08、遂にマリアスラン姫登場
〇【No.008】〇
王族専用の大型・白銀製に白馬の馬車が二台、俺たちを乗せて、もの凄い速度でナギアノ王国の中央部にある王都・王宮に向かって走る。
こんな馬車でも不思議な仕組みになっており、走る馬車の中にいる限り、モンスターに襲われることはない。
この白馬自体も普通の馬ではなく、何かの力が備わってる白馬のようであり、異常に速く走る。
今回はヴァグドーさんも馬車の中に入って、ゆったり座って休む。
やがて二台の馬車があっという間に王国の中央部に入る。
その中央部にある大きな街には、貴族や王族が多く暮らす。
現在は馬車専用道路を走っている為、人は通っておらず、人が通る大きな道や歩道などには、貴族や王族たちがいて楽しく賑わっている。
この馬車専用道路はまっすぐ走れば、そのまま王都まですんなり入れるようになっている。 俺たちを乗せた二台の馬車も、このまま王都に入るまで走り続ける。
そして俺たちを乗せた二台の馬車がようやくナギアノ王国の中央部にある王都の中に入る。
王都の中を走る二台の馬車。 これが王族専用の馬車の為、この二台の馬車を見た者は、特に何も疑問に思わない。 まさかヴァグドーさんたちが乗っているとは思わない。 馬車の内部の様子が見れないように、窓には黒い布がついていて、中に誰がいるのか、正直誰にもわからない。 おそらく王族関係者が乗っているとしか思われていない筈。
この王都の名前が『マリアスラン』と言う。
やがて俺たちを乗せた二台の馬車が大きな宮殿の前で停止した。
どうやらナギアノ王国の王宮に到着したようだ。
「ヴァグドーさん、王宮に着きました。」
「ふむ、そうか。 わかったのじゃ」
「これが…王宮か…」
ここで暗殺者の女性がヴァグドーさんに話しかける。 ヴァグドーさんが応対すると、ヴァグドーさんをはじめ、他の皆さんも次々と馬車を降りる。 俺と暗殺者の女性が最後に降りると、目の前には大きな宮殿が見える。 例えるなら中東の王国にある王宮に雰囲気や建物が似てるだろうか?
これがナギアノ王国の国王一族が暮らすナギアノ・キングダムだ。
入口が大きな門で閉じられている。 その門の左右には門番が槍を持って立っていて、こちらに向かって軽く会釈する。
俺が無言で王宮を見上げていると、ヴァグドーさんや勇者アドーレさんや大魔女シャニルさんやカグツチさんたちが、どんどんと王宮の中に入る。
「さぁ、イトリンさんもどうぞ王宮の中へ」
「はい、判りました。」
暗殺者の女性に促されるようにして、俺も王宮の中に入る。
この王宮の正面の大きな門は閉じたままだ。
だけど、その大きな門の右側に小さな扉がある。 そこからヴァグドーさんや勇者アドーレさんやカグツチさんたちが、次々と王宮の中に入る。
また門番が小さな扉を開けてくれるけど、実際に門番はあくまで門も守る衛兵なので、ここから先・王宮内では暗殺者の女性が王様の居る「玉座の間」まで案内する。
その小さな扉から王宮内に入ると、外側から小さな扉は閉じられた。
まずは広いロビー的な空間と、中央・左右に分かれた2階へ上がる三つの階段がある。 またロビー的な空間の左右端には、何かの扉が、それぞれひとつずつあった。
「皆さん、こちらです」
「おう、そうか」
そう言って暗殺者の女性が、あえて階段の方には行かず、左右端にある扉のうちの左端の扉の方に向かう。 あの三つある階段には登らないようだ。
その扉を開けると、狭く細い通路がある。 壁には松明の明かりがあるので、通路自体はそれほど暗くない。
案内役の暗殺者の女性を先頭に、ヴァグドーさんや勇者アドーレさんや大魔女シャニルさんやカグツチさんたちが続き、最後に俺も通路を歩いて進む。
その途中で通路の角を曲がったり、またまっすぐ歩いたりしてるけど、一向に階段を登ったりしないので、まだ一階にいると思われる。
これは明らかに「玉座の間」に行ってる様子ではない。 けどヴァグドーさんや勇者アドーレさんやカグツチさんたちは、特に何も言ってこない。
やがて通路の奥の方、突き当たりにうっすらと扉が見えてきた。
「皆さん、こちらです」
「おう、そうか」
「…?」
そう言って暗殺者の女性が、その扉を開けて中に入る。 壁に松明の明かりはあるものの、その部屋自体は薄暗くあまり広くない普通の部屋。 兵士が部屋の四隅に一人ずついて、小さい部屋の中央の左側に黄金の王冠をかぶり、真紅のマントと黄金を基調とした中世ヨーロッパ風の貴族の服を着た、いかにも王様っぽい五十代の男性と、右側には白銀のティアラをかぶり、蒼色のマントと白銀を基調とした中世ヨーロッパ風の貴族のドレスを着た、もしかして姫様かな、って感じの二十代の女性が立っていた。
姫様の顔をよく見ると、全身に衝撃が走った!
腰まで伸びた紫色の綺麗な髪。
美しくも妖しい深紅の瞳。
小さく可愛い薄いピンク色の唇。
ドレスの上からでもわかるほど、とても大きく美しい胸。
綺麗に整った小さなお顔。
スタイル抜群、美しいプロポーション、清楚で優美な顔立ち。
まさに全てが完璧だっ!!
思わず息を飲んだ。
これこそ、絶世の美女だっ!
俺は彼女に一目惚れしたっ!
俺が絶句してると、姫様が優しく微笑んでくれたぞ!
彼女の名前は『マリアスラン』と言う。
なんと王都と同じ名前だ。
また名前も可憐だし、王都の名前が貰えるほど、このナギアノ王国にはよほど重要な人物なのだろう。
そんな彼女がナギアノ王国のお姫様である。 清楚で優美なお顔にスタイル抜群・美しいプロポーションの上、王女としての教養やら帝王学やらがあり、爵位も公爵以上はありそうな気品と利発さがある。 とにかく凄い。
俺とは住む世界が違う。
そこに暗殺者の女性がお姫様の所まで行き、そっと耳打ちした。 お姫様は無言で聞いて何度も頷いた。 おそらく暗殺者の女性がお姫様に何かを報告してるんだろう。
俺は黙って見てた。
俺の隣では、ヴァグドーさんと王様がなにやら親しく話し合う。
「おお、来てくれたか。 ヴァグドー殿」
「大変な事になったのう。 ナギアノ王よ」
「ふむ、早くなんとかしてくれ。 多少大事になっても構わんから、さっさと奴らを消し飛ばしてくれ!」
「ふむ、判っておる。 さっさと奴らを瞬殺して、必ず「玉座の間」を取り返してみせるぞい!」
「おお、ヴァグドー殿! 頼みましたぞ!」
「おう、任せろ! ナギアノ王よ」
「はい、お任せください。 王様」
「頼んだぞ! 勇者アドーレ殿」
まだまだヴァグドーさんたちと王様が親しく話し合う。
あとで知ったことだが、なんとあの「玉座の間」が大魔王イザベリュータの手下の幹部の魔族に占拠されたそうだ。
それで王様や姫様が、こんな狭く薄暗い部屋で「ほそぼそ」していた。
俺の隣では、ヴァグドーさんたちが敵を討伐する為の準備をする。
そのヴァグドーさんが考案した出陣計画。
「まずワシとアドーレとシャニルとオリンデルスの四人で「玉座の間」の中まで行く。」
主力のヴァグドーさんと勇者アドーレさんと大魔女シャニルさんと悪魔神オリンデルスさんの四人で敵と戦闘する。
「カグツチとロンギルスとエクリバとテミラルスの四人は「玉座の間」の扉付近で待機じゃ。」
次にカグツチさんとロンギルスさんとエクリバさんとテミラルスさんの四人が援護射撃要員になる。
「ニーグルン姫とルドルス将軍とアルベルスとアルラトスとモモネの五人は、ここで待機じゃ。 イトリンを護衛するのじゃ」
それとニーグルン姫様とルドルス将軍とアルベルス君とアルラトスちゃんとモモネちゃんの五人がここで待機する。
「イトリンよ。 お前さんは当然ここに残って、ワシらの凱旋を待て。」
当然、戦力外の俺は戦闘には参加できない。
最強無双のヴァグドーさんが仲間全員に、自分の作戦を発表すると、全員が「はい!」と答えた。 まさに統率のとれた "チーム・ヴァグドー" といったところか。
そして戦闘担当のヴァグドーさんたちがこの部屋の扉を開けて出ていく。
どうやらヴァグドーさんには「玉座の間」までの道程を事前に知ってるみたいだ。
今回もイトリン回です。
タイトル『糸井久信 ~絶望老人が異世界転生をしたら、外伝~』の別ヴァージョンを追体験。 今回は内容も一変されてる。 見比べてお楽しみ下さい。
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