257、進撃のアドーレ
●【No.257】●
遂に玉座の目の前に到着したヴァグドーたち一行。 立ち止まって目の前にある玉座の方を見た。
そのヴァグドーが漆黒・鋼鉄のオークの頭を3つ持って、まるでお手玉するようにして、3つの頭を目の前で回している。 ちなみにオークの頭ひとつにつき、約300kgの重さがある。 一方の勇者アドーレが玉座を見ながら冷静に構えている。 また悪魔神オリンデルスは後方で静かに腕組みしながら立っている。 それと大魔女シャニルが一番最後の方にいて、三人の背後に隠れている。
「「「「………」」」」
だがしかし、肝心の玉座に誰もいない。 普通なら誰か玉座に座って、「よくここまで来たな。 勇者共よ」とか「バカめ勇者共よ! ここが貴様らの墓場だ!」とか言って待ち構えているはずのボスモンスターも魔族も誰もいない。 気がつくと周囲にいたはずの雑魚モンスターの姿も消えていた。
するとそこに―――
シュルルルルゥゥゥ―――ガッシャアアアァーーーン!
なんとヴァグドーたちの頭上から鉄の檻が落ちてきて、ヴァグドーたちを閉じ込めた。
ブゥゥゥーーーン、フッ!
さらにヴァグドーたちが立つ床が突然消えてしまい、このままだとヴァグドーたちが真っ逆さまに落ちる―――と思ったけど、全員宙に浮いている。
「罠か……」
「なるほど、ここにはもういない……と言うことですか……」
「これで閉じ込めたつもりなのか…?」
「ふん、この程度の罠など…」
ガッ、グニャ~ン、スーッ、タッ!
そこでヴァグドーが宙に浮きながら鉄の檻の鉄格子を両手で一本ずつ持って、その両手の力だけで左右にある鉄格子をグニィ~ッと広げていき、その隙間から全員が抜け出し脱出に成功。 安全そうな床へ着地する。 ヴァグドーたちにとって鉄の檻だけでは閉じ込めることなどできない。
「まさか、もう逃げ出したのか?」
「それでは罠を仕掛ける意味はありませんよ?」
「否、時間稼ぎには丁度よい」
「………」
だが少し得心がいかん。 もう既に逃げたのなら、あの三体の漆黒・鋼鉄のオークは本当にただの時間稼ぎなのか? それにこの雑な罠もただの時間稼ぎなのか? 全てはここを支配するボスモンスター、あるいは魔族がこの玉座の間から逃げ出すための時間稼ぎに過ぎないのか? 少し腑に落ちない。
「もし、逃げ出したのなら、ワシらがここに来る前にもう既に脱出したか、さもなくばワシらが来たあの扉以外にも他に脱出できるルートがあったか、じゃな」
「もし、待ち伏せしていたら、もう既に攻めてきていい様なものだが、それがない。 ―――となると、どこか物陰にでも隠れてやり過ごすか?」
「………」
「探しますか? ヴァグドーさん」
「否、いい。 見当はついておる。 この玉座の間、ある一部分だけが異様な光景になっておるからのう。」
「ああ、アレね」
そう言って玉座の後方にある壁を見た。 その壁には大きなオークの絵が飾られている。 普通はあり得ない。 人間の王国の玉座の間の玉座の背後の壁に、こんな巨大なオークの絵などは飾られていないはず。 つまり、コイツがボスモンスターなのだ。
どうやらアレで隠れているらしい。
「よし、シャニルよ。
あの絵画を焼き払え」
「了解♪」
するとここで―――
『ま……待て! や……やめろ!』
玉座の背後の壁に飾られているオークの絵画から突然慌てるような声がした。
「ならば出てこい!
出てこなければ、このまま焼き尽くす!」
『わ……わかった……今出る……』
ニュルゥ~ン、ズドォーン!
なんと大きなオークの絵から巨大なオークがニュルゥ~と出てきて、遂にヴァグドーたちの前に、その姿を現した。
「強そうではないか。
何故隠れる必要がある?」
『………』
「どうした? 黙りか?」
『お……俺様はこの国の王であるぞ!
それがこのような不遜な態度、認められるか!』
「ふざけとるのか、お前?」
『……うっ!?』
ヴァグドーのあまりにも圧倒的な態度に、思わずスーパー・オークがビクンと身を怯ませて怯えている。
紹介が遅れたけど、このボスモンスターはオークを束ねるスーパー・オークである。 巨漢・漆黒・鋼鉄の身長は約5m・重量が約3tはある強力モンスター。 見た目は強そうに見えるけど―――。 弱者に対しては威張り散らし、無慈悲に破壊・殺戮を繰り返すけど、自分よりも強者が現れると、途端に萎縮して逃亡、もしくは隠れてしまい、巨体に似合わず無口になる典型的な小心者なのだ。
「お前ごときが王だと? 王とは堂々としてるものじゃ。 お前のようにこそこそ隠れたりせん。」
『な……何を? で…では…この国の王はどうだ? ヤツもこそこそ隠れているだろう?』
「それは仕方あるまい。 確かにこの国の兵士や冒険者たちでは、お前さんは倒せんだろう。 無念だが、仕方がない。 だがお前さんはどうだ? いきなり攻めてきて、王を自称しておきながら、ワシらが攻めてきたら、罠を仕掛けるだけで途端に隠れてしまう。 そんな王がおるか!」
『……うっ!?』
まさしく正論。 自分たちからいきなり攻めてきたのに、自分よりも強者が攻めてきたら、雑な罠を仕掛けるだけで、あとはこそこそ隠れるなど、王の所業ではない。
少しイラつくヴァグドーたち。
「さて、そろそろ殺るかの」
『ま……待て! 俺様には命乞いを聞かないのか?』
「まさかじゃろ。 お前さんには必要ないじゃろ。 何しろ他人の国を乗っ取ろうとしとるからのう。」
『……うっ!?』
「待って下さいヴァグドーさん!」
「何じゃアドーレよ?」
「ここはボクに殺らせて下さい」
「何っ!?」
「「!!?」」
『くっ!?』
「なんだかボクもムカムカしてきました。
ストレス発散させて下さい。」
「ほーう、そうか。 では任せよう」
『………』
「ありがとうございます。
すぐに片付けますから、少しお待ち下さい。」
「おう、わかったのじゃ」
なんと、あの戦闘に消極的なアドーレが自ら討伐に志願した。 相当、頭にきたのか?
そのアドーレがヴァグドーたちから前に出て、ボスモンスターのスーパー・オークと対峙する。
アドーレが左肩に装備された黄金の剣を取り出して構える。 なんだか不思議な構えをしていて、黄金の剣の刀身からは謎の黄金の闘気が放出されてる。
『な、なんだとっ!? この―――』
「………」
『この野郎! くたばれぇ!』
「………」
タッ、タタタタッ!
ボスモンスターのスーパー・オークがアドーレの方へ向かって走る。 巨体に似合わず意外にもの凄い速度で襲って来る。 焦るスーパー・オークが慌ててやけくそ気味にアドーレの顔面に殴りかかる。 だがアドーレは相変わらず不思議な構えをして、黄金の剣の刀身から謎の黄金の闘気を放出させたままにする。
ヒュウ、ザァン、ドサッ、ズドォォォン!
慌てて向かって来るスーパー・オークの首めがけて黄金の剣を素早く振り抜いて、ほんの一瞬でスーパー・オークは断末魔もあげられずに首を切断された。 首を斬られたスーパー・オークは頭と胴体がバラバラになって同時に床に叩きつけられた。