37、大魔女が残したモノ
●【No.037】●
ヴァグドーたち一行(ヴァグドー、カグツチ、ロンギルス、エクリバ、ニーグルン姫、ルドルス将軍、勇者アドーレの七名)は、先程の老人の家の中にいて、相談を聞いていた。
「まずは…ニーグルン姫様には、こんな…むさ苦しい家に呼んでしまい、大変申し訳ありませんですじゃ。」
老人の第一声は謝罪から始まった。
「お爺さん、そこは大丈夫ですので、ご相談を聞かせて頂けますか?」
ニーグルン姫がすぐに話しの進行を促した。
「それで、相談とは一体なんじゃ?」
「ふ…む、それは… "地獄の水晶" についてのコト…なんじゃが……。」
「… "地獄の水晶" …?」
「……その "地獄の水晶" が、一体どうかしたのか…?」
「……は……い……」
老人は少し沈黙して、うつむいてしまった。
「………?」
「おい、どうしたのじゃ?」
「……ん? どうしたのだ? 急に黙ってしまって…?」
「盗まれてしまったのじゃぁーーっ!!!」
突然…老人が勢いよく大声で返答した。
「ええええぇーーっ!!?」
ニーグルン姫があまりの突然の返答に驚愕しており―――
「それは、なんと言うことなのだぁーーっ!!?」
ルドルス将軍もその返答にひどく動揺していた。
「………?」
だが、ヴァグドー、カグツチ、ロンギルス、エクリバ、勇者アドーレの五人は、無言でポカーンとしており、状況を把握できていない。
そもそも…五人は "地獄の水晶" と言うモノが、一体何なのか…まったく知らないのである。
ハッと我に返ったニーグルン姫が、"地獄の水晶" についての説明を始めた。
その "地獄の水晶" と言う特殊なアイテムは、いつ頃か…突然…フラリと現れた大魔女 "シャニル" が造り出したモノで…魔法力を作って、無尽蔵に溜め込める事が出来る容器であり、いつでも瞬時に使用する事が出来るのだ。
つまり、"地獄の水晶" を常に所持しておけば、理論上は半永久的に魔法力を使用し続ける事が出来るのだ。
ここで、… "シャニル" …と言う名前の女性が出てきているが、彼女もまた…ヴァグドーや勇者アドーレと、同じ日本人の『転生者』であることは、既に判っている。
ニーグルン姫は "地獄の水晶" についての説明を続けていた。
「その…あまりの強大な力である "地獄の水晶" を我が王家は見過ごすことが出来ずに、このマユダの町にある "封印された地獄の祠" に "地獄の水晶" を封印してもらい、二度と人の手に渡らない様にしたのです。」
ちなみにその… "封印された地獄の祠" も大魔女 "シャニル" の力作であり、封印も彼女が行ったのである。
だったら、彼女に「何で造ったんだ!?」とか「持って帰れよ!!」とか、色々とツッコミたくなるのだが、そもそも "地獄の水晶" の作成依頼をしたのが、アーサンティラル国王なのである。
(目的は不明…おそらくは、出来上がったモノが、あまりにも強力だった為に、扱える品物ではなかった?)
「それで…その "地獄の水晶" とやらが、何者かによって奪われた…と言いことなのか…?」
「はい、ああ…お父様になんと報告したらいいのか…解りません。」
ニーグルン姫はガックリと落胆していた。
「なるほど、それで…その爺さんが、"地獄の水晶" の管理者という訳なのか?」
「いや、違うんじゃ。 この街の住人全員が管理者で…今回の当番が、たまたま…ワシらじゃったんじゃよ。」
「そいつは災難じゃったな。」
「それはお気の毒でした。」
「なるほど…そこで私たちの手で、その "地獄の水晶" を取り戻してほしいのだな?」
「はい、勿論…御礼はさせてもらいますじゃ。」
「ワシは別に構わんぞ、引き受けてやる。 ひとつ、心当たりがあるしの。」
「はい、ボクもです。」
ヴァグドーと勇者アドーレの二人は、お互いの顔を見ていて、頷いていた。
「……心当たり…ですか…?」
「ほれ、まだ解らんのか? ワシらがこの街に来たときに、石で出来たドラゴンがいたじゃろう! あれは一体何で動いていたと思うのじゃ!?」
「……はっ!!?」
ニーグルン姫たち一同が、ヴァグドーの発言に、凄く驚愕して…唖然としていた。
「ええ、おそらくは… "地獄の水晶" によるもの…ですね。」
ヴァグドーと勇者アドーレの二人が、あの時に感じていた違和感は、もしかして "これ" だったのかもしれない。
大魔女シャニルよ…。
今…一体何処にいるのか…?




