308、旅する夫婦
●【No.308】●
とある森の奥深くに、幻の泉があった。
ここにヴァグドーたち一行が馬車でやって来て、その泉の上には、あの女神ハーディスが浮いてた。 思えば…この女神は、あのヴァグドーを誕生・転生させた偉大な人物であり、他にも勇者アドーレや大魔女シャニルとも顔馴染みの女神だ。 最近で言えば、あのイトリンもこの女神のお陰で、ここまで生きてこられたと言える。 なかなかの功労者だ。
まだハーディスに質問するヴァグドーたち。
「それで……レギザス王国の "ギルド冒険商" へ行けばいいのか?」
「あぁ~~、レギザス王国に "ギルド冒険商" はないわぁ~~♪」
「えっ、"ギルド冒険商" がない?」
「?」
「……」
「ほーう、そうかい……」
「それで……そのレギザス王国とは、一体どういう国なのでしょうか?」
「あぁ~~、そうねぇ~~、どうなのかしらねぇ~~?」
「えっ!?」
「?」
「なるほど、そういうことか……」
「なんじゃ?」
「何か判りましたか?」
「あらぁ~、何かわかったのぉ~?」
「そのレギザス王国についての情報は……シャットアウトされているようだね?」
「なんとっ!?」
「そんなぁ!?」
「えぇ~~っ!?」
「ちっ!」
「つまり、実際に見て確かめろ……ってことなんだろうね」
「ええ、そうなのよねぇ~~♪ でも "ギルド冒険商" がないのは本当よぉ~~♪」
「「「……」」」
「なんじゃ、結局情報は得られんか……」
「ごめんなさいね。 あの国は情報が封印されているのよぉ~~♪」
「……?」
「えっ!?」
「情報が…?」
「…封印…?」
「なるほど、どうやらワケありのようだね? そのレギザス王国という国は…」
「ならば…仕方あるまい。 実際に見て、どういう所なのか、確かめるしかあるまい」
「ええ、そうですね」
「ホント、仕方ないわねぇ~~」
「ホント、ごめんなさいねぇ~~♪」
「……」
「……謎の国……レギザス王国か……」
「なるほど、情報封印の国……レギザス王国か……。 ―――面白い」
「「「……」」」
「おいおい、危険な所は勘弁してくれよ」
「心配せんでよい。 ワシがついておる」
「そ……そうかぁ……」
「もうこれ以上は情報は得られませんね?」
「これは早く行った方がいいんじゃない?」
「そうだね。 ボクもその意見に賛同するよ」
「そうじゃな。 ではそろそろ行こうか?」
「「「「はい!」」」」
「「「ああ!」」」
「はいは~~い、それではヴァグドー御一行様ぁ~~♪ レギザス王国へご案内ぃ~~♪」
バァシャァアアアァァァーーーンンン!!
ヴァグドーたち一行が馬車ごと、その幻の泉の中に飛び込んだ。 これで問題のレギザス王国へワケもなく行けるだろう。 しかし、一体どういった国なのか? 一切の情報がない。 せめて、その国が本当に "王国" であることを祈るのみ。 わざわざ "王国" と名乗っているのだから。
「ヴァグドーちゃんたちのご武運を祈ってます♪」
フッ!
ヴァグドーたち一行が馬車ごと、泉の中に入るところを見届けた女神ハーディスが、そのまま姿を消した。 彼らの無事を祈りつつも、ようやく役目を終えて消えたのか…?
だがしかし―――
その様子を遠くの木の陰に隠れて見ていたヤツらがいた。 あの賊徒共だ。 コイツらはおそらく、あのヴァグドーとの戦いには参加せずに、何処か物陰に隠れてたみたいだ。
「……行ったか?」
「ああ、行ったみたいだ」
「よし、すぐにお頭を助けよう!」
「おう!」
コイツら……あのヴァグドーをやり過ごしてたようだ。
ヴァグドーたち一行がレギザス王国へ向かったことを見届けると、すぐに超賊徒の所へ駆け寄り、剣でロープを切断して、超賊徒を自由にしてから【目覚めの粉】を超賊徒の頭に振りかける。
すると…ここで―――
ザァン、サラサラサラ―――
「………うっ……うっ………」
「……お……お頭……?」
「あっ、お頭が目覚めた!」
「大丈夫ですか? お頭!」
「……あっ……ああ……なんとかな……」
「そうですか」
「それは良かった」
「それにしても酷い目にあったぜ。 この俺様が…まさか負けるとは……?」
「俺たちも隠れて見てたけど、あの野郎……とんでもねえ強さですぜ?」
「ああ、ありゃあ……バケモンだぜ!」
「隠れていて、良かったよ」
「……」
「お頭、あの野郎たちは、そのまま『女神の泉』の中へ飛び込んで、レギザス王国へ向かって行きましたぜ?」
「そうか……行ったか……」
「まさか……あの野郎たち……レギザス王と戦うつもりですかね?」
「さぁな、だが…ヤツを倒すには…あの男の力が必要かもな…」
「……」
「お頭、俺たちは一体どうすれば?」
「寝ているヤツらを叩き起こせ!
この【縄張り】は "放棄" する。 他の別の何処か遠い安全な場所へ避難する。」
「「「はい、判りました!」」」
タッ、タッ、タッ、タッ!
賊徒共が森の外の方へ向かって駆け出す。
「ちっ、レギザス王め!
そのままあの男にやられちまえぇ!」
タッ!
超賊徒も森の外の方へ向かって走り出す。
果たしてレギザス王とは、一体何者なのか? どういう人物なのか? それと…あの男とは、一体誰のことを言ってるのか? 少し……気になるところだ。
━・ー●ー・━
とある場所にある港町の連絡船乗り場にて。
停泊中の大型豪華客船並の連絡船があり、その連絡船には客室や食堂や共有スペースや酒場などがあり、その客室にはソファーやベッドやトイレやシャワーなどもある。 その一室には、あのレイドルノとダルラルダの二人がいる。 どうやらこの船で、元いた大陸から別の大陸へ移動するみたいだ。
明日の早朝、出航するらしいので、今夜はあらかじめ予約しておいた客室のベッドで眠るみたいだ。 ベッドは二人分の大きめのベッドなので、夫婦一緒に眠ることができる。
「それでは今夜はこのまま寝る。」
「はい、判りました。」
「「おやすみなさい」」
今夜はもう疲れたので、そのまま一緒のベッドで眠る。 他の客室でも乗客が寝静まっていて、大型豪華客船内は静寂だった。
ZZZZZZZZZZ―――
そんな停泊中の大型豪華客船内でも、船長・副船長・乗員乗客以外の者たちが続々と侵入してきた。 コイツらは…一体何者なのか…? だけど…見張り番以外のほとんどの者が寝静まった状態の停泊中の連絡船では、誰も気づかずに簡単に侵入できた。
「よし、侵入成功」
「こちらも侵入成功」
「あちらも侵入成功」
「よし、散って船長以下、乗員乗客は全員殺害。 そのまま金品を強奪して撤退するぞ」
「「「了解」」」
「気に入った女がいたら…どうします?」
「……好きにしろ」
「「「了解」」」
そいつらが小声で話し合うと、そのまま各所・客室へと散っていって、できるだけ足音・物音を消して行動する。 深夜暗闇→連絡船内部→みんなが寝静まった状態→このまま誰にも気づかれず→静かに仕事ができる→と思ってた。
だがしかし―――
侵入者に気づいた者が、一人だけいた。 ある客室の一室で、一人読書をしていたら、大勢の見覚えのない気配を感じた。 圧倒的な違和感だったので、すぐにわかった。
「んっ、この気配は……? ―――賊徒共か…」
なんだと賊徒共だとぉ!? この男は…一体何者なんだぁ!? 否、この男は…あの『ワールドエルフ天蝎』だった。 偶然、この連絡船に居合わせてたようだ。 どうやら彼もまた、この大陸から別の大陸へ移動するみたいだ。 さすがはさすらいの旅人。
「ちっ、コイツはマズイな。 早くレイドルノの奴に知らせないとな」
そう言って『ワールドエルフ天蝎』が、そのまま静かに部屋を出ていった。




