06、暗殺者からの仕事の依頼
〇【No.006】〇
あるお客さんが妙なことを言ってきた。
「私は冒険者ではなく暗殺者です。」
「―――えっ!?」
このお客さんが奇妙なことを言ったお陰で、俺は思わず絶句・唖然となる。
はぁ…一体何言ってんだぁ…この人はぁ…!?
「いいえ、何でもありません。 それにしても美味しいですね…コレ。」
「どうもありがとうございます。」
でも…自分のことをわざわざ暗殺者と言ってくるあたり、俺はとても混乱してる。 別に俺を殺しに来たわけではないようだ。 それにしても暗殺者が俺の作った料理を食べるとは―――
わざわざ対象者の目の前で、チャーハンとギョウザを頼んで食べてるあたり、また自分のことを暗殺者と名乗ることは、まったくあり得ないことだ。 そんなのプロのアサシンのすることじゃない。
それに俺を油断させるためと言っても、そもそも自分の姿も正体もあかさなければ、油断もへったくれもなく、隠れて静かに俺を殺害すればいいわけだから。
そもそもプロの暗殺者なら、わざわざ自分の顔を晒してまで、暗殺対象者と話し合うなんて、マヌケな真似はしない………はずだ。
だから俺を殺しに来たわけがない!
……はずだ……。
などと考えてるうちに彼女が俺の作ったチャーハンとギョウザをすっかり食べ終えた。
「ごちそうさまでした。
とても美味しかったですよ…コレ。」
「そうですか…。 それは良かったです」
「それでは、お会計をお願いします。」
「いいや、今は値段がないんです。 まだ金額設定をしてないんですよ。 だから今回だけは無料でいいですね。」
「あら、無料なのですか?
ですが、あなたの後ろの方は鋭い目つきをしてますね?」
「…?」
彼女の言葉に、不思議に思った俺が少しだけ顔を後ろに向けてみると、その背後に居たのが、なんとヴァグドーさんだった。
「……」
「あや、そこに居たんスか?
それでヴァグドーさん…何か用ですか?」
「ッ!!?」
「ふむ、かなりの殺気があってな。 ここに来てみれば、そこに居たのが…彼女だったもので…な?」
「……殺気?」
「ふむ、お前さんには解らんか? まぁ…あまりにも静かで小さな殺気なので、普通の者では理解できんか?」
「そ、そうなんですか?」
「……」
俺の背後にいるヴァグドーさんの方を少しだけ見ている状態で話し合ってる。
「ふふふ、さすがですね。
あなたがヴァグドーですね? 絶対に暗殺できない男………ですか?」
「ほっほっほっ、このワシを殺しに来たのか?」
「まさか……でしょ? あなたを殺すには、相当なレベルと実力がないと、逆に返り討ちにあいましょう。 あなたを殺すには、まず私一人だけでは無理ですね。 大軍を引き連れても、果たしてあなたに勝利できるか、どうか………ですからね?」
「ならば、森に行ってモンスターを倒して、経験値とお金を稼ぎに来たか? それともただ単にチャーハンとギョウザを食べに来たか?」
「……」
今度は俺の背後にいるヴァグドーさんと俺を挟んで、カウンターの向こうに座るお客さんが話し合ってる。
「実はヴァグドー、あなたに仕事の依頼をしに来ました。」
「―――えっ!!?」
「ほーう、このワシに仕事の依頼を……?」
なんと暗殺者の女が最強無双のヴァグドーさんに仕事の依頼をしてきた……だとぉ!?
なんで……暗殺者が…ヴァグドーさんを頼ってきてるんだぁ!?
こう言っては何だが、暗殺者が他人を頼ったら、おしまいだぞぉ!?
それにしても暗殺者がヴァグドーさんに、一体何の仕事の依頼をしてきたのかな……っ!?
その暗殺者の女が自前の純白の布で、自分の口を静かに拭いて、料理でヨゴレた口をキレイにする。 そんな女性が正面向いて両目を閉じた。
一方のヴァグドーさんは、いつの間にか俺の後ろからカウンターを出てきて、その女性の右側にある椅子に座って、静かに腕組みするだけ。 あれ、さっきまで俺の後ろに居たはずなのに、いつの間にか暗殺者の隣に座ってるぞ? これは一体―――
「…?」
そして、今度はヴァグドーさんから静かに話し始める。
「それで……このワシに一体何をさせるつもりなんじゃ?」
「はい、ヴァグドーさんほどのお方なら、大魔王討伐も容易だと思います。 勇者アドーレさんや大魔女シャニルさんたちと協力して、あの "大魔王イザベリュータ" を倒していただきたい、との国王様からの要請がありました。」
「ほーう、大魔王イザベリュータのう」
「えっ、だ…大魔王っ!?」
「はい、残念ながらこの広大な大陸にも大魔王が居るのです。 以前ヴァグドーさんたちがいた大陸にも "大魔王エリュドルス" と言う "ある程度人間に好意的な大魔王" がいたと思いますけど―――」
えっ、ある程度人間に好意的な大魔王……だとっ!?
そんな大魔王が存在するのかっ!?
いや、その討伐に行け……と?
「この大陸にも勇者はたくさんおるじゃろう? そいつらはどうしたんじゃ?」
「はい、確かにこの大陸にも勇者はたくさんいますけど、残念ながらここの勇者たちは、それほど強力ではありません。 それにこの大陸にいる大魔王イザベリュータは、噂では "絶世の美少女" だと聞いております。」
「…ほう…」
えっ、この大陸にいる大魔王イザベリュータが "絶世の美少女" だとっ!?
ちょっと待てっ!!
今度の大魔王は美少女なのかっ!?
「なるほど、今度の大魔王は絶世の美少女なのか…? それで、その大魔王をワシらが倒すのか…?」
「はい、その通りです。
あの大魔王は外見が凄く可愛いけど、その性格は冷静沈着の残虐非道で手がつけられずに、人間やその他の種族などを平気で襲っているそうです。」
「なるほど、その美少女大魔王を倒せるほどの実力と残忍さが必要じゃな。 ならば並みの勇者では、その美少女大魔王を打倒出来ないわけじゃな?」
「はい、その通りです。
それでどうですか? ヴァグドーさん」
「ふむ、そうじゃのう」
「……」
ちょっと待てっ!!
まさかこれから、その大魔王を打倒するために、この場から離れて、旅に出るつもりなのか…?
いや、旅をしながらでもラーメンは作れるけど、素人の俺には戦闘は出来ないぞ。
それでもいいのか?
「少し考える時間が欲しいものじゃな? パーティーはワシ一人だけではないんじゃからのう。 一応、仲間もおるしな」
「そうですか、判りました。
では…私はここで少しお待ちしております。」
「おう、そうか…わかった」
おぉ、検討する時間はあるようだな。
まぁ、あんなに仲間がいるしな。 少しは相談しないといけないよな?
俺がヴァグドーさんでも、こんなことは一人では決められないはずだからな。
あとはヴァグドーさんたちに任せるか。
まだまだイトリン回です。
タイトル『糸井久信 ~絶望老人が異世界転生をしたら、外伝~』の別ヴァージョンを追体験。 ここから今回も内容にさほど変化なし。 なので見比べても構いません。
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