304、旅立つ夫婦
●【No.304】●
某東の砂漠の東側終着点にて。
なんとヴァグドー&勇者アドーレ&大魔女シャニル&悪魔神オリンデルスの四人が力を合わせて、あの "悪股の大蛇" [闘弐頭]《キング・オアシス》を遂に倒した。
その《キング・オアシス》の身体が消滅して、ドロップアイテムから青い眼球【魔玉石】が4つも現れた。 ワシらが、それぞれ青い眼球【魔玉石】を4つ拾い上げる。 ひとつはワシが、ひとつはオリンデルスが、ひとつはシャニルが、ひとつはアドーレが、それぞれ拾い上げる。 戦利品じゃな。
ワシは上位魔族テミラルスに向かって、拾った青い眼球【魔玉石】を投げつける。
「テミラルスよ、受け取れ!」
「んっ!」
ヒュッ、パシッ!
投げた青い眼球【魔玉石】がバリヤーを通過して、馬車の中から顔を出したテミラルスが手で受け取る。
「ありがとう!」
「エリュドルスに渡しておけ!」
「ああ、わかった」
これで大魔王エリュドルスは、楽して赤い眼球【魔玉石】と青い眼球【魔玉石】が渡ることになる。 今頃は、ふたつの【魔玉石】を眺めて楽しんでるんじゃないか? それにしてもこんな貴重なレアアイテムを盟友とはいえ、あの大魔王なんかに譲ってやるなんて、ワシも相当太っ腹じゃな。 もっとも宝玉などに興味がないけどな。
ワシにあんな宝石など必要ない。
ワシが欲しいのは、強者との戦闘経験だけじゃ。 勝敗は関係ない。 戦い続けることが重要じゃ。 この強者との戦いこそが、やがてワシの血となり肉となる。 ワシを "真の最強" へ押し上げてくれるはずじゃ。 そう… "真の最強" とは、永遠に強くなり続けることなのじゃからな。 今のワシはまた… "真の最強" ではないのじゃ。
「それでは先を急ぎましょう」
「ふむ、そうじゃな」
「ああ、わかった」
「ええ、そうね」
またアドーレたちが馬車の中に乗り込み、ワシが馬を引いて歩く。 ワシら一行を乗せた馬車が、そのまま砂漠を越えていき、何事もなく無事に砂漠を出ることができた。 ようやくこの広大で長い長い砂漠も終わりを告げて、元の平坦な道に戻ってこれたようじゃ。 ワシら一行を乗せた馬車は、とりあえず…このまま道なりにまっすぐ進むことにした。
━・ー●ー・━
━元ギドレファナス王国━
━旧王国のギドレファナス共和国━
現在の元ギドレファナス王国では、最大権力である王家親衛騎士団隊は解体、更なる協力体制で全ての権力がこれで無くなり、国民たちの為の国作りが徐々に開始された。 その為の王位・王権の廃止と国民の中から優れた者を国の代表にする制度の提案が出されており、国名も一時的にギドレファナス共和国に変更されて、後日改めて国名を新しくする方針である。
軍隊についても、一時的に "バーデハルドン" が軍総司令官となり、他の元王家親衛騎士団隊たちも暫定的な将軍となって、軍の統率・管理をすることになる。
それとこの国の中央部には、かつて王城だった跡地の廃墟がある。あのヴァグドーたち一行が、国の中央部にある旧王城廃墟跡地を最初に見つけた者たちであり、その後はレイドルノ&ダルラルダ&ロゼッダン&エウノミア&エイレネと限られた者しか知らない場所となる。 そして今ではバーデハルドンもこの場所を知っている。
この廃墟の中には、A地点、B地点、C地点があり、また廃墟の外には、D地点、E地点がある。 これらは皆、ヴァグドーが総称した場所である。 ヴァグドーがE地点から一人で廃墟の周囲を警戒しながら見回るようにして歩いていた。そこから最後のF地点を通り過ぎた辺りで、いつの間にか "墓標の森" に入ってしまっていた。この "墓標の森" は、かつてヴァグドーが一人で暮らしてた "地獄の森" に何処となく似ている光景だった。 だからヴァグドーは迷子になることはなかった。 そこからさらに森の奥の方へと進めると、まるで何者かに導かれるようにして、大きな古い墓石・先代国王の墓が置いてある場所を見つけた。 このヴァグドーの行動によって、今では彼が居なくとも、この場所を知る者なら自由に行くことができるようになった。
まさに彼の貢献は大きい。
さらに―――
国の中央部にある、かつて王城だった跡地の廃墟の森の奥にある、鬱蒼とした森の一番奥で、先代国王の大きな古い墓石が置いてある墓所の上空。 あの神光聖者エリュニウスが、大魔王エリュドルスの要請で、あの墓所周辺を上空から結界を張って、完成させた "正聖力の結界" がある。
あの神光聖者エリュニウスが、強力なエネルギーを先代国王の墓石・墓所に注ぎ込んだ場所である。 今では先代国王の墓石と墓所全体に、とてつもないヤバイ透明な "正聖力の結界" が張り巡らされていて守られてる。 これでこの結界を解くことは、理論上ほぼ不可能となった。 いかに『保険魔法』といえども、これは容易にはいかないのだ。
(※[正聖力の結界とは、大魔王エリュドルスが開発した正義と聖なる力の結界のこと。 基本的に全ての「邪悪業欲」なる者の侵入・攻撃・魔法等を阻害する究極の破邪結界であり、術者全員を殺害しなければ、この結界を解除することができない。 つまり、ヴァグドー&勇者アドーレ&悪魔神オリンデルス&大魔王エリュドルス&神光聖者エリュニウスの五人全てを殺害しないと、この結界は解除できないのだ! 凄い結界だ!])
また前回登場した〈地球神アクナディオス〉は、一般的な温和で冷静な〈地球神アクナディオス〉とは全く違い、自分勝手で少し凶悪化しており、一般的な〈地球神アクナディオス〉が使用できるハズの特殊な吸収能力を持たずに、その代わりに『保険魔法』を使用する限られた選ばれし、邪悪な〈地球神アクナディオス〉の突然変異版である。 それ故に、ヴァグドー相手に簡単にあっさりと敗北したのだ。 でも、もし一般的な特殊な吸収能力を有する〈地球神アクナディオス〉が相手だったら、さすがのヴァグドーでも果たして勝利できたか疑問であり、コイツが結界内に侵入することができない。
今日もまたレイドルノ&ダルラルダ&ロゼッダン&エウノミア&エイレネ&バーデハルドンの六人でお墓参りに来ていた。
「「「―――」」」
「「「―――」」」
墓前で全員が、無言で涙を流し泣き崩れるようにして、土下座しながら黙祷している。
これって、この地方のお墓参りの仕方なのか? ―――独特だな。
「「……」」
「やはり、行くのか?」
「ああ、この国のゴタゴタもようやく落ち着いたようだし、当面はまだギドレファナス共和国でいいのではないか?」
「ああ、そうだな。 お前たち二人が抜けるのは、少々痛いが当面はまだギドレファナス共和国で行くしかあるまい。 あの男の国名を使用し続けるのは、少々癪だがな。」
「ふっ、贅沢言ってる場合じゃない。 俺たちもヴァグドーたちに先は越されたが、当初の目的通り、世界を見させてもらうぞ。」
「お先に失礼します」
「「……」」
「……残念です」
「やはり、そうか。 仕方あるまい」
「あちらに船の用意はできております」
「ああ、ありがとう」
「これで私たちも、この広大な世界を確認することができます。」
「二人共、お元気で」
「良い旅を」
「達者でな」
「ご武運をお祈りしております」
「ああ、みんなによろしくな」
「それでは行ってきます」
こうしてお墓参りが終わると、レイドルノ&ダルラルダの二人もヴァグドーたち一行を追うようにして、この大陸をあとにして、次の大陸へ船に乗って向かっていった。




