57、そんなはずでは!?
●【No.057】●
臨王国。
敵の残党の討伐の為に、臨軍は五万の兵士を刑布昌の方に派遣していた。
臨軍が刑布昌に入ると早速、刑布昌の昌留吏が臨軍を出迎えていた。
娃魯将軍は馬から降りて、刑布昌の昌留吏に話しかけていた。
娃魯将軍とは、成人男性・臨王国建国の功労者の一人であり、現在の地位は "射羽彰" と呼ばれる高位の将軍である。
「それで……敵の残党とやらは、一体何処にいるのだ? 見た感じでは、街には賊などはなく…一見して平和の様に見えるのだが…?」
「は、はい……そ、それが……その……あのぁー……」
「……? おい、なんだ? 一体何が起きているのか、はっきりと言え!」
「は…はい、敵の残党は…この街の北側に位置する "例の洞窟" の方に向かいました。 おそらくはあそこの中にある…金塊や財宝が目当てで、向かっていったと思いますが……。」
「な、何ぃっ!? あの "例の洞窟" に向かっただと!? バカな!? だ、だが……あの中には、恐ろしい凶悪な化物が住み着いていて、手が出せないはずだぞっ!?」
「おそらくは…知らなかったのでしょうか?」
「知らない? それこそバカな…だ! 陛下自らが全国・全国民に対して、しっかりと注意を呼び掛けているのだ! 知らないはずがない!」
「では…信用しなかった…と言うことですかね?」
「…はっ! 確かに、それは考えられるな……だとしたら相当、頭の悪い連中だな……。 仮にだ、陛下が偽りを言っているならば、もう既に金塊や財宝などは、臨がとっくに回収しているはずだ……どちらにしても、あの "例の洞窟" には行くべきではないのだ……。」
「はい、その通りです。 なので、いかが致しましょうか?」
「……そうか……なるほど…な……では、今回の任務は簡単そうだな。 まずは、あの "例の洞窟" の外で待機して、逃げてくる敵の残党を討伐すればいい訳だな。 よし!」
娃魯将軍率いる五万の臨軍は、早速 "例の洞窟" の入口の方まで向かい、外で待機していた。
※この "例の洞窟" のことを[刑布昌洞窟]と呼ばれている。
「さぁてと、あとは…洞窟の中から、慌てて逃げ出す敵の残党を成敗するだけだな。」
娃魯将軍は余裕の表情で、気楽に待っていた。
しばらくすると、刑布昌洞窟の中からこの世のモノとも思えない唸り声や、男たちの悲鳴や断末魔の声が、容赦なく聞こえてきていた。
「グガアアアァーーーッ!!」
「うぎゃあああああぁーーーっ!!」
「そ、そんなぁーーバカなぁーーーっ!!」
「た、た…助けてくれぇーーーっ!!」
「―――っ!!!」
しばらくは、男たちの大声が聞こえていたが、やがて "それ" も消え失せて、唸り声もしなくなった。
「……っ!?」
(……何故、出てこない? まさか―――)
娃魯将軍は不審な表情を見せていた。
「娃魯将軍、敵の残党がなかなか出てきませんね? もしかしたら全員……殺られてしまったのでしょうか?」
娃魯将軍は、必死になって考えていた。
これはもしかして…非常にまずいのでは……?
敵の残党が殲滅されたのであれば、そのことに問題はない。
問題はこのあとである―――もし……刑布昌洞窟の中に住み着いている凶悪な化物を下手に刺激して、激怒して洞窟から外に出てきたら、我々や街の人間を襲うのではないのか…?
娃魯将軍は、あまりの恐怖心に、身体中から冷や汗をかいて、少し動揺していた。
「全軍、ただちに撤退しろ!」
娃魯将軍はすぐに命令を出したが、時すでに遅し!
洞窟内部からゴゴゴオォーーッ!!の音とともに、物凄い勢いで炎が吐き出されていて、入口付近にいた数人の兵士が、焼き尽くされて灰となった。
「ちっ! しまった!」
「うわぁ!! なんだ!?」
「こ、これは一体―――」
「……っ!!?」
この突然の恐ろしい状況に、臨軍五万の兵士が驚愕し動揺していた。
「落ち着け、落ち着くのだ!」
兵士たちが混乱し、慌てている内に、洞窟の入口には、遂にその凶悪な化物が姿を現していて、真紅の身体をした巨大な龍、それは巨紅龍であった。
巨紅龍とは、アーサンティラル王国のアーラントの町に出現した凶暴なドラゴンであり、ヴァグドーが倒している。
「グカアアアアーーーッ!!」
巨紅龍は強烈な唸り声を上げて、威嚇していた。
「弓隊、あの龍に矢を放て!」
臨軍の弓隊が一斉に、巨紅龍の方に向けて矢を放つが、全く通用しなかった。
「そ、そんな……!?」
「ヒイイィ! ば、化物だぁーーーっ!!」
「た…た…助けて―――」
ズドォン!
最早、娃魯将軍も軍の統率がとれずにいて、兵士たちが街の方に逃げ出してしまい、そこを狙った巨紅龍が、炎の巨大球を吐いて臨軍の兵士を次々に、焼き尽くして灰にしてしまった。
「あぁっ! これはまずい! 一体どうすればいいんだっ!?」
娃魯将軍や臨軍は一体どうなってしまうのか!?




