301、ニセオアシス:2
●【No.301】●
某東の砂漠の最東端にて。
ヴァグドーたち一行を乗せた馬車がオアシスに到着した。 そのオアシスは綺麗で美しく清涼感ある見事なオアシスに見えた。 だがしかし、ヴァグドーと悪魔神オリンデルスの二人だけには、そのオアシスがドス黒く毒々しい沼地に見えてた。 実際にこの沼地に入ると、身体が溶けてなくなりそうな感じだ。 かなりヤバそうに見える。
「待て! 行くな!」
「「「「……?」」」」
カクヅチやエクリバやニーグルン姫たちが、あのオアシスに近づこうとすると、ワシが慌ててそれを阻止する。 思わずみんなが咄嗟に立ち止まる。 普段は冷静沈着で怖いもの知らずの男が慌てて声を出すものだから、あのオアシスに近づこうとした者も止まって離れる。
「止めた方がいいよ。 あのオアシスは危険だよ」
「「「「………」」」」
さらにオリンデルスもワシに追随するように仲間に警告して制止する。 あのオアシスは危険だと。 普段はおとなしい無口な男も、あのオアシスに関しては口を開いたため信憑性が増した。 見た目は綺麗で透き通っているけど、信頼度の高い二人が声を上げたことで、あのオアシスに近づく仲間はもういない。
「みんな、下がってください!」
「「「「……は…はい……」」」」
ここに来て、あの勇者アドーレさえもあのオアシスの危険性を認識しており、あのオアシスに近づこうとしたカクヅチやエクリバやニーグルン姫たちを馬車のバリヤーの中まで下がらせた。
すると突如として―――
ドッカァァァァーーーーーッ!
「「「「!!?」」」」
なんと…あのオアシスが大爆発を起こした。 モノ凄い威力の爆発で、オアシスの水も周囲も跡形もなく消し飛んだ。 だがもし、ワシたちの制止も聞かずに、カクヅチたちがあのオアシスに入っていたら―――かなりヤバかったようじゃ。
「えっ、爆発した……?」
「な……なんで……?」
「ば……爆発……?」
「ど……どういうこと……?」
あんな透明感・清涼感あったあのオアシスがイキナリ爆発したことで、近づこうとしたカクヅチやエクリバやニーグルン姫たちが驚愕する。 しかし、あのオアシスがイキナリ爆発するなど、誰も想像していなかっただろう。 お陰でオアシスがなくなった。
「な…なんで爆発したんだ…?」
「さぁ…なんでだろう…?」
「………」
「やっぱり、あのオアシス……ヤバかったようだね…」
「あのオアシス……爆発する水じゃったか…」
「えっ…それって液体爆弾ってことですか…?」
「液体爆弾?」
「水の爆弾ってことです」
「なんと!」
「否、仮にそうだとしても何故ここに…?」
「……?」
確かに、こんな砂漠の東側にオアシスに似せた液体爆弾などが何故あるのか? 意味が解らない。 否、それよりももっと重要な問題があるみたいだ。
「なんでイキナリ爆発したんだ?」
「た…確かにそうよ…」
「?」
「おそらくヒトの気配・足音・熱源に反応して爆発したのだろう。」
「つまり、カクヅチやエクリバたちがあのオアシスに近づきすぎたので爆発したと思われるね。」
「そ…そうなのですか…」
「うわぁ~~~」
「ひぇぇぇ~~~」
「なるほど、そうだったのか」
「確かに危なかったですよね」
「ヒトの気配・足音・熱源に反応して…?」
「……」
ゾクッ!
それを聞いてカクヅチたちが怯える。
さっきのオアシスは、ヒトの気配・足音・熱源に反応して爆発する液体爆弾であり、それがワシやオリンデルスには、ドロドロで毒々しく黒い沼地に見えていたのじゃ。
「ちっ! オアシスじゃないのか…」
「……ハズレだったか……」
「先を急ぐぞ! みんな馬車に乗るんじゃ!」
「「「「はい!」」」」
再びカクヅチやエクリバやニーグルン姫たちが馬車に乗り込み、ルドルス将軍も御者台に座り、ワシが馬の手綱を引きながら出発させる。 次のオアシス目指して突き進む。
某東の砂漠の東側の某所にて。
ヴァグドーたち一行がさらに東へ向かって馬車を進める。 先程の教訓を踏まえて、今度はワシの意見が尊重されることになる。 見た目では、全く解らないので、そこでオアシスを発見した場合、まずワシに意見を求める。
しばらく前方を歩いていくと、またオアシスが見えてきた。 だが…今度のオアシスは茶色く濁っており、とてもオアシスと呼べるものではなかった。 勿論、ヴァグドーたち一行はそのオアシスを素通りして先を進む。 その後も白く濁ったオアシスや赤茶色に濁ったオアシスなどを素通りして先を進む。 当然ながら、ワシに意見を求めるまでもなく、アドーレやシャニルやニーグルン姫たちにも濁って見えてた。 どうやら一番最初のヤツだけ、幻惑されてたようじゃ。 もし先程のヤツが罠だとしたら、なんだか罠としては雑であり、手抜きしてるように見える。 この分だと、まだまだ本物の幻のオアシスは当分見つからないのではないか?
だが…ワシが意外な発言をした。
「近いぞ!」
「えっ?」
「もうそろそろと見た!」
「幻のオアシスが…ですか?」
「ふむ、そうじゃ!」
「……」
ワシの突然の発言に戸惑うルドルス将軍。 だが…ワシが言うことであれば、ほぼ間違いないはず…。
━ー━・●・━ー━
―――某東の砂漠の某所。
辺り一面砂漠だらけ。
昼は炎天下、夜は氷点下、方向感覚麻痺、地面が砂地なため歩きにくく、当然ながら宿屋も教会も酒場も民家すらない。
そんな砂漠の奥深くに移動式人工オアシスがあった。 このオアシスの所だけは、気温変化なし、方向感覚正常、歩きやすい平地、水場や植物がある。 まさに休憩所には、もってこいの所だ。
シュッ!
『・・・』
また…そのオアシスの水の上に黒い人影が浮かんで現れた。
『・・・』
そんな黒い人影が周囲を見渡し確認する。 相変わらず女神たちの姿はない。 だけど、このオアシスも黒い人影によって、だいぶ片付けられており、オアシスの存在自体もなくなってきた。 その黒い人影がまた周囲を見ながら考える。
フフフ、この移動式人工オアシスもだいぶ片付いてきたな。 これでもうヴァグドーたちは、この移動式人工オアシスを発見することはできない。 せいぜいこの広大な砂漠の中で、見つかるはずのない幻のオアシスを探し続けるがいい。 フフフ。
……………。
ここら辺一帯に複数のニセのオアシスを作り出し、ヤツらに対して時間をかせぐことには成功した。 やっぱり…あのヴァグドーとかいう人間には、すぐ気づかれてしまったけど、もともとが単なる時間かせぎにすぎない。 だから問題ない。
『よし、片付いたぞ!』
バッ!
その黒い人影が両腕らしき黒い細い棒を下側に出して、両手らしきモノが黄色に発光して、その光が移動式人工オアシスに移って発光する。
ピカッ、ピカッ、ピカァーーン!
次の瞬間、移動式人工オアシスが跡形もなく消え去った。 これではヴァグドーたちの目的がなくなる…?
『フフフ・・・これでいい! せいぜい探すがいい! 女神共よ!』
シュッ!
液体爆弾さえ無駄にしておいて、お釣りが来るほどの達成感に、その黒い人影の表情まではよく解らんが、何故かまた満足そうな感じで、その場から姿を消した。 やっぱり…あの液体爆弾は、コイツの仕業だったか…。
だが…コイツはまだ知らない。
ヴァグドーたちの真の目的が、一体何だったのか・・・を―――




