58、ヤツが来ている!?
●【No.058】●
「グガガアアアーーーッ!!」
巨紅龍が激しく暴れていて、臨軍五万の兵士を次々と殺害していく。
臨軍の兵士の方も、手持ちの槍や刀や弓矢などで応戦するが、やっぱり巨紅龍には全く歯が立たずにいて、傷ひとつつける事が出来ないでいた。
「ぐうわあっ!」
「ぎゃあがっ!」
「うわあばっ!」
巨紅龍に攻撃した兵士は、容赦なく巨紅龍の吐いた炎を喰らい、全身が焼き尽くされて灰にされていた。
ここで臨軍五万の兵士は、刑布昌洞窟の入口付近に留まって巨紅龍に攻撃する兵士と、刑布昌の北側にある街の方に逃げ出す兵士で、臨軍は二手に分裂してしまった。
「こ、こんなはずでは!?」
娃魯将軍は凄く困惑していた。
自分は既に、撤退命令を出しているので逃げ出す兵士に責任はなく、また留まって戦ってくれている兵士は、殿の役目を果たしており、巨紅龍の追撃を辛うじて防いでくれている。
つまり、必然的に軍が二分されてしまうのだ。
「娃魯将軍、このままでは我が軍は全滅してしまいます! ご指示を!」
「ち、畜生ぉおおおおお!!」
最早、娃魯将軍にはマトモな思考が出来ていなかった。
何を思ったのか、突然……娃魯将軍が刀を取り出して、そのまま巨紅龍の方に走って突っ込んでいった。
「しょ…将軍…!!?」
だが、巨紅龍が身体を反転した際に、尻尾が娃魯将軍の首に激突し、頭がフッ飛ばされてしまい、残った胴体が流血しながら後方に倒れた。
娃魯将軍は死亡した。
「ひぃえええ!? しょっ、しょっ、将軍がぁあああ!?」
娃魯将軍が早くも戦死して、これで臨軍の命運も決定した。
その後、殿をしていた兵士も全滅して、残った臨軍の兵士も刑布昌の北側にある街の方に逃走し、巨紅龍も逃走する兵士の後を追った。
刑布昌の北側にある街は、既に人々が避難を終えており、街の封鎖も完了されていて、巨紅龍の浸入を阻止しようとしていた。
逃げ惑う臨軍の兵士に、刑布昌の昌留吏が話しかけてきた。
「兵隊さん、これは一体何事ですか!?」
「賊のせいで洞窟内にいた化物が外に出て暴れだし、娃魯将軍をはじめ、臨軍三万以上の兵士が、化物と戦い戦死! なおも、その化物はこの街に向かっている!」
逃げてきた兵士が、今までの出来事を簡単に説明すると、またさっさと逃げてしまった。
「しょ…将軍が討たれた!?」
昌留吏は "とても信じられない" という表情を見せていた。
兵士を追ってきた巨紅龍が、街の手前で停止して、街の方に向かって…炎の巨大球を…吐き出し…た…。
ズドォ―――
………??
あ、あれ…? ま…街が燃えていない…? これは一体どういう事なのか…?
「グ…ガ…ア…?」
巨紅龍が思わずマヌケなツラをして―――
な…なんと! 今度は巨紅龍の首が切断されて、頭がポトリと地面に落ちていて…残った胴体が後方に倒れてしまった!
巨紅龍は死亡した。
「え? え? 何でだ?」
「おい、これは一体どうなっているんだっ!?」
「……嘘だろう!? 一体何なんだ、コレ!?」
昌留吏や臨軍の兵士や街の人々が、不思議そうな顔をして、口々に疑問の声を上げていた。
人々がこの信じられない光景に、驚愕・動揺・混乱をしている中……はるか上空には、身長は人間の成人男性ぐらいで、上半身が赤紫色の肌・下半身が青紫色の肌・青銅色の翼・白銀色の尻尾・黄金色の邪神眼に、純白のフードとマントを身に付けた、異形?な姿をした男用人型の化物が、宙をプカプカと浮いていた。
『あの程度のドラゴンを相手に……なすすべなく逃げ惑うだけとは……やはり人間とは、所詮はこの程度の生物なのか…? …フフフ、まぁよい』
その男用人型の化物は、ニヤリと笑っていた。
『やはり……人間など、この "悪魔神" たる我の敵では、ないようだな……フフフ』
――― "悪魔神" と名乗る…その男用人型の化物が、またニヤリと笑うと、そのままシュッと姿を消してしまった。
どうやら、人間の様子を見に来ていただけのようだが、最後に人間を助けるとは…意外であった。
だが、それでも敵の残党全員、娃魯将軍、臨軍三万以上の兵士は戦死したものの、刑布昌の北側にある街の人々に被害がなかった事が、不幸中の幸いであった。
悪魔神『フフフ…今回見せた姿は複数ある内の、"ひとつ" と考えてもらって構わない……大魔王の奴がまだ動けないので、"ほんの少しだけ" 「ここ」に来ることができた…フフフ』