293、『女神の巨塔』:3
●【No.293】●
ここは『女神の巨塔』の内部にて。
ヴァグドーたち『塔突入組』の八人が太陽の女神アポロンや運命の女神スクルドと対面・対峙する。 その太陽の女神アポロンが突如として巨大な白い化物《二兎追うものは、一兎をも得ず》を出現させた。 その《二兎追うものは、一兎をも得ず》がアポロンたちより前へ出る。
巨大で白い化物―――頭が兎に似ていて、首が長く、目は赤く、頭が二つあって、胴体が細長く、両手・両足がなく、尻尾が長い。 二つの頭には鋭い牙を持つ狂暴な兎であり、胴体が白い蛇……または龍の姿をしている凶悪な化物である。
今からコイツと戦うのか?
「コイツは意外と強いから気をつけるといいよ。」
「それで誰が戦う? それとも全員か?」
「無論、ワシが戦う」
「「……」」
「構わぬな?」
「一人で戦う気か?」
「無論じゃ」
「…言っておくけど、コイツは意外と強いよ?」
「判っておる。 じゃからまずワシから戦い、ワシが殺られたら、他の連中がとどめを刺す。 ある程度はダメージを与えているはずじゃから、アドーレたちでもなんとか倒せるはずじゃろうて。 もっともワシが殺られたらの話じゃがな? 異存はあるまい?」
「別に構わないよ」
「あなたたちが、それでいいのならね?」
「よし、決まりじゃな」
「「……」」
たいした自信だねぇ~?
まさか……本当に一人で倒してしまうつもりか?
当然…ヴァグドーが前に出る。
いつもの布陣。 まずヴァグドーが戦い、取り零した敵をアドーレたちが倒す。 もっとも彼が取り零すことは、まずない。 だけど、あの女神たちが冗談やハッタリを言うわけないだろう。 つまり、あの化物はそれなりに強いはず。 ここで彼が内心、喜んでいる。 本当にあの化物が自分より強いのか? このワシを絶望の淵まで追い詰めることができるのか? このワシの100年間の真価が問われることになる。 遂にこのワシを本気にさせるほどの相手が現れたか? ワシは今―――年甲斐もなく、楽しみで仕方ないわい。
「なんだか師匠、嬉しそうだね?」
「ああ、アタシにも…そう見えるよ…」
「どうやらダーリン、ようやく本気が出せるみたいね?」
「はい、あの化物……女神が呼び寄せただけあって、なかなかの強さを誇っていますからね…」
「へぇ~、ヴァグドーちゃんの本気……かぁ~」
「……緊張します」
「……」
彼の後にいるアドーレやシャニルたちも彼の戦いぶりを見学する。 またアポロンやスクルドも彼の姿を見て、動揺・困惑する。
「なんで…あんなに嬉しそうなの?」
「……解らない……」
そんな女神たちも彼の戦いを見学する。
まずはヴァグドーと《二兎追うものは、一兎をも得ず》が塔内部中央へ向かい立つ。 ここで遂に彼が、女神の用意した敵と対決することになる。
《二兎追うものは、一兎をも得ず》
外見は巨大な白い化物。
レベル:550・ランク:B
究極生命体・アルヴァロスのペット。
攻撃方法:エネルギーレーザービーム・尻尾振り抜き攻撃・サンダーダブルファング。
巨大な白い化物の左側(ワシから見て)の頭の口から、エネルギーレーザービームがワシに向けて発射する。 もの凄い速度と威力を兼ね備えた攻撃じゃ。 喰らえば、普通の人間ならば、ほぼ瞬殺じゃよ。
ズゥオオオオオオォォォーーーーン、ズドォーーン!
ワシは避けずに、そのまま受け止める。
オリンデルスは瞬時に強力なバリヤーを張って、中央で戦うワシ以外で、ここにいる仲間たちをそのバリヤーで守る。
ブゥーーン!
「……」
「へぇ~」
「ほーう」
この悪魔神の意外な行動に、思わず驚く女神たち。
だけど、それ以上に…目の前で起きてる出来事にも驚きを隠せない。 普通の人間ならば、絶対に今の攻撃で死亡していたはずなのに、あのヴァグドーは平然と立っていたからだ。 でも巨大な白い化物の方は、ただ狂暴な顔をしていて、表情は読み取れない。
「ほーう、これはなかなか…」
巨大な白い化物の右側(ワシから見て)の頭の牙から、サンダーダブルファングがワシに向けて発射する。 もの凄い速度と威力を兼ね備えた攻撃じゃ。 当たれば、瞬時に真っ黒焦げになるじゃろうて。
ピカッ、ガガガガガガァァァーーーーッ、ズドォーーン!
これも避けずに、そのまま受けきる。
またしても普通の人間ならば、絶対に今の攻撃で死亡しているはずなのに、あのヴァグドーは平然と無傷で立ってる。 ここまで来ると、もはやマグレなどでは片付けられない。 だけど、ここでも巨大な白い化物は、ただ狂暴な顔をしてるだけ。
ブゥーーン、ドカッ!
巨大な白い化物が背後にある尻尾を前へ振り抜き、そのままの勢いで、ワシの右側を攻撃する。 その尻尾は、まるで大きなムチのようにしなやかで素早い。 普通の人間ならば、あっさりと吹っ飛ばされて、壁に激突。 全身の骨が砕けておるじゃろうて。 ワシは右腕を盾にして防御して、アヤツの尻尾攻撃を受け止める。
「意外にやるではないか…」
「へぇ~」
「ほーう」
ここまで来ても、まだ女神たちには驚きの表情のみで、どこか余裕みたいに感じられる。
なおも巨大な白い化物が尻尾をムチ代わりに使用して、どんどんワシに攻撃する。 ワシは両腕を盾にして、アヤツの怒涛の攻撃を防御する。
「ほっほっほっ、いいぞいいぞ!」
ズガガガガガガァァァーーーーッ!
尻尾をムチの如く、しなやかに素早く振り抜いて、ワシに当ててくる。 ワシも両腕で防御して、アヤツの強烈で素早い攻撃を軽くいなしていく。 今…ワシは防御に集中しているので、まだ攻撃をしていない。
「「……」」
そのうち、女神たちも戦況を真顔で真剣に静かに黙って見つめている。
巨大な白い化物の左側の頭の口から、エネルギーレーザービームが、右側の頭の牙から、サンダーダブルファングが、それぞれ同時にワシに向かって発射された。 左右の頭が同時に攻撃することなど、ほとんどあり得ないことじゃが、よほど慌てているのか、なりふり構っていられない様子。
ズゥオオオオオオォォォーーーーン、ズドォーーン!
ピカッ、ガガガガガガァァァーーーーッ、ズドォーーン!
タッ、サッ!
さすがのワシでも、これには後方にジャンプして後退して避ける。 このワシを後方にジャンプさせて後退させるとは、本当にやるではないか。 あの化物―――
「おっ!?」
ギュン、バキッ!
巨大な白い化物の右側の頭が、ワシに向かって素早く首を伸ばしていき、口を大きく開けて、ワシのことを牙で噛み砕こうとする。 それに合わせて、ワシが左拳を素早く鋭く顔面に当てる。 いわゆるカウンターである。
「よっ!」
ヒュッ、バキッ、スタッ!
さらにワシが、巨大な白い化物の左側の頭の顔面へ瞬時に移動して、素早く鋭く右拳を当てる。 これには、さすがの巨大な白い化物も耐えきれず、思わず後退する。 ワシは再び元の場所に戻る。
今のところ互角?の勝負を見せるヴァグドーと《二兎追うものは、一兎をも得ず》。 戦闘はまだまだ序盤?である。




