266、あの塔は一体何なんじゃ?
●【No.266】●
遂にただの冒険者ヴァグドーが《悪股の大蛇》に勝利した。
今まで誰も一度も勝利したことのない、最凶の化物《悪股の大蛇》をただの人間が一人で倒したんだから、世界に『激震波』という名の衝撃が走るだろう。
そのうち誰でも倒せると思い込んだ者たちが、マヌケにも《悪股の大蛇》を倒そうと挑戦する愚か者が出ていくかもしれない。
それだけが危険であり、心配するところでもある。
まぁ…そこまで責任はもてないけど…。
いずれにしても、九匹いるとされる《悪股の大蛇》の頭がひとつだけの [闘壱頭]は、これで世界から消滅した。
また大魔王エリュドルスや神光聖者エリュニウスなどの一部の者は、ヴァグドーが《悪股の大蛇》[闘壱頭]を打倒したことに気がつき、秘かに不適な笑みを浮かべる。
ワシが空中に浮かんでる時に、周りの風景を見渡した。 自分たちは西からやって来た。 南は海。 東には大きく高い岩山があって、北には天高くそびえ立つ古き塔があった。
「ほーう、塔か…」
ワシが塔の方を向いて外観を確認する。 なかなか攻略しがいがありそうな古いながらも立派な塔じゃ。 とても面白そうじゃ。
「あの塔は……一体何なんじゃ?
後で詳しい者に聞いてみよう。」
ワシが地面に転がる大きい白い牙の所へ降りて、その牙を持つ。
ナギアノ王国の出入口にある大きな門の左右には、先程倒した《悪股の大蛇》の大きい白い牙が二本それぞれ置いてある。 この大きい白い牙は猛毒エキスを【魔蛇の剣】が吸収したので、猛毒はなくなり触れても大丈夫なはずだ。 この牙をナギアノ王国の前に立てて置けば、もう《悪股の大蛇》や他のモンスターがこの国を襲うこともなくなる…はず…。 一種の魔除けのお札的な存在になる。 もっとも今までこの牙を魔除けに使ったことがないので、効果のほどは解らないけど…。
「これでよしっ…と」
ワシが大きな門の左右横に、それぞれ大きい白い牙(毒抜き)を置くと、ナギアノ王国から透明の破邪のエネルギーバリヤーが張られた。 このバリヤーは邪悪なる者が国内に許可なく不可侵できる効果がある。 また邪悪なる者が外部から国内への攻撃を防御してくれる効果もある。 いずれにしても、なかなか便利な結界防御効果のある牙だ。
それを見て、不思議に思った王様がワシに聞いてきた。
「これは一体……っ!?」
「一種の魔除けの結界じゃよ」
「魔除けの結界……?」
「そうじゃ。
この国であの化物を倒した記念に、あの化物以下のどんな化物も、この結界内に侵入ることが許されないんじゃ。」
「そ、それは凄い!
つまり、あの蛇の化物の力で守られているので、あの蛇の化物以下の力の魔物では、この防御結界に立ち入ることができないんじゃな!?」
「その通りじゃ。
王よ、さすがにものわかりがいいのう」
「いやはや、それほどでもないぞ。
そうか、もう魔物も化物もこの国には侵入ってこれないか? これでナギアノ王国も安泰じゃな? あーはははーっ!」
「……」
王様がテレながら笑い出す。
それを見て、今度はワシが王様に質問する。
「ところで王よ。
北側にそびえ立つあの塔は一体何じゃ?」
「塔……? 北側に塔などないぞ?」
「…? アドーレよ。 北側に塔があるのが見えるか?」
「はい、見えます。 古くかなり高そうな塔ですよね?」
「私も見える~♪」
「ボクもよく見えるよ。 あの塔は一体何なんだ?」
「アタシにもうっすらだけど、高くそびえ立つ古い塔が見える」
「「「「?」」」」
「一体何のことじゃ…?」
どうやらあの塔はワシやアドーレやシャニルやオリンデルスやテミラルスには見えて、他の者たちには見えておらんようじゃ。
そこにマリアスラン姫があの塔について話し始めた。
「あの塔は『幻の強者の塔』と言います。
お母様が昔、おとぎ話みたいに話してくれました。
一体何の目的で誰が建てたのか、誰にも解らない。
一説には女神イフレアが建てたとも言われていて、真に強き者にしか、あの塔を視認することも侵入することもできない。
視えたということは侵入する資格があるということ。」
「それは試練みたいなモノか?」
「それは解りません。
しかし、視えて侵入できたとしても、生きてあの塔から出られた者は、今まで誰もいないそうです。
私にも見えませんので、お母様の単なるおとぎ話だと思っていましたけど、まさか本当に視える者がいるとは思いませんでした。」
「あっ、その話! ワシも思い出した!
たしかワシの妻…妃の故郷に古くから伝わる昔話じゃな? ワシも妃からよく聞かされたけど、まさかこの国にもあったのか?」
「…ふむ…」
「あの化物を一瞬で倒せるほどのお方なら、おそらく視ることもできると思いました。 けど…まさか…こんな国の北側…目と鼻の先にあるとは、思いもしませんでした。」
「それで…あの塔に入ると二度と出られんとは?」
「解りません。
言い伝えでは、そう伝わっております。」
「ほーう、なるほどのう…」
「「「……」」」
そこでワシが不適な笑みをこぼす。
そのワシの真意を知るアドーレやシャニルやオリンデルスたちが無言で目を閉じる。
『幻の強者の塔』
ナギアノ国王の妻にして后、またはマリアスラン姫の母親である王妃の故郷に伝わる昔話。
ある一定の強さに達した者だけが視ることができる幻の塔。
視えるということは侵入することも可能であり、この塔の内部構造は誰も知らない。
一度侵入すると二度と出られないとは、ある程度の強さを持っていても、なかなか倒せない…この塔にしかいない強力な化物・魔物が存在するため。 しかも、その強力な化物・魔物をも倒せるほどの力がないと、そもそも姿・存在自体が視認できないという。 その為、何も知らないうちに殺される。 ただ塔に侵入できただけではダメなのだ。 だけど…その分、この塔でしか入手できない幻の特殊アイテムや金銀財宝が山ほどあると言われてる。 まさに弱肉強食の世界を生きた最強無双のヴァグドーにうってつけの塔である。
そこでヴァグドーたち一行やナギアノ国王とマリアスラン姫が護衛兵士を伴って、その『幻の強者の塔』へ行く。 ナギアノ王国の北側にはそれほど広くない森があって、その森のある場所だけが不自然に平面な空地になってる。 そこまで行くと、特に何もないはずなのに、まるで何かがあるかのように、何故か木々がない。
「ここじゃな」
「はい、ここですね」
「へぇ~、間近で見ると結構高いわねぇ~」
「なるほど、そういうことか…」
「「「「?」」」」
「えっ、どこじゃ?」
「きっと私たちの目の前にあるのでしょう。
私たちには見えませんけど…」
ワシらの目の前に古く高い茶色の塔が見えてきた。 ワシやアドーレにシャニルやオリンデルスとテミラルスが塔を見上げる。 他のカグツチとロンギルスに王様やマリアスラン姫たちは周囲を見渡してる。 やっぱり、他の者たちには、あの塔が見えていないようじゃ。
一体中はどうなっておるのか? 一体何があるのか?
これは今から楽しみじゃわい。