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支配者のケジメ

 殴り込み先のマクダリアン一家の四次団体は、キキョウ会に隣接したシマに居を構えてる。移動にも大して時間は掛からない。

 グラデーナの運転する中型ジープに乗ってると、すぐに目的の建物の近くに到着した。


「あ、ちょっと離れたところで停めてもらえますか? 歩きながら話したいことがありますので」

「ん? おう、じゃあもう少し走るぜ」

 ジョセフィンの謎の指示によって、目的地から離れたところでジープを降りる。


 さてと、ちょっとくらいは根性見せてくれる相手ならいいんだけど、一度半殺しにしてる奴が相手じゃ程度も知れてるわね。あ~あ、久しぶりの殴り込みだけど、あんまり面白いことにはならないかな。

 隣を歩くグラデーナも同じことを考えてるのか、これから殴り込みだってのに随分と退屈そうだ。

 私とグラデーナのつまんなそうな顔を見たジョセフィンは、なぜかニヤリとして話し始める。


「……実は言ってませんでしたけど、これって罠なんですよ」

「罠だって? なに言ってんだ?」

「は? どういうことよ?」


 意味が分からない。罠ってなによ。


「あれだけ上手く隠れていた不良冒険者が、今日になってあっさりと所在を掴ませたんですよ? そりゃあ怪しいってものですよ」

「まぁ、そう言われりゃそうだけどよ」

「それで罠ってのは、具体的にはなんのよ? そこまで調べてあんのよね?」

「バッチリですよ。ですからこのまま真っ直ぐに前を見て、なにげな~い感じで歩いていてください。今、わたしたちは見張られていますので」


 へぇ、そういうこと。周囲に人はちらほらといるから、魔力感知を使っても誰がそうなのかイマイチ分からないけど。それに肝心の罠の内容も。


「こちらが罠にかかっていると思わせて、連中にひと泡吹かせてやりましょう」

「ひと泡吹かせてやるのは良いが、罠ってのはなんなんだよ。もったいぶるな」

「うん、種明かしをしなさいよ」


 歩きながら談笑でもするように物騒な話をするジョセフィンによれば、向かう先にいる不良冒険者は一人じゃないらしい。それどころか腕利きの仲間を揃えて待ち構えてるんだとか。


 まずはフリでしかないけど単独で隠れてるって偽装情報が、私たちの油断を誘う。そしてまさに今がそうであるように、少人数で捕らえに訪れるのを待ってるってわけだ。こっちが人数を集めて向かうようなら、また逃げて行方をくらます。少人数で来た場合にだけ返り討ちにするなり人質にするなりと、そういうことらしい。

 腕の立つ仲間を集めただけじゃなくて、魔道具を使ったトラップなんかも張り巡らされてるらしいわね。ジョセフィンの方も、よくぞそこまで調べるもんだと思うけど。


 敵の誤算はただ一つ。それは私たちが異常に強いってことだ。一度は半殺しにしてるから実力差は分かってそうなもんだけど、よっぽど自信があるのかなんなのか。

 どれだけ人数を揃えたところで、雑魚ばかりじゃ結果は何も変わらない。一応は腕利きらしいんだけど、ジョセフィンの戦力評価じゃ私たちだけで余裕の相手だそうだ。所詮はまともに冒険者を続けることもできない半端者ってことだ。

 そうは言っても、相手が用意周到なら少しは苦戦する可能性はあるかもしれない。たぶん。それでも負けるとまでは全然思わない。だから行く。


 今頃、敵の阿呆どもは僅か三人で罠に飛び込もうとしてる私たちをあざ笑ってるんだろう。だけど私たちは圧倒的な戦闘力で踏み潰す。ありえない勝利を夢想して楽しんでおけ。

 こっちにとっちゃ、散々に迷惑を掛けられたストレスのはけ口としては適正な相手だからね。存分にやらせてもらうわ。



 一度ジープでスルーした敵の本拠地を目前にして、グラデーナも気分が高まってきたらしい。

「おう、ユカリ。今日はそれぞれで好きにやるって感じでいいだろ?」

「それでいいわよ。ジョセフィンは情報収集に忙しいだろうし、待ち構えてる敵は私とあんたで倒すことになるわね。一緒にやるよりは、手分けして思う存分やってやろう。今日は手加減の必要もないわよ」

「だな。じゃあ、さっそく行ってくるぜ!」

 入り口前でたむろする組の見張りを殴り倒すと、元気よくグラデーナは突入していってしまった。


「あー、グラデーナさんは手が早いですね」

「まったく、油断してなきゃいいんだけど」

 倒された見張りを踏み越えて門をくぐると、そこは木っ端組織の本拠地にしては立派な屋敷だ。それでも公共の施設のように広いわけじゃないし、普通の住居であることは変わらない。

 大きな屋敷であっても、大立ち回りが出来るような場所は限られてるだろうし、基本的には狭い場所での戦闘になりそうね。それでもトラップの類は仕掛けやすい環境かもしれない。


 どっちかと言えば、敵の武力よりもトラップの方が脅威と思える。突撃していった大胆不敵なグラデーナだけど、基本的には慎重な戦い方をするタイプだからその辺も気を付けてはいるだろう。

「じゃ、私も行くからジョセフィンも好きにやってなさい」

「楽しそうな場所ですからね。この際、思う存分やらせてもらいますよ」

 その返事を聞きながら蹴り破られたドアから中に入った。



 静かだ。すでにグラデーナが殴り込んでるはずなのに、なんの物音もしない。

 様子がおかしいんで入り口で少し待ってると、すぐにグラデーナが奥の方から戻ってきた。

「……ちっ、肩透かしだな。一階には誰もいなかったぜ。連中、地下に籠ってやがる」

「待ち構えてるとかいう不良冒険者どもね。本来の家主であるはずの組の連中は門番以外留守か。ジョセフィンの家捜しはやりやすいんじゃない?」

「これは助かりますね。では、また本部で」

 それだけ言うとジョセフィンは奥の部屋に消えて行った。誰もいないことを幸いに好き勝手やるんだろう。

「地下の入り口は?」

「適当に探したが見つからなかった。面倒だ、壊しちまおう」

 どいつもこいつも地下への入り口は隠したがるものらしい。


 さてと、敵の位置は魔力感知で全部わかってる。

 全体として地下の真ん中の辺りに一人が待ち構えてる構図で、その左右の部屋と思しき場所には何人もが隠れ潜んでる感じか。

 そいつらの真上から登場してやってもいいけど、せっかく準備してくれた敵の罠だ。

 ここは招待客らしく振舞ってやろうじゃない。それに敵の配置を見れば地下の入り口にもあたりが付く。


「……あったあった。グラデーナ、ここに入り口があるみたいよ。よく見れば取っ手が付いてるわね」

「なんだ、この蓋を開けば良かったのか。それで、素直にここから入って行くのか?」

 罠を警戒してるんだろう。招待して待ち構えてる奴がいるからには、ここに罠はない気がするけど。この入り口付近に限っては、魔力感知でも不審なところはない。

「魔道具の罠はないけど、一応の警戒だけはしておこうか。私が先に行くわ」

 蓋を開いて狭い階段を何事もなく下り切ると、意外に広い通路に出た。その向こうには待ち構える男が見える。

 私たちは頷き合うと、その阿呆に向かって歩き出した。


「よぉ、俺を捕まえに来たんだろ? 一人で隠れて震えているはずの哀れな冒険者をよ?」

 近づいた私たちに向かって放たれる余裕のあるセリフ。芝居がかった喋り方と妙に大袈裟な動作が鼻につく。

「キキョウ会だかなんだか知らねぇが、随分とデカい顔をしてやがる。生意気な女どもだ」

 憎々し気な言葉と態度は芝居とは違って本音らしい。

「……お前なんぞがあたしらをどう思おうが、これっぽっちも興味ねぇな。それで、たった一人のお前はこれからどうする? 命乞いでもするか?」

 グラデーナは"たった一人"の部分を強調して挑発する。わざとらしいけど、罠を張った側からすれば待ち望んでたセリフらしい。

 不良冒険者は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

「くくっ、一人だって? なぁ、俺を一人と思ったか? そうかそうか、俺が一人と思っていたんだな。残念だったな!」

 得意げに合図を送ると、ずらずらと姿を現す不良冒険者ども。汚らしくて荒っぽい風体は、冒険者というよりも盗賊の類に近い。そこそこ立派で充実した装備だけが、奴らが冒険者であると主張してる。


 世間ではあんまり知られてない技法らしいけど、私たちは魔力感知に優れてる。使いこなして応用まで利くようになれば、対象の魔力の大きさから大体の強さは推し測れるんだ。こうして間近で見れば、それが本気かどうか、あるいはどの程度の余力を残してるかまでも、なんとなく察しはつく。

 さすがに魔法適正まで見破ることはできないし、誰かがスキル持ちだって可能性もある。それに魔力だけじゃ測れない戦技だってある。


 だけどね、強者を前にした時に感じる独特な感覚は特別だ。それは事前に何の情報もなくたって、自然と分かるんだ。そして、目の前にいるこいつらから、それを感じることはない。

 まぁ、それでも悪くはない。腕利きをそろえたってだけあって、一般的にはかなり強い部類だ。一般的にはね。


「げへへ。胸の大きい方は俺っちが貰うからな?」

「おい、勝手に決めてんじゃねぇぞ。てめぇはこの前も先にヤッてただろうが」

 舌なめずりしながら、私たちの品定めか。この期に及んで吞気な奴らだ。不良冒険者なんてやってる奴らじゃ、所詮はこんなもんってことかな。

「女なんざ、いくらでも攫ってくりゃいい。それより油断するな。知り合いが何人も殺されかけてるんだからな」

「雑魚と一緒にすんじゃねぇ! てめぇもよ、たった二人の女にビビってんじゃねぇよ」

 下品な物言いには慣れてるけど、不愉快な気分にはなる。とっとと終わらせよう。

「多少は腕が立つようだが所詮は女だ。それにこの人数差でビビるなら冒険者なんて辞めちまえ。いいから片付けるぞ」

「てめぇが仕切んじゃねぇよ! けっ、雑魚を倒したくらいでいい気になりやがって。俺たちにとっちゃ普通の女だってことを思い知らせやる。さっさと終わらせて可愛がってやるぜ!」

 そろそろ始めようかと思ったけど、どうやらあっちの無駄話も終わったらしい。


 生憎だけどキキョウ会は普通じゃない。私たちは普通の基準を遥か高みに設定した集団なんだ。そして、ここにいるのはその集団の会長と副長代行だ。

 腕利きの冒険者? 経験を別とした単純な力比べなら、こいつらはウチの見習い上がり程度のレベルでしかない。

 そして正規メンバーでも新人ならば、まだまだ軽くあしらえるのがキキョウ会の幹部なんだ。こいつら如きがどんな切り札を隠し持ってたとしても、余裕でそれを踏み潰せる。


「ユカリ、左はあたしに任せろ。横取りはなしだぜ?」

「いいけど真ん中の奴だけは生かしとこうか。ジョセフィンが尋問したいかもしれないし」

「今のあたしは手加減できる気分じゃねぇな。そいつはユカリが上手いことやってくれ」

「うん、じゃあ。それ以外は全員、地獄送りにしてやる」

 言いながらポケットから取り出した特製グローブを装着した。



 剣を抜いたグラデーナが突撃するのを横目にして、私も突撃を開始する。

 中央に立つ首謀者をスルーして右の集団に突撃すると、圧倒的な速度に驚く不良冒険者に構わず拳を繰り出す。

「……ぐぼっ」

 汚い軽装鎧の胸元を突き破った拳は、そのまま肉と骨を突き破って心臓を破壊した。

 間近にいた奴が何事かを喚き散らすけど、それは怒りなのか悲鳴なのかも判然としないただの大声だ。もちろん、そんなもので私の動きは止まらない。

「わああああああああああああっ!?」

 死体と化した仲間を巻き込むような思い切った大きな剣の振りかぶりは、上段からの攻撃と刃の長さが災いして天井に阻まれてしまう。バカな奴。

 剣を天井に当ててしまった間抜けの首を掴むと、首を覆う部分の鎧ごと握り潰しながら残った敵に向かって投げ飛ばす。

 金属製の重鎧を着込んだままの奴の投擲だ。無造作なその投擲は砲弾のような速度で命中して壁に挟まれた一人の頭を文字通りに潰してしまった。


 見てないけどグラデーナの方でも似たような状況のはずだ。敵の怯む気配が場を支配し始める。

 元より不良冒険者は仲間同士ってわけじゃないらしいし、誰を犠牲にしてでも自分だけは逃げ出そうとしだした。その判断の速さだけは褒めてやってもいいかもしれない。

 だけどね。こいつらは逃がさない。ここで始末をつけてやる。


 奥の方に別の出口でもあるのか、まずは一人が背中を向けて逃げ出した。当然、逃がさない。

 即座に鉄球を投擲してどてっ腹に風穴を開けてやると、途端に奥に逃げようとしてた他の奴らも腰が引ける。

 本能的に逃げられないと悟ったらしい。

「……ま、待て、」

 口を開いた阿呆の口の中に鉄球が飛び込むと、強制的に黙らせて永遠の沈黙をもたらした。

 ここに至っては、命乞いさえ許さない。


 やったことのケジメを取らせる。そのために、ここに来たんだ。

 そして、こいつらには命でもってケジメを付ける以外の方法なんてありはしない。


 ウチの下部組織の組員の命、多数の一般の住民の命と財産、それに尊厳もね。やつらは遊び半分で奪ったんだ。幹部たちからの詳しい報告書で、奴らが思ってた以上に酷いことを繰り返してたのを私は知ってる。

 奴らはもう盗賊と同じだ。タチが悪いのは、冒険者って身分を使うことで平気で街の中に入ってくることだ。そこで人目を盗んで悪さをするか、他の悪党と手を組んで堂々と悪さをする。それもちょっとした盗みやカツアゲ程度じゃない凶悪犯罪を起こしまくる。


 奴らも私たちも悪党って意味では同じだけど、奴らが奪ったのはキキョウ会のシマの中でのことだ。

 あえて傲慢に言うなら、キキョウ会の会長である私はシマの支配者だ。私のモノを奪った、手を出した。そういうことになる。


 別に顔も名前も知らない人が酷い目に遭ったところで私の心は痛まない。

 だけどね、支配者である私のモノに手を出して、ただで済ませるはずがない。それが支配者である私やキキョウ会としてのケジメの付け方だ。


 ま、そうでもなけりゃ、どうして支配者の資格があるっていうのよ?

 これは当然のこと。文句があるならキキョウ会を黙らせてみればいい。できるもんならね。それだけの話よ。

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