリースなんて、きっと二度と見る機会はないだろう。
逆にマーガレットは良い感じだ。振り切れるくらい良い感じに変わったと評してもいい。並外れた技量を持ったプロフェッショナルのメイクによって、普段の田舎娘っぽい雰囲気がガラッと変わった。なんだろう、当社比二千パーセントアップしたくらい立派に見える。確実に気のせいなはずだけど、なんか凄い頼りになる人物のように思えてしまう。あのマーガレットがねぇ。不思議でならない。これはもう魔法の領域だ。
例えるなら、莫大な金額を扱う超大手商会でトップを張るやり手のキャリアウーマンとか、国家元首を相手にしても一歩も引かないキリっとした女性キャスターが正装したみたい。に、見えなくもない。確実に、気のせいの、はずなんだけど!
うーむ、さすがの本人も鏡を見て感激、というよりも驚愕してるらしい。これが、わたし? みたいな。今はまだ茫然自失といった感じね。まぁ本人だけじゃなく、周りで見てる私たちもあまりの驚きに声も出せない。
こういうのを実際に目にすると、プロのメイクアップアーティストを雇う意義を感じるわね。ウチも真面目に検討してみよう。
そして我がキキョウ会が誇る副長、ジークルーネは堂に入ったものだ。
私としては男装の麗人風にして欲しかったんだけど、服飾店ブリオンヴェストのスタッフは普通にドレスを用意した。そして彼らはその見立てに、なんの落ち度もないことを証明して見せた。
深い青を基調とした落ち着いた雰囲気のドレスは、大人っぽい感じでジークルーネには良く似合う。プラチナのアクセサリーも輪をかけて彼女の上品な魅力を引き出す。そこにプロのメイクが加われば、化けるのも当然。
メイクを担当した女性スタッフも自画自賛する美しさだ。これはこれで普段とのギャップが面白いけど、笑うってよりは感心する。
元からキリっとした美しさの光るジークルーネだけど、メイクアップとドレスの効果によって特に色気がヤバい。普段は下ろされてる髪がハーフアップになっただけでも、その白いうなじや後れ毛が垣間見えてドキッとしてしまう。少しだけ開いた胸元の魅惑、引き締まった長い手足には視線を吸い寄せられてしまう。上品でありながらも、これほどの色気を生み出すのは、素材と技術の良さがかみ合わなければ不可能だっただろう。
最後は超絶キュートにして、天空より舞い降りた天使のような美少女だ。
明らかに人員オーバーな気合いの入ったスタッフたちによって、ヴァレリアは奇跡の体現者となった。ああ、天使はここにいた!
その薄桃色の唇、落ち着いた色をした無垢な瞳、長すぎるほどの睫毛、天然のまま完璧に整った眉、美しいとしか表現できない鼻筋、まだあどけなさの残る顎のライン、華奢な首筋、種族を明確に表すモフモフとした耳、触り心地の良い柔らかな髪。いつものヴァレリアだけど、やっぱりいつもとは違う。プロの技によって天使へと昇華した妹分がここにはいた。よし、これだけは必ず形に残す。ロスメルタには記録用の魔道具を絶対に準備させなければ。
……まぁ、筆舌に尽くしがたい超絶的な可愛らしさは見れば分かるとしてだ。私の心が最も揺さぶられるのは、そのコーディネートにある。
珍しくツイストアレンジした髪型と、キキョウの花が咲いたような紫のドレス。これは私とお揃いなんだ。
顔どころか人種さえも違うけど、本当の姉妹になったように思えてくるし、実際に着飾ってみると感慨深いものがある。あーなんだ、私が言うのもなんだけど、こう、見てると胸がきゅんとする。
「お姉さま……」
メイクを終えた妹分がこっちを向いて私を呼ぶ。
その嬉しそうにはにかむ姿には、衝動的に抱きしめたくなる破壊力があった。
結構な時間を使ってキキョウ会一同が変貌を遂げると、いよいよパーティーに殴り込む時間だ。
普段から見慣れたメンバーが化けた姿には笑いも起こるけど、客観的に見れば悪くはないはずなんだ。普段を知らなければ、ただ単におめかしした女たちがいるだけなんだからね。
一番ドレスが似合わないだろうグレイリースだって、笑ってしまうようなその感情は普段の姿を知ればこそ。典型的なヤンキースタイルが板につくグレイリースだって、初対面で性格や普段の言動を知らなければ、ピンクのフリフリドレスだって別に可笑しいチョイスじゃないはずなんだ。たぶん、だけど。
散々笑って開き直った私たちは、常のように堂々とした態度でパーティー会場に入る。いつまでも恥ずかしがるようなメンタルの持ち主はいない。
意外に思われることも多いけど、キキョウ会メンバーにはこういった場面を想定した教育も行われてる。
ウチには元貴族のメンバーだっているし、社交における最低限のマナーを学ぶ機会は確保してあるんだ。時折は適当なパーティーに出席して実践する機会だってあるし。
まぁ所詮は付け焼刃にすぎないし、どこに出しても恥ずかしくないとはとても言えないけど、失礼にはならない程度のレベルはあると思う。今回は連れてきてないけど、武闘派筆頭のポーラやボニーだって、TPOを弁えた振舞いくらいはできるんだ。意外だけどね。意外だけど!
ただ、今日のパーティーは堅苦しい形式ばったものは一応はない前提だ。あくまでもロスメルタの友人知人を集めただけの私的なパーティーって建前だから、少々の不調法なら許される。それほど気張る必要もないってことね。
そして今日の主題だ。
ブレナーク王国の再興を祝うのはもちろんのこと、実は他に重大なことがある。
それというのも先日、オーヴェルスタ伯爵は、晴れて『公爵』へと格上げされた。前代未聞の出世劇だと思われる。
これは現時点での王国において、唯一の公爵となる。いくつもある伯爵位とは権威が全然違う。
ちなみに旧王家の血縁からなる公爵は戦時にその全てが行方不明か死亡によって断絶してる状態。血縁以外の公爵は、かなり前に独尊王によって爵位を降格されてたこともあって、戦前でも王家に連なる者以外で『公爵』はいない状態だった。
これによって、オーヴェルスタ家はブレナーク王国唯一の公爵となり、事実上、最も大きな力と同時に権威まで持つ大貴族となった。そしてロスメルタは唯一の公爵夫人になったわけだ。
「……なんというか、手持ち無沙汰ですね」
落ち着かない様子のメアリーの呟きは、みんなの心のうちを代表するものだ。
ほとんどのメンバーはパーティーに参加する予定じゃなかったし、身分違いの知らない奴らと会話をしたい気持ちだってないだろう。探るような密かな視線も集まってるし、居心地がいいとは言えない環境だ。
気後れこそしないものの、慣れない雰囲気にさっさと帰りたい気持ちにはなる。
しかし、ここで一人だけ気合を漲らせる女がいた。
「ちょっと行ってきます!」
イケてるキャリアウーマンっぽいメイクで化けた女は、心持も変わったらしく普段以上にやる気十分だ。化粧は単なる美しさ以上に、精神的にプラスになってる面が大きいようね。
「マーガレットはやる気だな。そうだな、この機会をものにしてこい。グレイリースも一緒に行ってやったらどうだ?」
ジークルーネに振られたグレイリースだけど、情報収集の一環となれば役目を果たすためにも良い機会だ。フリフリピンクのヤンキー女はまだ少し憮然とした感じだったけど、仕事となればクソが付くほど真面目な女でもある。
「……そうですね。マーガレット、一緒に行こう」
ただし、この場は魑魅魍魎が如き貴族や商人が集う場でもある。社交性が試されるわね。妙に溌剌としたマーガレットが大丈夫か気にはなるけど、意外と如才ないグレイリースもいることだし心配ない。特にグレイリースはあのジョセフィンとオルトリンデが鍛えに鍛えた叩き上げだ。どんな状況、誰が相手であっても、問題なく任せられるメンバーだ。普段はどう見ても、ただのヤンキーなんだけど。
残された私たちはといえば、特に知り合いも見かけないから、身内で固まってなんとなく周囲を観察する。
全員が華やかで上等な衣装に高価なアクセサリーまで身に付け、どこの誰なのかをアピールする紋章、あるいは勲章なんかを誇示するようにしてる。胸やけがする程に分かりやすい上流階級って感じだ。
爺さんから婆さん、おっさんやおばさんに若者から子供まで。年代はもちろん、種族の別なく、高貴な家柄の貴人や大商人が揃ってるらしい。
集まった客は一部を除きロスメルタと親しい間柄の人たちで、割かし和やかな雰囲気がある。実際には和やかに見えても、表立って見えないやり取りはあるんだと思う。だけど今日ばかりは他人を巻き込むような、しょうもない争いは起こさないだろう。そこまでバカな奴をロスメルタが招待するとは思えないからね。
王国主催の式典が終わった後の日程だからか、他国からの賓客もここには多くいるらしい。さすがは公爵夫人さまだ。
誰がそうなのか見当もつかないけど、聞いた話によれば北方の大国ベルリーザからの参加者もいるらしい。それもただの貴族じゃなくて、王族だって話だ。客の中では最重要人物と考えていい存在ね。まさしくV.I.P.だ。
個人的な興味から、もしや! と思いきや、今日きてるのは第三王子らしい。イケメンってことみたいだけど、私の目当ては第四王女だったからね。それ以外の奴はどうでもいい。
貴族だろうが商人だろうが、この場においてはロスメルタを介しない限り、私自身が余計な繋がりを持つつもりはない。確実にトラブルに発展する気がするし。なんか面白そうな奴でもいれば、また話は変わってくるかもしれないけどね。
んー、そうね。ひょっとしたら興味を引くような変なのがいるかも……っと、退屈しのぎにさり気ない観察をしてると、見覚えのある紋章が目に入った。
「へぇ、アナスタシア・ユニオンがきてるみたいね」
「あの代紋ですか。どういう繋がりなのか気になりますね」
「うん、あとで探りを入れてみようか」
そういやあの組織は国の要人を警護する仕事なんかもやってるらしかったわね。誰かの警護役として、ここにいても不思議じゃない。ひょっとしたらベルリーザ本国からきてる奴かもしれないし、あとでグレイリースに接触させて様子を探らせよう。
周囲の観察をしつつされつつ、さて、どうしようかと思ってると、ようやっと主催者のご登場だ。
大公爵のご夫人らしい煌びやかな装いの女傑は、美しさと同時に立場に相応しい貫禄がある。まさしく、この場の支配者たる風格だ。
注目に対して女傑は微笑みを振りまくと、長々しい挨拶もせずに笑うだけで済ませてしまった。それだけをもって、自然と華やかな雰囲気のパーティーは本番の開始となった。
こんな場所にきてしまったとはいえ、余計な繋がりを持つ気のない私が社交に励むはずはない。何しにきたんだよって感じだけど、そこはしょうがない。友達にお呼ばれしたからきただけだ。それに友達の友達には別に興味ない。
「ユカリ殿、この場はどうする?」
決して派手な格好じゃないはずなのに、不思議と色気を醸し出す我が副長は優雅にグラスを傾ける。輝かんばかりの美貌だ。冷えたグラスとそれに付く水滴が魔法の照明を受けてキラキラと光る。綺麗な光だけど、彼女の美貌の前には完全に霞む。
「社交はマーガレットとグレイリースに任せるとして、私たちはしばらく様子を見よう。積極的に前に出る立場でもないしね。もし誰かが寄ってきたら、副長殿に対応は任せるわ」
ジークルーネは元騎士として社交の心得もあるからね。面倒事は引き受けてもらう。むしろジークルーネに吸い寄せられる奴がたくさんいそうだけど。
「ああ、ここは引き受けよう」
頼もしい笑顔だ。でも、その笑顔も今日ばかりは妖艶に思えて、ちょいと困ってしまうわね。
集まる視線をなるべく無視して、メンバーみんなで大人しく過ごす。普段は元気な若衆も、こんなところで騒がしくする気はおきないらしい。借り物の衣装が動きにくくて居心地悪いってのもあるだろうけどね。
唯一の知り合いのロスメルタは次々と挨拶にやってくる人への応対で忙しいし、こっちに構ってる暇はなさそう。
まぁそれならそれでしょうがない。あんまり周りの様子ばっかりうかがっててもね。せっかく旨そうな料理と高い酒があるんだ。ここぞとばかりに堪能する。それ以外にやることもないからね。
和やかな雰囲気で酒も進み、砕けた空気になってくると、私たちに近づいてくる暇人も徐々に現れる。特に男なら連れのいない女が気になるのも無理はない。
副長は大人っぽい雰囲気で文句のつけようもない美人だし、天使のような美少女だっている。それにドレスと化粧で変貌したメンバーたちは、誰もがそれなりの魅力を放ってるからね。
自慢のキキョウ会メンバーは、ただ見た目が良いだけの女じゃない。まさしく内面から魅力の溢れ出る女たちだ。おめかしして普段の荒っぽい雰囲気が鳴りを潜めてる分、それがどこか危ういような不思議な魅力と化してる。そりゃあ、男なら放っておかないってもんだ。こっちにそのつもりがなくたってね。
面倒だけどロスメルタの客とあっちゃ、冷たくあしらうわけにもいかないのがまた厄介だ。
頼れる副長が如才ない受け答えで追っ払ってくれてるから、特別な問題もなく時は過ぎていく。さすがだ。ジークルーネがここにいてくれなかったとしたら、たぶん私だけでも五、六人は半殺しにしてるだろう。
我が副長の鉄壁のガードは隙がほとんどない。笑顔の威圧、はっきりとした言葉と態度。それにも関わらず、相手に不快感を覚えさせることがない。追っ払うにしても、嫌味な態度を取らないからだろう。こういうところも地味に優れた才能よね。相手側も引き際を弁えた紳士しかいないってものあると思うけど。
それでも防波堤をすり抜けてくる奴は、何故か一人はいるもんだ。
ジークルーネがほろ酔い加減の紳士をブロックした直後、何気ない足取りで私の目の前に立ったのは、一目で高貴と分かる若い男。貴公子という言葉を具現化したような野郎だ。
横で魚を食べるヴァレリアが密かに殺気を膨らませるのが分かったけど、さすがに手を出したり、不快感を表に出すほど馬鹿な子じゃない。
ふーむ、身形の良いイケメン野郎だ。あ、メンと野郎で重複した表現だろうか。うーむ……。
余計な事を考える私に構わず、男は話しかけてきた。まぁ、用があったから近寄ってきたんだろうし、そりゃそうだ。
「やぁ、素敵なレディ」
随分と気安い挨拶だ。貴公子然とした風貌からは考えにくい軽薄な感じ。馴れ馴れしい態度と妙な勢いに閉口してると、こっちに構わず気取った調子で言葉を続けた。
「……美しいな。遠目からもドレスに映える白い肌、濡れた可憐な唇、紫紺の髪は灯りを受けて輝くようだ。目を奪われてしまったよ。近くで見ると、ますます美しい。その黒い瞳も綺麗だ」
ぞわっとしてしまう。なんだ、こいつ。ジロジロ見やがって。
さらに私の容姿を褒めたたえる言葉はどこまでも続く。顔を褒めたと思ったら、スタイル、ドレス、アクセサリー、雰囲気、知りもしない想像だけの内面まで。
うるさい奴だ。私が美人なのは分かり切ってること。お決まりのような美辞麗句で心が動くことはない。そろそろマジでぶちのめしたくなってきた。
「君が姿を現した時から、ずっと目が離させないでいた。仕草の一つひとつに魅入ってしまう。ああ、失礼。俺はマクシミリアンという。名前を聞いてもいいかな? 君の声が聴きたい」
分かりやすいほど軽薄な態度、ナンパ野郎め。あー、どこの誰だか知らんけど面倒ね。これだけ近寄るなオーラを出してるってのに。
ロスメルタの客だから失礼がないようにといっても、何者かも知れない奴に無駄にへりくだる気はない。
ふぅんって感じに値踏みしてやる。
完全に偏見だけど、我儘そうな感じがして、お近づきにはなりたくないタイプだ。とはいえ、名乗られた以上は名乗り返すくらいはしないといけないか。しょうがない、お望みの美声を聞かせてやるとしよう。
「……はぁ、私は紫乃上よ。あなたは」
「よろしいかしら、殿下」
おっと、ロスメルタか。割り込んできたわね。
殿下呼ばわりってことは王族だと思うし、面倒な相手だから助け舟でも出しにきてくれたのか。
「これはレディ。どうかしましたか?」
突然の割り込みに、ほんの一瞬だけ不快そうにした殿下とやらだけど、胡散臭い爽やか笑顔で応えてみせた。
「一つだけ助言に参りましたわ。まだお若い殿下が火遊びをなさるのは大いに結構なことかと存じますが、相手が悪いですわね。そちらの彼女に触れると、火傷どころか骨も残さず焼死しますわよ?」
「しょ、焼死?」
「ユカリノーウェ、たった今入った急ぎの話があるの。ごめんなさい殿下、わたしくたちは中座しますわね」
さすがの貫禄。有無を言わせぬ迫力で押し切ると、呆気にとられる殿下をほっぽり出して移動を始めた。
どこの国だか知らないけど一応は王族に対して随分な態度だ。他人事ながら、大丈夫なんだろうかと心配してしまうわね。
それと、いくらなんでも焼死はない。いや、ないと、思う。うん、たぶん。燃やすより殴る派だし。