284、『矢獄関』[決着]
●【No.284】●
ここは『矢獄関』にて。
この関所の建物の屋上の上空で、ヴァグドーと謎の男が戦っている。
ヴァグドーが攻撃して、謎の男が回避する。 それを繰り返す。 時折、彼の隙をついて、彼に攻撃する謎の男。 確かに攻撃が彼に当たり、彼を吹き飛ばし、地面に激突させてるけど、ほとんどダメージを与えていない様子。 すぐさま立ち上がって、すぐにまた謎の男に攻撃する。 その内に、攻撃している彼よりも回避している謎の男の方が疲労困憊になる。
そこで彼が謎の男に問い詰める。
「お前さんは、一体何者なんじゃ!?」
「ふざけるな! 言うわけないだろう!」
「ほーう、そうかい…」
「さぁ…続きだ! 今度こそ、貴様を倒す!」
「ほーう、まだまだやるか…」
「当然だ! これならどうだ!」
すると謎の男の周囲に、無数の矢が出現する。
「……」
「逃げ場はないぞ! 今度こそ、くたばれ!」
その無数の矢が…彼めがけて突っ込んでくる。 彼の周囲・全方位に無数の矢が…彼めがけて一斉に飛んでいく。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ!
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ!
なんと彼は、この無数の矢をことごとく避け続ける。 今度は攻守逆転で、謎の男が無数の矢を使って、あのヴァグドーに攻撃して、謎の男から放たれた無数の矢を彼がことごとく回避する。 しかし、今度は様子が少し違う。 あの無数の矢を全て回避し続けるなど、まず普通の人間にはできない芸当であり、それを彼が空中で行っているのだ。 いくらなんでもあり得ない。
「!!?」
「ほっ、ほっ、ほっ」
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ!
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ!
無数の矢がヴァグドーの周囲・全方位から一斉に同時に、彼に向かって飛んでいく。 けれど彼は一切矢に触れず、ただただ淡々と避け続ける。 どこまでもストイックに、なんだったら永遠に続けられそうな勢いだ。 まさにこのヴァグドーは規格外だ。
ほとんど彼の全方位に、無数の矢が同時に一斉に飛んでくる。 この無数の矢を自由自在に操ることが謎の男の能力なのか? てっきり『矢獄関』の建物自体の能力かと思っていたけど、謎の男にもできたのか? 無数の矢がもの凄い勢いで、素早くヴァグドーに向かって飛んでくる。 その無数の矢を一本ずつ丁寧に慎重に避けていく彼。 どちらも凄い。
「ちっ!」
「ほっ、ほっ、ほっ!
やるのうーーっ!」
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ!
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ!
謎の男が無数の矢を操って、最強無双のヴァグドーに攻撃し続ける。 その無数の矢を彼がことごとく避け続けて、未だに一本も当たらない。 これにはさすがの両者、共に凄いと言わざるを得ないと思っていた。 しかし、それでも永遠にも思えた…この両者の攻防も突然…終わりを告げた。
今までの攻防で、ヴァグドーが何かを悟った。
「……」
ノロい……ノロいのう。
アヤツの攻撃も威力や速度がたいしたことがないのう。
アヤツの能力…無数の矢も威力や速度がたいしたことがないのう。
アヤツの実力も、たいしたことがないのう。
もっと強いヤツかと思ったけど、やれやれこれでアヤツの全力なら、もうそろそろ終わらせてもよかろうて。 このまま一気にイッてしまうか?
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
サッ、サッ、サッ、サッ―――
カカァァァーーーーッ!!
「かあああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
「!!?」
ピカァァーーーン!
彼が気合いを入れて、彼の身体が激しく光輝き、その衝撃波で無数の矢を弾き飛ばす。 彼に向かってくる無数の矢が、彼の身体から発する激しい光と衝撃波で、そのほとんどが弾き飛ばされ、その内の何本かは、逆に謎の男の方へ向かって飛んでいく。
グアアアアアァァァァ―――
グサッ、グサッ、グサッ、グサッ!
「ぐあっ!? な…何っ!?」
「ふっ、やってしもうたのう」
なんと謎の男が放った無数の矢が、ヴァグドーに跳ね返されて、また謎の男の方に戻ってきて、その内の何本かは謎の男の身体に刺さった。 謎の男の胸部に矢が刺さって、思わず謎の男の身体がぐらつく。 他にも謎の男の腕や脚にも矢が刺さって、さすがの謎の男もコレには耐えきれず大ダメージを受ける。
「そ…そんなバカなぁ…」
「……」
謎の男が放った無数の矢。
まさかヴァグドーに弾き飛ばされて、跳ね返されて、また謎の男の方に戻ってきて、あの謎の男の身体のあちこちに刺さって、胸部や腕や脚などに大ダメージを受けるとは…。 不運と言うには、あまりにお粗末。 否、もしかして彼がワザと狙って……? いずれにしても自分の放った矢が、自分の身体を突き刺すなど、想定外。 予想以上に動揺・困惑・驚愕する。
「そ…そんなバカなぁ……この『矢獄関』が敗れると言うのか……?」
「むっ!!?」
シュウウウウウゥゥゥゥ―――
ドゴォン、ゴガァン、ズドォン、ガゴォン、ゴドゴド、ゴロゴロ、ゴトゴト、ゴゴゴゴ―――
謎の男が自分のことを今…『矢獄関』と言った。 やっぱりコイツ……あの関所の巨大な建物を擬人化した者だった。 その謎の男の身体がどんどんと消滅していき、なんと『矢獄関』の関所の巨大な建物も崩壊・崩落していく。 関所の建物がどんどん崩壊・崩落する中で、やがて謎の男が完全に消滅した。
「これは……?」
さすがのヴァグドーも関所の建物の崩壊・崩落までは予想外だったようだ。 もの凄い轟音をさせて、もの凄い勢いで『矢獄関』が崩れる。 それから勇者アドーレや大魔女シャニルや悪魔神オリンデルスたちを乗せた黄金の大型馬車は、もう既に次の目的地『倍獄関』に向かって出発した後なので無事であり、被害は無し。 それでもこの地方に伝わる "三つの巨大な関所の建物のひとつ" が崩壊・崩落したことは、また世界の歴史に残ることだろう。
「そうか……アヤツを倒すと、あの関所の建物も破壊されるのか……」
ヒュッ!
彼も上空から、あの関所の巨大な建物の崩壊・崩落をしみじみと見ていた。 いずれにしても遂にヴァグドーは、あの『矢獄関』という関所の巨大な建物に勝利した。 ようやく建造物にまで勝利できて、感傷に浸る余裕もなく、彼が『矢獄関』の完全崩壊を見届けることもなく、そのまま黄金の大型馬車を追って飛び去った。
ドゴォン、ゴガァン、ズドォン、ガゴォン、ゴドゴド、ゴロゴロ、ゴトゴト、ゴゴゴゴ―――
だが…『矢獄関』の崩壊・崩落の音は、まだ辺りに鳴り響いていた。 まるで慟哭しているように―――
※これは闘気ではない。
ただ激しい光と衝撃波を発生させてるだけ。
それでも矢を弾き飛ばし、跳ね返す威力分は残っていた。




