86、それぞれの思惑
様々な重要人物が目的の為に動き出す。
●【No.086】●
―ギドレファナス王国―
国内では現在、難攻不落の要塞山脈都市である王都に、国民や先代国王支持者たちが軍となし、総攻撃が開始されている。
国民の反乱軍は、現国王への政治のあり方に納得できず、また疑問や不満を持った者たちが武器を手に持ち、現国王を糾弾、あるいは退位に持ち込む事が目的である。
さらに国民の反乱軍とは別に、先代国王支持者軍は失意のうちに殺害された先代国王の善政と名君に報いる為に、現国王の打倒を掲げてる事が目的である。
国民の反乱軍も先代国王支持者軍も、敵と利害が完全に一致している。
一方では、ギドレアス国王の方も、ご自慢の正規の精鋭部隊やさらに強力な王家親衛騎士団隊も参戦していて、戦略的にも戦力的にも十分に戦える。
そもそも、この王国内で起きている内戦は、今回が初めてではなく、過去にも度々起きていて、現国王と国民との戦争は、いずれも現国王が勝利している。
今回の国王軍は、王都の山の麓まで降りてきて、要所要所の場所に沢山の兵士を配置・待機させており、そこで敵軍を待ち構える作戦でいくつもりである。
すると国王軍の読み通りでやっぱり、そこに国民の反乱軍や先代国王支持者軍が進軍してきて、国王軍と激突・白兵戦が展開される。 数で勝る国民の反乱軍と先代国王支持者軍に個々の実力で勝る国王軍が応戦する。 しばらくは両者の実力が拮抗している為に、国民の反乱軍と先代国王支持者軍が、思うように前進することができない。
まさにギドレアス国王の思惑・作戦通りに、敵軍は足止めされている状態である。
※ ※ ※
一方では、前回のギドレアス国王の暗殺に失敗したエウノミアとエイレネの姉妹が、国内の南側の森林の奥の方にある小屋の中で、国民の反乱軍に参戦する為の戦闘準備をしている。
「姉さん、急いで! きっともう始まってるわ!」
「ええ、でももう少しだけ待ってぇ! あとはコレの準備ができればぁ!」
エイレネはなにやら黒色で球体の水晶を両手で持っている。
「姉さん、それは何?」
「これがあの "地獄の水晶" なのよぉ。 かつて最強と謳われた大魔女シャニルが造り出した伝説の魔法威力増幅装置なのよぉ。 これさえあれば、私の未熟な魔法の威力も格段に上がる筈なのよぉ!」
「でも姉さん、その禁断の特殊アイテムの副作用は……っ!」
「ええ、わかってるわぁ! おそらくは未熟な魔法使いの私では……とても扱いきれずに魔力だけでなく、生命力ももっていかれるでしょうねぇ……」
「……姉さん……」
「でもね、エウノミア! そのぐらいの覚悟がなければ、あのギドレアスにはとても勝ち目はないわぁ!! あの男は本当に危険なのよぉ!!」
「うん、そうだね! もしかしたら、本当に今回のが最終機会かもしれないからね!!」
「ええ、そうよぉ! 国民の反乱軍が10万、先代国王支持者軍も10万、合わせて20万の大軍……これで最後になるかもしれないからねぇ~!!」
「だからこの戦争で、今度こそギドレアスにとどめを刺すわ!! そして先代国王様の無念を晴らすのよ!!」
「ええ、そうねぇ!」
すると "地獄の水晶" から、キュイイイーンという音が聞こえてきて、水晶が一瞬ピカッと光った。
「これで準備完了ね。 コレがどこまで通用するのか、解らないけど……私たちは最後まで戦うわぁ!!」
「うん、勿論だよ! 姉さん」
エウノミアとエイレネの姉妹は、戦闘準備を終えると、そのまま小屋から外に出ていき、戦場に向かって歩き出した。
※ ※ ※
また別の某所では、ダルラルダが黒色のスーツ(下部はスカート)に灰色のネクタイを締めて、能力遮断の灰色のメガネをかけて、灰色の "天秤" を手に持ち、誰かが来るのをじぃっと待っている。
「あっ! 来たわね!」
なんとそこに現れたのが、レイドルノやヴァグドー・勇者アドーレたち一行である。
まずはレイドルノがダルラルダに近づき話しかけてきた。
「おう、待たせたな」
「ええ、待ってたわよ! レイドルノ、お久しぶりね!」
「ああ、随分と久しぶりだな、ダルラルダよ」
「ええ、ところで……あの男は……本当に……?」
ダルラルダがヴァグドーの方を見ている。
「ふふふ、どうだ? 本当に似てるだろう……先代国王ヴァグドゥルス様に顔が……名前もヴァグドーといい、少し似ているぞ。」
「……ホントにね」
ダルラルダが遠くから、ヴァグドーの顔を、少しだけ見とれていると、またレイドルノがダルラルダに話しかけてきた。
「ところで……戦争はもう始まったのか? ダルラルダよ」
「ええ、丁度ギドレアスの国王軍と国民の反乱軍・先代国王支持者軍が激突してる頃だと思うわよ。 それでこれから戦場に行くの? レイドルノ」
「ああ、少し様子を見に行くぞ。 もしかしたら、これから何か面白い事が起こるかもしれないからな。」
「……なるほどね」
レイドルノには何か思惑・目的があるようだが……?
ギドレファナス王国では、内戦が始まるようだな。




