05、お客様は暗殺者?
〇【No.005】〇
この後も俺は小屋に戻り、色々と研究しながらラーメン・チャーハン・ギョウザの味の微調整をして、なんとか人様に出せる程度の味と見た目の中華料理が完成した。
あとは店を出すだけだ。
しかし、ここは森の中。 しかも…近くに街や村すらないみたいで、周囲に一面広がる森の中に人間などいない。 いるのは…ヴァグドーさんやヴァグドーさんの仲間たちに、あとは俺。 勿論、モンスターは対象外。
これでは商売にならないぞ。
なんとか何処かテキトーな街とか村とか探して、お店を出さないと、商売どころか、そもそもせっかく作った中華料理を食べてもらえないぞ。 俺の料理を人間に食べてもらえないと意味がない。
・・・
………
この異世界で中華料理店を出店させることは、おそらく俺だけのはず? この後も俺は色々と模索して、検討して、思案する。 一体どうすればいいのか、しばらくの間、考え込む。
・・・
………
正直、俺に戦う力などない。
このまま…この森の中に居続けるのは、非常に危険だ。
このままだと、いつモンスターに食い殺されるか、解らない。
こんな無力な俺。
・・・
………
やっぱり、ここで頼りになるのが、ヴァグドーさんの存在だ。
聞いた話だと、ヴァグドーさんは既に最強無双らしい。
戦闘をヴァグドーさんたちに任せて、俺は料理担当になれれば、最早モンスター共と戦う必要もない。
ならば、しばらくの間は、ヴァグドーさんたちについていくか?
これが上手くいけば、この森から無事に脱出できて、色んな街や村へ行くこともできるはず。
勿論、森の中でお店を開業させることも可能だろう? だけど、それでも森の中では弱小とはいえ、当然ながらモンスターもいて、人間のお客様がやって来れない。 それにまだ俺のことをよく認知されていない。 まずは人間の街や村でお店を出して、お店を増やし広げていった方が安全で手っ取り早いか? ゆくゆくは全国に俺のお店をチェーン店として展開させていく。 これこそが俺の理想! そして、俺の夢だ!
思わず俺は、小屋の中で、一人「フフフ」とニヤつく。
・・・
………
でも…本当にイケるか?
やぁ、こんにちは!
俺の名前は『イトリン』―――前世の名前は『糸井久信』だ。 まぁ…前世と言っても別にまだ死んだ訳ではない。 まだ辛うじて生き長らえてる。
以前は地球の日本にいたんだが、地球に殺害されそうになって、慌てて異世界に避難―――いや、転移してきた者だ。
俺の将来の夢は、ラーメン屋のお店を出すこと。 あと中華料理店を出すこと。 一度は諦めかけたこの夢を異世界にて、再び俺の夢が炎のように燃え上がる。
―――とはいえ、実はまだお店を出していない。
今はまだ出店プランの計画作成・検討に入ったばかりだ。
―――とはいえ、ここで慌てる必要もない。 この焦る気持ちをグッと堪えて、今は我慢しつつじっくりゆっくりやっていくしかない。
そう、まだまだこれからなのだから。でもあんまりのんびりしていられない。 なにせ、俺はまだ殺されないとも限らない。 いつ何処で誰がどのように殺しにやって来るのか、全く見当もつかないからだ。 より冷静に…より慎重に行動しないといけない。
この後も俺は殺害の恐怖と不安に怯えながら、これから一体どのような自分オリジナルのラーメン屋のお店を出店するか、試案・検討していく。
それから森から少し離れた場所にある道の横に小屋を作ってもらった。 道に隣接する形で小屋をヴァグドーさんたちに作ってもらって、この小屋をラーメン屋のお店にするつもりだ。
一般的に、この国でお店を出すには、王国からの許可が必要なのだ。 その辺はヴァグドーさんが済ましているらしい。 さすが彼はこの国でも凄く顔が利くみたいだ。 なんだか知らないうちに、申請・手続きが完了したということだ。
それから俺がラーメン屋のお店として出す小屋のすぐ隣にも大きめの小屋を作り、そこを簡易宿屋とする。 つまり、俺のラーメン屋のお店と簡易宿屋を一括して、道に隣接して建てられた。
とりあえず今回のメニューとしては、こちらになる。
●醤油味ラーメン
●チャーハン
●ギョウザ
それとサイドメニューが、こちらになる。
◎白米
◎枝豆 (『アイテム収納ボックス』の食料アイテム)
◎味噌汁 (ワカメと豆腐が入った薄味の味噌汁)
◎卵料理 (目玉焼き・卵焼きなど)
○赤いお酒 (『アイテム収納ボックス』の飲料水アイテム)
○白いお酒 (『アイテム収納ボックス』の飲料水アイテム)
○お水:無料 (『アイテム収納ボックス』の飲料水アイテム)
あと裏メニューは、こちらになる。
★橙色のジュース (特殊飲料水アイテム:常連限定お客様のみ)
★黄色いお酒 (特殊飲料水アイテム:常連限定お客様のみ)
―――って、ところになる。
当然、最初はお客様なんて来やしない。 森の脇にある道なんて、そもそも誰も知らないし来ないだろ? この森の中には、弱小モンスターがたくさんいるからな。 だけど、それでも来る奴はいる。 それは冒険者だ。 その冒険者たちの間では、この森の中のモンスターはかなり弱小で稼ぎやすいため、または自分の冒険者ランキングを上げるためにも、ここは絶好の場所になる。 なので冒険者の中でも、ごくたまにこの小屋を見つける者もいるだろう? 一体何かと思って中に入ってくる者もいるだろ? そこに俺のラーメン屋のお店があるってワケだ。
俺の小屋 (ラーメン屋のお店) にお客様がやって来た。
どうやら冒険者のようだ。 今のところ一人だけで冒険しているようだ。
やっぱり、あの森のことを聞きつけてやって来た類いの冒険者のようだ。 そこに偶然、この道を見つけて歩いていたら、小屋が並んで建てられていたのに、気づいたと言うところだろう。
この小屋の内装は、右側の縦にカウンター席が三つあって、俺がカウンター席を挟んだ、さらに右側に立ってる。 左側の縦に机が二つ並んで置いてあり、一つの机に椅子が左右二つずつ合わせて四つ置いてある。
「いらっしゃい」
「……?」
俺の言葉に首を傾げる。 その冒険者とは、若く美しい女性である。 腰まで伸びた長く綺麗な黒髪に血のような真紅の瞳と同じく真紅の唇(口紅?)。 黒いマントの下に黒い長袖上着と黒いロングスカートに、黒いロングブーツと黒い革手袋といった全身漆黒の出で立ちで、服の上からでもわかるほどに、大きな胸が特徴的である。
一見して、普通の美女であり、とても冒険者には見えないけど、一体誰で…どういった女性なのだろうか?
そこで彼女が、カウンター席の中央の俺の目の前に座ってきた。
「一体何にしましょうか?」
そう言いながら、俺が水の入ったコップを彼女の目の前に置いた。
「はぁ? そもそもここは一体何ですか?」
「ここは特殊な食事を出す…お食事処のお店って感じですかね?」
「えっ、ここは食べ物を食べさせてくれる小屋なのですか?」
「はい、そうです。 お客様に "中華料理" っていう料理を食べさせるお店です。」
実はまだ看板とかのぼりとか、この店のことを宣伝するモノは何も作っていない。
「……!」
ここで彼女の紅い瞳がギラリと光った。
「な、何ですか?」
一瞬だけ彼女が、俺を睨み付けたように見えたけど、すぐに両目を閉じてから、こう言った。
「いえ、それではメニューを見せて下さい。」
「えっ……あっ……はい、どうぞ」
俺は特殊な紙で作ったオリジナル料理のメニュー表を彼女に手渡す。
うん?
メニュー……?
この世界にも "メニュー" なんて言葉があったのか……?
まぁ…いいか、たぶんあるんだろう……?
あまり気にしない。
しばらく彼女がメニューを見つめていて、何か食べるモノが決まったのか、再び俺の方を見てから―――
「それではチャーハンとギョウザを一つずつ下さい。」
おっ、普通に注文してきた?
「はい、判りました。」
今、わかったぞ!
この女性……わかる人だ……!
おそらく、俺たちと同じ『異世界転生者』か『異世界転移者』かの―――いずれにしても、この世界の人間ではない。 やけに慣れてる。
俺はチャーハンとギョウザを作り上げて、彼女の目の前に置いた。
「お待ちどうさまでした」
「……」
彼女が無言でレンゲを持って、そのままチャーハンを掬って食べた。
間違いない!
もし、この世界の人間ならば、こんな意味不明な料理を出されたら、頭上に『?』マークがついて不思議そうな顔をするか、怒鳴り声で文句を言うか、色々とアクションを起こすはずだ。
そのチャーハンとギョウザを普通に慣れた感じで食べてるところを見ると、間違いなく地球の日本人じゃないのか?
「うん、美味しい」
「あの失礼ですけど、あなたどちらさん?
もしかして、あなたも地球の―――」
と言いかけると突然、彼女が食べるのを止めて俺に話しかける。
「いいえ、私は冒険者ではなく暗殺者です。」
「―――えっ!?」
彼女の発言に、思わず俺は驚愕・無口になって、再び彼女が無言で食べ続けていた。
今回もイトリン目線です。
タイトル『糸井久信 ~絶望老人が異世界転生をしたら、外伝~』の別ヴァージョンを追体験。 ここからは内容に少し変化あり。 比べて見ても構いませんが、あまり面白くないかも?
それとブクマ・感想・評価・いいね等ありましたら、是非宜しくお願いします。




