292、『女神の巨塔』:2
●【No.292】●
ヴァグドーたち『塔突入組』の八人は、あの『矢獄関』・『倍獄関』・『弦獄関』で崩落・崩壊した関所の巨大な建物の無数の瓦礫の破片で作られた『女神の巨塔』の目の前まで来ていた。 しかし、肝心の入口が見当たらない。 だけど、ヴァグドーたちは特に気にする様子が見られない。
「ふん!」
ドゴォン!
ヴァグドーが『女神の巨塔』の壁に右拳を軽くぶつけて穴を開ける。 その場しのぎの急造建物なので、入口や階段などがないことはある程度は予想されていた。 そのため、無い入口は彼が拳をぶつけて穴を開ければいいだけだと思った。 これで堂々と『女神の巨塔』に侵入できるぞ。
「よし、行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
「「ああ」」
そこで『塔突入組』の八人は、彼が開けた穴から内部に入る。 その内部構造はほぼ空洞であり、迷宮や罠や窓などはおろか、灯りや階段や魔物などもない。 単なる空洞・何もない空間だけである。 つまり、二階以上の床がないため、一気に上まで見上げることができる。 ただ塔上層階は薄暗くほとんど何も見えない。
「何もない空間か…」
「やっぱり急造塔では、この程度なのでしょうね…」
「そうよねぇ~。 その場しのぎに造られた塔だものねぇ~」
「でも、なんでこんなモノが…?」
「……」
ヴァグドーたち八人が塔内部の周囲を見渡した。
すると塔上層階に何か気配を感じた。
ワシが上を見上げてみると、塔内部上側で誰かが宙に浮かんで見えた。 誰じゃ? もしかして女神か……? 上側が暗くてよく解らんが、とにかく人影は見えた。
「……」
ヒューーッ、スタッ!
その人影が静かにゆっくりと降りてくる。
丁度、ワシらがいる場所の反対側の地面に降りて、ワシらと対面・対峙する形となる。 よく見ると、人影が二つある。 奴らが無言のままなので、ワシも無言を貫いた。 だが…ワシ以外にもアドーレやシャニルたちも、その人影に気づいたようじゃ。 すぐにアドーレが、その人影に向かって声をかける。
「あなたたちは一体何者なんですか?」
「私は太陽の女神アポロン」
「私は運命の女神スクルド」
「……」
二人の女神が紹介を終えると、薄暗い塔内部がいつの間にか明るくなっていた。 太陽の女神アポロンは紅蓮のオーバードレスを着ていて、運命の女神スクルドは漆黒のフード・ローブ・マントを着ている。 またアポロンの素顔は橙色のショートヘアーに橙色の瞳でよく見えるけど、スクルドの方はフードで顔が覆われていて、よく見えない。 それと何か剣らしきモノを大事そうに持っておる。 もっとも素顔に興味はない。 興味があるのは、女神の強さのみじゃ。
[※オーバードレスとは、ヴァグドーで言うところのウェディングドレスのことを指す]
アポロンがワシらの顔をじっと見ている。
「あなたがヴァグドーね?」
「いかにも」
「それで後ろにいるのが、勇者アドーレに大魔女シャニルに悪魔神オリンデルスね?」
「はい、その通りです」
「は~い、そうよぉ~」
「ああ、そうだ」
「それで…その後ろにいるのが、その他大勢の皆さんね?」
「「あっ…はい!」」
「「……」」
アポロンがヴァグドーたちの顔と名前を確認する。 その他大勢の皆さんと言われて、カグツチとモモネが慌てて返事をしたが、エクリバとテミラルスは無反応のままだった。 あからさまに無愛想だった。 もっともアポロンも重要人物以外は特に気にする様子がないため、そこら辺も軽く受け流す。
でもワシはずっとアポロンのことを見つめていて、アポロンもまたワシのことを見つめていた。 やっぱりワシには興味があるようじゃ。
「それにしても驚いたよ。 まさか…本当に『矢獄関』・『倍獄関』・『弦獄関』を倒してしまうとは、人間もまだまだ侮れないよね?」
「ええ、確かに凄いことだけど、おそらくヴァグドーたちだから成し遂げたこと。 他の人間には真似できない。」
「なるほど、やっぱり誰にでもできることではないってことか? ヴァグドーたちだからできたこと…」
「ええ、そういうことよ」
「やっぱりまだまだ侮れないよね?」
「……」
なにやらアポロンと後ろにいるスクルドが話している。 そのスクルドは剣を所持しているけど、別に剣を振るう訳ではないようだ。 でも一体何のために持っているのか?
「それで…ワシらは一体何をすればいいんじゃ?
この何もない広い空間の中で、ワシらはどうすればいいんじゃ?」
「はい、そうですよ。 別にあなたたちがボクたちと戦うつもりはないと思いますけど…」
「そうよねぇ~。 ホントに何もない所よねぇ~」
「この空間……棄てるつもりか…?」
「「「!?」」」
「「「!!」」」
「……」
なにやら悪魔神オリンデルスが意味深長なことを言い出した。 このオリンデルスの発言に不思議に思うカグツチやエクリバたちに対し、アドーレやシャニルたちが驚愕する。 だが…ヴァグドーだけはオリンデルスの発言に無言で応える。 この空間を棄てる……とは一体……っ!?
「当然、ここに入ったからには……戦闘試練を受けてもらうわよ。」
「その戦闘試練に合格すれば、とてもいいモノをあげますよ。」
「……とてもいいモノ?」
「…なんだ…?」
「…ふふふ…」
「まさか…お前さんたちと戦うのか?」
「私たちは戦わないわよ」
「そう、私たちは戦わない」
「「「!?」」」
「「「!!」」」
「……」
「あなたたちと戦ってもらう相手は……コイツよ!」
サッ、ブゥン!
アポロンが左手を高々と挙げて、その上の何もない空間から、突如として巨大で白い化物が出現した。 そのまま地面に落下した。
ヒュッ、ドォーーン!
「「「おおっ!?」」」
「「うわっ!?」」
「「「きゃっ!?」」」
なんと巨大で白い化物であるか。
頭が兎に似て、首が長く、目は赤く、頭が二つあり、胴体が細長く、両手・両足がなく、尻尾が長い。 二つの頭が狂暴な兎と鋭い牙で、胴体が白い蛇…または龍の姿をしている凶悪な化物。 それが今…アポロンやスクルドの後ろにいる。
「ふふふ、凄いでしょう? あなたたちがコイツを倒すのよ。 それが今回の戦闘試練です」
「その名も《二兎追うものは、一兎をも得ず》よ。 どぉ…良い名前でしょ? …ヴァグドー」
「……」
なんともまた…もの凄いモンスターがワシらの前に現れたようじゃな。 しかも、かなりの大きさのモンスターなので、果たしてこの程度の広さしかない塔の中で、マトモに戦えるのか?
ここで女神について、少しだけ紹介する。
04.太陽の女神アポロン。
太陽を守護する女神。
異世界Zを担当する若くて美しい女神。
橙色のショートヘアーに橙色の瞳で健康的なボーイッシュな顔立ち、それと巨乳のナイスボディの持ち主で、紅蓮のウェディングドレスを着用している。 あとイフレアの側近である。
異世界管理免許資格を有する女神至高順位は、第4位。
女神爵位は、『A』。
戦闘スタイルは、「火」。
06.運命の女神スクルド。
未来の運命を司る女神。
地球の世界を担当する若くて美しい女神。
今回もまた、漆黒のフード・ローブ・マントを身に付けていて、その姿・素顔を確認することができない。それと彼女がなにやら剣らしきモノを大事そうに持っている。
異世界管理免許資格を有する女神至高順位は、第6位。
女神爵位は、『A』。
戦闘スタイルは、「風」。




