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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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会長の金遣い 前編

 キキョウ会の拡大戦略が進められていく中、その流れとは別のことをしてる人もいる。

 マイペースを崩さない女、花魔法使いのオーキッドリリィはその筆頭に挙げられる。


 リリィはエクセンブラの外縁部に、広い土地を植物栽培の研究施設として所持してる。

 今は私の要望によって、高品質の果物の栽培実験をやってもらってるんだ。これがまた瑞々しくも甘くておいしいのを作るもんだから、歓喜して追加の資金援助までしてしまうクオリティだ。

 この施設に来るたびに結構な額を渡してる気がする。施設の維持や研究には人手も要るから、金がかかるのは事実だしね。


 ただ、リリィをもってしても高品質農産物は大量生産ができないらしく、私を含めたキキョウ会の一部でのみ食べる量を確保するのが精々だ。彼女の今の目標は、その生産量を増やすことと、どこぞでやってる花畑拡大の継続らしい。


 それにしても、この果物は余りにもクオリティが高い。ここまでくると、これはもう単なる食物として以上の価値を持つ。ここまで美味な果物は、多分ほかにないからだ。さすがは元は王家で雇われるような特殊能力の持ち主ね。

 数種類ある果物は、今のところはどれも値が付けられない代物だろう。ということはだ。この奇跡の果物は、贈答品として非常に有効な力を持つことになる。


 今日はこの研究施設の出資者の名目でヴァレリアと一緒に遊びに来た。私は大スポンサーだからね、試食会には当然参加できる。試食会といっても大々的なものじゃなくて、リリィが雇ってる農園で働くおばちゃんや研究員くらいしか参加者はいないけど。

「このフルーツも~、と~っても良い感じです~。香りも味も~、最高ですよね~」

 ブドウの巨峰に似た果物だけど、皮ごと食べられるし皮に渋みも感じない。それどころか皮まで甘いし歯触りもいい。スッキリと爽やかな香りも良くて、実に美味だ。それに見た目もいい。赤く透き通るような薄い皮と瑞々しい果肉とで、一粒一粒が本当に宝石のようだ。

「お姉さま、これは素晴らしいものです」

 小さな口に頬張って食べるヴァレリアが微笑ましい。こういうところはまだまだ子供っぽい。

「うん、これ最高ね……ちょっと贈答用にも使いたいから、少し包んでもらっていい?」

「もちろんです~。あとで~、本部に持っていけば~、いいですか~?」

「ありがと。でも明日でいいから、今日はゆっくりお茶しよう」

 せっかくの機会に仕事の話も無粋だ。フルーツを堪能しながら、ティータイムと洒落込もう。



 高品質野菜を使ったランチまで一緒に食べてから解散すると、リリィはエレガンス・バルーンに向かい、ヴァレリアはスカウト活動に精を出しに行った。


 キキョウ会の会長たる私も、日がな一日、訓練や研究漬けなわけじゃない。ちょっとした頼まれ仕事以外にも、たまには外で活動することだってある。

 それは主に顔繋ぎだ。定期的に知り合いに会って、話を聞いたり頼みを聞いたりする。こっちの要望を伝えることもあるわね。それでもお偉いさんとの会合は副長や事務班に任せることが多いから、私が会いに行くのは個人的な知り合いがほとんどだけど。


 ウチのお膝元である稲妻通りの様子は、さすがに見慣れてるだけあって違和感があればすぐに気付く。何か噂が飛び交ってそうだなとか、見掛けない奴らが出入りするようになったなとかね。そうして通りかかる街の様子を見ながら、今度は六番通りの馴染みの店に顔を出しに行く。

 こういう時は大抵、徒歩じゃなくてバイクを出す。愛車であるブルームスターギャラクシー号を静音仕様で走らせて行くんだ。いかついバイクは注目を集めるけど、カッコ良さ重視で魔力効率度外視が理解される日は遠いだろう。ま、他人のことはどうでもいい。

 はぁ~、ゆっくり走行でもバイクで受ける風はやっぱり気持ちがいい。


 適当に買い物なんかをしつつ訪れたのは馴染みも馴染み、一番よく訪れる店だ。

「あ、ユカリさん! 例の物、持ってきてくれました?」

 服飾店ブリオンヴェストのトーリエッタさんは今日も元気だ。彼女には毎度のように金属糸や服飾に使えそうな素材を要求される。気前良くあげると、凄腕を活かした上物をこさえてくれるんで、とっても頼りになる。それに私個人の服や小物をたんまり作ってくれるのもありがたい。

「うん、色々持ってきたから後で見て」

 適当にどっさりと部品や装飾に使えそうな金属やら宝石やらを持ってきた。この人相手ならもう採算とか物の価値とかはどうでもいい感じになってる。迂闊なことを外に漏らすようなヘマはしないし、こっちのやり方に気後れするようなこともない彼女に遠慮は無用だ。気安くていい。

「いつも助かります。それで、小耳に挟んだんですが、キキョウ会はまた人数を大幅に増やすとか?」

「そう。ちょっと人手が必要になってきたからね。また外套の大量発注をすることになるから、その辺も覚悟しといてよ?」

「毎度ありがとうございます。でも苦労をするのは弟子たちですからね。師匠のわたしは悠々自適ですよ」

 弟子連中の苦労が偲ばれるけど、師匠は良い笑顔で楽しそうだ。


 キキョウ会特製の外套は、墨色の魔導鉱物『カーボニウム鉱』と月白の魔導鉱物『青輝鉱』を使う。これは軽くて頑丈の代名詞みたいな『ミスリル』の上位互換の超レア魔導鉱物で、大金を積んでも簡単には手に入らない。

 外套の見た目だけで素材まで見抜く人はなかなかいないだろうから、普通に着ててもバレないけどね。


 最初の頃は外套の作成報酬として、この超レア魔導鉱物の金属糸を渡してたけど、今は出処を詮索されるリスクを考慮してランクの落ちる素材を提供することにしてる。その代わりに一着当たりの報酬は大きな金額を出すことにしてる。トーリエッタさんとその弟子の力を見込んで、ケチケチせずに支払うことにしてるんだ。

 ウチのような組織と懇意にしてるってことは、それなりの迷惑も掛けてるだろうしね。その代金込みだ。こっちからすれば私がインチキ魔法で作ってるものだからタダ同然だけど、まぁそこは秘密だ。


 それにこの店は服飾店ってだけあって、服だけじゃなくて装飾品の類も多く生産してる。資金が潤沢なだけあって、研究開発も盛んでなにかと新商品を作る傾向にもある。単純にそういう面での面白さもあって、見逃せない店だ。だからこそ、人気も高い。


 あとは私が戦闘時に使う特製グローブもトーリエッタさん作だし、それも地味にアップデートされてるんだ。こっちこそかなり世話になってる。


 超人気有名店のブリオンヴェストは大都市エクセンブラにおいても有数の人気店として君臨するにあたって、近頃は人員も工房の拡張も大胆に進められてる。私はその費用の大部分を担う出資者でもあるんだ。

 相互利益にあるキキョウ会とブリオンヴェストだから、多少の問題があってもいい関係はずっと続いてる。今日みたいな儲け話もよく持ってくるし。

「甘味処で新作のロールケーキが出てたから買って来たわ。お茶にしない?」

「いいですね。ちょうど一息入れたかったですし」

 こうしてファッションの話から、ご近所の噂話、共通の知り合いであるマーガレットの近況なんかも話しつつ、本日二度目のティータイムを楽しんだ。


 店を出るときに、見慣れた外套を見かけて声をかける。

「あれ、メアリー? 珍しいところで会うわね」

 ストイックな生活を送る第二戦闘班の班長は、仕事以外だと休みの日でも訓練や勉強をしてることがほとんどなんだ。たまには服でも見に来たかな?

「あ、ちょっと隠しポケットのサイズを変えて欲しくて……」

 羽織った墨色の外套の内側を示してくれる。なるほど。服飾品を買いに来たんじゃなくて、お直しか。それも戦うための道具を仕込むポケットの改造だろう。相変わらずみたいね。

 戦い以外でも何か楽しみを見つけてくれるといいんだけど、今はそれこそが楽しいらしいし、水を差すのはやめておこう。ちょっとしたお直しを頼むのでも、どこか楽しそうだしね。

「そう。私は他に行くところがあるから、またね」

 微笑むメアリーに、軽い挨拶だけして別れた。



 続いて訪れたのは、個人的に最も大きな金額を投じてる工房だ。それはバイクの開発をしてもらってる、ドミニク・クルーエル製作所。

 開いたシャッターから勝手に中に入り込んで、いつものように家主に呼び掛ける。

「来たわよ、ドク!」

「……おーう、お前さんか」

 のっしのっしと奥から姿を見せたのは、大きなゴーグルを付けた樽体系の老体。通称ドクだ。


 バイクの開発資金は、すでに億に及ぶ金額は投入してるはずだし、それはさらに増える見込みだ。キリがない。しかもこれはただの趣味でしかない行為だから、回収の見込みが全くない投資だ。うん、投資とはいえない、ただの散財よね。


 私は魔力効率度外視のカッコよさ重視のバイク開発をドクに依頼してるから、世間的には今のところ需要が見込めないんだ。この趣味が理解されるような世の中になれば話は変わるけど、それを目標とするほど私も暇じゃない。ま、所詮趣味は趣味。個人的に楽しめればそれでいいし、キキョウ会の中にはこの趣味を理解するメンバーも結構いるからね。それで十分だ。


「ブルームスターギャラクシー号二世はどう?」

「お前さんの要求に応えると、既存の部品が一つも使えんからな。とにかく金も時間もかかる。まだフレームの設計も完成しとらんし、前より改良したいところもある。しばらく待ってろ」

 初代ブルームスターギャラクシー号は大型車で今でも機会を見つけては乗るようにしてるけど、無駄なほどに大きいから取り回しに困る場面もある。そこで中型車のブルームスターギャラクシー号二世を作ることにしたんだ。

 初代は外でかっ飛ばすのにこれからも使うし、二世は街乗りで使う予定だ。デザインや色も少し変えるから、その辺も楽しみにしてる。


 工房の中にはいくつかの作りかけや試作品と思わしきバイクもある。形状からして私が頼んだものとは全然違うから、別口だろう。

「忙しそうだけど、私のは優先して頼むわよ。なんせ、大スポンサーなんだからね」

「分かっとる分かっとる。ウチも若いもんを入れたからな。そこらに転がってるのは、そいつらの作だ」

 なんと、新人か。ずっと一人きりでやってるかと思いきや、人を雇うとは。なんか意外ね。

「へぇ、そいつらにも私の趣味が理解できるといんだけどね。見込みはありそう?」

「ふん、どうだかな」

 ドクは既存の移動用魔道具からかけ離れたものを作ってるし、そこにわざわざ入ろうって奇抜な若者だ。きっと変な意味での有望株だろう。変な奴は嫌いじゃないし、面白いことをやってくれるといいわね。


 ここでガレージに入ってくる人の気配を感じた。例の新しい職人かな。

「……ユカリ? 外で会うのは久々だな」

 振り向くと、よく見知った顔と巨体。

「アンジェリーナ! あんたこそ、こんなところで珍しいわね」

「こんなところとはなんだ、こんなところとは」

 ぼやくドクは放っておいて、我が第一戦闘班の班長と話を続ける。

「バイクのメンテをしてもらっててな。様子を見に来た。ユカリは?」

「私はブルームスターギャラクシー号二世の話をしに来たのよ」

 ちょっと自慢げに話してしまう。アンジェリーナは貴重なバイク仲間なんだ。ちょくちょくここに来てるとまでは思わなかったけど。

「二世? もう一台作るのか?」

 作る目的や次のデザインの話なんかをしてると、興味が出てきたらしい。

「あたしも今のより少し小さいのが欲しいな。それとドク、ウチの若いのでも欲しいってのがいるんだが……」

 第一戦闘班の若衆にも興味があるのが複数いるらしい。よしよし、いい傾向ね。


 三人でちょろっと話して、さらにドクには追加の出資の話なんかもしてから、まだ話があるらしいアンジェリーナを残して製作所を出た。

 うーん、それにしてもまた金が出ていくわね。




 六番通りを抜けてエクセンブラで一番の大店が集まる場所にやってきた。

 中央通りに軒を連ねるのは、どこも高級志向の店ばかりだ。一本路地に入れば全然違った雰囲気にもなるし、この辺はなかなか面白い。五大ファミリーの支配地域の境界地点でもあるから、賑やかな雰囲気とは別に、セキュリティも案外厳重だったりする。


 向かう先は待ち合わせ場所だ。アナスタシア・ユニオンがケツを持ってる超高級レストランに到着すると、すぐにVIP用の個室に通された。

 席料だけでも数万ジストはするような店だけど、この程度で私が気後れすることはない。なんなら一番高い酒でも注文して見せよう。っと、変な対抗意識を持つのは止めておこう。


 部屋に入ると、いきなり睨んだ視線が出迎える。ちょっと遅れ気味だったからか、待ち合わせ相手はちょっと不満のようだ。

「……あなた、遅いですよ?」

「ゴメンゴメン、妹ちゃん。寄るところが色々あってさ、また埋め合わせするから。ね?」

 アナスタシア・ユニオン総帥の妹は、相変わらずのお嬢様然とした雰囲気にちょっと凛々しさが加わったような感じの令嬢だ。

 不満げにしながらも、次の約束ができて嬉しそうな様子は可愛らしい。睨まれても全然怖くない。


 照れたのか咳払いをしながら、手ずからお茶を入れてくれた。そんな様子に構わず挨拶を済ませると、ちょっとした雑談や情報交換を始める。

「最近どう? しばらく会えてなかったけど、相変わらず鍛えてるみたいね」

「ええ、あなたに負けてから鍛錬の毎日です。兄さまにも言われていましたし、あれから欠かしてはいませんから」

 へぇ、いい姿勢ね。たしかに、前に会った時よりも、魔力量も強度も高まってるように思える。この分だと槍の技量も上がってるだろうね。お嬢の割に根性がある。やっぱり見込みがあるわね。


 とりとめのない話をしつつ、気になってた本題に入る。

「ところで妹ちゃんさ、総帥はいつ帰ってくんの?」

「……まだ分かりません。今の本家は兄さまが睨みを利かせていなければ、どうなるか分からないと聞いています。ですから、まだしばらくエクセンブラには帰ってこれないと思います」

 妹ちゃんの兄である総帥は、アナスタシア・ユニオン本家のある北方の大国ベルリーザに行ったきりだ。お家騒動のゴタゴタを抑えるべくして、実力者の総帥が呼ばれたらしいんだけど、話に聞く限りじゃまだ帰ってこれないみたいね。


 個人的には総帥がどこにいようがどうでもいいんだけど、キキョウ会の会長としてはあの総帥にはエクセンブラにいて欲しいと思ってる。

 あの総帥とその側近がいないと、単純に五大ファミリーの戦力バランスが崩れるからね。今のところは一時不在ってことで、特には何の問題も起こってないけど、長期不在やもう戻ってこないなんてことにでもなれば、情勢がどう転ぶかは予測できない。


 それにアナスタシア・ユニオンは五大ファミリーの中でも獣人族が中核を占める集団で、女性を不必要に見下す風潮がない。つまりはキキョウ会に対しても無意味に敵対してこないし、むしろ妹ちゃんと仲がいいこともあって良好な関係なんだ。

 組織として明確に味方同士ってわけじゃないけど、それでも味方の少ない私たちにとっては、貴重な存在よね。中立ってだけでもありがたい。


 ブラコンなのか単純に家族思いなのか、長らく兄に会えずに妹ちゃんも少し寂しそうだ。

「なるほどね。まぁ、気にしてもしょうがないわね。それより妹ちゃん、今度泊まりに来る? 私とジークルーネで稽古つけてやるわよ?」

「え、え、本当ですか!?」

 寂しそうな妹ちゃんを見てたら励ましたくなってしまった。立場上、親しい友達も少ないらしい妹ちゃんには、こういったイベントが嬉しいらしく楽しげだ。

 ふふっ、その時には盛大に歓迎してやらないとね。

今回はちょっと番外編的な内容となりました。

話の流れ自体は前話から継続していますので、時系列が飛んだりすることはありません。


それと長くなったので前後編に分けました。1万字超を分割です。

翌週まで引っ張る話ではないので、後編は見直しをしつつ、近日中にアップします。(予定です!)

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