305、何かおるな?
●【No.305】●
とうとう某東の砂漠を越えて、元の平坦で何もない普通の道へ戻ることができたヴァグドーたち一行。 彼らを乗せた馬車が、このまままっすぐ進んでいき、次の目的地へ向かう。 ここから次の目的地までの道のりも、また長そうだ。 しばらくは直線の道が続くけど、やがて前方に森が見えてきた。 森の中にも道が続いてる感じだ。 何もない平坦な道から森の中に入ると、木々が生い茂っていて太陽の光が遮られる。 森の中は薄暗い。
「森の中に道があるとは?」
「これは……整備されてるということですか?」
「ふむ、みたいじゃな」
「こんな森の中に何故?」
「ふむ、確かに……な」
「まぁ…とにかく先を進みましょう」
「ふむ、そうじゃな」
森の中を進むワシら一行。
ワシとルドルス将軍とで話し合う。 お互い馬車の外に出ている者同士・御者台に座る者・歩いて馬を引く者・馬車の中にいる者たちと違い、外で話ができる者たちじゃ。 ちなみに御者台にも一応は屋根がついており、雨露は防げるようになっておる。 唯一雨露が防げないのは、このワシだけじゃ。
それにしても―――
森の奥に入れば入るほどに、さらに薄暗くなる。 森の中の整備された道をワシらの馬車が突き進む。 こんな所、動物か魔物ぐらいしかいないだろう。 何故、こんな所に道が? だがしかし、ワシはそれ以外の気配を感じ取った。 それとあともうひとつ、不思議な気配がある。
「誰かおるな?」
「え?」
「数にして約30くらいか?」
「魔物ですか?」
「否、人間じゃ」
「え?」
ワシの発言にルドルス将軍が驚く。 まぁ…無理もあるまい。 こんな森の奥深くに人間がいる方がおかしいじゃろ? ワシじゃあるまいし、だとすると、アヤツらはまさか……?
ガサガサガサガサ―――
ズザザザザザザザ―――
「「「「……」」」」
すると向こうの方からたくさん出てきおった。 間違いない……賊徒共じゃな。 ワシらはここで馬車を停めた。
「ヴァグドーさん、あの連中は?」
「賊徒じゃな」
「賊徒?」
「そうじゃ。 しかし、何故賊徒がこんな森の奥深くにおるんじゃ?」
「さぁ?」
「……」
ワシらが話しておると、向こうの方からも話しかけてきた。
「おい、テメエら!
ここはオレたちの縄張りだぜ!」
「勝手に入ってくるんじゃねえ!」
「死にたいのか!」
「ここから消えろ!」
ほーう、こんな森の奥深くを縄張りにしておるとは、解せぬな。 ワシらみたいな森好きでもない限り、一般市民や旅人はおろか、そもそも冒険者すらやって来んじゃろう。 なにしろ森の奥深くには狂暴な動物や魔物もおるしな。 こんな所を縄張りにしておる意味が解らん。 隠れ家やアジトでもこんな森の奥深くには造らん。 ワシみたいなモノズキでもない限り……な。 縄張りの意味、わかっとるのか?
「聞いてんのか!」
「えぇ、おい!」
「聞こえんのう」
「何っ!?」
「なんだとっ!?」
「テメエェ!?」
「ブッ殺すぞ!」
「ほっほっほっ、このワシをブッ殺すか…?」
「このヤロー、オレらをなめてんのか!」
「……」
ほっほっほっ、威勢のいい賊徒共じゃ。 たまには人間を相手にするのも悪くない。 ワシは馬車から離れて、一人前へ出る。 その周囲を賊徒共が包囲する。 ほっほっほっ、すっかり逃げ道を失ったのう。
「……」
「テメエ、覚悟はできているのか!」
「後悔させてやるよ!」
「血祭りにあげてやる!」
「ほーう、血祭りか? ではワシがお前さんたちを『木祭り』にあげてやろう」
「何っ!?」
「ふざけんな!」
「やっちまえええぇぇ!」
「「「おう!」」」
賊徒共が一斉にワシに襲いかかる。 それにしてもこの賊徒共は鉄グローブと鉄ブーツを装備しておるな。 アレで殴ったりに蹴ったりするのか? 今時、近距離肉弾戦とは、賊徒共にしては珍しいのう。
ガン、ドン、ガン、ドン、ガン、ドン、ガン、ドンッ!
賊徒共が鉄グローブや鉄ブーツで、ワシの顔面・胸部・腹部・背中・後頭部などを殴ったり蹴ったりする。 ハタから見ると、ただのリンチじゃ。 アヤツらがワシのことを取り囲んで、あらゆる方向から一斉にワシの身体に攻撃する。 しかし、ワシは微動だにしない。 痛くも痒くもない。 まぁ…賊徒共の実力では、この程度か…?
ルドルス将軍は思う。
命知らずのモノズキな連中だな。 まさしく井の中の蛙、大海を知らず…というヤツか…。 無知というモノが、これほど罪深いとは……ただ彼らの武運を祈るのみだ。
いくら殴っても蹴っても怯むどころか、ビクともしない。 直立不動の仁王立ち。 まるで大木・岩石―――否、鋼鉄の柱を相手にしているようだ。 息切れして疲労困憊なのが、ヴァグドーではなく、むしろ攻撃している賊徒共の方である。 思わず攻撃を中止して距離をとった。
「……」
「はぁはぁはぁはぁはぁ…」
「な…なんだコイツ…?」
「一体どうなってるんだ?」
「いくら殴っても蹴ってもピクリとも動かない?」
「チクショオウッ!
アレだけやって、怯むどころか傷ひとつついてねぇなんて!」
「コイツ……バケモノか……?」
「はぁはぁはぁはぁはぁ…」
自分たちの攻撃が全く通用しないで驚愕していると―――
ピキピキピキピキピキ―――パリーーン!
ピキピキピキピキピキ―――ドパーーン!
「「「「ッ!!?」」」」
なんと賊徒共の鉄グローブや鉄ブーツが一斉に破壊されてしまった。 あのヴァグドーの鋼鉄の肉体を攻撃しすぎて、思わずボロボロに砕け散ったようだ。 逆を言えば、鉄グローブや鉄ブーツがなければ、今頃は賊徒共の腕や脚が粉砕されていたかもしれない? ちょっとしたラッキーだったかもな。
「な……何ぃーーーッ!?」
「そんな……バカな……?」
「鉄グローブが……?」
「鉄ブーツが……?」
「どうした? もうかかってこんのか?」
「「「うっ!?」」」
「「「いっ!?」」」
「「「ひっ!?」」」
「ならば、こちらから行くぞ!」
「「「「ッ!!?」」」」
すっかり怖じ気つく賊徒共相手に、ワシが全身から妖しく禍々しい邪悪な漆黒の闘気を放出させて、一気に両腕両足を左右に広げた。
バッ!
「【神納覇・気闘波爆】!」
ドッバァーーーン!
「「ぐあっ!?」」
「「うげっ!?」」
「「あがっ!?」」
ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッ、ガクッ!
次の瞬間、妖しく禍々しい邪悪な漆黒の闘気を利用した見えない力で、周囲にいた敵だけを全員後方に吹き飛ばす。 ワシの気合いの力だけで、あっという間に賊徒共が木々にぶつかって再起不能となる。 その中には、木にぶつかった拍子で張りつけにされた者もおる。 これぞ、まさしく『木祭り』というヤツじゃ。
「ほっほっほっ、言ったであろう。 『木祭り』にされるのは、むしろお前さんたちの方じゃと」
「……」
相変わらず、とんでもない強さを誇るヴァグドーを見て、ルドルス将軍が思った。
あ…あの技は……【神納覇・気闘波爆】という技だったのか…?
それにしても―――
なんという強さなのか…?
本人もまだ本気ではないんだろうけど、やっぱり、この強さは少し異常だな。 30人はいたはずの賊徒共を一瞬で一撃で全員気絶させてしまうとは、本当に凄いことだな。 この人に勝てる者など、本当にいるんだろうか?
などと考えていると、
「さぁ、行くぞ!」
「はい!」
ワシが馬を引いて馬車を動かす。
再起不能で気絶しておる賊徒共は無視して、ワシらは馬車を再び進めて、さらに森の奥深くへと入っていった。 たしか森の奥深くに幻の泉があったはずじゃ。
ヴァグドー氏の
『縄張りの意味、わかっとるのか?』について解説。
そもそも縄張りとは、他者・他勢力から自分の地域・拠点・重要地点などを防衛すること。 または他者・他勢力を排除・排斥して、自分が占有・占拠する場所のことを指す。 しかし、こんな森の奥深くまでは誰も寄りつかない。 せいぜい動物や魔物がいる程度。 そこにたまたまヴァグドーたちが来たので、縄張りという表現を使ったのかもしれないけど、そもそもがただの通り道なので、別に縄張りがどうこういう訳ではない。 要するに、ただ通さない為のいちゃもんにすぎないのだ。




