285、『倍獄関』[到着]
●【No.285】●
ヴァグドーたち一行は黄金の大型馬車に乗り込み、そのまま馬車に揺られながら、次の目的地『倍獄関』へ向かう。
その『倍獄関』とは、ただ大きい関所の建物があるだけで、他に宿屋やお店や民家や教会などの類いの建物はない。 また普段から人の往来もほとんどない。 つまり、このまま関所を素通りして、先を急いで次の街へ向かう必要がある。 それに関所といっても、別に役人とか門番とかがいる訳ではない。 確かに、以前はいたかもしれないけど、今はほとんど無人だ。 そもそもこんな所に人が来るなど、本当にあり得ないことだ。
ヴァグドーは既に馬車のところまで追いつき、今は馬を引いて歩いている。 そこに馬車の中にいた悪魔神オリンデルスが、彼に話しかける。
「やあヴァグドー」
「何じゃ?」
「今度はボクにも戦わせてくれよ」
「お前さんも戦いたいのか?」
「ああ、身体が鈍って、身体が鈍って、少しは動きたいんだよね。 悪股の大蛇との決戦に備えて、準備運動しておきたいんだよ。」
「そうか、別に構わぬ。 ただし、ワシらは先に行くぞ」
「ああ、わかってる。 すぐに追いつくよ」
「……」
次に誰が『関』と戦うのか、こうやって決めていたのか? それにしても、ヴァグドーたち一行を乗せた馬車が、次の目的地『倍獄関』へどんどん近づく。
その大きい関所の建物の屋上の上空では、謎の男が宙を浮きながら、ただひたすらじっと待っていた。
「そうか……あの男が負けたのか……?」
―――あの男……?
あの男とは、誰のことだ?
一体何を言っている?
「まさか……あの男が人間ごときに敗れるとはな…」
さっきから言ってるあの男とは、まさかヴァグドーにやられた『矢獄関』の擬人化の男のことか?
そうすると、この謎の男ももしかして―――
「だが…俺は負けん! たとえ…誰が来ようとも…必ず勝つ! 否、勝ってみせるぞ!」
まるで自分にそう言い聞かせるようにして、一人で意気込んでいる。
この謎の男もまた、来るべき時に備えて、じっと静かに待っている。
徐々に『倍獄関』に近づくヴァグドーたち一行。 すると、何かに気づいた彼が馬を止めて立ち止まる。 それを見て、御者台に座るルドルス将軍が、彼に話しかける。
「おっ!?」
「どうされましたヴァグドー殿?」
「ふむ、これ以上は近づけぬ…」
「……えっ!?」
「ここから先、重力が倍加しておるな」
「重力?」
「そうじゃ。 あの関所の建物に近づくにつれて、周りの重力が倍加しておるな。 うっかり近づくと、地面に押し潰されるぞ。」
「なんとっ!?」
「なるほどのう。 無数の矢の次は重力の倍加か。 さて、どうしたものか…」
「……」
どうやら『倍獄関』の関所の建物の周囲には、重力を倍加させる「何か」があるらしく、うっかり関所の建物に近づくと、たちまち地面に押し潰されて、圧死させられる恐れがあって、迂闊に近づけない。 まぁ…ヴァグドーだけなら、なんとか自力で耐えながら近づけると思うけど、仲間の中には、重力の倍加に対処できない者も多く、馬車をそれ以上先に進めることができない。 そもそも馬が真っ先に圧死する。
すると、そこで悪魔神オリンデルスが遂に―――
「それならボクの出番のようだね。 みんなはちょっと待っててよ」
「ん?」
「えっ!?」
「あっ!?」
タッ、ヒュッ!
素早く馬車の中から飛び出し、そのまま『倍獄関』の方へ向かって飛んでいった。 なるほど、確かに彼が関所の建物に近づくと、途端にどんどん身体が重くなる。 でも彼には、ほんの少し重く感じるだけで、別にたいしたことはないみたいだ。
大きい関所の建物の屋上の上空では、謎の男が宙を浮きながら、ただひたすらじっと待っていると、何かに気づく。
「ん? あの馬車は……?
まさか『矢獄関』から来た馬車か?」
どうやら謎の男の目にも、ヴァグドーたち一行が乗る黄金の大型馬車が見えてきたようだ。
「ふふふ、だが…あれ以上はさすがに近づけぬようだな。 当然だな。 たとえ馬車の中の人間が大丈夫でも馬が潰されては馬車の意味がなさないからな。 近づけなくて当然だ。」
謎の男が『倍獄関』から少し離れた場所で立ち往生する馬車を見て、思わず不敵な笑みを浮かべる。
だがしかし、そこにもう一人の男の声がした。
「へぇ~、やっぱりキミの仕業か?」
「ん?」
不意に声がして、視線を馬車から自分の目の前に移すと、そこに悪魔神オリンデルスが宙を浮いていた。
「お前は……?」
「悪魔神オリンデルス!」
「何っ!?」
「キミかい? 『倍獄関』と言うのは?」
「…!」
「シラバックレてもムダだよ。 ネタはアガッてるんだ。」
「くっ!」
「今度はボクが、キミの相手をしてあげよう。」
「なんだと! 悪魔神オリンデルスが、この俺の相手を……っ!?」
「不満かい?」
「ふははは、バカめ! この俺は『倍獄関』だ。 軟弱な人間などと化した悪魔神ごときが関所の建物に勝てるものか!」
「へぇ~、そうかい…。
キミがジャマして先へは進めないんだ。 ボクは早く先に進みたいんだよ。」
「ふん、黙れ!
お前など、すぐに倒してくれるわ!」
「それはまた楽しみだね。 このボクを倒せるほどの力の持ち主なのか、どうか見せてもらおうか。」
「ほざくな!」
「……」
バッ、ヒュッ!
その謎の男が早速、目の前にいる悪魔神オリンデルスに襲いかかる。 相手が悪魔神オリンデルスだと知って尚、それでも襲いかかる行為は、自分に勝算があるからなのか、それとも余程のバカなのか? コイツはどっちだ?
いずれにしても、ここに無謀ともいえる戦いが今…始まろうとしていた。




