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真相へ至るきっかけ

 不良冒険者の隠れ家に殴り込んで、私とグラデーナは圧倒的、絶望的な力の差を誇示した。

 私たちの気迫に呑まれた奴らを蹂躙してやろうと思ったところで、奴らのリーダーだけは状況を覆すべくまだ諦めない。

「ちっ、馬鹿どもが! お前らっ、何のためにここに誘い込んだか思い出せ!」

 この一言だけで空気が変わった。


 如何にして生き残るか、逃げるかって後ろ向きな感情よりも、積極的に倒してやろうとする熱の入り方に変わったんだ。半分以上は自棄なのかもしれないけど。まともに戦っても勝てない、逃げることさえできそうにない、だったらもう開き直るしかない、そういうことだろう。

 やる気になったんなら、それはそれで構わない。私たちは受けてやるまで。


 仲間が立ち直ったのを察知したのか、リーダー格がここで動き出した。

「どけっ」

 仲間をかき分け、脇目も振らずに後ろに向かってダッシュすると、操作卓っぽいところに手を触れた。

 すると仕込まれた魔石から魔力が供給されて、地下の至る所に魔力が満たされる。


 ジョセフィンが言ってた魔道具の罠か。今頃になって起動させたみたいね。切り札として使うまでもないと思ってたか、ピンチになったら起動させればいいとでも思ってたんだろう。

 罠の発動を受けて不良冒険者どもが活気づく。

 私たちを舐めることはしなくなって、慎重に防御を固めつつ魔法を使ってブーストまで掛けてるみたいね。さらにはジリジリと後ろに下がりつつ、罠のある場所に誘導しようとしてるらしい。あからさますぎて"罠"という意味では、もう成り立ってない。奴らにとってはもう他に手がないんだろうけど。


 別にいいわ。なんでもやってみればいい。私はそれごと踏み潰すだけ。

 グラデーナは後ろに下がって見物を決め込むらしい。ただそれは、もしもの場合の備えだ。どうにもならない罠があったとして、二人同時にそれに掛かってしまえばかなりのピンチだ。バックアップがいるからこそ、私もより大胆に行動できる。


 発動して私を待ち構える魔道具の罠。魔力の巡りからして、それは複合的な物と思われる。

 だけど、所詮は個人宅に設置できる規模の罠にすぎない。大がかりな罠があるとは考えにくいし、建物が傷むような火攻めとかもないだろう。

 となると、最近流行ってるガスとかかな。


 直後、前方と後方の天井から、行く手を遮るように落下する壁。

 まんまと閉じ込められたか。まぁ、私を閉じ込めるには不足な強度っぽいけど。

「なんか防火シャッターみたいな壁ね。隙間もないし、思ったよりも分厚くて頑丈みたい」

 もしかしたら、本当に防火シャッターとしての機能もあるのかもしれない。なんとなく感心してると、今度は横壁の上に開いてた穴から、なんと水が流れ落ちてきた。それもかなりの勢いで。

「まさかの水攻め? 濡れるのは嫌よ」

 服を着たまま濡れネズミなるのは御免被る。魔法で生み出した水だろうから、汚水ではないと思うけどね。

 水の出る穴に物理装甲をガッチリと食い込ませるように生成して完璧に塞ぐ。行き場を失った水がどうなるかなんて考えてやらない。


 うん、この罠は水攻めにするだけみたいね。あとは防火シャッターを破るだけだけど、ただそれをやるだけじゃ面白くないわね。

 ちょっと驚かしてやるか。


 まずは閉じ込められた空間から出るために、防火シャッターじゃなくてあえて天井を破る。

 ブーツの足で軽くトンっと石の床を踏みしめると、槍と化して激しく隆起し、天井に大穴を開けてしまう。


 大穴から跳び出して一階に戻ると、地下で防御を固めてる奴らの上まで歩みを進める。

「……うん、この辺でいいかな」

 天井を破った時の轟音が気になってるんだろう。魔力感知で位置を確かめると、慎重に防御を固めながら様子を窺ってるらしい。

 割と広い通路に布陣した奴らは前衛と後衛を切り分けたような構図で、真ん中が広く開いてる。

 まるで私のために整えられた舞台のようじゃない。ふふん、ここに飛び込んでやればいい感じに驚いてくれるだろう。


 よし、派手に行こう!

 私はあえて魔法を使わず、特製グローブの拳を振りかぶると、石床に向かって叩きつける。

 粉砕した石床の瓦礫と共に落下しながら、不良冒険者どもの驚愕に満ちた顔を眺めて少し満足感を覚えた。


 華麗に着地を決めて乱戦に持ち込んでやる!

 空中で着地の姿勢を取りつつ、ここに至って私は自分のミスに気が付いた。

 あ、これ、罠だ。


 着地を決めるはずの床は、ただの光魔法を応用した映像だ。つまり、物理的な床は存在しないことになる。

「あっーーー!?」

 何かをしようとするにはすでに遅く、私の体は映像の床を通り抜けていった。




「いよっしゃーーーーーーーーー!!」

「あの化け物を倒したぞ!」

「まだだ! 余裕こいてねぇで、早く床を閉じろ!」

「ビビってんじゃねぇよ! もう一人の女もこの調子でやりゃ、楽勝じゃねぇか!?」

 歓声やら怒声やらが上から聞こえてくる。すぐに床が閉じられたみたいで声は聞こえなくなったけど。

 あー焦った。落とし穴とはまた古典的な。

 久しぶりに肝が冷える場面だったけど、なんとかなったわね。


 取り敢えずは咄嗟に壁を殴って穴でも開けようかと思ったけど、落とし穴自体が思ったよりも広くて手が届かなかった。

 次に魔法をと思ったけど、もうその時には穴の底で間に合わなかった。

 穴の底に何があったかといえば、鉄の槍が何本も垂直に埋め込まれた剣山のような穴底で、これまた定番のものだった。


 そこに落下した私はといえば。

 うん、普通に着地した。鉄の槍をへし折って、豪快に着地してやったわよ。魔導鉱物を使ったブーツは、私の魔力で硬化されて通常の刃物程度じゃどんなに勢いがあっても破れない。身体を掠める鉄槍も、キキョウ会特製の外套を傷つけることは出来はしない。

 実は暗くて底が見えなかったから、着地のタイミングも分からなくてかなり怖かった。


「……なんとかなったけど、死ぬかと思った」

 暗闇を落下する恐怖は想像以上だった。ただ単に高所からの落下なら特に問題ないんだけど、さすがに着地のタイミングを計れないのはかなり怖い。

 すぐに魔法で灯りを確保してみれば、最近作られた設備なのか、積もった埃もなければ埋め込まれた槍も新品そのもの。不良冒険者が潜伏中に新設されたものだろう。

 他に落ちて殺された人もいないようで、ここには何もない。出口だって当然ない。這い上がらないと出られないわけね。まぁ、どうとでもできる。


 うーん、だけどこれはちょっと反省しないといけないわね。

 どんな罠だろうと乗り切れる自信はあったし、そもそも罠自体に嵌らない自信だってあったんだ。

 それがものの見事にハマってしまった。結果としては無事だったけど想定外だったし、結果論であることには違いない。


 可能性としては検討にも値しないほど薄いと思うけど、穴の底にあったのが鉄槍じゃなくて溶鉱炉みたいな施設だったとしたなら。私はもう死んでたかもしれない。

「はぁ……、我ながら情けない」

 反省モードに突入しつつも上の様子を魔力感知で探ってみれば、大混乱が巻き起こってるらしい。

 グラデーナが防火シャッターをぶち破って暴れてるみたいね。

 このままやられっ放しで終わったんじゃ、こっちの気も済まない。急いで上に行こう。



 今度は下から上に向かって床をぶち破って登場だ。

 吹き上がる瓦礫をまといながら地下の戦闘空間に躍り出ると、多数の動かなくなった不良冒険者どもが見える。戦いはすでに終盤らしい。グラデーナめ、仕事が早すぎるわよ。

「おう、ユカリ。帰って来たな」

「待たせたわね。あとは私にやらせなさい」

 ニヤリと笑うグラデーナは、多少は暴れられて満足したのか素直に下がる。

 好機と見たのか、残った不良冒険者どもも一斉に下がって陣を組み直した。こういうところの連携だけは冒険者っぽいわね。


 またもや罠への誘いっぽいけど、もう通用しない。まんまと罠にかかった私が言っても説得力がないから言葉にはしないけど。

 それでも、今度こそ罠ごと踏み潰して蹂躙してやる。


 地下通路に張り巡らされた魔力の通りを見極める。

 踏み出した数歩先に、それは来る!


 迫り来る罠は、これまた随分と古典的なものだ。ギロチンみたいに上から巨大な刃が降ってくる。あらかじめ魔力感知で罠かあることが分かってた私には何の脅威にもなってない。見もせずに特製グローブの手で掴み取る。この程度、盾を使うまでもない。

「それで?」

 巨大ギロチンを根元からへし折ると、投擲して一部の敵を薙ぎ倒す。


 また歩みを進めると、もう一つのギロチンが降ってきた。

 同じように掴み取って、同じように投擲すると、また敵の一部を薙ぎ倒した。


 さらにギロチンが降ってきた。しつこく繰り返されるギロチン攻撃は、罠を張ったはずの不良冒険者にとっての死の刃だ。

 降ってくるギロチンの分だけ、投擲を繰り返して敵を薙ぎ倒す。

 そうして、残すはただ一人。リーダー格だけが残された。


 最初の余裕が全くなくなった不良冒険者は顔面蒼白だ。

 私とグラデーナの容赦のなさは、もう十分に理解してるはず。ここに至って生きてられるのも、ただ私たちが攻撃をしなかったからにすぎない。奴が自分の力で生き延びたわけじゃないんだ。

「ま、待て! ちょっと待ってくれ!」

 待てと言われて待つ奴はなかなかいない。でも私は天邪鬼だからね。少し話を聞くくらいはしてやろう。

「……頼みの仲間はいなくなったわよ? それで、どうすんの?」

「と、取引だ! 取引と行こうじゃねぇか! 俺はお前らと敵対してる奴らの情報を握ってる。わ、悪くはない話のはずだ!」

 なにを抜かすかと思えば。

「取引? お前さ、取引ってのは対等の立場でしか成り立たないのよ。お前が選べるのは、知ってることを素直に話して楽に死ぬか、拷問されて苦しんだあげく吐かされて死ぬか。そのどっちかね」

 こいつの運命は決まってる。キキョウ会を決定的に敵に回したんだ。これまでやってきたことからして、どうあってもケジメは取らせる。命でもって。それに使い捨てにすぎない不良冒険者如きが重要な情報を持っているとは思えない。最悪は偽の情報を刷り込まれてることだってあるんだ。


 私は泣き言なんて聞くつもりはない。喚きそうになる奴をぶん殴って黙らせると、そいつだけ抱えてさっさと撤収する。

「グラデーナ、私たちはもう行くわよ。ジョセフィンはまだ中にいるみたいだけど、そっちは放っておこう」

「おう、戦利品も回収したからな。もうここに用はねぇ」

 私が戦ってる間に、ちゃっかりと不良冒険者どもの装備から高価なものだけ頂戴してたらしい。まったく、抜け目がないわね。

 他にも何か有用なものがあれば情報だけじゃなく、ジョセフィンがしっかりとちょろまかして来るだろう。

「行くわよ」

 残したジョセフィン以外には無人の屋敷を出ると、乗ってきたジープで本部に戻った。




 その後の尋問や新たに入手した情報の精査、裏取りまで全てを情報班はつつがなく行ってくれた。

 重要なのは不良冒険者どもと繋がってた組織の情報だ。


 まずは学校に対してテロをしかけた事件が発端だ。これに関与してた黒幕は、五大ファミリーの一角であるガンドラフト組でほぼ確定した。

 蛇頭会の弱体化後は人身売買や誘拐ビジネスにより一層の力を入れてる組織だけあって、これは予想の通りだった。

 うだつの上がらない不良冒険者どもを唆して、楽に稼げる上に後ろ盾になってやるなんて丸め込んだらしい。

 用が済めば捨てられるなんてのは簡単に想像できそうなもんだけど、下手に実力があって金に目がくらんだ連中には良く効く誘い文句でもあったんだろう。


 そしてキキョウ会にとっての問題はその後だ。

 サラちゃんのことがあって、偶然にも関わることになったキキョウ会。結果は不良冒険者どもを蹴散らして、ガンドラフト組の思惑をつぶした格好だ。それはいいんだけど、半殺しにした奴らの支援を始めたのが別にいたんだ。ガンドラフト組はその時点で、当然のように奴らを見捨てて手を引いてたらしい。


 切り捨てられた不良冒険者どもを直接に支援してたのは、前もって分かってたけどマクダリアン一家の四次団体。だけど、そんな木っ端組織が支援できるレベルを超えた状況が、そいつらの本拠地にはあった。

 私たちを嵌めるための罠は、その設備を作るだけもそこそこの金がかかる。その費用は誰が用意したか?


 設備だけじゃない。ほとんど役には立ってなかったけど、不良冒険者どもの充実した装備や回復薬。それに生活のための様々な物資まで。到底、木っ端組織や不良冒険者が準備するには荷が重い。ジョセフィンたちになかなか情報を掴ませなかった隠ぺい工作だってあった。

 物的な証拠は見つかってない。だけど、状況からしてそれが可能なのは、マクダリアン一家の本家しかないだろう。

 マクダリアン一家は不良冒険者を使って、キキョウ会への悪質な嫌がらせをしてたってことになる。

 奴らにも、いずれ必ずケジメを付けさせてやる。



 こうして不良冒険者狩りについては、一応の決着がついた。もちろん、全部を駆逐したわけじゃないし、これからだって外からやってくる奴らはいるだろう。それでも実績を作った以上は、エクセンブラじゃその手の輩は減るはずだ。

 それと、まだ普通の冒険者たちは肩身の狭い思いをしてるらしいけど、時期が時期だ。しょうがないと諦めてもらうしかないわね。恨むなら問題を起こす不良冒険者と、それを放置してるギルドを恨むべきだ。

 こっちは被害者なんだから、文句を言うならそいつだって容赦しない。幸いなことに、今のところはそんなのはいないみたいだけど。少なくとも表立ってはね。


 ところがだ。予想を超えたところから文句がやってきたんだ。

今年最後の投稿になります。

読者の皆様に最大級の感謝を捧げます。いつもありがとうございました。

良いお年を。また来年会いましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 罠と知った上で驕って結果罠にはまる。 ケジメ案件で乗り込んだのに踏み台やられ役のテンプレムーヴは……ダサすぎて読むのやめようかと思いました。
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