310、超越する者
●【No.310】●
あの『ワールドエルフ天蝎』がレイドルノたちの宿泊している部屋にいた。 勿論、賊徒共の侵入を知らせる為に来たのだが、もう既にレイドルノは戦闘準備をしていた。 さすがだ。 しかし、どうやら一人だけで戦うつもりらしい。 そこであの『ワールドエルフ天蝎』がレイドルノのステータスを確認する。
「バカな……レベル……700……だと……!?」
「………」
「しかも……攻撃力が2800以上…などと……っ!?」
「………」
あの『ワールドエルフ天蝎』が驚愕するのも無理はない。 もはや、ヴァグドーたちのステータスを散々見てきたヴァグドー仲間ならともかく、おそらく『ワールドエルフ天蝎』にとっては初めて見るケースだろう。 何せそうそういないからな。 レベル700などという大台の冒険者を見ることなど……。
あの『ワールドエルフ天蝎』が戦闘準備を完了させて、まもなく出陣する彼の様子を見ている。
「………」
なるほど、これだけの力があれば、あんな賊徒共など余裕で倒せるワケか……。 それなら―――
「この『ワールドエルフ天蝎』に作戦がある」
「―――作戦?」
「そうだ。 キミが賊徒共を倒している間に、この俺が人質になっている乗員乗客を救出する。」
「なるほど、ならばこの俺があの雑魚共を一匹残らず始末していけば、あとはあんたの方でうまくやってくれるということか?」
「ああ、そうだ」
「よし、ならばそれでいこう」
「奥さんはどうする?」
「彼女は朝まで起きない。 外側からドアをメタル化してしまうば、外部から部屋に侵入することはできないはずだ。」
「よし、それでいこう」
「「………」」
二人が頷きながらアイコンタクトをとる。 どうやら作戦が決定したようだ。 そこでレイドルノと『ワールドエルフ天蝎』の二人が部屋から出て、外側からドアのカギをかけた上で、ドアの外側をメタル化させて、ドアを開けられないようにする。 またレイドルノがダルラルダ宛に置き手紙を残しており、万全の体制で臨むことになる。 二人が廊下に出ると、左右へ飛び散って行った。
あの作戦のおさらい。
まず最強無双のレイドルノが片っ端から賊徒共を討伐していき、レイドルノの快進撃に驚愕・動揺した賊徒共の油断・隙をついて、あの『ワールドエルフ天蝎』が人質になっている船長・副船長や乗員乗客を救出する。 どちらにしても、この船を取り戻さなければ、次の目的地に行くことはできない。 まさに苦渋の決断である。
レイドルノが行く先々で出会った賊徒共も片っ端から倒す。 勿論、できるだけ静かに無音で倒す。 他の賊徒共を呼び込まない為に、倒して無力化した賊徒共を何処かの物陰に隠して、また新たに出会った賊徒共を倒していく。 その作業の繰り返しである。 まぁ…レベル700以上あるのだから、このくらいの戦闘は造作もないことだろう。
「………」
あっという間に、あっさりと船長・副船長や乗員数人が捕縛されてる共有スペースのある場所にいる賊徒共以外の全員が、レイドルノに倒されてしまった。 残念ながら…ここまで…なのかもしれない。
「………」
まだ共有スペースのある場所で、愚かにも賊徒共の高笑いが続いていたので、奴らの場所の特定は可能である。 レイドルノもすぐに素早く、その場所へ向かっていった。
一方の『ワールドエルフ天蝎』も、もう既に賊徒共のいる共有スペースのある場所に到着していた。 その場所が見える位置の物陰に隠れて、人質救出の機会を窺っていた。 大半の賊徒共がレイドルノによって敗北・無力化しており、その人数を著しく減少させていた。 それでも奴らはまだ高笑いを続いていた。
「バカなのか?
自分たちの仲間が減っているのに、まるで気づいていないのか? それともまだ余裕でもあるのか?」
あの『ワールドエルフ天蝎』が賊徒共をよく観察しているけど、やっぱりただのバカなだけなのかもしれない。 あそこにまもなくレイドルノが来る。 それがあの『ワールドエルフ天蝎』にもわかるのに、奴らはまるで判っていなかった。
ところで奴らを観察して、ひとつわかったことがある。 ここの奴らの装備の違いである。 ここ以外の周囲を警戒していた奴らは剣や槍や棒などを持っていたけど、ここの奴らは鉄グローブ・鉄ブーツを装備している。 つまり、周囲警戒組は雑魚。 ここの奴らは幹部連中。 特に中央にいるあの大男が、おそらくここのボス。 そんな感じに見える。 おそらくはあの大男が超賊徒って奴か―――
「!」
来たか……レイドルノ。
まさか…本当に、ここにいる連中以外の賊徒共を全て倒してしまうとは…。 どうやら敵にすると恐ろしい男だということを改めて認識することができたよ。 彼が堂々と奴らの前に現れた。 よーし、こちらもこの隙をついて、静かにあちらへ回り込んで人質救出といきますか…。
レイドルノが静かに賊徒共の前に現れた。 レイドルノの存在に気づいた賊徒共が、遂に高笑いを止めた。
「貴様、一体何者だ!?」
「なんだ!? 貴様は!?」
「一体何処から現れた!?」
「………」
「ふん! バカめ!」
シュッ!
そう言うとレイドルノの姿が消えた。
「「「「ッ!?」」」」
次の瞬間―――
ズドォッ、ドゴォッ、バゴォッ、バキィッ、ドォーン!
一瞬にして、超賊徒以外の賊徒共全員を倒して無力化した。 まさにあっという間の出来事だった。 もっとも相手がヴァグドーだったなら、こんなにあっさりと倒されることなど、まずあり得ないことだけど…。 姿すら見せずに攻撃するとは、このレイドルノも強くなったものだな。
「バ……バカな……?」
「残るは貴様だけだ」
「バカめ! こちらには人質がいることを忘れたか!」
「………」
そこで超賊徒が後ろを振り向いて見ると、そこに船長・副船長・乗員乗客の姿がなくなっていた。 どうやらあまりにもレイドルノだけに気を取られ過ぎて、あの『ワールドエルフ天蝎』が人質を救出したことに気づいていなったようだ。 これで超賊徒は完全なる孤立無援・四面楚歌となった。
「なっ、いないっ!?」
「もう諦めて、お縄につけ!」
「黙れ! ここまで来て、諦めてたまるか! 今度こそ俺様は海賊になるんだ!」
「ふざけるな! 貴様ごときが海賊などになれるか!」
「黙れぇぇぇーーーーっ!!」
そこで超賊徒が素早くレイドルノに襲いかかる。 だがなぁ、必ずこの船を取り戻す。 断じて貴様らなどに渡してたまるか。
《超賊徒》
〇レベル:45・ランク:E
●容姿:賊徒の親玉。 大型・屈強な身体つきをしていて、鉄グローブ・鉄ブーツを装備している。
◎攻撃方法:鉄グローブ・鉄ブーツによる打撃。 近距離肉弾戦に特化。
「死ねぇぇぇーーーっ!!」
「ふん! バカめ!」
タッ、ヒュッ!
超賊徒が鉄グローブの右腕を素早くレイドルノの顔面に突いてくる。 鋼鉄の右拳がレイドルノの顔面めがけて飛んでくる。
シュッ!
だが…次の瞬間、そこにレイドルノの姿はなく、一瞬にして、超賊徒の背後に回り込んで、そこから素早く超賊徒の後頭部めがけて、鋭い回し蹴りを喰らわした。
クルッ、ドゴォーーン!
「……うがぁっ……な……なんだとぉ……っ!?」
「―――言ったはずだ。 貴様などに海賊は無理だと―――」
「……そ……そんなバかなぁ……」
ドサッ!
レイドルノの回し蹴りをモロに喰らった超賊徒が、そのまま前のめりに倒れて気絶した。 もうピクリとも動かない。
[バカめ! 見事にレイドルノが超賊徒に勝利した!]
「ふふふ」
レイドルノが超賊徒の落としたドロップアイテム【ダークネス・カード】を拾って、自分の身分証明のカードと、この【ダークネス・カード】を重ね合わせて、ひとつのカードにした。 このレアアイテムもきっと重要な役割を果たしてくれるだろう。




