56、臨王の登場:2
国が出来たばかりの頃は、なかなか上手くいかないものです。
●【No.056】●
臨王国。
国の中心部分にある都市を『臨響昌』と言い、ここが臨王国の王都であり、ここに臨王が居住している城がある大型都市である。
『臨響昌』の西側にある大型都市を『四済昌』と言い、以前は他国の領土であり、既に平定している。
『臨響昌』の北側にある大型都市を『刑布昌』と言い、ここも以前は他国の領土であり、既に平定している。
『臨響昌』の南側にある大型都市を『修塁昌』と言い、ここも以前は他国の領土であり、既に平定している。
『臨響昌』の東側にある大型都市を『許童昌』と言い、ここはもともと臨の領土である。
『昌』とは、臨王国で言うところの『県』や『州』と言った意味で、『昌留吏』と呼ばれる者がいわゆる知事的な地位であり、臨王の忠臣が就いている。
国は栄えつつあり、国民も今のところは落ち着いているが、滅ぼした国の残党も、まだ少しだけ残っており不穏な動きを見せていて、予断が許さない状況である。
その為に、敵の残党の討伐で臨軍が出兵する機会が増えており、出兵にかかる出費も少しずつ増えていた。
朝廷、政。
今回の臨王は、敵の残党をどう処罰するのかと、軍事にかかる予算についてを武官たちと議論していたのだが、そこに伝令の兵士がやって来た。
「なに? 刑布昌に敵の残党が現れただと?」
「陛下、ここは出兵をして、敵の残党を一気に討伐されるのが一番よろしいかと思いますが……いかが致しますか?」
「……出兵…か……」
臨王は顔を下の方に向けてため息をついた。
「…あ…あのぉー……」
「…いや、何でもない…それで武器の準備はどうなっているのか…?」
「はっ 刀・槍・鉄棒・弓矢の準備は完了しております。」
「それで兵糧や補給はどうなっているのか?」
「はっ 米・肉・魚・水・酒の準備は完了しております。 許童昌の "咸倉陵" からの補給も完了しております。」
※咸倉陵とは軍人専用の食糧貯蔵倉庫のこと。
「そうか、それで兵力はどのぐらい必要なのだ?」
「はっ 陛下の精鋭、臨軍五万の兵士は必要かと思います。」
「……五万…か……それで将軍は一体誰なのだ?」
「はっ 今回は娃魯将軍にお任せしました。」
「……彼か……まぁ、いいだろう、出兵の許可をしよう。 早急に刑布昌に向かい、敵の残党を三ヶ月以内で討伐せよ……よいか?」
「はっ 了解しました。 では失礼致します。」
伝令の兵士が一礼をして立ち去っていった。
臨王は再び、武官たちの方を向いて話しかけていて、議論に戻した。
「…それでは話しを戻そうか。 大軍の出兵にかかる費用をどうするか…だが……何かいい案はないか?」
「出兵にかかる費用の削減ですか? しかし…それでは満足に戦えませんですし、士気にも影響が出ます。」
「やはり、君ら将軍は出兵にかかる費用の削減は反対なのか? いや、余は君らの意見が聞きたいのだ。」
「はい、現状では万全の態勢で戦いに臨みたく思いますので、削減されると少し困ります。」
「なるほど、確かにな…それで戦いに敗北するようだと、それまでにかかった費用は全てが、水の泡だからな。」
「はい、兵士たちも必死になって戦って、勝利したいと思いますから……。」
「うむぅ……」
(確かに、兵士たちの気持ちを考えるなら削減は無理だろう)
「陛下、おそれながら質問してもよろしいでしょうか? これはもしかして、国家予算に関係することですか?」
「うむ、その通りだが、軍事にかかる予算の話しをしている。 残念ながら、国が出来たばかりで、国が動かせるお金がまだ、あまりないのだ。」
「それでしたら、四済昌・刑布昌・修塁昌にある、"あの洞窟" の中にある財宝や金塊を使用してはどうでしょうか?」
「確かに…それはいい案だが、"あの洞窟" の中には、恐ろしい凶悪な化物が住み着いていて、手が出せないだろう? 一体どうするつもりなのだ?」
「……うぅ……」
武官たちはその事に反論や返答が出来なかった。
「まぁ、いいだろう……それについてはまた議論を重ねようか? あとは……あの化物には手を出すなよ! まだ死にたくはないだろう?」
「は、はい…判りました…」
「以上で今回は解散する。」
臨王は武官たちを解散させて、それぞれの持ち場に戻らせた。
「………」
臨王は自分の部屋に戻り、椅子に座ってため息をついた。
「やれやれだな…勇者アドーレが戻らない限り、あの凶悪な化物はどうしようもないのだ。」
臨王の苦悩は、まだまだ続きそう……?




