289、『弦獄関』[弾性]
●【No.289】●
ここは『弦獄関』の関所の巨大な建物の屋上の上空にて。
ここで謎の男と勇者アドーレが対面・対峙する。 この二人の間には、無数の糸が張り巡らされている。 その無数の糸も透明な鋼鉄の糸であり、何でもスパッと切り裂ける鋭い糸である。 少しでも触れると、かなり身の危険を感じる糸なのだ。 そんな糸の中を彼はかわしながら、ここまで飛んできたのだ。 何気に凄いことだ。 あの謎の男も最初は驚いてたけど、すぐに気を取り直して構える。
「くっ…」
両者が向き合う形で睨み合う。
「………」
「さすがだな。 あの無数の糸の中を潜り抜けて、ここまでやって来たか…。 だがしかし、すぐに後悔するだろう。 この《インビジブル・スレッド・プリズン》の中に侵入してきたことを…」
「…《インビジブル・スレッド・プリズン》ですか…。 なるほど、"見えない糸の監獄" ということですか…」
「そういうことだ。 お前はもはや袋の鼠も同然。 ここから逃げることも攻撃することもできないのだ。」
「それはまた凄いことですね」
「……随分と余裕だな……」
「そういうワケでもありませんけど、別に慌てる必要もありません。 この程度なら、ボクでも十分に対処できます。」
「随分と我々をナメているようだな。
この人間の分際で!」
「…人間の分際で…ですか―――あなたたちこそ、ボクたち人間をナメすぎですよ!」
「黙れ! 人間ごときが偉そうに!」
ガチャガチャッ、ガッチャーン!
少し口調が強くなった彼が、黄金の鎧兜の全身各所に装備された八本の女神の剣を切り離し、そのまま彼の周囲に浮かべさせた。 どうやら早速、【ストリンガー・ドラグーンソード】の体勢に入ったようだ。 そして遂に新たに強化された黄金の鎧兜『イフレアの黄金の女神』とクリスタル女神剣『レグリエスの剣』の初陣である。
そんな勇者アドーレお得意の攻撃パターンに入る。
「…剣が宙に浮いている…?」
「ボクから行きますよ!」
「な…何っ!?」
【ストリンガー・ドラグーンソード】
その八本の女神の剣が、一斉に謎の男の方に向かって飛んでいき、あっという間に謎の男の周囲・全方位を取り囲んだ。 そこから八つの剣先から稲妻のレーザービームを一斉発射する。 もの凄い速度と威力で謎の男に攻撃する。
「むっ!」
「………」
だけど謎の男も巧みに避けて、なんとか【ストリンガー・ドラグーンソード】を防ぐ。 次々と放たれる八つの剣先からの稲妻のレーザービームを謎の男がギリギリのところでかわしていき、なかなかの身のこなしで全方位同時一斉攻撃をどんどん避ける。 さすがにやるではないか。
「ちっ、なんという攻撃なんだっ!?」
「なかなかやりますね。
まさか…あの【ストリンガー・ドラグーンソード】を初見からかわしていくとは…」
「クソッ、剣を自由自在にコントロールできる能力とは…」
「さあ、まだまだ行きますよ!」
「くっ!」
なおも【ストリンガー・ドラグーンソード】で攻撃を続ける。 相変わらずのコントロールとテクニックで謎の男を追い詰めるけど、謎の男もギリギリのところで、なんとか巧みにかわす。 彼の攻撃が、なかなか当たらないのも…珍しい。 確かに新しい剣で、まだ慣れていない。 それでもさすがは強気な謎の男である。 以前から思ってたことだけど、回避だけは得意と見られる。
「これは驚きました。 ボクの全方位同時一斉攻撃をここまで避けるとは、どうやら口だけではないようですね。」
「ちっ、厄介な攻撃だな。
このままでは…ヤバいぞ!」
「ボクの攻撃はまだまだこれからですよ。
この剣にも早く慣れたいですからね」
「な…何っ!?」
なおも来る彼の執拗な攻撃。
クソッ、これがあの勇者アドーレの【ストリンガー・ドラグーンソード】なのかっ!?
半端ない連続攻撃で、まるで隙がない。 これが彼の実力なのかっ!? このまま攻撃を続けられると、さすがの俺でも避けきれないぞ。 畜生、仕方ないな。 こうなったら…またあの糸を使うしかない。 まさか…人間ごときに何度も使うとは…。
《インビジブル・スレッド・プリズン》
「ん?」
なんと【ストリンガー・ドラグーンソード】発動中の『レグリエスの剣』が突如として、八本同時に空中で停止した。 なんとクリスタルの剣が完全に動きを停止して、ピクリとも動かない。 どうやら剣が糸に絡まっていて自由に動けないようだ。 これにはさすがの彼も驚く。
「こ…これは…剣が糸に絡まっていて…動けないのか…?」
「ふふふ、そうだ。 見たか、見えない糸の恐ろしさを! これぞ《インビジブル・スレッド・プリズン》だ!」
「なるほど、これは確かに―――」
―――やりますね。
まさか…あの『レグリエスの剣』の動きを封じるとは、あの糸…なかなかやりますね。 これにはさすがに驚きました。 これでアイツを全方位から同時に一斉に攻撃することが不可能になりました。 ただし、あの剣を空中で固定してくれたことで、こちらとしても実にやり易くなりました。 お陰で手間が省けた。
「な…何っ!?」
今度は謎の男が驚く。
確かにクリスタルの女神の剣の動きは封じた。 だが…次の瞬間、全ての剣先が一斉に謎の男の方へ向けられて、同時に全ての剣先から稲妻のレーザービームが放たれた。 完全に不意を突かれた謎の男だけど、なんとかギリギリのところで空中でジャンプして、さらに上昇して、大ダメージの致命傷にならないようにした。 確かに剣の動きは封じた。 しかし、糸で固定されたことにより、勇者アドーレは【ストリンガー・ドラグーンソード】に必要な『射角補正』と『照準補佐』が必要なくなったのだ。 つまり、相手の方へ狙いをつけて発射させればいいだけになった。
「なんだとっ!?」
「ふふふ、たとえ剣が固定されても、糸に固定された程度なら、向きを変えるぐらいのことはできます。 それに剣を固定してくれているので、こちらとしても "射角補正" と "照準補佐" が必要ありません。 残念でしたね」
「クソッ、なんというヤツだ!」
「ふっ、むっ!」
ボムッ、ボムッ、ボムッ、ボムッ!
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ!
「な…なんだとっ!?
一体何をするつもりだっ!?」
「ここからです」
ここでクリスタルの女神の剣に絡みついていた糸が突然爆発して、八本の『レグリエスの剣』が再び彼の目の前に集結する。 さらに伝説の皇剣【磨羯龍の剣】と伝説の皇剣【消滅罪の剣】を取り出して、二本の剣を前方に向けて持って構えた。 その二つの剣先が謎の男を狙う。
これは…何かの必殺技の準備なのか…?
【補足1】
〇黄金の鎧兜。
『イフレアの黄金の女神』
●守備力:170
全身を覆った形状の鎧兜。
物理攻撃と魔法攻撃に対する防御力が高く、弱小攻撃魔法だったら余裕でハネ返せる。
〇女神の剣。
『レグリエスの剣』
●攻撃力:150
刀身がクリスタル、鍔・柄の部分が黄金でできた剣が八本もある。
刀身の強度が上がり、刃にもある程度の魔法力を蓄えられて、鋭い斬撃を喰らわせられる。
【注意書】
※射角補正
発射するために必要な銃砲身の位置。
それを水平に補正する動作。
※照準補佐
弾丸が目標に命中するための動作。
それをできるだけ正確に操作する作業。
※今回はさらに剣が固定されているため、空間認識能力も必要としない。 ただ標的の方に剣先を向けて発射させればいい。 普通の拳銃と同じ扱いとなる。 ただし、遠隔操作は必要である。