298、鎮座なる者
●【No.298】●
某東の砂漠。
そこは奇妙に歪みのある暗い空間である。
この場所だけは、砂漠というよりは暗闇の中に歪みがある感じで、かなり不気味な所である。 ここには、さすがに砂漠軍隊も出現できない。
その場所こそが、おそらく "地獄の砂漠" と呼ばれる所だ。
そこでヴァグドーと悪魔神オリンデルスの二人が、その奇妙な歪みのある暗い空間の所まで歩いて近づく。
「なるほど、ここか?」
「へぇ~、ここだけ変に歪んでるね?」
その奇妙な歪みのある暗黒空間の目の前で止まる。 すると、人間が来たことで、その歪みの暗黒空間の中から変な奴が現れて、ワシらの目の前に立ち尽くす。 コヤツは一体何者なのか?
「なんじゃ? コイツは?」
「へぇ~、コイツはなかなか……」
その変な奴とは、巨大な岩石の人型と身体についてる炎が特徴のモンスターであり、その名も《岩砂焦》という。 この大陸の凶悪モンスターである。 ソイツが突然、両腕を振り上げて、その両の拳をワシとオリンデルスの頭上へ、勢いよく振り下ろす。
グゥーン、ブゥーン!
「ふん!」
「へぇ~」
ズドドォォーーーン!
ワシとオリンデルスの二人が、それぞれ片手で《岩砂焦》の両の拳を受け止める。 あの巨体の太い両腕で振り下ろされたにも関わらず、ワシらはびくともしない。 しかも、地面は砂漠にも関わらず、ワシらの足元は沈まずに、そのままの状態を維持する。
グゴゴゴゴゴォォォォーーーー―――
『グゴゴオオオオォォォォ』
「「……」」
いくらアヤツが力を込めても、コイツらは一向に沈まない上に、全く微動だにせず潰れないので、さすがの《岩砂焦》でも後方にジャンプして後退する。 ワシらとアヤツとで少し距離をとった形じゃ。
タッ、ズゥゥン!
どうやらコヤツの相手は、ワシとオリンデルスの二人でするようじゃ。
《岩砂焦》
外見:巨大岩石人型モンスターに全身炎の鎧をまとう。
レベル:440・ランク:B
なんだか腹部に仕掛け有り。
攻撃方法:炎をまとった太い腕からなる強烈な拳の一撃。 腹部の仕掛けからの強力な一撃。
ここであの奇妙な歪みのある暗い空間も消えてしまい、元の普通の砂漠に戻る。 あの暗い空間が消えたことで、ここでもまた砂漠軍隊が大量に出現して、ワシとオリンデルスに襲いかかる。
「「?」」
タッ!
『グオッ!』
そこに《岩砂焦》もあの巨体で地面を蹴って、ワシとオリンデルスの方に素早く向かってくる。 また向かいながら拳に力を溜めて火も出ておる。
そこでヴァグドーは考える。
ほーう、コヤツ……ワシと同じ拳勝負を仕掛けるか…? その心意気や、なかなか良し。 やはり男たるもの、拳で語るが一番じゃ。 ならばワシも拳で返すしかあるまい。 それが拳勝負の礼儀じゃ。 それと砂漠軍隊の方は、オリンデルスに任せよう。
ブアアアアアァァァー―――パァァァンンン!
その《岩砂焦》がワシの目の前まで近づくと、その拳をワシの顔面めがけて素早く振り抜く。 ワシはそれを左手で受け止める。 普通ならば、この一撃で既に終わってるはずじゃ。 誰が見ても、そうでしかないはずじゃ。 じゃがしかし、ワシはそこからびくともしない。
『グオオオオオオォォォォ』
「ほーう、なかなかやりおるのう」
ズバババババババァァァァーー―――パパパパパァァァァンンン!
今度は《岩砂焦》が、その両の拳でワシの顔面めがけて思いっきり打ち抜く。 俗に言う両手連打である。 この両手連打を使用する者はあまりいない。 この世界の攻撃は、主に剣や槍などの武器による攻撃か、攻撃に特化した魔法での攻撃でしかない。 素手による攻撃などは稀で、ほとんどの者はしない。 下手すると手を痛めてしまうからじゃ。 じゃがしかし、ワシはあえて素手による攻撃に固執しておる。 そして、コヤツもまた素手による攻撃に固執しておるようじゃ。 ワシは相変わらずヤツの拳による攻撃を全て両手で受けきっておる。 つまり、アヤツの突きは…ワシには当たらぬ。
「ふんふんふん!」
『グゴゴゴゴゴオォォォォ』
なかなかの腕じゃな。
あの太い両腕で、素早く鋭く勢いよく、ワシの顔面や胸部などを殴ってくる。 それをワシが両手で素早く正確に防いでいく。 先程からコヤツ……ワシしか狙っておらん。 まず弱そうなワシから討って、その後で強そうなオリンデルスの相手をするつもりなのか……? それならば、それで歓迎するところじゃな。 むしろ好都合じゃ。 さぁ…存分にワシだけを狙うがいい。 あとオリンデルスのヤツめ……もう砂漠軍隊を倒してしまったか…。
「ふんふんふんふんふん!」
『グゴゴゴゴゴオォォォォ』
パシパシパシパシパシ―――
アヤツが両の拳を鋭く高速連打させて、ワシの身体に勢いよく打撃して、たくさんのダメージを与えようとしておる。 勿論じゃが、ワシの方も両手で防御して、アヤツの攻撃を防ぎ続けておる。 まだ一度もアヤツの攻撃を受けておらん。 強靭な肉体で守られてるだけではなく、巧みに防御・回避することで守備を強化する。
「ふん!」
ドゴォォーーン!
『グゥヌヌヌッ!?』
ズズズズズズズッ!
アヤツがワシに攻撃しておる隙をついて、ワシが右拳を鋭く素早くアヤツの腹部に叩き込む。 無駄に図体がデカイ分、こちらの攻撃がよく当たる。 思わずワシの攻撃を喰らった《岩砂焦》が後退りして、ワシらからまた距離をとる。
『グゥウウッ!?』
「ほっほっほっ、ワシの攻撃は当たったのう。」
「……」
あの《岩砂焦》の腹部に穴が開いた。 あの程度の岩石ならば、ワシでも軽々と穴を開けて破壊できるのじゃ。 あの者の岩石の身体も相当に頑丈・堅固だと思うけど、ワシの拳はそれ以上に頑丈・堅固なのかもしれん。 あと拳の破壊力も、こちらの方が上かもしれんな。 ちなみにオリンデルスはワシの隣で腕組みしながら立っておる。 砂漠軍隊を全て倒して、暇か……?
『グオオオォォォ』
「ふむ、かかって来ないのか?」
「へぇ~」
そこで《岩砂焦》の動きが止まった。 こちらの方に近づいて来ない? どういうことじゃ? さすがにもう降参……という訳でもあるまい。 まだ何か奥の手が残されておるやもしれんな。 でなければ、アヤツに勝機はない!




