296、女神たちの憩いの場
●【No.296】●
ヴァグドーたち『塔突入組』が『矢獄関』・『倍獄関』・『弦獄関』のあの三つの関所の巨大な建物があった場所から、中心部にある今はもう何もない平地・あるポイントへ戻ってきた。 ここに黄金の大型馬車が停めてある。
ワシが周囲を見渡す。
といっても、今は『女神の巨塔』も消えていて、森に囲まれた平地があるのみ。
「ふむ、あの塔もないな…」
「はい、そのようですね…」
「一体何だったんだ? あの塔は…?」
「無論、女神の為の塔ですよ。 役目が終われば、もう用はありませんからね…」
「……」
「でも、凄かったよねぇ~」
「ええ、まったくねぇ~」
「やりましたね師匠!」
「ふむ、そうじゃな…」
「しかし、残念でしたね。 今回も女神と戦えずに…」
「否、もし…あのまま戦っておったら負けておったわ」
「「「えっ!?」」」
「「「……」」」
「あのパワーはまだ短時間しか発動できぬ。 しかも…あのパワーはやたらとエネルギーを消費するから、おそらくあの化物までで精一杯じゃったろう。 あのまま女神と戦っておったら、間違いなく敗れておったわ。」
「へぇ~、さすがのアンタでも負けるのかい…?」
「……」
「なるほど、そうでしたか…」
「なるほど、まだまだ未完成ということか?」
「そういうことじゃな。 まぁ…いずれまた戦う機会もあるじゃろうて」
「ええ、そうよねぇ~」
「まぁ…そうだけどさぁ~」
「ふっ、そうだといいがな…」
「「「おかえりなさいヴァグドーさんたち」」」
「おかえりなさいませヴァグドー様」
「「お疲れ様ですヴァグドー殿」」
「おお、今帰ったぞ!」
「はい、戻りました皆さん」
「いやぁ~、ようやく戻れたよぉ~」
「やぁ、みんな今帰ったよ」
「「ただいまぁ~」」
ここで黄金の大型馬車からロンギルスやニーグルン姫たちが降りてきて、塔から戻ってきたワシらを出迎える。 そこで勇者アドーレや悪魔神オリンデルスたちが、ロンギルスやニーグルン姫たちに、先程まで塔内部で起こった出来事や経緯を簡単に説明する。 勿論、伝説の皇剣【水候炉の剣】の入手方法も合わせて説明した。 この地域では、もう既に『矢獄関』・『倍獄関』・『弦獄関』や『女神の巨塔』も存在しない。 文字どおり何もない地域となった。
「へぇ~、なるほどねぇ~。 それは大変だったねぇ~」
「そういうことですか。 それはまた大変でしたね」
「おお、そうですか! やっぱり戦闘がありましたか?」
「「はぁ~、やっぱり行かなくて良かったぁ~」」
「よくぞ無事で、皆さんお疲れ様でした」
塔内部の戦闘を聞いた『居残り組』が、それぞれ感想を述べてる。 塔内部の戦闘は実際には、このワシのみが参加していただけなので、ほとんど一対一の勝負であった。 まぁ…もっともワシが負けるところなど、誰も想像できんじゃろうが……。 まぁ…何はともあれ、みんなが無事に生還して、ホッと一安心……といったところかの。
「それでは、そろそろ次の目的地に行こうか。」
「「「「はい、判りました。」」」」
「「ええ、そうねぇ~」」
「「ああ、わかったよ」」」
この後で、ワシ以外の仲間全員が馬車の中に乗り込んで、ルドルス将軍が御者台に座って馬を引き、このワシも外から馬を引きながら歩く。 そして次の目的地である某東の砂漠へ向かって進む。
━ー━・●・━ー━
―――某東の砂漠。
辺り一面砂漠だらけ。
砂・砂・砂…しかない所、昼は炎天下、夜は氷点下、方向感覚麻痺や歩きにくい砂地といったかなりヤバイ所。 当然、宿屋も教会も酒場も民家すらない所。 この砂漠もなかなか広くて、マジでヤバイ所。 ここにヴァグドーたち一行が向かっている。
そんな砂漠の奥深くに移動式人工オアシスがある。 このオアシスの所だけは、気温変化なし、方向感覚正常、歩きやすい平地、水場や植物がある。 まさに休憩所には、もってこいの所。 でも当然、普通はこんな所に誰もいない―――はずなのだが、なんと水浴びしている二人の女性がいた。 その彼女たちが全裸の状態で、そのオアシスの池か湖に浸かっていた。 この女性たちは、一体何者なのか? そもそもなんで、こんな何もない所に、全裸の女性が二人もいるのか?
「あはははははぁ♪」
「うふふふふふぅ♪」
散々、オアシスで水遊びして楽しんだ二人が、オアシス近くにあるビーチパラソルの下のデッキチェアに座って、それぞれトロピカルオレンジジュース・クリームメロンジュースを飲んでリラックスする。
「はぁ~、面白かったぁ~♪ ねぇ、エロスゥ~♪」
「ええ、そうね」
「ん?」
「ねぇ、アフロディーテ。 あの二人が戻ってきたわよ。」
「あら、意外に早いわね? もう終わったのかしら?」
「ええ、そうみたいね」
この二人はどうやらアフロディーテとエロスという名前の女性のようだ。
そこに先程まで『女神の巨塔』にいたアポロンとスクルドの二人も、このオアシスに来ていた。 その二人から『女神の巨塔』内部で起きた出来事と経緯について簡単に説明してもらった。
「えっ、あの《二兎追うものは、一兎をも得ず》が殺られちゃったの?」
「ええ、残念だけどね」
「あのヴァグドーって人間……最後の方でもの凄いパワーを発揮して、あっという間にあの《二兎追うものは、一兎をも得ず》を倒してしまったよ。」
「その前も十分互角に戦っていたけどね。」
「へぇ~、それはまた凄いね。 さすがはハーディス自慢の転生者ね?」
「もう人間の域を超えているのでは?」
「へぇ~、やるわねぇ~」
「いずれにしても、私はこのままアルヴァロスの所まで戻って、この事を報告するよ。」
「ええ、お願いね」
シュッ!
スクルドの姿だけ消えた。
おそらくアルヴァロスとかいう奴の所へ瞬間的に転移したのだろう。 残ったアポロンは紅蓮のオーバードレスを脱いで全裸になり、エロスの隣のデッキチェアに座って、ストロベリークリームジュースを飲む。
「はぁ~、疲れたぁ~」
「アンタはただ見てただけでしょ?」
「いやぁ~~♪」
「そのヴァグドーって、もしかして変身したの?」
「それで、どうだったの?」
「ええ、やっぱり変身したわね。 なかなか凄かったわねアレ」
「やるわねヴァグドー♪」
「へぇ~、今度私も見てみたいなぁ~ソレ」
「あら、アフロディーテやエロスもヴァグドーと出会うつもり?」
「そりゃあもう♪」
「ええ、だってハーディスの自慢の転生者の人間だからね?」
「でも、もうじきここにも来るはずだから、何も問題ないわよ」
「なら…今のうちに温泉でも作っておこうかしらね?」
「うふふ、今から楽しみね♪」
全裸のアフロディーテとエロスとアポロンの三人が並んでデッキチェアに座って、それぞれジュースを飲みながらリラックスして、ヴァグドーたち一行が来るのを楽しみに待っていた。
※紅蓮のオーバードレスとは、紅蓮のウェディングドレスのこと。




