287、『倍獄関』[決着]
●【No.287】●
ここは『倍獄関』の関所の建物の屋上の上空にて。 そこに謎の男と悪魔神オリンデルスが対面・対峙する。 お互いに少し距離を取った場所・状態で、それぞれ体勢を立て直す。
謎の男もなにやら不思議な形の構えを取った。 どうやら奥の手だと思われる。
「……」
右手を下にして、掌で静かに小型の赤紫色の球体を作り出す。 これが謎の男の最後の秘策か?
こうなったら、仕方がない。
アレを出す以外にない。
こんな近距離で出せば、こちらも無事では済まない。
けど…これでアイツを倒せれば、本望だ。
この必殺技【核力】で、アイツを倒す。
一方の悪魔神も両手を前に突き出し、右手の掌から、漆黒の小型の球体を出現させる。 漆黒の小型の球体の中心部に、さらに小さい白光の玉を作り出す。 左手の掌からは、純白の小型の球体を出現させる。 純白の小型の球体の中心部に、さらに小さい黒光の玉を作り出す。
ブゥゥーーン、ブゥゥーーン!
「ふふふ」
この技をヴァグドー以外で使うのは、おそらく初めてだろう。
奴は強敵だ。 生半可な攻撃では、ダメージを与えることはできないだろう。
この技で、一瞬にして終わらせてやる。
二人共、それぞれ最後の必殺技の準備が完了する。
「さあ、今度こそ喰らうがいい!
これでとどめだ!」
すると、先程まで右手の掌で作っていた小型の赤紫色の球体が既に消えていた。 一瞬にして悪魔神の背後に、突如として先程の小型の赤紫色の球体が出現した。 音も気配もない凝縮されたエネルギーの塊【核力】が彼の背後を襲う。
「よし、行くぞ!」
一方の彼も右手から漆黒の小型の球体と、左手から純白の小型の球体を、それぞれ謎の男の方へ向けて、同時に発射させた。
ドゥッ、ドゥッ!
「なっ!?」
漆黒の小型の球体が謎の男の左肩に素早く着弾。 純白の小型の球体が謎の男の右肩に素早く着弾。
「な、なんだ?」
「【神納覇・玉環琉球】
【神納覇・玉帝琉極】」
漆黒の小型の球体と、その中心部にある小さい白光の玉が【神納覇・玉環琉球】であり、純白の小型の球体と、その中心部にある小さい黒光の玉が【神納覇・玉帝琉極】である。 ひとつだけでも威力は絶大であり、ふたつだと威力は増大する。
「な…何っ!? 畜生っ! くらえ【核力】!」
「ふふふ」
悪魔神が両手の掌を拳に変えて同時に強く握り締めた。
謎の男も慌てて右手の掌を拳に変えて強く握り締めた。
どうやら二人共、奇しくも必殺技発動の "トリガー" が掌を拳に変えて強く握り締めることであり、それを二人同時に実行した。
パァリィン、グアァァーーン!
背後にあった小型の赤紫色の球体が割れて破壊された。
パァリィン、グアァァーーン!
左肩にあった漆黒の小型の球体が割れて破壊された。
パァリィン、グアァァーーン!
右肩にあった純白の小型の球体が割れて破壊された。
その瞬間、謎の男の両肩と彼の背後から、一瞬にして衝撃波・爆風が発生しており、二人共にもの凄い威力の攻撃に晒された。 おそらく二人同時に、強烈なダメージを受けるはずだった。
「ぐぅああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!?」
あの【神納覇・玉環琉球】と【神納覇・玉帝琉極】をモロにマトモに喰らった謎の男が断末魔をあげながら、どんどんと身体が消滅していく。 予想以上の威力に、遂に身体が耐えきれず崩壊を始めたみたいだ。
「ふふふ」
一方の悪魔神は全身から発せられる妖しく禍々しい漆黒の邪悪な闘気を球体のバリヤーにして、彼の身体を優しく包み込んで、謎の男が放った必殺技【核力】の威力とダメージを最小限に抑えた。 こちらはほとんどダメージを受けていないようだ。
「チクショオオオオオオオオォォォォウウウウウウウウゥゥゥゥーーーーーッ!!!」
「やはり戦い慣れていないようだね。
ボクの【神納覇・玉環琉球】と【神納覇・玉帝琉極】をマトモに受けて、防御対策をしていないとはね。 あのヴァグドーだって、キッチリと防御対策をしたのに、キミは防御も回避もしなかった。 やっぱり、それがキミの敗因だったようだね。」
「ゥゥゥゥゥ―――」
彼が自分の闘気を球体のバリヤーにして、キッチリ謎の男の必殺技【核力】から身を守り防御したのに対し、何の策もなく慌てて必殺技を繰り出した謎の男に防御対策まで頭が回らず、そのまま悔しがる断末魔と身体が消滅した。 一流の戦士は攻撃と防御をしっかりとバランスよくやらないといけない。 あのヴァグドーでさえ、強敵の必殺技を前にして、しっかりと防御・回避をするのに、この謎の男はそれすら怠ったのだ。 どうやらここの謎の男たちは攻撃メインに特化しすぎる傾向があるようだ。
「ん?」
シュウウウウウゥゥゥゥ―――
ドゴォン、ゴガァン、ズドォン、ガゴォン、ゴドゴド、ゴロゴロ、ゴトゴト、ゴゴゴゴ―――
遂に彼が謎の男『倍獄関』を倒した。 やっぱりコイツと、あの関所の巨大な建物は連動しているようだ。 あの謎の男の身体が消滅すると、今度は『倍獄関』の関所の巨大な建物も崩壊・崩落した。
「これか……ヴァグドーの言ってたことは…」
もの凄い轟音をさせて、もの凄い勢いで『倍獄関』が崩れる。 事前にヴァグドーから報告を受けた彼でも、この迫力にはさすがに驚く。 それでもヴァグドーや勇者アドーレや大魔女シャニルたちを乗せた黄金の大型馬車は、もう既に次の目的地『弦獄関』へ向かっている最中なので無事であり、被害は無し。 これでこの地方に伝わる "三つの巨大な関所の建物のひとつ" が崩壊・崩落したことで、また世界の歴史に残ることだろう。
「そうか……あの関所の建物が破壊されるのも……何か意味があるのか…」
ヒュッ!
彼も上空から、あの関所の巨大な建物の崩壊・崩落をしみじみと見ていた。 いずれにしても悪魔神オリンデルスもまた、あの『倍獄関』という関所の巨大な建物に勝利したのだ。 これで悪股の大蛇攻略の弾みになるだろう。 彼もまた、この『倍獄関』の完全崩壊を見届けることなく、そのまま黄金の大型馬車を追って飛び去った。
ドゴォン、ゴガァン、ズドォン、ガゴォン、ゴドゴド、ゴロゴロ、ゴトゴト、ゴゴゴゴ―――
それでも『倍獄関』の崩壊・崩落の音は、まだ辺りに鳴り響いていた。 まるで慟哭しているように―――
※核力→いわゆる原子核のこと。
濃密に凝縮されたエネルギーの塊を破裂させることで、巨大で激しい力を生み出す。 それを必殺技に応用したもの。 赤紫色は『倍獄関』が作り出す原子核の色である。




