283、『矢獄関』[敵性]
●【No.283】●
到着したばかりの『矢獄関』の屋上にいる謎の男の背後に急接近するヴァグドー。 その彼が謎の男の後頭部めがけて、思いっきり殴りつける。 謎の男も背後から彼の急接近に気づき、慌ててジャンプして回避する。 静かに素早く接近したヴァグドーの存在に、いち早く気づき、しかも彼の攻撃を前を向いたまま、素早くジャンプして避けた。 この男は、一体何者なのか?
「ちっ!」
「むっ!」
タッ、タッ、サッ、サッ!
ヴァグドーが謎の男を追いかける。 謎の男も彼の攻撃から逃れる。 素早く彼が急接近して、謎の男に強烈な攻撃を加える。 この謎の男が彼の攻撃を再三にわたって避け続ける。 普通では考えられない。 あのヴァグドーの攻撃を避け続けることなど、まずあり得ないこと。 これはマグレではないのか?
「くっ!」
「むっ!」
シュッ、サッ、シュッ、サッ!
シュッ、サッ、シュッ、サッ!
ヴァグドーがもの凄い威力と速度の拳で攻撃したり、蹴りで攻撃したりする。 その謎の男も彼の攻撃を必死になって避けて逃げる。 確かに彼はまだ本気ではない。 それでもヴァグドーの攻撃を回避してることは、なかなか凄いことだ。 ここまで来ると、これはマグレでは済まされないぜ。 この男は本当に、一体何者なんだ?
基本的にヴァグドーは素手で攻撃する。
基本的に殴ったり蹴ったりして、相手にダメージを与える。
剣は所持しているけど、基本的には使用しない。
腕や脚の長さの分、相手に接近してから攻撃しないと当たらない。
どんなに強力で素早い攻撃も当たらなければ意味はないしダメージも与えられない。
今まで彼の素早く強烈な攻撃を回避できた者はほとんどいない。 勿論、強者であり盟友・戦友でもある勇者アドーレや悪魔神オリンデルスやレイドルノたちは除くけど…。
今まさに、このヴァグドー相手に互角の勝負をしようとする者が、ここにいた。
「うっ!」
「むっ!」
シュッ、サッ、シュッ、サッ!
シュッ、サッ、シュッ、サッ!
ヴァグドーに焦り・動揺・困惑などはない。
相手の謎の男は自分の攻撃を紙一重のところで避けるけど、彼は全く慌ててない。 正常心のまま、心穏やかに静かに素早く攻撃を続ける。 普通、自分の攻撃がここまで相手に一度も当たらないと、次第に焦り・動揺・困惑・怒り・驚愕などの感情が支配して、集中力・判断力・精神力が鈍るけど、この最強無双のヴァグドーに、それはない。
「つぅあああぁぁーーーっ!!」
「おっ!?」
バキィッ、ドォン!
謎の男がヴァグドーの攻撃を回避し続ける。
そんなヴァグドーの一瞬の隙をついて、謎の男の鋭い左拳が彼の顔面を直撃。 その衝撃で彼が勢いよく関所の屋上の床に激突。 ここで散々避け続けた謎の男が、遂にあのヴァグドーに一撃を与えた。 あのヴァグドー相手に自分の攻撃を当てるなど、今までほとんどいなかった。 遂にあの最強無双の男にダメージを与えたか? 彼の背中と床が激突して、床がヒビ割れて破壊された。
「はぁはぁはぁはぁはぁ…」
「おぉ…」
謎の男が上空に浮かびながら息を切らす。 あのヴァグドーから初の一撃を与えて、息切れするとは、一体どういうことか? 彼の攻撃をことごとく避け続け、ようやく彼に一撃を当てたことは、とても凄いことだ。 だけど…それと引き換えに、謎の男は何故か息を切らす。 これは一体どういうことなのか?
「はぁはぁはぁはぁはぁ…」
「ほっほっほっ、なかなかやるではないか?」
「な…なんだとっ!?」
スクッ、ニヤリ!
ヴァグドーが何事もなかったみたいに、すぐに起き上がり立ち上がる。 なかなかの余裕であり、ほとんど息を切らせていない。 よく見ると、拳を喰らった顔面もほとんど無傷であり、鼻血も出ていない? 普通なら自分の攻撃が当たらないばかりか、最後に相手から攻撃されたら、さすがに動揺・困惑・激怒・驚愕などの感情になるはず。 しかし、このヴァグドーにそういった感情はなく、全くの平常心で、どこか嬉しそうに少し笑っている?
「クソッ!」
「まだまだ行くぞ!」
タッ!
ヴァグドーがまたジャンプして、その謎の男のいる上空へ向かっていく。 謎の男はまだ息切れした状態で、まだ体勢が整わないうちに、また彼の相手をすることになる。 謎の男は彼の攻撃をなんとか避け続ける。 疲れの色を見せるなか、まだ彼の攻撃を一度も食らっていない。 もし仮に一撃でも喰らってしまうと、もうおしまいだからだ。 絶対に喰らってはいけない。
「ぬっ!」
「ほっ!」
シュッ、サッ、シュッ、サッ!
シュッ、サッ、シュッ、サッ!
相変わらず謎の男が紙一重のところで、ヴァグドーの攻撃を必死になって避ける。 彼も謎の男に対して、殴ったり蹴ったり素手で攻撃する。 勿論、ヴァグドーは全く本気を出していない。 それでもここまで彼の攻撃を避け続けることはたいしたものだ。 普通ならとっくに一撃喰らって終わりだ。 しかし、それももう限界のようだ。 回避動作が鈍る。 危うく喰らいそうな攻撃もいくつか見えてきた。
「ぬおっ!」
「ほほぉ!」
いつ終わるか解らない。
ヴァグドーの連続攻撃と謎の男の回避行動。
当たれば、即終了の中、謎の男が堪らずまた勝負に出た。
「とりゃぁあああぁぁーーーっ!!」
「おあっ!?」
バキィッ、ドォン!
またヴァグドーの攻撃の一瞬の隙をつき、謎の男の左蹴りが彼の右頬に直撃。 もの凄い威力と速度と勢いで、彼がまた関所の屋上の床に激突。 叩きつけられた。 あのヴァグドーが二度も攻撃が当たった。 そしてあのヴァグドー相手に、二度も攻撃を当てたこの謎の男。 本当に一体何者なんだよ?
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
「ふっ…」
さっきよりも疲労の度合いがひどい。
この謎の男はヴァグドーの鋭く素早い攻撃を避け続け、その彼に二撃喰らわしただけ。 そんな極端な激しい運動はしていないはず。 なのに明らかに攻撃を喰らったヴァグドーよりも疲労の色が濃い。 まるで体力をごっそり奪われたみたいだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
「ほっほっほっ、お前さん…本当にやるではないか?」
「そ…そんな…バカな……」
スクッ、ニヤリ!
またしてもヴァグドーが何事もなかったみたいに、普通にすぐ起き上がり立ち上がる。 やっぱり彼に動揺・困惑・憤怒・憔悴といった表情は一切ない。 むしろ心なしか、少し楽しんでいる? よく見ると、彼の右頬もそれほど傷ついておらず、吐血もしていない。 もはや余裕というより、ほとんど成熟しきっている。 これならどんなに油断しても、それが大敵にならないのだ。 まさにこのヴァグドーは完璧だ。
それを見た謎の男が愕然として、ほんの少しだけ戦意を失う。 するとヴァグドーがまたジャンプして、今度は一瞬で謎の男の目の前まで急接近した。
タッ、シュッ!
「!!?」
「もうええじゃろ?」
「……」
「そろそろ聞かせてもらおか?」
「……」
「お前さんは、一体何者なんじゃ?」
「……」
「それともこのまま終わらせるか?」
「……」
「いい加減…答え!」
「!!」
もはやここまで!
このヴァグドーのあまりの強さに、絶望し心が折れそうになる謎の男。 しかし、それでも最後まで諦めないぞ! こんな男に自分の正体を知られるワケにはいかないのだ! たとえ殺されても―――
「貴様なんぞに答えるつもりはない!
殺したければ、殺せ!」
「ほーーう、そうかい…」
この謎の男―――覚悟を決めてる男だ。
そう簡単に諦める男ではなかった。