311、【ブラック・カード】
●【No.311】●
とある場所にある港町の連絡船乗り場にて。
停泊中の大型豪華客船並みの連絡船があって、その連絡船には客室や食堂や共有スペースや酒場などがある。 その客室には、テーブルやソファーやベッドやトイレやシャワーなどがある。
その一室には、あのレイドルノとダルラルダの二人がいて、また…あの『ワールドエルフ天蝎』も別の一室にいた。
その後…突如として、乗り込んできた賊徒共をレイドルノが一人だけで片っ端から討伐していく。 その間に、あの『ワールドエルフ天蝎』が人質となった船長・副船長・乗員乗客たちを救出していく。
倒した賊徒共は全員まだ生きている。 奴らの両手足・全身を鉄のロープで縛られ、身動き取れない状態で、鉄の檻に閉じ込められていて出ることができない。 その鉄の檻自体も、凄く重い上に連絡船の外にある甲板の一番端に置かれてある。 さらに乗員たちが常に、その鉄の檻を見張っており、もはや手出し口出しすることもできやしない。 しかも賊徒共は、まだ気絶したままだった。 このまま翌朝には出航する予定だ。
全てが終わった時には、レイドルノがまた…ダルラルダの眠るあの部屋へ戻ってきて、一緒のベッドに眠る。 あの『ワールドエルフ天蝎』もまた…自分の部屋に戻って読書を続けていた。 こうして、夜が明けていき、翌日の朝には、無事に船が出航した。
その後で、あの賊徒共が一体どうなったかは、もはや誰にも解らない。 だがしかし、超賊徒が落としたドロップアイテム【ブラック・カード】についてなら、まだなんとかわかるかもしれない。 あの【ブラック・カード】とは、一体何なのか? 勇者が持つ "漆黒のカード" とは、また色以外でほとんど違っており、このカードを持っていれば、勇者になれるワケでもない。 そもそもこのカードだけを持っていても、特に何も起こらない。 謎のカードである。
この【ブラック・カード】は現在、ヴァグドーとレイドルノの二人が持っている。 いずれも超賊徒を倒した直後に、ドロップアイテムとして入手している。 他にも、この【ブラック・カード】を所有している者がいるのか不明。 また用途も不明。 しかし、自分の身分証明カードと合体させることで、初めて【ブラック・カード】としての役割が果たせるようだ。 ドロップアイテムとして落とされたままの状態では、まだ何も使えないということ。 そして、少なくともヴァグドーとレイドルノの二人は、それを知っていたということ。 この【ブラック・カード】の真の力が、これからわかるということなのか? それは誰にも解らない。 今はまだ―――
だがしかし、このカードの真の力は知らずとも、それを欲する者は少なくない。
ここは某所にある暗闇の部屋の中にて。
そこに耳を済ませば複数の話し声が小声で聞こえてくる。 別に作戦会議をしているワケではなさそうだけど、悲痛な想いは伝わってくる話し合いだ。
「……ちっ……」
「………」
「あの超賊徒を倒した者がいる」
「それは誰だ?」
「ヴァグドーとレイドルノだ」
「ちっ、あの二人か……」
「そうか、あの二人なら超賊徒ごときワケもなく倒せるだろう」
「―――ということは……あの【ブラック・カード】も……あの二人が手に入れた……ということなのか……?」
「ああ、そういうことになるな。 よりにもよって、あの二人の手に渡ることになるとは……」
「「「………」」」
「―――取り返せるか……?」
「―――不可能だ。 もう既に自分たちの身分証明カードと合体させている。 あの状態で奪い取ることは不可能だ。 それに…あの二人と戦うことになるだけだ……」
「オレは遠慮する。 あの二人とは、まだ戦いたくないからな……」
「怖じ気づいたか?」
「なら、お前がヤッてみろ」
「………」
「―――人質をとればよい」
「―――不可能だ。 ヴァグドーに人質など無意味。 すぐに人質を奪還されて終了だ。 もしくは人質奪還を他の仲間に任せて、自分は主犯格を狙いに行くはずだ。 そうなると、もう手がつけられない。」
「その通り。 烈火の如く向かってきて、瞬く間に敵を圧倒・制圧する。 しかも、それでいて…本人はまだ本気すら出していない……」
「一度でも狙われたら最後だ……」
「ならば……ヴァグドー以外の全員を人質にすればよいのでは?」
「………」
「おいおい、冗談のつもりか……? まさか……勇者アドーレや大魔女シャニルまで人質にできるとでも思っているのか……?」
「オマケに悪魔神オリンデルスや上位魔族のテミラルスまでいるぞ。 そいつらを人質にするなど、倒されに行くようなモノだぞ?」
「「「………」」」
「当然、オレは遠慮する」
「無論、オレも遠慮する」
「……くっ……」
「ならば……レイドルノの方はどうだ?」
「ちっ、あの夫婦か……」
「それで……ダルラルダを人質にするのか?」
「―――不可能か……?」
「―――不可能ではない。 だが…オレは遠慮する」
「―――オレも遠慮する。 危険すぎる……」
「怖じ気づいたか?」
「何故だ? 目隠しすればいい」
「そんな単純な問題ではない」
「人質がどれほど危険な行為か、お前たちはまるで解っていない……」
「どうしても彼女を人質にしたいのであれば、お前がやれ」
「オレたちは止めない」
「………」
「ちっ、それでは……打つ手なしか……?」
「……くっ、そ…それは―――」
「でも……そうなってくると、あの【ブラック・カード】が本当に、あの二人の手に渡ることになるぞ! それで本当にいいのかッ!?」
「「「………」」」
「「「それは仕方のないことだ」」」
「……??」
「ッ!!?」
「なっ、なんだとッ!?」
「諦めるのかッ!?」
「これもまた運命だ」
「機運が今……あの二人に向いている」
「否、機運ではない。 むしろ奇跡だ」
「あの二人に【ブラック・カード】が渡ったのなら、それはそれで受け入れざるを得ない」
「残念で無念だが、仕方あるまい」
「………」
「ふざけるな! そんなことがあってたまるか! オレは決して諦めない! 必ず奪還してみせる!」
「そ…そうだ! このまま引き下がれるか!」
「おう、そうだそうだ!」
「そうか、強情な連中だな」
「ならば……スキにしろ!」
「オレたちは止めない」
「………」
「……ちっ……」
どうやら話を聞いてると、強硬派・穏健派・静観派の三種類の漆黒の人影がいるようだ。
某所にある暗闇の部屋の奥から、複数の漆黒の人影があって、見ようによっては幽霊にも視える。 このふざけた連中は一体何者なのか? 何やら複数いる内の何人かが必死になって、ヴァグドーとレイドルノの【ブラック・カード】入手・使用を阻止して、それの奪取を狙っているみたいだけど―――まだまだ話し合い自体は続いているようで、悲痛な想いだけは伝わってくる。




