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変わりゆく街

 キキョウ会の組織改革の先陣として、新たな班を立ち上げることになった。

 王都では随分と活躍してくれた建築班を、改めて正式に発足させるんだ。


 彼女たちの技能を積極的に使わないのは勿体ないと思ってたし、本人たちにも聞いてみれば、本格的にやってみたいとの熱意もあった。そうとなれば、さっそくやらせてやるのがキキョウ会だ。金になることなら、じゃんじゃんやってくれて構わない。

 班長にはプリエネを据えたけど、彼女を幹部として遇するにはまだ色々と足りないところが多いのも事実。

 そこで、暫定的に戦闘支援班の中の一部署としての扱いで発足させることにした。実際の運用ではどうなるか分からないけど、現時点でのイメージ的には工兵部隊的な位置付けになるかな。


 今日は商業ギルドに支援を頼んで、建設ギルドに加盟申請をしに行くんだ。まぁ、私が行くわけじゃないけど。

 建設ギルドに加盟する利点は色々とあるけど、特に便利なのは黙っていても仕事の依頼がくることだろう。

 エクセンブラの建設業は全く人手が足りないほどに忙しいから、諸手を上げて歓迎されるはずだ。


 当たり前だけど、ギルド加盟に当たってはそこの組織、人員が持ってる技術や知識のレベル、資本力なんかも審査されて格付けされる。それを基にして、ギルドからは適切な仕事が依頼されたりするんだ。

 格付けは仕事の依頼以外にも、独自の建設事業の許可申請なんかの審査にも使われる。所持する技術や資本力に応じた、免許制に近いかもしれないわね。

 相応の技術や補償金を持たない集団に、不相応な仕事をさせないための措置だからこっちとしても文句はない。モグリの業者がいないこともないけど、ギルドメンバーの看板は信頼に直結する。


 建築班に期待することは、いつかキキョウ会の事業に関わる建物の建築を一手に引き受けてもらうこと。未来の理想だけどね。

 大規模な事業ともなれば人数的な問題は出てくるけど、元受けになってくれるだけでも心強い。身内で金を回すこと以上に、無駄な交渉に時間を使わされることがなくなるのが一番大きい。身内であれば話が早いし、信用だってできる。

 そのためには、とにかく経験を積んで技術を伸ばして様々なノウハウを吸収してきて欲しいんだ。


 例えばだけど、近い内に始まる闘技場建設をウチの建築班が手掛けることは無理だ。大規模施設を作り上げることなんて、まだまだウチの人員じゃできっこない。

 それでも、今の内から経験を積んでおいて、闘技場建設のどこか一部でも担うことができれば、それは大きな経験となるはずだ。

 最初は小さな仕事からだとしても、色々とこなして研鑽を積んで能力を存分に伸ばして欲しい。いつか、どこかの人や集団をスカウトすることがあるにしても、それはプリエネたちがもっと成長してからでいい。


 私には自信がある。キキョウ会のメンバーは、小手先の技術はともかくとして実力は十分にある。

 死ぬほど追い込んで鍛え上げた基礎魔力に、ベテランの魔法使いによって考えられた魔法理論にプラスした私のトンでも理論。それを存分に叩き込まれた連中が揃ってるんだ。なにより、彼女たちにはやる気がある。成長速度が並であるはずがない。

 現にプリエネたち建築班の連中は、魔法応用力も基礎知識の習得も期待以上の成果を見せつつある。だからこその正式発足でもあるけど。


「それじゃプリエネ、商業ギルドの人が上手いことお膳立てしてくれるはずだから、あんたは素直に聞かれたことに答えてればいいはずよ」

「任しといてくださいよ! ガツンとかまして来てやりますよ!」

 元気過ぎる気もするけど、燃えた瞳で出掛けて行く姿がなんだか眩しい。

 土魔法の使い手としても、いつかは私の鉱物魔法の一端に迫るようになってくれると嬉しいわね。


「お姉さま、わたしもそろそろ出掛けます」

「うん、ヴァレリア。そっちもよろしく頼むわよ」

 こっちはサラちゃんのお迎えだ。学校に通ってるサラちゃんだけど、昨今は不良冒険者やら愚連隊やらとどこで遭遇するか分からないんで、きちんとした護衛に送り迎えさせることにした。

 今日は時間が取れるのがヴァレリアしかいなかったもんで、私の護衛は一時休んでそっちを優先してもらった。



 さて、魔法薬の実験でも始めようかと思いきや、なにやらあった様子。

 応接セットのところを覗き見てみれば、稲妻通りの食堂のおばちゃんが来てるみたいね。

「ほんと、困っちゃってねぇ。噂には聞いてたけど、とうとうここらにも出て来たんだよ。ウチの息子もそうだし、常連さんにもやられてるのがいてねぇ。どうにかしてくれないかねぇ」

 ちょっと聞いただけでもわかる。噂に聞く不良冒険者か愚連隊の仕業だろう。ついにウチのシマにも現れたらしい。


 キキョウ会は警察組織じゃないんだけど、私たちの商売は地元の住民を味方につけてなんぼって面もある。商店からは用心棒代を取ってるわけだし、いざという時にケツを持つ信頼がなければ成り立たない。

 だからこそ、何かが起こればすぐに言うように言ってあるし、そうなれば即座に動く。抑止力もそうだし、起こってしまった問題を解決する能力が求められてるんだ。


 ウチのシマで悪さを働くなんて運のない連中ね。すぐに叩き潰してやる。

 それにしても見回りはしてるはずなのに、あの手の手合いは、どういうわけかすり抜けて悪さをするわよね。


 おばちゃんの応対をしてた事務班の若衆が見回りの強化を約束して帰らせる。

 やると言った以上はやる。今日は色々とあって即座に動かせる人員は事務班しかいないけど、キキョウ会は事務要員だとしても一端の戦闘力がある。そんじょそこらの奴らに負けるほどヤワじゃない。

「さっそく見回り?」

「はい会長。おばちゃんに頼まれましたから、取り敢えず一回りだけでもしてこようかと思いまして」

「いい心がけね。散歩がてらでいいから班を作って巡回でもしてきて。私も少し見回ってみるわ」

 実際に見れるのなら見てみたい。愚連隊なんてどうでもいいけど、不良冒険者ってのが気になる。もしオフィリアたちみたいなのが徒党を組んで悪さをしてるなら、それは十分な脅威だ。



 本当は立場としては単独行動をすべきじゃないの分かってるけど、臆病風に吹かれるような私じゃない。

 ひとりで路地裏をうろついてると、さっそく出会ってしまった。運が良いのか悪いのか。

「おいおい、ねえちゃんよ、道にでも迷ったのか? ここは俺たちの縄張りだぜ?」

 どうやら最近ここらを騒がせてる新参者の愚連隊らしい。一体誰の縄張りだってのよ。ここはキキョウ会のシマだっての。

 他所からやって来たのが気が付くと幅を利かせてたりするってのは、このことか。

「この家は俺たちのアジトだぜ。この道だって、当然俺たちのもんだ。そこに入ったからには、タダで出られると思うなよ」

「さっきのジジイといい、この辺りの連中は気が抜けてやがる。一人でうろつくなんざ、他の街じゃ考えられねぇってのによ」

「ひひっ、俺らにとっちゃ、ありがたいけどよ。こうして楽に金も女も手に入るんだからな」

 ふむ、このボロ屋がアジトか。たしか、近々建て替えるために、今は商業ギルドか建設ギルドの管理になってたはず。まったく、管理不行き届きね。

 愚連隊を気取ってる若者たちみたいだけど、人数は少ないし、鉄の棒やナイフ程度の武器で随分とデカい態度だ。


 キキョウ会のシマは見回りをしっかりしてるし、地元のワルもウチのシマで悪さをすればどうなるか分かってるから、治安は結構いい方だ。だから油断して一人歩きをするのも多い方なんだけど、こうして余所者が事情も知らずに好き勝手するんじゃ、それももうお終いね。

 それにしても、僅か数人程度のチンピラが縄張りを主張したって、どうせすぐに同じような奴らに駆逐されるだけだろうに。


 雑魚の下品な会話に付き合う気はない。適当に追っ払おう。

「なっ放せ、このっ、ぶぎゃ」

 近くにいた奴から何気なく鉄の棒を奪い取ると、そのまま顔を殴りつけて黙らせた。

 無造作に次から次へと、顔と腹を適当に殴って全員を叩きのめす。なんてことはない。

 手加減だってしてるから、しばらくすれば自力で逃げられるだろう。


 ここで二度と悪さをさせないための口上だ。

「一度しか言わないからよく聞きなさい。この区画はこんな路地裏まで綺麗に掃除されてるように、お前らみたいなチンピラが好き勝手していい場所じゃない。ここはキキョウ会のシマ。そのツラ、今度ウチのシマで見掛けたら、その首へし折ってやる。失せろ」

 胸のキキョウ紋を見せつけながら威圧する。私の威圧は結構おっかないらしいから、物分かりの悪いこいつらにだって効くだろう。現に怯えてるみたいだし。

 よろよろと立ち上がろうとするのだけ見て、もう行く。別の場所も少し見回ってみよう。


 ……愚連隊か。別のシマに行ったところで、同じ目かもっと酷い目に遭うだけだろうけど、あんな奴らが真っ当に働くとは思えない。

 どこぞでのたれ死ぬか、運が良くてもあの手の手合いが行きつく先は、五大ファミリーの下部組織あたりだろう。すると、いつの間にか五大ファミリーの戦力が増強されることに繋がるってことになるわね。

 うーん、それも微妙だけど、あの程度の悪さでいちいち殺して回るのもね……。まぁ、あんな雑魚がどれだけ増えたところで大した意味はないか。


 その後も少し散歩してみたけど、悪そうなのは特に見掛けなかった。

 一応、知り合いに会うたびに気を付けるように言っておいたけど、完全に安全を保証するのは難しい。各自で十分に気を付けてもらわないとね。

 こうなってくると、本来の治安維持部隊であるエクセンブラ守備隊にも、もうちょい頑張ってもらいたくなるわね。いい加減に、奴らだって戦力は拡充しててもおかしくないはず。あとでその辺の情勢をジョセフィンに聞いてみようか。



 適当に散歩してから本部に戻ると、関係者以外立ち入り厳禁の部屋に向かう。

 いつものように会長権限で情報統括室に突撃すると、ジョセフィンは書類を広げて難しい顔。そして、これもいつものようにオルトリンデは見当たらない。

「あ、ユカリさん。どうかしたんですか?」

「相変わらず忙しそうね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「大丈夫ですよ。ちょうど休憩もしたかったですし」

 最近のジョセフィンは王都でオーヴェルスタ伯爵家から学んだことが色々とあるらしく、それを生かすべく試行錯誤中らしい。

 私は何か言われない限りは手を出すつもりはないけど、頑張ってくれてありがたい。


「それで、どうしました?」

 ソファーに移動すると、お茶を用意してくれてから水を向けられる。

「例の不良冒険者とか愚連隊の話よ。そもそもの治安維持をやるべき、エクセンブラ守備隊はどうなってるのかと思ってね。なにか知らない?」

「タイムリーな話題ですね。実はその辺の情報収集と精査を、今まさにやってるところでした」

 てことは、その途中か。話を聞くにはタイミングが少し早かったかな。

「不確定なところもありますけど、ユカリさんに話す分なら問題ないでしょう。結構深刻な話なんですけど、近々エクセンブラの上層部は刷新されるみたいですね。当然ですけど、守備隊の上層部も含まれます」

 うーん、それもそうか。今のエクセンブラ上層部は、レトナークから派遣されてきた奴らだからね。レトナークが分裂して力を失うなら、エクセンブラがその残党如きに従う必要はないから当然と言っちゃ当然ね。


「そうすると、私たちが弱みを握ってた守備隊のお偉いさんもお払い箱ってことか」

 いちいち名前も覚えてないけど、守備隊の副将軍は金の絡みでキキョウ会には頭が上がらない状態だった。そこで色々と情報を流してもらったりと繋がりがあったんだよね。

「ダクマスティ副将軍は、少し前に本国に召還されてしまったようです。急なことだったらしく、特に挨拶もなかったですけどね。現在のところ守備隊の将軍職はトップもサブも空位で、権力闘争が終わった後に誰かが就くと思われます」

「そうすると、街の治安維持に守備隊が出てくることは当分ないか……」

「現状の守備隊は行政区の治安維持だけなら、事足りる人数と体制は確保されてますからね。将軍と副将軍ががいなくても現場は回ってますし、それ以外は今まで通りにしろってことなんじゃないかと。特に戦力が増強された様子もないようですし」

 今まで通りか……。それなら、まぁ許容できる範囲ではある。


 貴族や役人の権力闘争が勃発するのは間違いないけど、下々には影響がないようにやるつもりなんだろう。街の経済に悪影響を及ぼすようなバカなら、下剋上で駆逐されるだろうしね。治安維持は今まで通りに裏社会に丸投げしようってわけか。相変わらず頼りにならないわね。

 ま、みんな大好き『現状維持』ってやつだ。悪化するよりはマシね。


「エクセンブラ守備隊のお偉いさんに話でも聞きに行こうと思ったんだけど、もうコネは使えそうにないわね」

「使えるコネの豊富さが重要なのは、王都で学んできたばっかりですからね。情報班としては、ここは少し無理も通さないといけない場面かと考えてます」

 お、いつも飄々としてるジョセフィンにしては気合い入ってるわね。

「すると、今からポストに収まりそうな奴らに粉かけていこうってこと?」

「そうなりますね。むしろもっと食い込んで、キキョウ会の後押しで将軍職のポストに押し込めないかと思ってます」

 そういう積極的な姿勢は好きだ。結果に関わらず、思う存分やらせよう。

「なるほどね。よし、分かったわ。ダメでもともと、やれるだけやってみようか。守備隊に限らず、エクセンブラで重要なポストに収まりそうなのには唾つけておこう。人員もしばらくはそっちに割いていいし、予算も人手も足りなければ相談して」

 エクセンブラは私たちのホームなんだ。大きな動きがある今こそが好機に違いない。まぁ、他の奴らだって同じこと考えてるだろうから、こっちの思惑通りにはなかなかできないだろうけどね。


 それでも私のポケットマネーまで含めれば、キキョウ会はかなりの資金力がある。政治家にとって資金は実弾と同じ。あればあるほど強くなる。その実弾を大量に提供でき、いざという時の後ろ盾となる暴力も頼りになるとなれば、キキョウ会になびく奴らだって多くいるはずだ。それに私たちは女の集団だけど、このエクセンブラの街で今更、実力を疑うような奴はいないだろう。差別意識があったとしても、まともな政治家ならば実利を取るはずと期待もできる。

 しかも蛇頭会が衰退して、アナスタシア・ユニオンがどうなるか分からない状況は、相対的にキキョウ会の存在感も増すことに繋がってる。


 時勢の変わり目は大きなチャンス。出来る限りの事はやっておきたい。この際、五大ファミリーだって出し抜いてやれ。

「やった! どんな手を使っても、最低限の結果は出してみせますよ!」

 なんだか、いつになくテンション高くなってるわね。あくまでもダメ元だけど、期待はしておこう。


 他のみんながどう思ってるか知らないけど、ジョセフィンは実はかなりおっかない女だ。そうでもなきゃ、情報班のトップなんて任せない。

 そのジョセフィンが、どんな手を使っても、なんて言ってるんだ。一体、どんな手を使うつもりなのやら。

今回の話に出た「建設ギルド」ですが、71話のインタビュー・ウィズ・バッドレディ後編と、73話レトナーク新革命軍では「建築ギルド」となっていました。

建設の方がより大きなカテゴリーであるため、建築⇒建設と変更しました。こちらの方が適切と考えた次第です。ご報告しておきます。

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