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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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束の間の平和とキキョウ会式教育

 麻薬カルテルの襲来以後、派手な争いが繰り広げられるようになるかと思いきや、意外にも平常通りな街の様子。

 大物であるドン・マクダリアンが殺されたところで、所詮は裏社会の出来事。多少の波紋はあっても、表立った抗争が始まらない限り、ほとんどの一般住民にとって影響はないに等しい。


 あれだけのことをやらかしたクセに、レギサーモ・カルテルの連中がすっぱりと姿をくらませてることも大きい。戦おうったって、相手がいないんじゃどうしようもない。

 現在のところは死者を出した組の連中が血眼になって、元蛇頭会のシマを中心に探し回ってる状況だ。新しい情報も特には入って来ない。


 隠れるにしたって、余所者が地元の組織から簡単に隠れおおせる物じゃないんだし、こうなってくると街の外にいる可能性が高そうに思えてくる。どこかにキャンプを張ってるとか、別の街を根城にしてるとかね。

 街の外に出られると、キキョウ会としてはお手上げだ。この街以外でツテがあるのは王都だけだし、闇雲に探し回れるほどの人手はいない。それに暇なわけでもない。どうにもならない分、割り切れるからスッキリしていいけどね。


 敵の捜索は五大ファミリーに任せておけばいい。奴らの手は近隣の街どころか近隣諸国にさえも伸びるんだ。その組織力を存分に発揮するべき場面が来たんだし、せいぜい頑張ってもらおう。

 ああ、もう蛇頭会がなくなったから『五大』ファミリーとは呼べないけど、一連の事件が片付くまではこのままでいいかな。わざわざ呼び方を変えて変な誤解を生むのも面倒。どこで誰が聞き耳を立ててるか分からないし、なんにでも難癖をつけてくるアホはいるからね。


 それに今のところのキキョウ会の見解じゃ、レギサーモ・カルテルが王都に関わってる可能性は著しく低いと考えてる。あそこはオーヴェルスタ伯爵家が表も裏も仕切ってる状況にあるから、外国勢力が付け入る隙は少ないはずだ。まぁそれでも王都は広い。完全には信用できないけど、今のところは疑う根拠もないしね。




 表面上は平穏なエクセンブラで、これまたいつも通りに勢力拡張に勤しむ私たちキキョウ会。

 なんとなくだけど、大きな標的が突然いなくなったことによって、若干の空虚さを感じなくもない。

 そんなところに、ある仕事が舞い込んだ。


「それで、お偉いさんどもは何をやれって?」

「闘技場の建設予定地で問題が起こっているようなのです。キキョウ会への依頼は、その排除となりますね」

 行政区の広大な土地を使った、闘技場関連施設の整備は進みつつある。その利権に食い込む筆頭がキキョウ会であることは周知の事実。一連の事業を主導する王都の実権を握ったオーヴェルスタ伯爵家お墨付きなのが、我がキキョウ会だ。そうすると様々な面倒事も同時に引き受ける羽目になる。


 整備は進みつつあっても、なにもかもが順調に進んでるわけじゃないらしい。

 闘技場の仕切り役を予定されてるキキョウ会に、その前段階から働けってことね。

「排除って、何を排除するんでしょう? まさか敵ですか?」

「行政区に敵って、どういうことだ?」

 元々空き地だったこともあって、地上げの必要のない土地だったはずだ。そこに問題が生じるってのはどういうことなのか。

「明確な敵対組織による行動ではないと、依頼には書かれています。わたしたちの仕事は、一般の住民による妨害行為の排除ですね」

「あぁ? カタギの連中だと?」

「なんだか拍子抜けだな」

 一気に面倒くさそうな雰囲気になる。面白い喧嘩にはなりそうにないしね。そりゃそうだ。


「それで、妨害行為というのは? まさか武器を持って攻めて来たり、破壊行為をするわけではないですよね?」

 行政区とは縁もゆかりもない、一般の住民がそこまで乱暴になる理由は考え難い。理由があるとするなら、誰かに頼まれたとか、何か金になるような理由があるはずだ。

「ええ、戦闘行為や破壊行為は確認されていないようです。ですが、工事予定地を占拠している人たちがいるらしいのです。行政区が強引に排除を進めるのも外聞が良くありませんので、こちらにお鉢が回ってきたのではないかと」

 直接だろうと間接だろうと、やることは一緒なんだし別に構う必要なんかないと思うけどね。

 まぁ、私たちにとっても無関係な話じゃない。やって欲しいのならやってやる。邪魔する奴らは漏れなく敵だ。


 それに法律の穴を点いたような賢い連中とは違って、単に占拠してるだけの連中みたいだしね。こっちも気兼ねなく実力行使で排除するだけだ。それをやって人々に知られたところで、ウチの『評判』にはなんの影響もないだろう。

 でもね、ちょっとだけ思うこともある。


 ただ単に叩き出すだけなら簡単だ。

 ぶちのめして二度と同じことをしないように脅すだけで、お仕事完了なんだからね。連中の言い分だってどうせくだらないたわ言だ。いちいち相手にしてやる必要もない。


 私が問題に思うのは、こんなくだらない仕事が今後ちょこちょこ入るとするなら、物凄く邪魔臭いってことだ。

 つまり、二度と同じことが起こらないような解決を図りたい。どうすればそれが可能かって話ね。


 ああ、その前に連中の目的くらいは分かってた方がいいか。

「フレデリカ、そいつらの要求は? 妨害自体が目的ってわけじゃないんでしょ?」

「珍しい話ではありません。立ち退き料を要求するようです」

 なるほど。勝手に居座って、どいて欲しかったら金を払えってか。

「この雪の中、つまんねぇこと考える奴らもいるんだな。さっさとぶちのめして終わらせようぜ」

 雪の季節の作業現場って、天候に左右されないようにそれなりの魔道具が設置されてることが多いらしく、案外快適なんだとか。その辺が居座る理由にもなってそうね。


 あとは、普通なら背後に敵対勢力による黒幕がいるってのが相場だけど、依頼主によればそういう込み入った事情もないらしい。

 背後関係の面倒がないのはいいけど、うーん、どうしたもんか。むしろそういうのが居てくれた方が話が早かったかもしれない。


「皆、いいか? 背後関係がなくとも、入れ知恵をした奴はいるはずだ。急に湧いて出て来たという話なら、誰かが中心になってやっているのではないか?」

「その可能性は高そうですね。単独ではなく複数がほぼ同時に不当な占拠の実行を始めたようですし、誰か唆した首謀者がいてもおかしくはありません」

 ジークルーネの指摘にフレデリカも頷く。


 ふーむ、まぁ、あんまり難しく考える必要もないか。物事はなるべく単純に考えた方がいい。それに依頼自体は簡単なものなんだしね。

 簡単な仕事なればこそ、仕事を任せてみる良い機会でもある。

「ちょっといい? この件は元気の余ってそうな若衆に預けることにするわ。占拠の排除と二度とやる気にならないような脅し、首謀者がいるなら徹底的な追い込みも。それと、同じことをする連中が今後は出ないような見せしめも要るかもね。まぁ、上手くやって欲しいわ。これも勉強よ」

 丸投げみたいだけど、この程度の仕事を幹部が主導する必要はない。やり方も実行も、まだ経験の少ない若衆にやらせるいい機会だ。新人もかなり増えてきてるし、リーダー役にとっては人を使う経験にもなる。危険はほぼないと思うから、新人の初仕事にも持ってこいだろう。存分にやってもらいたい。


 幹部連中も同感みたいで揃って頷いた。

「おう、じゃあ誰にやらせるか、さくっと決めちまうか。あんまり実践経験のない奴から選んでみようぜ」

 結果、各班から数名を選抜して、しばらくの間は専任でやらせることになった。

 まぁこれも貴重な経験だからね。頑張ってくれたらいい。



 キキョウ会の新人教育は、その苛烈さを除けば非常に綿密で丁寧だ。

 教官役を務める若衆が新人を鍛え、キキョウ会が求める水準まで押し上げる。


 ただし、ウチに入ろうとする奴ってのは、その半数近くがならず者だ。

 そんな奴らがまともに教育を受けてくれるわけがない。素直に言うことを聞いたり、規律を守るなんてのは期待する方が間違ってる。

 だからこそ、どんな馬鹿でも理解できる分かりやすい『力』でもって、命令に従わせる必要がある。


 特に有効なのは当然ながら戦闘力、あとは財力もそうね。

 圧倒的な戦闘力の差はあらゆる反感をねじ伏せる。どんな馬鹿でも理解できる、一番分かりやすい方法ね。

 それに加えて財力の誇示は、食詰め者たちに希望を夢見させる。


 キキョウ会の正式なメンバーになれば、どんな奴でもあの戦闘力が、金が、手に入る。体現する教育係はその辺も心得たもので、いい感じに新人に誇示する。

 最初は難しいことを考える必要なんてないんだ。ただの我欲でいい。

 訓練の過程で、まさしく『教育』していくからね。


 ウチの訓練は厳しい。

 基本的な体力作りや魔力増強から始まって、心身共にとにかく鍛える。死ぬほど鍛える。

 文字通りに命を失う可能性だって日常的にある仕事なんだ。それを実感させるためにも、本気で追い込みながら鍛え上げる。

 ある程度の下地ができたら、徒手空拳での戦い方から叩き込み、武器の扱い、魔法の実践、キキョウ会メンバーとして最低限のレベルになるまで、ひたすら訓練を繰り返す。妥協は一切ない。


 過酷な訓練の過程で死にかけるのが出るのだって日常茶飯事だ。

 決して死なせることはないけど、そこらの姉ちゃんがキキョウ会正規メンバーの水準に短期間で達しようとするなら、それくらいやらないと無理な話だ。まさしく死力を尽くしてもらわなければ。初期の段階においては、その根性こそを求めてるんだ。


 座学についても一般教養から始まって、魔法理論、魔獣の特徴や対処法、裏社会の基礎知識まで全般的に習得させる。場合によっちゃ、読み書き計算からも。

 知識は武器になると同時に、身を守る術でもある。これを疎かにするような奴は、キキョウ会の正規メンバーには昇格できない。


 簡単にやられたり騙されたりするような足手まといはいらない。

 多くの意味で一般レベルを超越した能力を求めてるんだ。それでこそのキキョウ会メンバー、自慢のメンバーになるんだ。

 ただ、求める水準が高いだけに、教育は時間をかけてやる。初期能力が低くたって、大体の奴は叩けば伸びるんだからね。そういう意味でも、ウチはとんでもなく親切で教育熱心な組織だと思う。なんか学校でも作ったら一儲けできそうな気もしてくるわね。


 大雑把には三百日程度の濃密な期間を経て、新人は正規メンバーに昇格するけど、人によって経歴や初期能力はバラバラだから、期間は当然一律とはならない。


 極端な例だと、虚弱で読み書きすらできないスラムの女が、根性だけで訓練に食らいつき、必死に知識を詰め込んで、五百日程をかけて正規メンバーに昇格したこともある。


 逆のパターンだと、かつてのメアリーのように回復薬があるのをいいことに、毎日毎日、死に至る寸前になるまでの過酷な訓練を自分に課して、数十日程度でずぶの素人から、求める水準に至ったこともある。これについては努力だけじゃなく、才能もあると思うけどね。


 あとウチは完全に実力主義だから、即戦力と認める能力が最初からあるなら、ちょっとした座学の受講のみで正規メンバーに取り立てる場合だってある。

 我がキキョウ会は、種族、出身、身分、年齢、経歴、全て不問だ。これは最初から変わってない。気合いと根性、そして実力さえあれば誰だってウェルカムなんだ。もちろん、ウチの方針に従えない奴はダメだけどね。



 こうして見習いを卒業すると、正規メンバーとしていずれかの班に配属される。本人の能力や希望によって相談し、どこになるかが決まるんだ。

 そして、ここからが本番でもある。より本格的に特化した能力が求められてくるんだからね。


 見習いの卒業は、あくまでも基礎的な力を身に付けた証にすぎない。

 そこからが本番で、当人の望むものを手に入れられるかは、さらなる努力にかかってる。成果に報いるのはキキョウ会のポリシーでもあるからね。きちんとした見返りがあると実感できれば、さらなる努力を重ねるのが欲張りな人間らしい行動だ。そして我がキキョウ会には欲張りが多い。


 こうした日々を通じて、新たな強者や頭の回る人材が育つって寸法よ。

 評判が良くなれば良い人材だって集まってくるし、私たちの未来は明るいわね。


 不穏な気配の満ちるエクセンブラ裏社会において、キキョウ会だけは平和を謳歌し、急激な成長を続けるのであった。


あまり表には出て来ませんが、キキョウ会の構成員はこのように正規メンバーとして増え、鍛えられています。

今回は軽い内容でしたが、組織増強はまだまだ継続しています。


また、状況に大きな変化が訪れるまでは、組織増強に集中する話が続きます。

(あえて予告してしまいますが、荒事になる展開はもうちょっと先となります。)


次回「北からの使者」に続きます。

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