78、第三の王国の国王
悪魔神の分身体の暗躍は順調……?
●【No.078】●
臨王国、
『宋尊城』から少し離れた別の場所にある、宝物殿の大きな白色の倉庫……『刮』に、臨王やヴァグドーたち11人が、ようやく到着していた。
宝物殿の倉庫……『刮』を、既に包囲している三万人以上の臨軍の兵士や複数の将軍が、臨王やヴァグドーたち11人の方を一斉に見ている。
「陛下、ここは危険でございます……おさがりください。」
鯉娃将軍が慌てて、臨王の前に立つが―――
「心配せんでよい……それよりこれから宝物殿の中を確認するから、皆の者よ、手を貸すがよい。」
「は……はっ!」
臨王は現場に集まってきている将軍や臨軍の兵士たちを指揮し、魏慈鯉将軍が立て籠る宝物殿の倉庫の大きな扉を開けるように指示した。
ガッシャァーン!
臨軍の兵士たちが、その大きな扉を開けると―――出入口付近の地面に、魏慈鯉将軍が血を流しながら、俯せの状態で倒れているのを発見した。
「こ、これは一体……っ!?」
「な、なんと言うことだ!?」
「そ、そんなバカな…!?」
しかし、二十人近くいたとされる黒色の鎧を着た兵士の姿が、一人も見られていない。
「あれ? 黒い鎧を着た兵士がいない?」
「バカな…宝物殿の中には、魏慈鯉将軍の姿しか…いない…?」
「……っ!?」
「こ、この中で一体何が起きているのだ!?」
「アドーレよ、これも奴の仕業なのか?」
「ええ、その様ですね。」
「……ちっ!」
魏慈鯉将軍の死体の心臓がある胸を、何かで一突きされた穴型のような傷痕があり、この一撃で絶命したようである。
魏慈鯉将軍がどの程度の実力を持っていたかは不明だが、それでも悪魔神の分身体でレベル330もある化物相手では、何も出来ずにあっさりと殺られてしまったのだろう……それほど激しく抵抗した形跡が残っていない。
「そういえば……二十人近くいたと言う、黒い鎧の兵士の正体とは、一体……っ!?」
「…おそらくは… "狩侯聖者" が作り出した幻術であろう…」
臨王の疑問にテミラルスが答えた。
「……幻術……?」
「………」
「悪魔神と言うモノは、単に力が強いだけではなく……強力な魔法や技や術なども使用できる……いくら分身体とはいえ、その程度の術ぐらいなら…当然…使用できるだろうな。」
「な……なんと!!」
「ほう、なるほどのう」
「確かに…アドーレの言う通り…厄介な相手のようだな…」
「ええ、その通りです……奴の本体が、この世界に侵攻してくる前に……なんとかするしかありませんね。」
「…う…うむ…」
「ふむ、そうか」
臨軍の兵士たちが魏慈鯉将軍の死体を宝物殿の倉庫から外に運び出していて、臨王やヴァグドーたち11人がその様子を眺めていた。
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―ギドレファナス王国―
アーサンティラル王国から北東部にあり、臨王国からははるか東部にある第三の王国である。
ギドレファナス王国の北側にある王都『ギヤンマウンテン』は……その名の通りに、王都が灰色の険しい山から作られた要塞都市であり、その頂上にある国王の居城が『ギヤンヴァレルダ』である。
その城の中にある『玉座の間』は、意外にも殺風景な所で物がほとんどなく、一番奥には紅色の玉座がひとつだけ置いてあり、そこに一人の男が座っている。
その男の容姿とは、細身の長身に緋色の長髪に碧色の瞳で、上半身は裸で…その上から紅色のマントをつけていて、肌の色は褐色……黒色のズボンを履いており、何故か裸足……玉座に座るには、あまりにも不釣り合いな質素な格好であり、黒色の剣を持っている。
そう、彼こそが国王 "ギドレアス" なのである。
「ふふふ、レイドルノめ! あの "狩侯聖者" を二人も送ってくるとは、さすがに仕事が早いな! この俺様の "爵位" を "奪取" する力も……これで更なる強化ができるであろう!」
ギドレアス国王が、自分の右手の握り拳を見ながら、何か独り言を言っていると……突然―――
ギィイィイィ………
「……待ちな!!」
玉座の間の大きな扉を、何者かが開ける音が聞こえてきて、そこに一人の女性が立っていて、大声を上げている。
ギドレアス国王とは、一体何者なのか……?