272、お別れの挨拶
●【No.272】●
しばらくヴァグドーたちがナギアノ王国に滞在して、色んなことをしていた。
まずは "ギルド冒険商" へ行って、莫大な報酬・褒賞金を貰った。 この王国の危機を二度も救った英雄に、もはや払うべき金額などありはしないけど、どうやら形だけでもと言うことで莫大なお金 (値段の推定不能) をヴァグドーたちにあげている。 これでヴァグドーたちは一躍億万長者となる。 思えば……このヴァグドーの前世の老人は……貧乏・困窮・貧困の末、自殺した哀れで愚かな老人だった。 そこが異世界に来て億万長者になるなど、まさに皮肉という他ない。
「また…お金か……」
「大丈夫ですよ。
今は電子マネー化してますし、嵩張らないですよ。」
「ふむ、そうじゃな…」
「……?」
[※1]
次は馬車のリニューアルである。 今度の馬車はなんと黄金色に輝く豪華で立派な巨大な馬車であり、黄色の馬が四頭もいて、最大15人(御者台は除く)が同乗可能となる。 少しバスのように長細い馬車となった。 さらに今度の馬車には魔力で動く電動アシスト的機能もついており、馬の疲労・負担も軽減できる。 この馬車には、魔力最強と呼ばれている大魔女シャニルが乗車するので、魔力には困らない。
「へぇ~、魔力による電動アシスト付きねぇ~」
「電子だの電動だの、この世界に電気なんて、ねぇ~よ!」
「あら、よく電気って、わかったわね?」
「ちっ、シャニルめぇ~!」
[※2]
次に大型船の停泊場所について。 しばらくの間はナギアノ王国の西側にある港の船着き場に停泊させる。 港といっても町でも村でもなく、宿屋も教会も民家もお店もなく、ただただ船を停泊させるスペースがあるだけの場所。 その船着き場のひとつがしばらくの間、ヴァグドーたちの乗る大型船で貸し切り状態になる。 その大型船もいちいちヴァグドーたちの後をついていくことができないので、当然の処置だと思う。
「停泊所があるとは、助かりますな」
「ああ、さすがに船なんて持ち運びできんからな。 確かに助かるよ」
[※3]
続けて操師エクリバが最近スライムを捕まえてテイムした。 この大陸にもスライムがいて、特に珍しいとされる "ブルームスライム" の捕獲に成功した。 ここに存在する "ブルームスライム" とは、掌サイズの水色の小型スライムであり、身体がプニプニと柔らかく、とても触り心地がいいそうだ。 自然界にいる "ブルームスライム" は本来おとなしい性格で滅多に人間を襲わない。 なのでテイムしやすいのだ。
「変わったスライムね。
面白そうだからテイムしておこうかしら?」
「……」
[※4]
それと買い物である。 今回も大量の食料と飲料水を買うつもりでいた。 しかし、今回から新たに仲間になったイトリンのお陰で、旅の最中でも美味しい料理が食べられることになった。 これは非常に重要な事であり、文字通りヴァグドーたちは貴重な戦力を手に入れた。 なんと言っても "腹が減っては戦はできぬ" と言うからな。 あと女性陣は衣服・特に下着を新調する。 次にいつ何処で購入できるか解らないから、今のうちに買っておく必要がある。
「イトリンがいてくれて助かるぞ」
「はい、これで毎日美味しい料理が食べられますね。」
「ありがとねイトリンちゃん♪」
「こちらこそありがとうございます。
お役に立てて光栄です。」
[※5]
最後にイトリンとマリアスラン姫との関係について。 イトリンはヴァグドーたちと同行するため、マリアスラン姫と別れることになる。 イトリンは一介の料理人兼冒険者。 しかも、異世界転移者で、この世界の人間ではない。 マリアスラン姫はナギアノ王国の第一王女にして、この王国を継ぐ者。 どう考えても釣り合いがとれない。 イトリン自身も世界を見て、見聞を広げたい考えだ。 なので今回は離別することにした。 ちなみにイトリンのマリアスラン姫に対する淡い恋心を知っているのは、皮肉にも姫の付き人兼暗殺者の女性『テーラン』だけである。
「結局、最後まで打ち明けませんでしたね?」
「はい、これでいいんです。」
「次に会った時には、もう結婚してるかもしれませんよ?」
「それでもいいんです…オレはまだ…」
「…そうですか…」
[※6]
その他にも色んな準備をする。
今度行く所は、おそらく村も町もなく、宿屋も教会もお店も酒場も民家も何もない所。 建物はあるので雨露は凌げると思う。 話では建物の中に入ってしまえば、一応は安全らしいけど、近づくまでが大変。 全方位から無数の矢の雨あられをくぐり抜けなければならないそうだ。
そして、ようやく全ての準備が終了した。
ヴァグドーたちの新たなる旅立ちの時。
大きな門の前に馬車を停めて、王様やマリアスラン姫や暗殺者の女性『テーラン』がわざわざ見送りに来る。
馬車の中にカグツチ・ロンギルス・エクリバ・ニーグルン姫・大魔女シャニル・アルラトス・アルベルス・勇者見習いのモモネ・勇者アドーレ・悪魔神オリンデルス・イトリンが乗り込み、上位魔族テミラルスが馬車の真上に浮かぶ。 ルドルス将軍が御者台に座り、ヴァグドーが歩きながら馬を引く。 いつも通り従来の完璧なフォーメーションだ。 ちなみに馬車の中は意外に広い。
みんなでお別れの挨拶をする。
「世話になったな。 王よ」
「王様、お世話になりました。」
「王様、お世話になったわね」
「大変お世話になりました。 国王」
「………」
「おお、こちらこそ世話になった。
そなたたちがいなければ、この国もどうなったか…。 改めて礼を言う。」
「ふむ、そうか」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」
「またね、元気でね」
「国が救えて良かったです」
「………」
「イトリン様もどうかお元気で」
「姫様もお達者で」
「イトリン様もよい旅を」
「はい、テーランさんもお達者で」
「「「「さようなら」」」」
「それでは失礼します」
「「「さようならぁ~」」」
「達者でな」
「おう、みんなもよい活躍をナギアノ王国で聞いておるぞ。」
「それでは皆さんのご武運をお祈りします。」
「皆さんもよい旅を」
「ふむ、さらばじゃ」
みんなが別れを惜しみながらも手を高く振って、旅立ち・見送る。 イトリンもマリアスラン姫に淡い恋心を抱きながらも離別する。
こうしてヴァグドーたち一行を乗せた馬車は次の目的地『矢獄関』に向けて走り出す。
一方の『矢獄関』の建物の上空に謎の人影がいる。 その謎の人影が腕組みしながら仁王立ちして浮かぶ。 たしか…ここには誰もいないはず…? この謎の人影は一体誰なのか?
「ふふふ、遂にあの男が来るのか?
さぁ、来るがいい最強の男よ。
このオレ様が相手だ!」
そう言って謎の人影が、この『矢獄関』の関所の建物の上で待ち構える。
([注意点])
[※1]
ヴァグドーと勇者アドーレのやり取り。
[※2]
大魔女シャニルと上位魔族テミラルスのやり取り。
[※3]
ルドルス将軍と悪魔神オリンデルスのやり取り。
[※4]
操師エクリバとブルームスライムのやり取り。
[※5]
ヴァグドーと勇者アドーレと大魔女シャニルとイトリンとのやり取り。
[※6]
イトリンとテーランのやり取り。




