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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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北からの使者

 今日の私の予定は、珍しくみっちりだった。

 いつもなら面倒なことの大半は、会長の代理として副長や副長代行、もしくは事務局のメンバーにやってもらってるし、組織のトップのフットワークが軽すぎると舐められることもあるからね。ウチみたいな女所帯だとその傾向も強くなるから、私は引っ込んでることが多いんだ。

 もちろん必要と認めれば積極的に出るけど、私じゃなきゃ駄目なケースなんてほとんどないしね。少々謎めいてる方がいいことだってある。


 でも、そうもいかないケースもある。

 例えば、単純にみんなの予定が詰まってて予定が変えられず、私しか空いてる人がいないとき。

 そんでもって、どうしても私と面談したいって要望があって、それを蔑ろにできない場合なんかがある。


 今日はそういうのが重なってしまったんだ。

 いくつかの予定を消化すると、いよいよ今日の本番だ。私にとって興味深い相手との面会がある。

「お姉さま、これが終わったらご飯に行きましょう」

「……なかなか面倒なことをしているんだな。あたしは戦闘班で良かったよ」

 連れは護衛のヴァレリアと、休暇を持て余してたアンジェリーナだ。


 ヴァレリアは美少女だから見た感じだと護衛とは思われない。それは場面や相手によって善し悪しがあるから、今回は強面のアンジェリーナも連れて来たってわけだ。たまには付き合えってね。


 今日のヴァレリアは月白のダッフルコートにハイネックのセーターと丈が短めのガウチョパンツ、それとお気に入りの赤いブーツを履いてる。可愛すぎて、これを護衛と思う奴はまずいないだろう。見た目と戦闘力のギャップが凄い。


 強面担当のアンジェリーナは、墨色のモッズコートにゆとりのある乗馬ズボンぽいボトムス、それにコンバットブーツを合わせてる。全体的なシルエットが軍服っぽい。なかなかカッコいいし、サマになってるわね。


 ついでに私はと言えば、月白のロングトレンチコートに、黒のインナーとロングスカート、それからショートブーツだ。そしてティアドロップのサングラスまで装着。どこぞのボスっぽい雰囲気は出てるだろう。


 待ち合わせは中央広場近くの宿泊所。そこそこランクの高い宿だ。

 アンジェリーナが運転するジープで移動しつつ話す。

「これから会う相手はどんな奴だ?」

「傭兵よ。それも女の傭兵団を束ねる女傑って話ね。面白そうな相手じゃない?」

「ほう、そんな連中がいたとはな。一昔前では考えられん」

 アンジェリーナは元傭兵だからね。その辺の事情には詳しい。そもそも女の傭兵は数が多くないし、それが傭兵団を作ること自体が非常に珍しい。

「名ばかりの傭兵でなければいいです。お姉さまの時間を無駄に使わせない相手ならいいですが」

 誰だろうと傭兵と名乗ることは自由だ。実績が伴った実力派とは限らない。

「まぁね。つまんない相手じゃなきゃいいけど、会ってみないことにはね」

 なにせ、この面談は相手方のご指名だ。会長である私と直接話がしたいってね。


 特別な相手でない限り、こっちが相手の言うことを聞いてやる必要は基本的にはないと思ってる。

 今の私に会いたいって連中はかなり多いし、どんどん増えてきてもいる。だからこそ相手は選ばなければならない。

 全部に会うなんて無理だし、そんなつもりもないしね。私は面倒で退屈なことは嫌いなんだ。


 でもこれから会う連中はなかなか興味深い。

 まず女の傭兵団ってだけで興味を引かれる。そんでもって、そいつらが我がキキョウ会に折り入って話があるってことらしいんだ。

 現時点で目的は分からないけど、もしウチに入ってくれるとして、即戦力なら大歓迎だし少々足りなくても鍛えればいい。弱くてもまぁ、この際いいだろう。人はまだまだ募集中だからね。さて、どうなることやら。



 少しして目的地の宿に着くと、ロビーを通過して相手が指定した貸し会議室のような部屋に向かう。

 衆人環視の中で話すのも嫌だし、別に不満もない。罠があったとしても上等だ。

 アンジェリーナを先頭に私、後ろにヴァレリアが続く。


 奥まった場所の部屋まで来ると、門番のように立つ鎧姿の女が二人。

「……キキョウ会だ。会長をお連れした」

 近づくと巨漢のアンジェリーナが威圧感たっぷりに睥睨する。友好的とは言い難い態度だけど、相手も武で鳴らす集団なら遠慮は無用だ。こういうのは最初が肝心だからね。どっちの立場が上か、はっきりと分からせる必要がある。

 アンジェリーナの強烈な魔力と雰囲気に呑まれて黙り込む門番。

「早くしろ。会長は忙しい」

 はっとした門番が慌てて扉の向こうに呼びかける。

「団長! キキョウ会の方々がご到着されました!」

 ふむ、それなりの礼儀は弁えてるらしい。


 おもむろに開かれた扉から遠慮せずに入ると、広い部屋の壁際にズラッと並ぶ傭兵たち。全員が身に纏う、赤系の色をした鎧が特徴的だ。

 ただ、こいつらの赤い鎧はロスメルタお抱えのクリムゾン騎士団とは違って、単に赤く塗ってるのがほとんどだ。あっちは元から赤色の高級魔導鉱物『カーマイン鉱』を使った一級品で揃えてたけど、こっちは素材や形状までバラバラ。無理やり色だけ揃えてる感じだ。それだけでも統一感はあるけどね。それに全体的な雰囲気や規律の良さそうな感じからして、傭兵団ってよりは騎士団のような印象を受ける。


 ビシッとした姿で並んでる姿は壮観だけど、私たちが気圧されることはない。余裕の態度で見回してやる。


 会議用の大きな卓に着くのは、団長と思われる意外に線の細い女だけだった。顔や体形だけで判断するなら、とても傭兵とは思えないタイプだ。だけど、使い込まれた装備や隠さない身体強化魔法が、明確にその実力を私たちに告げて来る。

 ふーん、見た目の意外感はあるけど、それなりの実力者ではありそうだ。第一印象は悪くない。


 ウチのもう一人の元傭兵、ゼノビアは頼りになる姉貴って感じだけど、こっちはしっかり者の妹って感じ。しかも委員長タイプと名付けたくなる雰囲気ね。残念ながらメガネは掛けてないけど。


 この場の視線を一身に受け止めながら堂々と近寄ると、委員長は礼儀正しく立ち上がって、真っ直ぐな挨拶を送ってくる。

「お初にお目にかかります。わたしがローズマダー傭兵団で団長を務めるイングリッド・ウエストです」

 うん、しゃべり方もどことなく委員長っぽい。一般的にイメージする傭兵って感じは全然ないわね。


 それにしてもローズマダーか。茜色だったかな。どうりで赤っぽい色で統一してるわけだ。

「そう、あんたが団長のイングリッドね。私がキキョウ会の紫乃上よ」

「あなたが、あの……」

 あの、なんだろうね。まぁいいわ。

 立ったまま簡単に名乗りあうと、椅子を勧められて茶まで出された。ますます傭兵団ぽくない気配りだ。


 まだ印象でしかないけど、この団長や団員の様子を見る限り、随分としっかりした傭兵団みたいね。

 だいたい傭兵ってのは、金で簡単に裏切るとか、荒くれ者が多いイメージだけど、その辺の実情は冒険者と大して変わらない。


 傭兵の仕事ってのは、金と引き換えに戦争に参加することから始まって、盗賊狩りや拠点防御、要人警護だったりで雇われることが主となる。時には魔獣狩りに参加することもあるみたいだし、冒険者と役割が被ることはままあるけど、それでも対人戦が主たる仕事になるだろう。

 だからこそ信用が大事な商売でもある。仕事の性質上、必ず雇い主が発生するからね。評判の悪い奴や実力の足りない奴は必然的に淘汰される。傭兵として長いことやってる奴ってのは、その分だけ信用度が高くなるってわけだ。


 じゃあ、目の前にいるこいつらはどうか。実は聞いてみないと分からない。事前情報が何もないんだ。この場で見極めるしかないってことね。

 世間話をしに来たわけじゃないんで、とっとと始める。ウチのことは知ってて接触してきたんだろうし、その辺の確認はいい。ローズマダー傭兵団とやらをまずは私が知らなければ。自己申告だけじゃ裏取りまでできないけど、そこも含めての見極めだ。


 立ったまま自然と周囲を威圧するアンジェリーナとヴァレリアを背にして、サングラスも外さずに切り出す。

「さっそくだけど、あんたたちのことが知りたいわ。そっちの目的や本題の前に、まずはローズマダー傭兵団のことを詳しく教えてくれない? 悪いけどあんたの傭兵団の名前はこの街にまでは聞こえてきてなくてね。話はそれからよ」

「もちろんです。ドンディッチ東部ではそれなりに名を知られていたとは思っていますが、諸外国にまで鳴り響いているとまで自惚れてはいませんので」

 謙虚なことだ。委員長は居住まいを正すと語り始めた。


「わたしたちローズマダー傭兵団は、ドンディッチ東南部を治める辺境伯に雇われています。仕事内容はレトナークの攻勢に対する迎撃です。契約開始からはおよそ一年が経過したところで、傭兵団を結成したのもこの仕事の少し前の時期になります。現在は情勢も変わって新たな仕事のために、こちらまで来ることになりました」

 なるほど、今もなお雇われの身でそれが一年は続いてると。

 この世界での一年は長いから、それを全うしてるとなれば一応の実績にはなるだろう。しかも雇い主が領主ともなれば、調べればすぐに分かることでもある。嘘を吐くにしても貴族の名前を出すのは面倒事になりかねないし、出鱈目の可能性は低いと考えていい。


「こちらも確認してください」

 ついでとばかりに紋章入りの短剣を見せられた。それっぽい雰囲気はあるけど、貴族の紋章の知識なんて持ってないから見てもしょうがない。なんとなく本物っぽいって感想だけね。材質や装飾の細やかさから考えて、とりあえずは本物と思っておこう。


 それにしてもレトナークはドンディッチにまで手を出してたのか。

 ドンディッチはブレナークとレトナークの北側を占める大国だ。他国に関心が薄い国家であることもあって、これまでも特に関係することはなかったし、些細な噂すらも聞くことがなかった国ね。私の方も興味ないし、これからも関わる可能性は低いと思ってたんだけどね。


 なんだか予想とは違ってきた。私としては傭兵団がキキョウ会に雇って欲しいとか、キキョウ会に加わりたいって話かと思ってたんだけど、雇われの身で仕事としてここまで来たってなると、話は全然違ってくる。まぁ、本題は後だ。

「戦闘実績は?」

 興味本位だけど実力も知りたい。敵の迎撃をする契約はあっても、相手が担当地域に攻めてこなければ実戦の機会だってないかもしれない。迎撃が任務なら攻め入ることもなさそうだしね。

「本格的な侵攻の迎撃に参加したことは二度あります。小競り合い程度の戦闘でしたら、十数回は経験しています。わたしたちは魔法を軸とした攻撃と支援を得意としていますので、辺境伯領におきましても重宝されていたと自負しています」

 意外と戦闘経験が多いわね。一年程度の実績としてはなかなかに思える。それと、魔法?

「それだけ戦争やってるなら経験は申し分ないわね。あと聞いていい? 魔法が得意ってのはいいとして、その鎧姿は? 接近戦が得意なのかと思ったけど」

 戦闘スタイルも一応聞いておきたい。あえて魔法が得意なんて言ってのける傭兵団は、たぶん珍しい存在だ。個人として得意なのがいるのは普通だけど、集団として得意ってのはね。


 イングリッドは委員長風味の真面目な顔を、少しだけ悪戯っぽくして答える。

「正直に言って、これはハッタリです。遠距離戦での物理防御力を高める目的もありますが、相手に勘違いをさせることが一番の目的です。武器を振ることを得意とする団員は実は少ないですし、切り結ぶ前に倒してしまうのが、ローズマダーの戦い方です」

 へぇ、コケ脅しか。たしかに、騎士っぽい格好だと無条件に接近戦が得意、少なくとも苦手ではないと思うのが普通だ。思い込みって奴ね。そう妄信して肉弾戦を挑みに突っ込んで来た敵を、魔法でなぶり殺しにする戦法か。なかなか悪くない。


「私が言うのもなんだけど、女だけの傭兵団なんてよく作ろうと思ったわね?」

「いえ、実はこれはただ結果です。当初は数名の知り合い同士でチームを組んでいただけだったのですが、女友達が女友達を呼び、少しずつ増えてしまって。初期の頃は男性もいたのですが、増え続ける女所帯に嫌気が差したのか、抜けてしまいまして。気がつけば今の状態に……。しかし、途中でキキョウ会の噂を聞きまして、意識し始めたところはあります」

 まさかの偶然が切欠か。もしかしてドンディッチだと女の傭兵が割と多いのかな。ひょっとしたら、ウチの真似をしたのかと思ったけど、それも途中からとはね。


他国の人間が登場して、ほんの少しだけ世界が広がったような気がします。


今回はご覧になっていただいたように、中途半端なところで終わっていますので、次回はその場面の続きからとなります。


次話「互恵への道」に続きます。

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