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拡大の兆し

 秋も深まって気持ちのいい気候の続く昨今、キキョウ会は新たな局面に突入しようとしていた。

 今日の幹部会では、今後に向けた方針をしっかりと話し合う。すでに決まってる内容の確認って感じになるかな。


 いつものようにジークルーネが仕切りながら進行していく様子を、会長の私は黙って見守る。

「では安宿経営の継続だが、これは拡大していく方向に舵を切る」

 任せっきりになってるけど、キキョウ会が影で支配してる安宿経営は順調に従業員の育成とノウハウを確立してる。引き抜き工作で高級ホテルや中堅どころの人材にも内密に声をかけてるし、ここらで安宿経営から一気に拡大するんだ。仕込みはもう十分にやった。

「次のステップとして、高級ホテルを建設する段階に入る。計画通りだからして、特に異論はないな?」

 六番通りには、かねてから確保してあった広い土地がある。いよいよ計画が実現に移す時が来た。

「例の新しいカジノが入るって奴か」

「そうだ。ウチで最も大きなカジノになる」

 高級ホテルの中には巨大カジノができる上に、リリィの技術を活かした庭園も売りにする。エクセンブラには他のシマにも高級路線のホテルやカジノはあるけど、そことも一線を画したクオリティにするつもりだ。ウチが独自に積み上げてきた経験とリリィの力は、それを間違いなく可能とする。明確なビジョンと具体的な案まで用意されてるからね。


 さらにこの世界において、スタッフが女だけの施設ってのは独自性が凄く高いこともある。ナンバーワンを狙うのはもちろん、オンリーワンの施設ってだけでも十分に勝算を見込める。そもそもエクセンブラは高級路線の宿泊施設が圧倒的に足りない事情もあった。

 時期もいいし人員と費用の見通しも立ったからね。完成すれば莫大な資金源が生まれることになる。


「わたしたちキキョウ会の六番通りを、エクセンブラ一番の人気スポットにする計画の第一歩ですね」

「ああ。これが成功すればキキョウ会の選択肢は、また大きく広がることになる」

「デカいシノギになるな」

「金さえありゃ、世の中大抵のことはできるからな。また色々とやれるようになるだろうぜ」

「箱を造るのはまだプリエネたちには無理だろ? 早めに建設ギルドには話をつけておかねぇとな」

 高級ホテルの建設は、現状のキキョウ会の建築班ではまだまだ荷が重い。それでもできるところは全部やって貰うつもりだ。プリエネを班長にした建築班は頑張ってくれてるけど、まだ経験が浅いからね。


 基本的には建設ギルドに発注して熟練の組織にやってもらうつもりだけど、金を出すのはウチなんだからギルドも悪いようにはしないはずだ。一応、ウチだって建設ギルドに加盟してるんだからね。

 それに、やるなら巨額の事業になる。少々の我儘程度は聞いてもらわないと。建築班のメンバーとリーダーのプリエネには、ここで大きな経験を積んでもらう。


 これを足がかりに近い将来には闘技場関連のビジネスに繋げるつもりだ。こっちの方が遥かに規模が大きいし、今回のはいわば前哨戦みたいなもんだ。六番通りはキキョウ会の中核でもあるから、決して手を抜いたりはしないけどね。足場を固めるのは重要なことだ。


 ここでジークルーネは事務班に顔を向ける。

「当面は箱も中身も仕切りはフレデリカとソフィに任せることになる。計画に沿って進めてくれ。通常業務の仕切りはエイプリルに任せて問題あるまい?」

「ええ、余計なイレギュラーが起こったとしましても、エイプリルがいれば心配無用です。わたしとソフィはそちらに注力しましょう」

 今回の開発は六番通りの高級ホテル関連のみに絞られる。

 闘技場は行政区にできるから、周辺の土地はお偉いさんが前もってほぼ全部を押さえてるんだけど、そこはまぁしょうがない。棲み分けもあるし。

 ただし、キキョウ会のシマだけは特別だ。闘技場と隣接した、行政区以外では唯一のシマをウチは保持してる。


 行政区が主導する開発は活発に進んでるけど、そこは先陣を譲る。私たちの闘技場関連の開発は後発でいい。一応は後出しじゃんけんを目論んではいるんだけど、ここはどうなるにせよ失敗はないと考えてる。単純に立地がいいから、よっぽどの下手を打たなければ儲けは確実なんだ。

 焦る必要はないし、じっくりとやらせてもらう。そもそも闘技場自体の運営はキキョウ会が任せてもらう予定だってある。そのアガリだけでも、とんでもないほど莫大な稼ぎになるからね。


 だからこそそっちは後回しで、キキョウ会の中核たる六番通りに先に手をつけるんだ。足場を固めて盤石とした上で、闘技場関連のアガリが加わるようになれば鬼に金棒だ。



 そんでもって、ここからが今日の本題だ。一通りの議題を消化したところで私から切り出す。

「さて、みんな。ゴタゴタも落ち着いて、新しい事業計画も走り始めるわ。事務班は忙しくなるけど、戦闘班は余裕ができるわね?」

 あと情報班は常に忙しいから、そこは割愛だ。事務班と情報班以外は余裕があるはず。

「まぁ、そうなるかもしれねぇが。なにかあるのか?」

「余裕があったなら、それなりにやっておきたいこともありますが……たしかに余裕はできると思います」

 うん、時間ができたらやっておきたいこと、なんてのは理解できるけど、それでも暇がないってほどじゃないだろう。

 そして暇を許しておけるほどの余裕はキキョウ会にはないはずだ。細かいことは除いても、まだまだやることはたくさんある。


 よりデカく儲けるための第一歩、高級ホテルに関連する事業計画は問題なく進むだろう。

 そのための根回しはやってきたし、横やりを退けるだけの力もある。そもそも六番通りはキキョウ会のシマなんだし、思い通りにできなかったとしたらそっちの方が問題だ。


 それとは別に進めるべきことがある。将来に向けてこっちだって重要なことだ。

「なにを始めるってんだ?」

「私はずっと思ってたし、みんなも思ってたことだと思うわ。それをこれからやるのよ」

「お姉さま?」

 キョトンとしたヴァレリアがいつものように可愛らしい。


 不思議そうにする幹部みんなを見回して、一つ息を吸い込んでから語りかける。局面を変えていくための言葉だ。

「ウチもそろそろ上を目指そうと思う。いつまでも五大ファミリーにデカい顔をさせておかなくても、いいと思わない?」

「……なに?」

「それって、つまり?」

 唐突な話にまだ呑み込めた様子のないみんなに、もう少しわかりやすく言ってやる。

「これから進めるホテル事業、そしてその先にある闘技場関連のビジネスにも目途がついたわ。キキョウ会は資金面での不安がなくなるわね? つまり、五大ファミリーに匹敵、さらには凌駕する組織に拡大させるってことよ」

 私の意見を飲み込もうとするみんなを眺めつつ考える。


 裏社会の組織ではまだ相互不可侵協定が有効だけど、近い将来には破棄される見通しだ。それが直近の総会になるか、その次になるかは読めないけどね。

 政治的な都合で協定は辛うじて維持されてるけど、いつまでもそれが続くことはないんだ。

 その時に備えて積極的に拡大戦略をとる。キキョウ会を一気にデカくする。それが私の考えだ。


「キキョウ会のさらなる拡大ですか? たしかに、資金面では問題ありませんね」

「……五大ファミリーに匹敵、凌駕だって?」

「ははっ、面白れぇ! 今でも負ける気はねぇが、人数差は歴然だからな。また人を増やすってことか?」

「取り敢えずはそうね。五大ファミリーに比べて一番劣ってるのが人数だからね。まずはその弱点を減らしたい」

 デカいことをやるには人数が必要になる。今以上に忙しくなると人手にも困るからね。要は人材の確保を初期のころのように、今まで以上に積極的にやろうってことだ。

 キキョウ会の活躍以降、女の団体は小さいのも含めれば数は増えて来た。使えそうな団体は吸収してしまうのも手ね。

「我々キキョウ会に加わりたいと言っている希望者は絶えないが、こちらからも積極的に獲りに行くという事だな?」

「うん、今でも少しづつは増えてるけど、もっと増やしたい。例えば、どこかの五大ファミリーを潰したとして、その全部を替わって支配できるくらいのね」

 みんなの目が爛々と輝いてきた。


 私は言ったことは必ずやる。これがどういうことか、理解できたはずだ。

 いずれ必ず訪れる抗争に対する備えだ。


 キキョウ会はただ攻められて撃退する受け身の存在じゃなく、獲りに行く存在に変わる。

 戦力を増やし、新たなシマの獲得を目指す。

 邪魔な存在を叩き潰して奪い取る。

 次のステージに、のし上るんだ。


「さっそく見込みのありそうな連中に声かけに行きますか?」

「よっしゃ、とことんやってやろうぜ!」

「いざユカリの口から聞くと、こう体が熱くなってくるぜ。本気なんだろ?」

「こうなってくると、まだ先の話だけど待ち遠しいな」

 そうだ。私たちキキョウ会が今のままでいる必要はどこにもない。そろそろいいだろう。

 いつまでも五大ファミリーにデカい顔をさせておくのは気に入らなかったんだ。キキョウ会には対抗できる下地があるし、それをもっともっと伸ばす。

 どこだろうと余裕で相手にできる力を手に入れてやる。


 キキョウ会は構成員の育成にも余念がないから、確保した後の方が大変だ。

 一朝一夕にウチが求めるクオリティには成長できないから、なにごとも前もって進める必要がある。即戦力の確保は難しいからね。

 それでも育成のノウハウは大分整ってきたし、訓練教官役は幹部がやらなくてもいいくらいに若衆にも有望株がたくさんいる。いくら人数が必要だからって、私は質を落とすことを認めはしない。


「差しあたって、どことやる気なんだ?」

「ボニーは気が早いわね。まだ先の話よ?」

「へっ、そうだな。マクダリアンだろうがクラッドだろうが、派手な喧嘩ができるならあたしはどこでもいいけどよ」

 最初にどこを狙うかってのは、その時の状況によるだろう。

 蛇頭会は虫の息だから、あそこのシマはどこの組織も必ず積極的に狙う。裏じゃすでに暗闘を繰り広げてるって話もあるしね。大っぴらに始まったとき、その抗争に割って入るか、油断してる別のを狙うか。ま、その時になってみないと分からないわね。


 だけどね。私の個人的な考えでは、どこを最初に潰すかは決まってる。

 ウチの目の上のたん瘤を叩き潰すんだ。それはもちろん、マクダリアン一家だ。首を洗って待っておけ、って感じね。


「じゃあ、みんな。そのつもりで有望なのがいれば、前みたいに引っ張ってきて。ウチが攻勢に出るには、人数の確保は必須事項よ」

「おう!」

 ヴァレリアはスカウト活動をやってたし、気合いも新たにまたやってくれるだろう。

 大規模な抗争に発展するとしたら、今度こそウチも五大ファミリーにとって本格的に排除の対象になるかもしれない。その時には二正面や三正面、もしかしたらそれ以上を強いられることだって有り得る。


 守りと攻め、それに新規事業が増えることもあるし戦いだけが全てじゃない。どうあっても近い将来、とにかく人手が必要になるのは間違いないんだ。パートタイマーも必要だけど、特に戦える正規メンバーがね。どうしても必要だ。

 普通に考えて、ウチと比べて十倍以上の構成員を揃えた組織を複数同時に相手取ろうなんて正気じゃない。だからこそ人数差を少しでも埋める。短期間で完全に埋めることは不可能だけど、埋まらない分は実力差で補うことになる。そこは妥協ポイントだ。


 いずれにせよ状況がキキョウ会がこのままでいることを許さなくなる。

 停滞は滅びの始まりで、成長することでしか私たちが生き延びるすべはない。


 そして感情的なことを言えば。

 私は誰にも舐められたくないんだ。社会的な風潮だとか、常識だとかに捕らわれてる奴らの鼻を明かしてやりたい。少なくとも、エクセンブラの街において、私たちはそういう存在に成り上がる。きっとそれはメンバー全員が共有する想いと信じる。


 私たちキキョウ会は、次の段階に進む。

新展開もよろしくお願いします。

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