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後処理と反省会

リザルト回です。

 カプロスの大移動とそれに続く魔獣の襲来を乗り切った私たちは、全員が疲労困憊の状態にあった。

 結局、その日は後処理に手を付けず、休むことになれたのは誰にとってもほっと一息つけた一幕だった。


 それでも責任者である所長は仕事をしたらしい。夜の内には問題を片付けるため、現実的な方策を固めるために動いたんだとか。まあそんくらいはやれって話でもあるけどね。

 とにかく、いくらなんでも処理する死骸が多すぎるってことで、近隣の警備隊や冒険者などに応援を頼んで、数日かけて問題は処理された。もちろん処理の前には、食用にできる魔獣やブライトエイプのような貴重な素材を持つ魔獣は収容所で確保済みだ。


 ところが食用に確保した魔獣は欲張りすぎたのか量が多く、収容所の冷凍室に収まりきらない事態になってしまった。

 そこで貴重な肉をできるだけ多く蓄えておきたい私たち収容者と所長を含めた収容所職員は、共謀して冷凍室の大幅な拡張工事をしてしまったんだ。もう何でもありな状況だけど、私たちにとって悪いことじゃないし別に構わないだろう。誰も損をしないことで騒ぐアホはいない。


 大量の戦利品といえば、まずはカプロスだ。猪肉のように癖があるけど、きちんと処理すれば普通においしく食べられる。

 その他にも鹿、牛、鳥、蛇型などの魔獣も素材兼食用に確保された。

 元冒険者や商人など技術のある収容者が動員されて、獲物の解体が現在進行形で行われてる。大量にあるから、燻製だとか加工食品にするって話も出てるみたいね。それは楽しみなんで、ぜひ頑張ってもらいたい。


 さらに功労者である戦闘に借り出された私たちにも、きちんと報酬が回されることが決まった。私たちは犯罪者や奴隷じゃないんだから、取り分があるのは当然とも思う。

 報酬としては金銭だけじゃなく、収容期間の短縮も含まれる。

 ここじゃ収容所所長の権限が非常に大きくて、鶴の一声で大体のことはまかり通るらしい。出所のときに貰える金額には結構期待できそうだ。あいつら職員が嘘を吐いてさえなければだけどね。


 ちなみにカプロスの素材は売れるけど、大量にありすぎて収容所側だけじゃ処理しきれないから、後処理のお手伝いの人たちに自由にしてくれと放出したらしい。あのバカみたいな量を考えれば、まあ賢明な判断かな。


 そして諸々の後処理に目途が立った今日、私は改めて事情聴取に呼ばれてしまったんだ。

 めんどくさいけど、予想はしてた。しょうがない。

 おばさん職員の付き添いで呼び出された部屋に入室すると、副所長を含めて何人かの職員が待ち構えてる。

 妙な緊張感があるわね。なんか背中がむず痒くなるような感じだ。雁首揃えて、面接じゃあるまいに。


「まずは座りたまえ」


 言われた通りに座るけど、なんか尋問されてるみたいで居心地悪い。

 あ、これってもしかして尋問?


「すまないな。我々もここで起こったことを詳細に報告しなければならないのでな。何を聞かれるかは見当がついているのではないか?」

「まあ。あの爆発ですよね」

「そうだ。他の者から大方の事情は聞いているが、本人に直接説明してもらおうと思ってな」


 やっぱりそうか。とはいえ、正直に答える以外にない。鑑定でスキルと魔法適性はバレてるわけだし、私が何をやってのかも全部目撃されてる。

 隠してもしょうがない。手短に答えてさっさと終わらせよう。


「分かりました。簡単に言えば、鉱物魔法で爆発する石を生成して投げただけです」

「ふむ、本当に簡単に言ってくれたな。もう少し細かく話してくれ。例えば爆発する石とはなんだ」

「ノヴァ鉱石というものです。強い圧力を加えると爆発します」

「そんな石があるのか。聞いたことがないが、知っている者はいないか?」


 副所長がいぶかしげな顔をしつつ周りに問いかけても、みんな顔を見合わせるばかりだ。

 無理もない。あれは相当に珍しい存在らしいからね。学者でもないと知らないだろう、レアものなんだ。


「誰も知らないか。君はそのノヴァ鉱石とやらをどこで知ったんだ?」

「ここの図書館ですよ。図鑑に載ってました」

「なるほど、君はいつも勉強をしているらしいからな。そういうことか。ちなみにその石を量産することはできるか?」

「無理ですね。個人で使う分量ならともかく、量産するとなれば魔力の消費量が大きすぎます」


 量産というからには工業レベルで使う分量だろう。そんなのはとてもじゃないけど魔力が持たないし、そもそもそんなことはやりたくない。やらされてたまるかって感じでもある。

 しかも爆発するといっても簡単には起爆できないだろうし、爆発の規模も大きすぎて扱いにくい。

 その辺りのことと、私の起爆方法を語ると副所長も一応は納得してくれたみたいだ。腹の底じゃ、どう考えてるのか分かんないけど。


「そうか。魔道具の専門家に意見が聞ければ、別の使い道もあるかもしれんが、今はいいだろう。ご苦労だった」


 話の分かる人たちで助かったと思うことにしよう。

 少しだけ含むところもありそうだったけど、事前におばさん職員やローザベルさんに話しておいた影響もあってか、あっさりしたものだった。少なくとも今のところはね。



 そして後日、日常に戻りつつある、麗らかな午後の一幕だ。

 まだあの事件の熱は冷めやらない。


「ユカリの魔獣との戦闘を見ていて思ったんだが……」


 自由時間中の雑談で、ゼノビアが思案気に言い始めた。


「なによ」

「攻撃は見事なものだったが、防御も何か手を考えたほうがいいんじゃないか? あの時の戦闘ではろくに魔法を使っていなかっただろ」

「そうでした。魔獣の攻撃で死にかけたらしいではないですか」

「わしも後で死にかけからすぐに復活したと聞いて驚いたもんじゃ。その辺りのことを具体的に聞かせてくれんか」


 ゼノビアの的確な意見を皮切りに、フレデリカとローザベルさんも乗ってきた。

 あの後はみんな忙しくて、こんな風にのんびりしてる時間もなかったしね。

 それに防御手段については、こっちからも話を聞いておきたかったところだ。


「防御についてはね、私も痛感してるわ。まさか一撃であんなことになるとは思わなかったし」

「もっと強い魔獣や、角や爪での攻撃が急所に当たれば即死もあるからね。鉱物魔法でどうにかならないのか?」


 私もあれは大いに反省してる。色々と考えてはいるんだけど、なかなか考えがまとまらない。


「イマイチ上手い考えが浮かばないのよね。なんかアイデアがあれば教えてよ」

「魔法で鎧を作って装着する、というのはどうでしょう?」


 ふーむ、鎧か。


「そうね、鎧自体は作れそうな気はするんだけど、プロの鍛冶師が作るみたいな機能的で使い易いのはさすがに無理ね。それに戦闘スタイル的に鎧はちょっと。そもそもあんな攻撃受けたら、鎧を装備してたからってどうにかなるとは思えないわ」

「鎧にもよるが、あの程度なら大丈夫だ。例えばあたしの鎧はミスリル製で元から頑丈なんだが、さらに魔力を通せば身体強化魔法のように鎧自体を強化できる仕組みだ。思うより遥かに頑丈だぞ」

「へー、そんなカラクリがあったなんてね」

「わしらのローブや杖も同様じゃな。魔力を通すことによって効果を高めておる」


 あんまり装備品には興味なかったからね。そこまで効果があるとは思ってなかった。

 ミスリル製の装備品は高価ではあるけど、頑張れば手が届く範囲の現実的で憧れの装備品って感じだ。一流への登竜門みたいなもんかな。


 そのミスリルみたいな代物の原材料は魔導鉱物といって、魔石とは違って魔力を蓄えておくことはできないけど、魔力を込めることによって強度を上げたり、魔法効果を高める性質を持ってるんだ。

 魔導鉱物はミスリル以外にも多くの種類がある。より頑丈で軽く、さらに魔力効率のいいのだってあるけど、高価すぎて普通はお目にかかれない代物だ。私は鉱物魔法の適正持ちとして、その辺については色々と勉強してる。


「鎧はともかく、ローブなら……うーん、でも私には合わないような」


 治癒師のローブを纏った自分を想像してみると……やっぱないわね。


「わしのローブはミスリルを糸状に加工した物で作られておる。それで服でも作ったらどうじゃ?」

「あ、それいいかも! でもそれをそのまま魔法で生成するのは難しそうかな。金属糸だけなら作れそうな気はするけど」


 金属糸で縫製された服をイメージして、服の状態で生成するってのは、なんか上手くできそうな気がしない。

 たぶん、鉱物魔法の範疇じゃないと思う。でも金属糸のアイデアは、ほかにも使い道がありそうで非常に面白い。


「糸が作れるのでしたら、あとは職人にお任せすれば良いのではないでしょうか。それを装備するとしても結局、防御用の魔法にはなっていないような」


 フレデリカの突っ込みはまさにそのとおり。

 なんかないかな、防御。うーむ、防御か。


「盾はどうだ、使い捨てでもいいんだろ?」

「お、ふーむ、それはアリかもね。急造でも作れるし。でも手がふさがるのはなー」


 盾を構えながら敵を掴んだり殴ったりってのはちょっとないかな。

 やるなら盾で殴ることになるけど、イマイチ私の戦闘スタイルとはマッチしない。


「なら空中に浮かべたらいいのでは? そういえば石礫を飛ばそうとしたとき、周りに出した物を飛ばそうとしてもダメだったって言っていましたよね? 盾なら周りに浮かべるだけでも防御として役に立つかもしれません」


 なるほど、宙に浮かべれば手ぶらで盾を使えるのか。

 うん、それはアリだ。


「それよ! フレデリカ、あんたナイスアイデアね!」


 ちょっと想像してみる。私の周りに展開するのは数々の盾だ。

 直接は触れないから魔力強化系の魔導鉱物は意味ないけど、単に頑丈な鉱物や、その他のファンタジーな効力を持った鉱物はまだまだ色々ある。組み合わせれば理論上でしかありえないような凄いのが作れるかも!


 視界を遮らないように無色透明にするとか、屈折率を上手いこと調整すれば光学迷彩みたいなことだってできちゃうかもしれない。これは夢が膨らむ!

 ふふ、むふふ。


「なんぞ良い考えでも浮かんだようじゃのう。実践できるまでイメージをよーく膨らませておけ」

「実践か。次の機会はいつになるのやら。イメージはたくさん湧き出てきてるんだけどね」


 今の会話の流れでアイデアが満載、あふれ出てくる勢いだ。早く魔法使って試したいな。



「それで、薬魔法はどうだったんじゃ。自分に使ってみたんじゃろ?」

「私はあの時、もう意識が朦朧としてたからね。ゼノビア、どんな感じだった?」


 あの時は必死だったから客観的に自分を見てる余裕なんてなかった。むしろそんな状態で良くやったと我ながら思う。


「そうだな、正直なところダメかと思った。脇腹が潰されていたからね。あれでは治癒師の所に運ぶにしても間に合わんと本気で覚悟した」

「え、そんなに酷い状態だったのですか!」


 自分じゃよく分からなかったけど、そこまでの状態だったとはね。あんまり想像したくない。


「とにかく追撃を防がないといけなかったから、魔獣どもを近づけさせないようにあたしも必死だった。そうしていたら、ユカリが復活したあげく戦い始めたからね。意味が分からなかったよ」


 うん、ゼノビアのお陰さまで本日も元気に生きておりますとも。


「それ程の重傷を完治するとはのう、間違いなく上級回復薬じゃな。第三級の効果がなければ、完治までは無理じゃからな。もしかしたら、第二級の効果まであったかもしれん」

「第二級はどんな効果があるの?」

「大抵の怪我は治るし死にかけでも救えるじゃろ。さらに大きな特徴として、欠損した部位の完全再生まで可能じゃ。例えば戦場で腕を失った兵士がいたとして、治癒師が第二級の治癒魔法を使えば元の通りじゃな」


 へえ、無くなった体のパーツまで再生できるなんてね。やっぱり魔法って凄いわね。でも私はそれをやったっぽい。


「なるほどね。まさに失ったものが元に戻るイメージで回復薬作ったから、本当に第二級の効果があったかもしれないわ」

「あっさりと言いよるが、それは伝説級の回復薬になるんじゃぞ。口外はせんほうがいい。そうじゃな、確かめたいからわしにも寄越せ」


 次に魔法を使えるのはきっと出所した後だろう。当分は先の話だ。


「ローザベルさんには色々と世話になってるからね、いくらでもあげるわ。でもどうやったら、それが第二級だって確かめられるわけ? まさか誰かの腕を落とすわけじゃないでしょ」

「動物を使う手もあるが、ギルドで鑑定の魔道具を使うだけじゃよ。わしの立場なら個人的に使っても誰も文句は言わんし、結果が第二級でも誰かにバレることはない」


 それなら問題ないわね。いつかやってもらおう。


「便利よね、鑑定魔法って。そんな使い方もできるのか。そういやフレデリカも使えたわよね?」

「わたしの場合は下級魔法しか使えませんから、大した鑑定はできませんよ」

「下級魔法であろうと、鑑定魔法の使い手は貴重じゃ。商会なんぞからは引く手数多じゃろうに」

「そうそう。下級でも結構便利そうだけどね。いつか必要になったら頼みに行くわ」

「ああ、あたしも世話になるかもな」


 ここぞとばかりに便乗する私とゼノビア。


「そんな機会があれば、いつでも鑑定くらいしますけれどね」


 自信なさそうなフレデリカだけど、下級と言えど有用な魔法適正には違いない。

 こうしてまた、魔法を使える日を一日千秋と待ちながら収容所の日常に戻るのだった。

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