232、大魔王の時間稼ぎ
●【No.232】●
ガシャガシャ、ガシャーン!
援軍に駆け付けた《スライム・ソルジャーマン》が新たな隊列を組み、大魔王エリュドルスやデイラルスを中心に "鉄円の陣形" を作って、彼らの周囲に二重三重に防衛ラインを策定する。 まさしく《スライム・ソルジャーマン》自身が盾・壁の役目をしており、大魔王デスゴラグションの脅威・攻撃から、大魔王エリュドルスを守っているのだ。
―――ピピッ!
『………』
ダッ!
それを見たシル・バニーオン・ズドが早速、その "鉄円の陣形" を打ち崩す為に、その《スライム・ソルジャーマン》の所まで地面を蹴って高速接近するけど、今度は《スライム・ソルジャーマン》の前に、大魔公ウエルルスが現れ、シル・バニーオン・ズドの邪魔をする。
「そうはさせん」
『ジャマ』
そのシル・バニーオン・ズドが右手甲の隠し装置から、銀色の鋼鉄の刃を突き出して、ウエルルスに斬りつける。
一方のウエルルスも右手を手刀にして、その手刀から "白色の剣形エネルギー魔力刀"《ホワイト・マジックブレイド》を発生させて、それでシル・バニーオン・ズドの刃を受け止める。
ガッキィーーン!
ウエルルスとシル・バニーオン・ズドが、お互いに刃を交えて互角の勝負を見せる。
「自分がシル・バニーオン・ズドを破壊する」
『………』
さらにウエルルスとシル・バニーオン・ズドが、お互いの刃をぶつけていて、なかなか勝負がつかない。
もっともウエルルスは時間さえ稼げれば、それでいいのに対して、シル・バニーオン・ズドはこの後で大魔王エリュドルスも倒さないといけない。 時間的余裕があるウエルルスと時間をかけられないシル・バニーオン・ズド。
―――ピピッ!
『チッ!』
ノーモーションからの突然、シル・バニーオン・ズドの真紅の瞳から "真紅の殺人レーザー光線" が高速で飛び出して、ウエルルスの方へ向けて発射された。
ビビィッ!
「むっ!?」
『くらえぇぇ!!』
「ぬっ!?」
フッ!
接近戦での攻防の中、シル・バニーオン・ズドの "真紅の殺人レーザー光線" がウエルルスの心臓部めがけて発射されており、ウエルルスの胸部に "真紅の殺人レーザー光線" が当たる寸前に、突然ウエルルスの姿が消えた。
『ッ!!?』
その隙をついて、《スライム・ソルジャーマン》が鉄壁の陣形 "鉄円の陣形" を敷いて、完全に大魔王エリュドルスとデイラルスを守ることに成功した。 一応、ウエルルスの時間稼ぎは成功したことになる。
この "鉄円の陣形" とは、大魔王エリュドルスを中心に《スライム・ソルジャーマン》が円陣を組んで構えており、その《スライム・ソルジャーマン》が二重の盾・三重の盾・四重の盾となる。 この360度・四重の盾にもなる "鉄円の陣形" こそが、大魔王エリュドルスを守る鉄壁の盾となる。
ガシャガシャ、ガシャーン!
これで回復系担当のデイラルスは、弱りきった大魔王エリュドルスの、体力と魔法力の回復に専念できるだけの、十分な時間稼ぎができた。
フッ、ブーン!
『クッ!?』
「くらえっ!」
ガッキィーーン!
シル・バニーオン・ズドの背後から、またウエルルスが姿を現し、白い刃 《ホワイト・マジックブレイド》で攻撃を仕掛ける。 シル・バニーオン・ズドも銀色の刃を背中に回して、背後からの攻撃を防ぐ。 ここからまたお互いの刃を激突させながら接近戦で、ウエルルスがシル・バニーオン・ズドを足止めする。 これではシル・バニーオン・ズドは動けない。
これで大魔王エリュドルスの周囲には、鉄壁の《スライム・ソルジャーマン》がしっかりと何重にも防御しており、シル・バニーオン・ズドもウエルルスと交戦中で手が離せない。 従って、大魔王デスゴラグション自らが動かないと、この事態を対処することができない。 この時間稼ぎとしては、十分に満足できる状況である。
一方では、それでもこの状況にも黙って静観して、腕組みしながら立っているだけの大魔王デスゴラグション。
そして大魔王エリュドルスと大魔王デスゴラグションが無言で睨み合う。
大魔王エリュドルスのそばにいるデイラルスが回復魔法 《ヒール・エンジェル・ミカエル》を発動させて、大魔王エリュドルスの体力を徐々に回復・全快させる。 また同時にデイラルスが回復特技《大魔法力再生祝祭》を発動させて、大魔王エリュドルスの魔法力も徐々に回復・全快させる。 徐々に全快に近づく大魔王エリュドルスに、作業を続けるデイラルスが話しかける。
「あの大魔王デスゴラグションは、あの位置からちっとも動きませんね。 この状況は彼にとっても嬉しくないハズなんですけど、何故でしょうか?」
「わからん。 昔から、あやつが一体何を考えているのか、ちっとも解らぬ。」
「あのままじっとしてるのですかね?」
「確かに疑問ではあるけれど、あやつの背後にいる〈地球神アクナディオス〉の存在も不気味だ。」
「そういえば背後にいたはずの大きな黒い人影も見当たりませんね?」
「……? ふん、大方戦闘に巻き込まれるのが嫌で、あやつの体内に引っ込んでおるのだろう?」
「なるほど、確かに戦闘が出来ない者にとっては、この状況は静観が最善ですからね?」
「………」
確かにおらぬ―――だが〈地球神アクナディオス〉も何を考えているのか、ちっとも解らぬから、ここで考えても仕方あるまい。
実際にデイラルスに指摘されるまで、大魔王エリュドルスは〈地球神アクナディオス〉の存在[姿消失]を失念していた。 常に大魔王デスゴラグションの背後に取り憑く様にいたはずの〈地球神アクナディオス〉の姿が見えない。
本当にただ戦闘に巻き込まれるのが嫌で、大魔王デスゴラグションの体内に隠れ潜んでいるだけなのか? それとも大魔王デスゴラグションが一向に動かないのと、消えた奴と何か関係があるのか?
もしかしたら、一体どっちが時間稼ぎをしているのか?
まさか大魔王双方で時間稼ぎをしている?




