300、ニセオアシス:1
●【No.300】●
某東の砂漠を東へ。
ヴァグドーたち一行は馬車で砂漠を移動。 悪魔神の力を借りて馬車にバリヤーが張られていて、外からは手出しできないようにしてある。 勿論、劇的温度変化・砂嵐・砂漠専門モンスターなども手が出せない優れもの。 そんな彼らが次に目指す目的地は、謎のオアシスである。
「……」
「砂ばかりですね?」
「…砂漠じゃからな…」
「目的地のオアシスは何処にあるのでしょうか?」
「ふむ、特に目印があるわけではないからのう。」
「まるで雲を掴むような話ですな?」
「ふむ、もしかしたら雲を掴む方が簡単かもな?」
「……」
「とにかく東に進む以外にない…」
馬を引きながら歩くワシと馬車の御者台に座るルドルス将軍の他愛もない…たいしたこともない会話。
砂漠を西→東へ横断。
悪魔神のバリヤーで砂漠特有の温度変化に対応。 それと砂嵐や砂漠専用モンスターにも防御可能。 それに馬車の中は意外に広くて快適なので問題ない。 それから料理人もいるため、食事の心配もない。 夜は大事をとって停止して休息・睡眠をとる。 オマケにワシ以外に砂漠を歩く者もいない。 このまま砂漠を突っ切って抜けても問題ない。 こうまでしても―――それほどまでに、ここの砂漠のオアシスは幻なのじゃ。
「もうしばらく歩くつもりじゃ」
「そうですか」
「まぁ…とにかく東じゃな…」
「なるほど、確かにこんな砂漠の中では、目印も所在地もありませんからね?」
「ふむ、そうじゃな。 まぁ…気楽に行こう…」
「はい、判りました。」
ワシとルドルス将軍とで他愛もない会話をしながら、どんどんと休まず東へ向かう。 日中はこうやって、どんどんと距離をかせいで先へ進む。 このまま砂漠の最東端まで行く勢いで進んでいく。 そうすることで、もしかしたらオアシスが見つかるかもしれない。
━ー━・●・━ー━
―――某東の砂漠の某所。
辺り一面砂漠だらけ。
昼は炎天下、夜は氷点下、方向感覚麻痺、地面が砂地なため歩きにくい、ただ広いだけの砂漠といった所か。 当然ながら宿屋も教会も酒場も民家すらない。
そんな砂漠の奥深くに移動式人工オアシスがあった。 このオアシスの所だけは、気温変化なし、方向感覚正常、歩きやすい平地、水場や植物がある。 まさに休憩所には、もってこいの所だ。 先程までは全裸の女性が三人はいたはずなのに、今はもう誰もいない…。 あの三人は一体何処に行ったのか?
『・・・』
何故、彼女たちの姿が消えたのか、それも大変問題なのだが、それよりも何故、オアシスの水の上に黒い人影が浮いているのか? まるで心霊写真に出てきそうな、よくぼやけて見えるただの黒い人影だ。 少し不思議な感覚であり、非常に問題なのだ。
『・・・』
そんな黒い人影が周囲を見渡し確認する。 しかし、このオアシスには誰もいない。 やっぱりオアシスに長居するべきではないぞ。 その黒い人影が周囲を見ながら考える。
―――おかしい?
あの女神共がいないぞ?
アイツら・・・一体何処に行ったんだ?
まさか・・・逃げたのか?
――――――――――――――――――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
━━━━━━━━━━━━━
まぁ・・・いい。
ヤツらは後回しだ。
まずはあの人間共をなんとかせねばなるまい。
あの人間共ももうずくここまでたどり着くだろう・・・。 それまでになんとかせねば・・・。
……………。
ここら辺一帯に複数のニセのオアシスを作り出して、ヤツらに対しての時間をかせぐ以外にあるまい。 あのヴァグドーとかいう人間ならば、すぐに気づかれる心配もあるけど、それでもある程度の時間はかせげるはずだ。 それ以外に方法はあるまい。
『よし!』
バッ!
すると、その黒い人影が両腕らしき黒い細い棒を前方に出して、両手らしきモノが白く発光して、その光が周囲の地面に移って発光する。
ピカッ、ビビビビビビビビビィィィィ―――ピカァーーン!
次の瞬間、周囲の地面の砂漠が強く光輝いた。 一体何が起こったのか…?
『フフフ・・・これでよい! せいぜい迷うがいい! 女神共よ!』
シュッ!
何かを成したと思われる、その黒い人影が表情まではよく解らないけど、まるで満足そうな感じで、その場から姿を消した。 ニセのオアシスがどうとか言ってたけど、アレの目的が一体何だったのか…?
━ー━・●・━ー━
某東の砂漠をさらに東へ。
ここからヴァグドーたち一行は、ようやく砂漠の東側の所まで来ていた。 ここら辺へにたしか幻のオアシスがあったはずだけど…?
もう少しだけ東へ向かうと、遂に遠くの方でオアシスみたいなモノが見えてきた。 しかし、少し様子がおかしい…?
「おっ、遂にオアシスが見えてきましたぞ!」
「?」
「ヴァグドー殿?」
「……オアシス……?」
「えっ、アレはオアシスではないのですか…?」
「……」
ヴァグドーたち一行を乗せた馬車がオアシスみたいな所に近づく。 確かに見た目はオアシスに見えるけど、この男だけが何故か、なんとも言い難い不思議そうな顔をする。
「コレがか…?」
「何かおかしいことでも…?」
「……」
ヴァグドーたち一行を乗せた馬車がオアシスみたいな所に到着。 確かにとても美しく透き通った水溜まりのある場所なのだが、彼の目には、また違ったモノが見えていた。オアシスみたいな所に着いたことで、馬車の中にいた仲間たちがどんどん降りてきた。
「「おお、オアシスだぁーーっ!」」
「「ようやく着きましたね」」
「ここで一休みしますか?」
「おお、それ賛成ぃ!」
「右に同じ!」
「あらぁ~、なかなか綺麗なオアシスじゃないぃ~♪」
「おお、なかなかいいじゃないかぁ~~」
「?」
「……」
「ヴァグドー殿、ここはオアシスではないのですか?」
「なんだ……コレは……?」
「ん!?」
ここにカグツチやエクリバや大魔女シャニルたちが、それぞれ綺麗なオアシスであることに感想を述べる。 けど…あの悪魔神のヤツも少し様子がおかしい…? ここにあるオアシスは南の島にあるような感じの思わず水着で日向ごっこできそうな所だ。
「うわっ!?」
「どうしました?」
「コレがオアシスか…?」
「否、コレはオアシスではない…」
ワシとオリンデルス以外の仲間たちが綺麗で清涼感のあるオアシスだと思い込んでいるけど、この二人だけは―――
「「なんだ……この黒い沼地は……?」」
そう……この二人だけは、清潔で清涼感のあるオアシスなどではなく、ドス黒く毒々しい沼地に見えていたのだ。