261、助け船
●【No.261】●
ここナギアノ王国の中央部にある王都『マリアスラン』のナギアノ・キングダム王宮内にある某所・大広間には、王様主催でヴァグドーたち一行が王宮内に棲みつく魔物の撃退に成功した功労をねぎらう為のパーティーを開催していた。
王様主催の功労パーティーは基本的に立食パーティーであり、室内には複数の長細いテーブルの上に純白のテーブルクロスを敷いて、その上に沢山の豪華料理や美味しそうな飲み物が置いてある。
そのヴァグドーたち一行が豪華料理を食べてる中で、イトリンが独り寂しく部屋の片隅に隠れるように立っており、料理や飲み物などには手をつけず、まるでどこか他人事の出来事みたいな感じで、周囲から距離をとって俯瞰して見てる。
今回の出来事は、彼にとってこれといった活躍もしておらず、この立食パーティーに参加してるのも、なんだか場違いな感じがして、ヴァグドーたち一行の仲間なので、ついでに参加している程度であろう。
大活躍したヴァグドーが仲間の勇者アドーレや大魔女シャニルやカグツチやニーグルン姫たちと、一緒になって立食パーティーを楽しんでいる。 また王様やお姫様もヴァグドーたち一行と話をして、一緒になって立食パーティーを楽しんでいる。 けどイトリンだけが一人、大広間の片隅に佇み腕組みしながら壁にもたれて立ち尽くす。
「…………」
そんなイトリンが一体何を考えてるのか、いまいちよく解らない。 なんだか孤独感の黄昏に浸ってる感じだ。
どうしてもあの賑かな輪の中に入ることに心身共に抵抗を覚えてしまう。 いつも一人で静かな場所にいたので、どうしてもあの賑やかに騒ぐ所が苦手みたいだ。
その彼が俯いて考え込んでいると、お姫様の侍女で暗殺者の女性が近づいて来て話しかける。
「………」
「そんな所で何をやってるんですか?」
「ああ、賑やかなのは苦手でね。
一人、こっちに避難してきたのさ」
「そうなのですか? でも、せっかくお姫様とお話できるチャンスなのに、もったいないですね」
「確かにな。
だがしかし、仮に話せたとしても話す内容がない」
「なかなかストイックなのですね。 名前が可愛いので、もっとお茶目な性格かと思いましたけど、どうやらかなり繊細なのですね?」
「そ、そうか?」
「それと結構、無口なのですね?」
「まぁね。 自分からペラペラ話すのはあまり得意じゃない」
「へぇ~、そうなのですか?
結構、お姫様の好みのタイプかもしれませんね?」
「そ、そうか?」
「……なるほど、確かに話が続きませんね」
「……ところで君の名前をまだ聞いていなかったね?」
「あっ、そうですね。
まだ名前を言ってなかったですね。 私の名前は『テーラン』と言います。 宜しくお願いしますね」
「……テーラン……そうか……」
「あら、私の名前には興味ないようですね?」
「いや、そういう訳ではないけど、すまなかったね」
「まぁ、別にいいですよ。
そんなことはどうでも…」
「そ、そうか?」
「ほ、本当に避難して正解です。
イトリンさん」
「………」
彼女の名前は『テーラン』と言う。
そう言って彼と暗殺者の女性『テーラン』の二人が、ここから黙って、お姫様『マリアスラン』の方を見ていた。
イトリンと暗殺者の女性『テーラン』の二人がお姫様『マリアスラン』の方を見ていると、そこにお姫様も彼らに気がつき、彼らの方に歩いて近づき話しかける。
「お二人共、何を話してますの?」
「はい、マリアスラン様。
イトリンさんがこんな所で、一人いるのが少し気になって話しかけてみました。」
「………」
「まあ、そうでしたか?
イトリン様は何故、お一人で?」
「いや、今はたまたま一人でいただけですよ」
「……?」
「………」
「はぁー、たまたま……ですか?」
「はい、たまたま一人になっただけですので、あまり気にしないで下さい。」
「なるほど、確かになかなか会話が続かないみたいですね。」
「そ、そうか?」
「えっ、なんですか? テーラン」
「いえ、なんでもありません。
マリアスラン様」
「……?」
「………」
この後も会話はするけど長続きはせず、少し沈黙するばかりで、本当に話は進まず弾まず成立しないみたいだ。
そこに今度はあのヴァグドーまでが彼らのいる所まで歩いて近づき話しかける。
「おう、イトリンよ」
「あっ、ヴァグドーさん」
「「!!」」
「その盾の調子はどうじゃ?」
「はい、軽くて頑丈そうな盾です」
「その盾の最大の特徴は盾の中心部から発生する漆黒のエネルギービームにある。 その漆黒のエネルギービームのシールド状は物理的攻撃も魔法攻撃も特殊攻撃も防いでくれる。 しかも漆黒のエネルギービームのシールド状なので相手の攻撃力は関係ない。 なかなか便利な盾じゃよ。」
「へぇ~、そんな凄い盾なのですか?」
そう言いながら彼が左腕に装備した小型盾 "ダークギルガメシュ・シールド" を見る。
「その盾を手に入れるのに苦労したぞ」
「どうやってこの盾のことを知ったんです?」
「それは女神からのアドバイスじゃよ」
「ああ、なるほど」
何故か、イトリンが妙に納得している。
「お前さんを戦闘要員にカウントしない。 じゃが敵からの攻撃は、その盾で十分防げるはずじゃ。 せっかく助けたのに、そう簡単に死なれてもらっても困るのでな。」
「ははは、確かにそうですね」
「それにお前さんの中華料理が食えなくなるのが非常に厄介じゃからのう。」
「ははは、ヴァグドーさんらしいですね」
「ふむ、そうかの?」
「なんとなくそんな気がします」
「おう、そうか」
「「………」」
何故か、ヴァグドーの時だけイトリンが長く当たり前のように普通に会話しており、その様子を驚きながら見ているマリアスラン姫と暗殺者の女性テーラン。
その後もヴァグドーたち一行の功績を称え功労をねぎらう立食パーティーの宴が続けられている。 今夜は王様やお姫様の計らいで、ヴァグドーたち一行全員が王宮内にある各個室 (一人一部屋ずつ) に寝ることになった。
◎『助け船』
女性と話すのが苦手で困っているイトリンにまさにヴァグドーが無意識に助け船を出す。
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