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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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半端者と本職

 ちょっと目を離した隙に、包囲網の戦いは熾烈さを極める勢いになってる。

 あれはなんというか、なりふり構ってられない不良冒険者とノリのいいキキョウ会メンバーとのコラボレーションの結果みたいなもんか。

 それは遠慮なく、際限なく、無意味に破壊をまき散らすアホな行為だ。


 流れ弾上等で攻撃魔法を撃ちまくり、周囲にある物への損傷をまったく気にせず武器を振るう。

 無数の建物から整備された通路、街灯にベンチに花壇や街路樹、路駐してある車両まで、もう目に入る全ては滅茶苦茶だ。すでに瓦礫の山と化してる建物もあるし、無傷な物なんてまずないだろう。


 しかもここはエクセンブラの中心地、街にいくつかある広場でも最も大きな場所だ。広場を囲むのは主要なギルドや大手組織の建物で、エクセンブラの行政機関を除けば街の心臓部といっても過言じゃない。


 どんなにぶっ飛んだ馬鹿でも、ここで大それた破壊行為をしようなんて考える大馬鹿はいない。私の目に映るあいつらは、ただ何も考えてないだけの阿呆だけど、まぁ、結果は同じよね。

 あー、うん。これはちょっとどころじゃなく、やってしまった感があるわね……。


 救いといえば、この戦域の中に無関係な人は避難済みで誰もいないことと、火事が起こってないことくらいか。

「…………これはさすがにマズい、いや、もう遅いわね。一応、今からでも抑えるよう言うべきか……」

「冒険者ギルドはギルド長のみならず、一味の者が私腹を肥やしているのではないですか? 彼らにはもちろん、冒険者ギルドそのものにも責任はあるのですし、弁償させれば問題ないかと」

「うーん、それで済めばいいけどね」

 あれだけ破壊が広がれば、被害額も相当なものになるのは間違いない。


 冒険者ギルドやその関係者の弁償で補填できればいいけど、足りなかったらウチが負担せざるを得なくなるかもしれない。かもしれないどころか、まず間違いなく足りないだろうし、ウチの責任もどうこう言われるのは間違いないだろう。少額なら別にいいけど、あんまりにも大きな額となれば私たちの事業計画にも影響するからね。

 ウチとしてもやりすぎてるのが明らかな以上、強弁して逃れるのも難しい。なにせ記者が間近にいるしギャラリーだっているんだ。下手な言い逃れは返って立場を悪くするだけだろう。


 それに金の問題だけじゃない。これだけのことを起こしてしまったってのが問題なんだけど、まぁいいか。どうにかなるなる。ならなくても、なるようにするまでのことよ。

 すでに起こってしまった過去のことより、未来のことを考えるのが健全よね。うん、若干現実逃避が入ってるけど。


 ただ、ここまでしておきながら全く無秩序な戦い方をしてないキキョウ会メンバーにも、それはそれで腹が立つ。

 プランとしては包囲陣を崩さず乱戦には持ち込ませない、不良冒険者は一人たりとも逃がしはしないってものだった。特に誰も逃がさないってのが重要なポイントだ。

 あれだけ派手な戦いをしておきながら、それだけはキッチリと守ってるところが、頼もしいやら腹立たしいやらだ。


 まぁ、ここまでやってしまったんなら、今さらもうどうしょうもない。ここから慎み深く戦っても、被害額に差なんて出ないだろうからね。もうトコトンやってしまえばいい。

 それに戦いの趨勢はもう定まった。



 生き生きとして戦うキキョウ会メンバーの姿は、ある種の畏怖を覚えさせるだろう。


 戦闘班はここぞとばかりに実力を発揮してる。その先頭に立つのはもちろん幹部だ。

 第一戦闘班の、アンジェリーナとヴェローネ。

 第二戦闘班の、メアリーとブリタニー。

 第三戦闘班の、アルベルトとミーア。

 第四戦闘班の、ボニーとリリアーヌ。

 第五戦闘班の、ポーラとシャーロット。


 第一から第五までの班長と副長は、絶対的な強さと存在感をまざまざと周囲に見せつける。ウチの若衆へはもちろんのこと、従軍記者となって参加してるたくさんの記者や遠くから見てるはずのギャラリーたち、そして死にゆく不良冒険者たちに対しても。


 悪鬼羅刹、修羅のごとき戦い方は、きっと見た者の心に消えない衝撃を刻み込むはずだ。

 受ける攻撃を何事もなかったかのようにはね返し、負傷しても怯む事が一切ない。振るう攻撃はその全てが死の一撃だ。血煙の中に身を置いて、それでもまだ足りないとばかりに敵の血を求める姿は、地獄の鬼か死神かと見紛うばかり。

 しかも近距離、中距離、遠距離のどこにいても逃れられない死の一撃が襲い掛かる。それぞれの武器や魔法適正も様々で、非常に見ごたえもある。

 うん、そうだ。それでいい。存分に見せつけてやるがいいわ。キキョウ会の実力を疑う阿呆がもう出てこないように。


 そして戦闘班以外の幹部も負けてない。

 シェルビー、ジョセフィン、オルトリンデ、グラデーナ、まだ幹部候補だけどゼノビアも。

 こっちはこっちで、遥か高みから見下ろすような圧倒的な強者ぶりだ。


 普段は地味な役割のシェルビーや情報班の二人までもが、ここぞとばかりに力の証明を実践してる。個人の戦闘力は普段の訓練から戦闘班と共にすることが多いし、決して劣るものじゃない。この三人については前線に立つよりもサポート役を期待してたんだけど、どういうわけか普段のうっ憤を晴らすかの如く暴れ回ってる。


 それと、グラデーナとゼノビアに関しての強さはもう言及するまでもない。

 むしろこの二人は直接の戦闘力よりも、周囲の味方を的確にフォローし、実力以上の力さえ引き出すようなカリスマ性が際立つ。戦場におけるその圧倒的な存在感は、ジークルーネとアンジェリーナなんかにもあると思うけど、有志の戦士たちの中に身をおいてる状況ではよく目立った。


 これだけの幹部が包囲陣に加わってる。

 誰も彼もがキキョウ会自慢の幹部たち。悪ふざけがすぎるようだけど、敵を逃がさないという一点だけは律義に守ってくれてる。

 若衆も溌溂としてるし、ウチのメンバーに引っ張られるようにして有志で集まった連中も、開き直ったように恨みを晴らす機会を無駄にしない。

 怒りから始めた戦いだけど、今は楽しそうにはしゃいでるようにしか、私には見えない。はたから見れば、ただひたすら恐ろしいだけだろうけどね。

「ったく、どうしょうもない連中ね!」



 不良冒険者なんて所詮は半端者の集まりだ。

 どんな事情があって道を踏み外したのか知らないけど、まともに冒険者をやってれば実力さえあるなら稼ぎだって悪くはないし、なにより人気の職業だけに英雄みたいになることだって夢じゃない。なにも世界に名を轟かせる英雄じゃなくても、その街の中の英雄になるだけでも大したもんのはずだ。

 英雄が性に合わないなら、それこそ裏社会に入る道だってあるんだ。

 それがどうしたことか、中途半端に一般社会の弱者を相手に粋がるだけの人生なんて、情けなくて涙が出るわね。


 悲しい出来事があったから?

 その道に走らざるを得ない事情があったから?

 それとも、私なんかには想像もできない大きな理由でもある?


 だからなんだってのよ。比べることに意味なんてないけど、ウチには悲惨な過去やどうにもならない事情を抱えた娘なんて、それこそアホみたいにたくさんいる。ましてや、この世界じゃ珍しくもなんともない。


 まさか、大の男が悲劇のヒロイン気取るわけじゃないわよね?

 聞いたらどんな大層な理由を並べ立ててくれるんだろうね?

 それとも、ただ楽しいからやってるだけの外道? つまらない理由を並べ立てられるよりは、そっちの方がよっぽどマシだけどね。


 ま、話したかったとしても、聞いてやるつもりなんて一切ない。世の中にそんなお人好しは、極々限られた少数派だろう。

 私たちがしてやることは、ただ一つ。ぶちのめして、引導を渡してやることだけだ。


 奴らはきっと勘違いをしてたんだろう。

 多分だけど、裏社会の組織との本格的な対立なんて、さすがに考えてなかったと思う。この程度の戦力で五大ファミリーが仕切るエクセンブラ裏社会に進出しようなんて無理だし、そのつもりならもっと準備に時間をかけるはずだ。

 だけど、相手がキキョウ会だったから舐めた。

 私たちはイレギュラーな存在だ。多くの大物組織と対立し、裏社会じゃ事実上孤立してる組織。しかも女だけの集団だ。簡単に潰せると、盛大な勘違いをしてやがったんだ。

 そして今がその代償を支払うとき。


 不良冒険者ごとき、本気で悪党やってる私たちの敵じゃないってことだ。


 包囲陣の様子はもういい。ほっとけばその内に終わる。

 すでに掃討戦に近いものがあるしね。逃げ出そうとする敵もいるだろうけど、それを許すほどウチの連中は甘くない。



 周辺の防御陣地とそこに踏み込む勢力の戦いから、中央広場の戦いがメインに変わる。

 場所の問題じゃなくて、そこには不良冒険者の中でも一番の精鋭が集まってるからだ。


 本来なら敵は有利な防御陣地を築いて、万全の態勢で迎え撃つ構えだった。

 だけど敵の不用意な行動と、私の投擲によってはそれは戦いの前に台無しにされてしまった。


 残されたのは正面からのガチ勝負を余儀なくされた敵と、不利な状況を楽しもうとさえしてたジークルーネとキキョウ会の若き精鋭たち。

 覚悟が違う。

 気合が違う。

 戦いに臨む姿勢、精神性、なにもかもがスタート地点からまったく違う。


 相手になるはずがない。

 不良冒険者の精鋭、そのことには何の意味もない。

 それは半端者たちの精鋭。これほど虚しい精鋭がいるだろうか。

 そして、そもそもの強さが、レベルの次元が違った。


「お姉さま、そろそろ行きましょう」

「いよいよクライマックスってところか。そうね、私たちも行くわよ」

 元気に頷くヴァレリアとヴィオランテ、それと予備部隊を率いて中央広場、そして冒険者ギルドに向かうことにした。

 手駒はもうほとんど潰した。あとは本命の親玉だ。



 瓦礫の山を踏み越えて、中央広場に陣取るジークルーネと合流しようと到着すると、すでにウチの戦力は集結済みだった。

 休んでるのや治療中のも結構いるわね。怪我を負ってるのが敵にやられたんならともかく、味方の流れ弾だったりに巻き込まれてだったらアホっぽいけど。

「全員揃ってるみたいね」

「ああ、キキョウ会メンバーに問題はない。記者や志願の者たちには重傷者が出ているようだが、顧問の二人がいればどうにかしてくれるだろう」

「あの二人でどうにかできないなら、もうどうしようないしね。それにヘマをするような人たちじゃないわ。心配無用よ」

 治癒師の手が足りなくても第三級以下の各種回復薬がたくさんあるから、死んでさえいなければ問題なく治せる。

 この戦いの参加者には漏れなく元気に帰って欲しい。そしてこの戦いの様子をつぶさに伝えてもらいたい。回復薬程度は参加賞で大盤振る舞いしてやる。


「んじゃ、そろそろ親玉のツラでも拝みに行くか?」

「ぶっ殺してやりてぇところだが、そういうわけにもいかねぇんじゃ、あたしらは行かない方がいいかもな」

 ボニーとポーラはそれがいいかな。

 それにね、どうやらこの期に及んで、まだ手を出してくる奴らがいるらしい。そっちを任せた方が適任だろう。

「皆さん、急速に接近する者たちです! あちらから間もなく来ます!」

 ヴィオランテが分かりやすく手を向けて知らせてくれる。


 敵の動きは私も掴んでる。近付いて来れば来るほど分かるけど、これは私たちに向かってくる位置取りじゃない。

「ギルド前を固めろ、奴らを通すな! 後続と上方の警戒も忘れるなよ!」

 ジークルーネの大声に即座に守りを固めるキキョウ会と、姿を現す黒尽くめの一団。また黒尽くめか。芸がないし、むしろ分かりやすいその恰好は止めた方が無難だと思うけどね。

 思った通りに私たちを標的とした動きじゃない。冒険者ギルドに向かって一直線に進むコース取りは、それだけで何をしようとしてるか分かるってもんだ。

 それはもちろん、ギルド長の口封じだろう。


 他に道がなかったのか、堂々と私たちの前に姿を現すとは、舐めた真似してくれるもんね。

 こいつらもプロの端くれだし、捕えても情報を吐かせるのは難しいだろう。

 それでも誰の子飼いかくらいは知っておきたいところだけど、その辺をどうするかは、ここにいるジョセフィンとオルトリンデに判断させよう。

「私は中に入るわ! あとは任せる!」

 この程度の連中相手に私たち全員が相手をする必要はまったくない。いくらなんでも過剰な戦力ってなもんだ。



 戦いの場において自然と役割分担できるのは、キキョウ会のいいところの一つだ。

 邪魔者の排除をするメンバー、怪我人や手当てをしてる人をバックアップするメンバー、周辺防御や偵察に回るメンバー、連絡に走るメンバー、そして私についてくるメンバーだ。

 邪魔が入るのを嫌って、ここからは余人を排除する。特に記者は一緒に来たかったみたいだけど、その前に私たちの雰囲気や暗殺者の襲撃があったからか言い出せなかったみたいね。記者なんてやってるくせに随分と殊勝な奴らだ。ついて来ようとしても下がらせたけど。


 私とヴァレリア、ジークルーネに案内役のヴェローネ、それからグラデーナまで付いて来て冒険者ギルド内に乗り込むと、そこは無人の空間だ。それは魔力感知で外からでも分かってたこと。

 平時なら夜中であっても少数の当直の職員くらいはいるはずだけど、オフィリアたちからの勧告に従って避難したのか誰もいない。

 小悪党のギルド長であっても、シンパや協力者くらいはいると思ったけど、どうやら人望はあんまりないみたいね。それにしても護衛や腹心の気配までないってのはちょっとだけ気にはなる。


 無人のギルドにずかずかと入り込んで、細かな魔力反応も確かめながらギルド長の部屋を目指す。

 至る所に小さな魔力反応はあるものの、今のところ罠の類はないらしい。

「敵の親玉は一人みてぇだな。こりゃあ、覚悟を決めたか?」

「深く知っている間柄ではないけど、それはないかな。あれだけのことを仕出かして、逃げるでもなく待ち構えているのが気にはなるけど、そんなに潔い人物ではないと思う」

 グラデーナとヴェローネの雑談を聞きつつ私も思う。

 覚悟か。そんな殊勝な奴なら面倒が少なくていいけどね。


 所々に風穴の空いた壁を見掛ける役所然とした建物を我が物顔でどんどん歩く。

 そして妨害もなく、ネーム入りのプレートのかかった部屋に到着した。


 さて、あんなふざけた真似したあげく、喧嘩まで吹っ掛けて来た阿呆にいよいよご対面だ。

 どんなバカ面下げてるか拝んでやろう。

次回「先を行く敵の狙い」に続きます!

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